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本研究の立場と分析の対象

本章では、本研究の立場として、まず方法論につい て述 べる。実例分析を原則として記 述を行うこと、また、どのような観点で分析を行うか とい う分析方法について具体的に述 べる。分析対象となる実例を収集した言語資料の選定 や収 集方法についても詳述する。

3.1 方法論

3.1.1 実例分析

本研究は、実例を分析の対象とし、帰納的、実証的な立 場 で精度の高い記述を行うこと を目指すものである。そのため、実例をより広範囲の 言語 資料から収集して分析を行う。

このような多くの実例を対象とする方法をとる理由は 、ま ず第一に、実例には内省をはる かにこえる多様な例が見られ、それらを包括的に位置 づけ られるような用法記述こそが現 代語の実態記述として望ましいと考えるからである。 第二 に、多くの実例を丁寧かつ慎重 に検討することは、一部の用例によって過当に制限さ れた 規定を導き出すこ と、一部の用 例によって過当に規定を消極的なものにしてしまうこ との 両方を克服す る手だてになると 考えるからである。使用頻度や、用 法間のつながりを示唆 する例の存在などを手がかりに、

「典型」と「周辺」を見極めながら意味や用法を抽出 して いくことは、作例や内省のみに よる分析でなく、多くのかつ多様な実例を観察するな かで 可能になることである 。このよ うな考えのもと、本稿では用例数(頻度)の偏りや計 量的 な記述をもとに考察を進めると ころがある。ある語の意味機能が使用のくりかえしの 中で やきつけられていくものであれ ば、「典型」的なものか「周辺」的なものかという違い は使 用頻度として現象する面がある と考える14

一方で、一定の範囲の言語資料から収集可能な実例 の量 は研究対象によって異なり、一 定の深さで分析できる量も無限ではない 。また、使用可 能な 資料に制約がある場合もある。

したがって、多くの実例を対象とするといっても、そ れ自 体が限られた範囲からのもので あることは自覚しておかなければならない。用例数( 頻度 )の偏りが集めたデータの偏り によって影響を受けるものかどうかの見極めが必要と なる 。本研究ではこのような困難と 限界をみとめつつも、以上のような実例分析の意義を 重視 し、実例をもとに分析、考察を 行い記述を進める。

3.1.2 用法記述の方法 用いられる文の構造のとらえ方

3.1.1で述べたように本研究では実例を対象と して 用法記述を行うが、その 具体的

14 このような、使用頻度(用例数の偏り)の見方、考え方については工藤浩(1982)に学んだ。

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な分析方法について述べる。副詞は構文的な機能が連 用修 飾という 1つの機能に固定され ていて形態論的な語形変化はもたないが、文の中にあ らわ れて一定の機能を果たす以上、

結びつく語やあらわれる位置など構文的な面でかたち づけ られており、副詞の記述にとっ てもそれらの総体としての文の構造を明らかにするこ とが 、用法、そして意味機能を明ら かにしていくためには重要である。

本研究で扱う「よほど」についてもその用法を詳細 に記 述していくことによって 意味機 能を考えることをめざす。結びつく語の種類や語形を はじ め、共起する叙法形式 といった 狭い意味での形式を基本的な出発点とし、それらのあ らわ す文法的な意味の面での考察を 加えながら構文的な特徴を明らかにしていくという手 順で 分析をすすめる。その際に、実 例から一般化してとらえられる構造であれば、複文に おけ る節と節との関係、 1つの文を こえた連文の関係、さらに場合によっては「よほど」 が用 いられる文の先行する文脈との 関係にまで分析と考察の範囲を広げ、意味機能を支え る形 式として扱う。

また、「よほど 」が直接かかって 結 びつく語(実際に はど こまでかかっているかという か かり先を単語単位で厳密に特定しにくいことも多く、 それ を含む述語句全体を問題にする 場合もある)については全ての用法に共通して状態性 とい う概念があげられるが、用法ご とに結びつく語の種類(品詞)とともに、その意味の タイ プもそれぞれの用法を特徴づけ る1つの条件として検討の対象とする。

以上のことを次の例で具体的に示す。分析の観点は 、た とえば次のよう な点である。

・太郎はよほど疲れているらしい 。電話のベルが鳴って もぐっすり寝入ったままだ。

・人々は、余程暑いのか、 しばしば汗をぬぐっている。

〈結びつく状態性をもつ語〉( 部分)

・どのような品詞があらわれるか

・意味的なタイプに偏りがみられるか、どのよう なも のか ・どのような語形をとるか(タ形・シテイル形な ど)

〈共起する叙法形式〉( 部分 )

・どのような形式があらわれるか(形式ごとの分 布や 偏り)

