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「よほど」の用法記述

4.1 形式的な構文特徴 ―分類の一次的指標―

本章では、実例 1005例をもとに、現代語における「よほ ど」の用法の記述を行う 。「よ ほど」の用法を記述するにあたっては、まず、形式的な 構文 特徴に基づいて用例を整理し、

さらに意味の面からの検討を加えながら用法をまとめ あげ ていく という方法をとる。最終 的にはそれぞれの用法の典型を構造として示す 。ここでい う構造とは、「よ ほど」がある用 法で用いられることを支えている条件の総体を文(複 文・ 連文を含む)の 構造の形で示す ものである。これらの作業を通じて用法の典型と周辺 を明 らかにしつつ、境界的 な用例に も位置づけがあたえられるような、より精度の高い記 述を めざす。

以下 、「よ ほど 」 のも つ用 法 を明 らか にす る ため に記 述を 行う が、 はじ め に、 分類 の 一 次的指標としたいくつかの形式的な構文特徴と、それ ぞれ の特徴をもつ用例の全体に占め る割合を示す。これらは用例の中で特に目立った特徴 であ り、用法を分けるにあたって注 目すべきではないかと考えたものである。ただし、こ こで あげる構文特徴は、必ずしも相 互に矛盾するものではなく、1つの例が複数の特徴を もつ ものもある 。複数の構文特徴を もつものについては境界例等として改めて検討する。

① 「のだ」を含む形式との共起 26.3%

彼女は鼻歌を歌っている。よほど気分がいい のだ (ろう)。

② 推量形式との共起 25.2%

(「のだ」を含む形式(→①)は除 く)

弟はよほど疲れていたらしく、ごはんを食べ終わるな り寝 てしまった。

③ 比較対象の表示 26.3%

遊園地なんかより家の前の空き地の方がよっ ぽど おもしろい。

④ 否定条件節との共起 16.3%

雪の日はよほど早く家を出ないと間に合わない。

⑤ 意志願望形式との共起 3.6%

よっぽど文句を言ってやろうかと思ったが、ぐっと 押さ えて帰ってきた。

⑥ その他 9.6%

(いずれの構文特徴ももたないもの)

②については推量形式の「推量」を、非 断定という広い 意味で使う。(「だろう」「う /よ う」に限定して使う立場(例えば三宅知宏(1995))とは異 なる。)

①~⑤の特徴は 本稿の資料の 「よほど」の 用例に目立っ たものである。渡 辺 実(1987)で

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指摘され ている構 文特徴 は②③ ④⑤の4 つであ るが、 本稿 では① の 「の(だ )19」を含む

形式が 26.3%もあることに注目し、「の(だ)」をはじめ と する「のだろう」「のか」「ので

はないか」などをあわせて1つの構文特徴としてとり あげ て検討する。⑥その他、とした

①~⑤のいずれの構文特徴ももたないものには、第4 章の 分析過程でいずれかの用法の周 辺的なものとして位置づけられるものが多いが、それ でも なお残る位置づけ未詳の例につ いては、4.7でまとめ、第5章で検討する。

以下、用法ごとに記述を進めるが、①~⑤の特徴と 各用 法の 主な関係について述べてお くと、①②は《推定判断用法》、③ は《比較評価判断用法 》、④は《必要判断用法》と《例 外提示用法》、⑤は《意志不実行用 法》の中心となる特徴 である。

4.2 《推定判断用法》

4.2.1 用法の構造

4.2では、次のようにモデル化される《推定判断 用法 》について述べる。

・ よほど (感情・心情をあらわす形容詞)らしく 、(既実 現の事態の描写) 。

・ (既実現の事態の描写) 。よほど(感情・心情をあら わす形容詞 )のだ(ろ う)。

例1)焼 跡の上 の人々 は、 余 程 熱いら し く しばしば 汗をぬ ぐ っている 。( 永遠な る序章 ) 例2)長 官は一 気にま くした てる 。よほ ど ブ ンに対 する恨 みが深い の だ ろう 。(ブン とフン )

「よほど」の用いられる構文特徴の中で、①「のだ」を 含 む形式、②推量をあらわす形 式と共起するものについて検討する。

まず、4.2.2で、共起する「のだ」を含む形式につ い て検討し、その形式にどのよ うなものがあらわれるか、また、それが「よほど」の 用い られる文としてどのように特徴 づけられるのかをみる。

次に4.2.3では(「のだ」を含 まない)推量形式につ いても同様に検討する。そして、

4.2.4でこれらの特徴が《既実現の事実とそれに 関わ る判断》という「よほど」が用 いられる判断構造のあらわれとしてまとめられ、その 判断 内容は既実現事態の原因・理由 にあたるものである、という一つの用法としてみとめ られ ることを述べる。さらに、4.

