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用法間の関連と体系

本章では、第4章で提示した用法 記述と第5章で検討し た用法の通時的変化をふま えて、

実例を手がかりに、現代語の用法間のつながりについ てみ ていく。それぞれの用法には典 型的なものから周辺的なものまで広がりがあるが、そ れら を手がかりに用法間の境界やつ ながりについて述べ、用法の全体がどのような関係に ある か、また全体に共通するものと して現代語の「よほど」にはどのような性格がみとめ られ るかについて考察する。

6.1 現代語の用法

本研究の実例 1005例にもとづいて得られた現代語の各 用法の概略を示す。

Ⅰ《推定判断用法》

・ よほ ど (感情・ 心情を あらわ す形容 詞 )ら しく 、( 既実現 の事態の 描写) 。 推定形式

[推定内 容(事 態の原 因・事 情)] [ 推定根拠 ]

・ (既実現 の事 態の描 写) 。 よ ほど (感情 ・心情 をあら わ す形容詞 )の だ( ろう )。

説明(推量)形式 [説明さ れる対 象] [説明 内容( 事態の 原 因・事情 )]

例1)焼 跡の上 の人々 は、 余 程 熱いら し く しばしば 汗をぬ ぐ っている 。( 永遠な る序章 ) 例2)長 官は一 気にま くした てる 。よほ ど ブ ンに対 する恨 みが深い の だ ろう 。(ブン とフン )

「よほど」は、ある既実現の事態が通常でないとい う認 識のもとに、そのような事態に 至る原因・ 事情の{ 推定/ 説明}判 断に用い られる 。既 実 現 事 態 に 通 常 で な い 様 子 を み と め 、 そ の 原 因 、 事 情 で あ る 事 態 に も そ れ 相 応 の 程 度 の こ と が み と め ら れ る で あ ろ う と い う 判 断 か ら 、程 度 的 な 意 味 と し て は 普 通 に 想 定 さ れ る 程 度 を 超 え て〈 過 度 に「 大 」〉

で あ る こ と を あ ら わ し 、 そ こ に は 〈 異 常 性 〉〈 意 外 性 〉 と い っ た 評 価 を 伴 う 。

Ⅱ《比較評価判断用法》

Y(なんか・ など) よ り X(の )ほ うが よほ ど ( 主観 的・評価 的形容 詞)。

無 標形式の終止述語 [比較 対象] [比 較対象 ] [評価判 断]

例1)「…臆 病者と して生 きるよ りも 、馬 鹿者と して死 んだ方 が よっぽ どまし だ。」( 死の鳥 ) 例2)地元紙 の夕刊 の記事 よりも 、運転 手仲間 の噂話 の ほうが よ ほど速 やかに 具体的 な情報

を伝えて くれる 。( バニシ ングポ イント )

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「よほど」は、一般常識や相手の主張といった先行 文脈 に対して、比較対象である2つ の事態に対する評価がその先行文脈に反する内容の評 価判 断に用いられる。このような比 較評価判断の中で、比較対象である X とY の差は発話者 の意識においては 大きく、「よほ ど」は程度的な意味としては比較対象 X とY の差が〈過 度に「大」〉という程度をあらわ すが、比較対象である2つの事態の関係が一般常識や 相手 の主張に反する 点で〈意外性〉

という評価を伴う。

Ⅲ《必要判断用法》

・ よほ ど 意志動 詞 + な いと 、 意味 的にマ イナス の事態 な け れば 、 評価{ 駄目だ ・困 る}

否定条件形式

[必要 性のあ る行為 ]( の欠如 ) [望ま しくな い事 態の生起 ]

・ (望む 事態) するに は、 よ ほど 意志 動詞{な い と/ なけれ ば }いけ ない 。 必 要が あ る。

必要形式 [目 的] [ 行為の 必要性 ]

例1)六 甲縦走 路はま だ完全 ではな い。 よ ほど調 査して ない と道に迷 うおそ れがあ る 。

( 孤 高 の 人 ) 例2 )北海 道も月 に年に 開発さ れつづ けるの で 人家 の見え ないとこ ろまで いくに は よほ ど遠

走りしな ければ ならな いが、 ……( 新しい 天体)

「よほど」は、望ましくない事態を回避するために、あ る いは目的となる事態の実現の ために必要とされる意志的行為を提示する必要判断に 用い られる。現状に対し否定的な状 況での必要判断であるため、その必 要の程度は通常程度で は十分でなく、「 よほど」は程度 的な意味としては普通に想定される程度を超えて〈過 度に 「大」〉であることをあらわし 、 そこには通常程度でない=〈異常性〉といった評価を 伴う 。