2.5では本用法において「よほど」が結びつく状 態性をも つ語の傾向を整理し、「 よほど」

のあらわす程度と評価について考察する。

なお、先にも述べたように、推量形式と共起する例に は、 4.1であげた「③比較対象

19 「ん(だ)」という形式も含む。

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の表示」という構文特徴を重複してもつものが少数だが 37 例ある。それらについては③ の比較対象の表示について検討する際にとり上げるこ とと し、以下の分析ではひとまず除 く。

4.2.2 構文の形式的特徴 ①「のだ」を含む形式との共起 4.2.2.1 共起する「の(だ)」形式

先にも述べたとおり、推量、断定、疑問といった形 式を 問わず、「の(だ)」を含む形式 を1つの形式的特徴としてとりあげる。それぞれの形 式の 用例の分布は次の表6のとおり である20

表6:「よほど」と共起する「の( だ)」形式と用例数

叙法形式 共起する 用例数

名詞 形容詞 動詞 のだろう

のか2 1 のだ

のだろうか のではないか のか(疑問)

n

のk

10 10 5 2 1

35 23 22 1 1 3

47 25 24 5 4 2

92 58 51 8 6 5 のかしら

のかもしれない のではないだろうか のにちがいない 重複表現

1

2

2 1 2 1

1 2

1 1

4 3 2 2 3

計 31 91 112 235

ここ には 「の だろ う 」「の かも しれ な い」 など、「の ( だ)」 を 含む 推量 をあ ら わす 形式 も含まれるが、これらについて、4.2.3で扱う推 量を あらわす形式であることよりも

「の(だ)」を含むという特徴を重視したのは 、「よほど」の全用例(1005例)のうち、「の

(だ)」を含む形式と共起する例が 23.3%(235 例)もの 割合でとりだせる ことととも に 、

20 形式の欄には、それぞれ代表形をあげる。したがって、例えば「のだろう」に は 「 ん だ ろ う 」 の形 、 さらに「のであろう」「{の/ん}でしょう」なども含まれる。

21 「のか」と示した例の中には、次のように、複文の中に挿入句の形であらわれた例が多い。

例)その時、電話のベルが鳴った。音量は小さめに調節してあったというものの、母は よほど疲れ切 っているのか、ぐっすりと寝入っている。(湯本香樹美「ポプラの秋」)

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1)「の(だ)」を 含む形式のバリエーションが多岐に わた る

2)特に多くを占める形式が「のだろう 」「のだ」「の か」 であり、推量か断定か疑問か ということに大きな差がみとめられない

とい う2 点か ら 、「よ ほど 」 が用 いら れる 構 文的 な特 徴を 分析 する にあ た って は、 推 量 か断定か、あるいは「にちがいない」~「かもしれな い」 といった推量における確信度の 違いよりも、「の(だ )」という形式によってあらわさ れる 〈説明〉的であるという点が重 要であると考えられるためである。この〈説明〉的である という「の(だ)」の特徴が「よ ほど」が用いられる環境とどのように関わるのかを確 認す る。

4.2.2.2 「の(だ)」形式の検討

奥田靖雄(1990)では、「のだ」を伴う文 が「《 説明》とし てはたらく」ことを みとめたう えで、「のだ」を伴う文(《説明の文 》)と、説明される出 来事を提示する文(《説明されの 文》)とが「 説明の構造」をなし 、これら2つが相互に対 立しながら《説明》22を組み立 て る、という指摘がある。つまり 、「のだ」を伴う文に対 して は、それによって説明される出 来事が場面やコンテクストの中にあたえられることに なる 。

「よほど」が「の(だ)」を含む 形式と共起する実例に は、「のだ」によって説明される 対象(点線部分)が、次のように前や後ろに連文や複 文の 形をとって文脈にあらわれると いう特徴が共通してみとめられる。さらに、それらは 自分 で直接見聞きしたり体験したり して事実としてとらえられている既実現の事態である 点で 共通している。まずは用例数の 多い「のだろう」「のか 」「のだ」の例で示す。

(1) おたが いに 子を持 つ再婚 者だ という 事実 が、 二 人に 楽な 感情を 抱かせ た。 連れ子 の行助 はよく出 来た子 だった し、澄江に は女と しての 節度が そなわ っていた 。亡 くなっ た矢部 隆 という男 はよほ ど出来 ていた のだろ う。理 一は澄 江を迎 えた ときそん なこと を思っ た。(立 原正秋「 冬の旅 」)

(2) 色刷りの 悪い グラ ビアの よう なテ レビス クリ ーン は、 映し出 して いるも のを いか にも安 手の見せ ものに 見せた 。そ れでも 人気の 選手が 投げ打 つ度、スコアが よほど 緊迫し ている のか 、 周り の 客た ち はし だ いに ど よめ き 、 声 を 挙げ て の声 援 まで あ る 。( 石 原慎 太 郎「 化

22 奥田(1990:177)では、《説明》という思考活動の本質をおさえておくための規定として「物や出来事

をめぐって、これらの内部のおくふかくにかくされている、直接的な経験ではとらえることのできない、

本質的な特徴をあきらかにすること」、「物のあいだの相互作用のなかから、原因・結果の関係のような、

法則的なむすびつきをとりだすこと」が《説明》であるとされ、「全体としての《説明》が《説明する》

と《説明される》との、ふたつの部分からなりたっている、という命題は、このような説明の本質規定 から必然的にでてくるのである」と述べられている。

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