Ⅳ《例外提示用法》

・ よほ ど (形容詞) + 名詞 + な い限 り 、 意味的に 中 立的な事 態

無意志動 詞 以外 は 、 評価{大丈 夫 だ・心 配 するこ とはな い}

[あ る特徴 づけ ](の 除外) [ 標準~ 安心]

・ のは 、 よ ほど (形 容詞) + 名詞 に 限ら れる 。 [標準 でない 事態] [ある特徴 づけ]

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例1)実 際、イギリ スなど では、よほど 田舎っ ぺか下 層出身 者で ない 限り、ほど んど箸 の使 い方を知 ってい る 。(適応 の条件 )

例2)小包 の場合 は知事 個人あ てのも のが多 いため、よほ ど見た目 に不審 なもの 以外は、直 接知事室 に運ば れる 。(毎 日新 聞 95.05.17)

例3 )何よ りも平 和を愛 し、冒険心 や好奇 心を日 常の枠 から 飛び出さ せる人 間を 、頭 の悪い 未熟者と 考える 彼のこ とだか ら、家族 と庭の 植物を 較べる の は 何かで よほど 腹が立 った ときに限 られて いた 。(白 い光の 午後)

「よほど」は、通常の状態であればそれが標準として みと められるような状況で、その 例外となる極端な場合を提示するのに用いられる。通 常程 度であれば特に問題なく標準~

安心とされるという、現状に対する肯定的な評価のも とに 、その例外、すなわち標準から はずれる扱いをうけるある特徴づけの程度は通常程度 を逸 脱するものであり、「よほ ど」は 普通に想定される程度を超えて〈過度に「大 」〉という程度 的な意味をあらわす。そこには やはり通常でない=〈異常性〉という評価を伴う。

Ⅴ《意志不実行用法》

よほど 意志動詞 し よ うかと 思っ た が/け れど 、 (事態 の不実 行の描 写) 。 し た かっ た 。 し かし、

意志・願望の過去 逆接表現

[ 過去の 意志・ 願望 ] [意志 ・願望 の不実 行 ]

例1)柳 はよっ ぽど無 視して やろう かと思 ったが 、こ こが我 慢 のしどこ ろと、ぐっと 抑えて 、 社長室へ 向かっ た 。(女社 長に乾 杯!)

「よほど」は、自らの意志によって不実行に終わった 過去 における意志・願望に用いら れる。結果的には実行に移すことが憚られたものであ る、 という前提のもとで、意志・願 望を抱いた時点の一時的な切迫した状態を、程度の強さと してとらえられるとすれば、「よ ほど」はその程度が〈「大 」〉であることをあらわす。 そこ には、行為を思いとどまる冷静 な判断からみて〈異常性〉といった評価を伴う。

以上の5つの用法は、現代語の実例から帰納的にと りだ したものであり、典型としては このように記述された。そして、現代語の資料に見ら れる これらの用法からはずれる少数 例については、古くは多用されていたが現代では極端 に減 少傾向にある使用であることを 確認した。そして、近世後期以降の意味と用法の変遷 をと らえたうえで、「時間量 」「空間

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量」など古く特定の量として用いられていたもの や「変化 量」「相違量」のように何 らかの 基準が前提となるもの、また、現状を基準として想定 しや すい反事実の推量に用いられる 場合などに限られ、基準からの差や程度をあらわすの に広 く用いられていた古い用法の残 存~保存として位置づける可能性を示した。

6.2 用法のつながり

6.1で示したように区別される各用法について、 それ ぞれの用法がどのような関係に あり、どのような点で異なり、また共通するかについ て考 察する。

6.2.1 《推定判断用法》《必要判断用法》《例外提示用法》

6.2.1.1 《必要判断用法》と《例外提示用法》

《必要判断用法》と《例外提示用法 》とは、否定条件の 形式(「ないと」~「な い限り」)、

「よほど」がかかる状態性をもつ語のタイプ、それに よっ てあらわされる従属節の内容と 主節の内容との関係を総合して区別されることは、第 4章 の4.4と4.5でも詳述し、

それぞれの用法の典型的な構造は本章6.1で示した とお りである。

《必要判断用法》は「必要性のある行為(の欠如)―望 ま しくない事態の生起」 あるい は「目的―行為の必要性」という、時間的前後関係に ある 2つの事態を前提とする必要判 断に用いられる用法であるが、「よ ほど」が入る必要判断 にはいくつか特徴がみられる。

まず、〈否定条件 ―帰結〉という構 造をとる場合に、主 節の 内容は未実現の可能性であり、

次の(356)(357)のよ うな 既に起 こっ ている (あ るいは 起こ った) 事実に つい て述べ る例は 限られる。

(356) 立花も 僕も、つまら ぬお喋 りなん かする 暇は ないと い う顔をし て 、落 ちつき 払って 膝

の上に文 庫本を ひろげ ていた 。し かし発 動機の ポンポ ンポン という響 につれ て 、腰を下 した 身 体が 小刻 み に揺 れ たか ら 、よ ほど 一 心に な らな いと 字 が眼 の 前に ちら ち らし た 。

(福永武 彦「草 の花 」)

(357) その時 代は今 みたい に道具 が良く ないか ら、 よっぽ ど きっちり 打たな いと、球は絶 対

にまっす ぐ飛ん でくれ ません でした 。(『GOLF DIGEST』2001年6月号)

さらに、主節の内容が未実現の可能性であ っても、(358)のような個別一回的な現状に即 した必要判断はほとんどなく(この点、「もっと」と対照 的であることは4.4.4 .3で も触れた)、多くは(359)~(362)のように、ある状況下とい うより広い意味での現状におい て、必要な行為を行う主体などが特定されない、より 一般 化された必要判断を述べるもの である。「よほど」が共起す る否定条件の形式が、条件をあ らわす代表的な形式「と 」「 ば」

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「たら」「なら」の中でも、より一 般的な条件をあらわす とされる「ないと」「なければ」

に偏っていることもこのことを裏づけると思われる。

(358) 今度 の 二 年生 を う ん とし こ む とし て も 、 だな 、 己 た ち が よっ ぽ ど しっ か り し ねえ と 、 夏の試合 は負け る ぞ、 え、負 けても いいの か。(福永 武彦「 草の花 」)

(359) 量産 工場 のラ イン とい うもの は、よほど 考えて 作らな ければ 、人間 が機械 に使わ れて

しまうよ うな職 場にな りかね ない 。(本 田宗一 郎「私 の手が 語る」)

(360) コイで はない 、とY さんは 直感し た。鈎 にか かっ たコ イは、でーん と底に 落着い てい

る。よ ほど 引っ 張り 合わな いと 腰を 浮か さな いも ので ある。(畑正 憲「 ムツ ゴロ ウの博 物誌」)

(361) この 工場 では、天井 を動く クレー ンの音 と回転 する機 械の響き で 、余 程、大きな 声を

ださない と話が きこえ ない 。(遠 藤周作 「女の 一生 」)(例(125)再掲)

(362) もとも と企 業人 は、現在の境遇 に自分 をなじ ませ、そ の境遇を 利用し て成長 すると い

う生き方 をしな ければ 生きて いけな い。しかし 、現在 のよう に企業の 環境が 主客に おい て変化は なはだ しい時 期には 、よ ほど個 人の側 で意識 的に生 き方を選 択し な いと生 きづ らいので ある 。(森 清「選 び取る 「停年 」」)(例(126)再掲)

また、《例外提 示用法》は 、否定条件をとる従属節に は形 容詞等によって特徴づけを うけ た名詞があらわれるのが中心であるため 、「よほど 」が用い られる前提となる、従属節の事 態と主節の事態との間に明確な時間的前後関係はない 。こ の点、従属節に状態性を 含む意 志動詞をとり、従属節と主節の事態との間に時間的前 後関 係がみとめられる《必要判断用 法》とは異なるのだが 、《必要判断用 法》が先にあげた(359)~(362)のように個別一回的な 状況でなく一般化された必要判断に用いられるもので あっ たのと同様、《例外 提示用法》も 、 次の(363)(364)のように一般的な傾向や習慣である 。(365)のように個人的なものであって もやはり習慣的多回的な事柄を述べるという特徴があ る。

(363)「 たと え ば 、 あな た が 、誰 か を だ ます た め に 寝も し な い 布団 に は いっ た よ う に見 せか けるとし ますな 。する と 、どう されま す。百 人中百 人が掛 布団 ぐらい 、乱 雑に します よ。

……しか し、枕を凹 ますこ とは百 人のう ち百人 が気が つきま せん。実 際 、寝れば 、よほ ど、 か た い枕 で ない か ぎ り、 真 中 に凹 み のあ と が 残り ま す 。……」( 遠藤 周 作 「闇 のよ ぶ声」)

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