・どのように一般化されるか

〈実例に共通して見られる複文、連文関係 〉( 部分 )

・複文や連文までを含め、それらがどのような形 をと ってあらわれるか

・「 よ ほ ど 」 を 伴 う 文 の 内 容 と 、 複 文 、 連 文 の 関 係 で あ ら わ れ る 内 容 と は ど の よ う な関係にあるか

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一例としてあげたこれらの点は、相互に関連しあっ て「 よほど」の用いられる構造をな し、特徴づけていると考えられる。このような広い意 味で の形式を、 ある副詞の用いられ る条件、その意味機能を支える条件 として構文環境から見 出し、総合的にとらえることが、

程度性、評価性、叙法性といったいくつもの要素に関わ る副 詞の分析には必要だと考える。

これらの考察の総体としての構造はそれぞれの用法の まと めで示す。

3.2 分析の対象と収集方法

本研究では言語資料から収集した実例にもとづいて 分析 と記述を行う。以下、用例を収 集した資料について述べる。3.2.1で、まず第4 章で 対象とした現代語の言語資料と その収集方法について述べる。本研 究の分析対象の中心は これら現代語における「よほど」

である。また、本研究では現代語の記述を中心とする もの であるが、現代語の用法の相互 の関連やいずれの用法の特徴ももたない例の位置づけ を考 えるために、第5章で通時的な 変遷についても扱うため、3.2.2で近世後期の言 語資 料と収集方法、3.2.3で近 代語の言語資料と収集方法についても順に述べる。

3.2.1 現代語の言語資料

本研究の分析と考察の中心は現代語における「よほ ど」 である。そのため、現在通用し ている、できるだけ多く、できるだけ広いジャンルの 資料 (小説、新聞、エッセイ、雑誌 記事、対談集、論説)から実例を収集した。使用した 具体 的な資料は次のとおりである。

なお、著者や作品名等の詳細については本稿末尾にリ スト を示し、本文中で引用する場合 には著者名と作品名をあげる。

(1) 『CD-ROM 版 新潮文庫の100 冊』(1995):主に小説

(翻訳作品を除く、昭和戦後に活躍した作家の 1945 年以降の 作 品 (39 冊 55 作 品 ))

(2) 『CD-ROM 版 新潮文庫の絶版100 冊』(2000):主に小 説

(翻訳作品を除く、昭和戦後に活躍した作家の 1945 年以降の 作 品 (29 冊 55 作 品 ))

(3) 『CD-ROM 版 毎日新聞1995年版』

(新聞:1995年1月~12月の朝刊・夕刊を含む全紙面)

(4) 『CASTEL/J』CD-ROM(日本語教育支援システム研究会 )

(論説:1960年代~1990年代発行の「講談社新書」(37冊))

(5) 書籍(手作業収集)計 72冊

(小説 28 冊93 作品・エッセイ 33 冊・対談集9 冊・論説 2冊:いずれも 1980年代 以降に発表されたものが中心である)

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(6) 『現代日本語書き言葉均衡コーパス』雑誌データ(国 立国 語研究所)

[Balanced Corpus of Contemporary Written Japanese,略称BCCWJ]

(雑誌記事:2001-2005 年発行 1996件 約 440万語 2012 年3月時点)

(1)~(6)の資料を対象に、電子化資料である(1)(2)(3)(4)については次の正規表現を用いて 文字列検索 GREPを行い収集した。

[よヨ余餘](ほど|ぽど|ホド|ポド|程) [よヨ余餘][つっツッ] (ぽど|ポド|程)

(5)の紙媒体 資料に ついて は、筆 者が手 作業で 収集した。(その後 電子化 して収 集の見落 としについても確認を行った。)

(6)のオンラインコーパスについては、オンライン版コー パス検索アプリケーション「中 納言」を利用して収集した。

以上の方法で得られた用例数は次のとおりである 。収集 した用例には副詞「よほど 」「よ っぽど」のほか、連体用法 にたつ「よほどの」「よっぽどの 」も含まれている。分析の対象 の中心は本来の副詞用法であるため、区別して表 1に「よ ほど」「よっぽど」の用例 数を示 す。また、現代語においては連体用法についても分析 の対 象とするため、表2に「よほど の「よっぽどの」の用例数を示す。

表1:現代語の形態別用例数(「よほど」「よっぽ ど」)

よほど よっぽど 計

733 272 1005

表2:現代語の形態別用例数(「よほどの」「よっ ぽど の」)

よほどの よっぽどの 計

182 11 193

なお、現代語においては「よほど」以外 の副詞を取りあ げ、「よほど」と比較しつつ 述べ ることがある。その際には(1)~(6)の資料が部分的に対象 となるため、本文中で扱う際に適 宜触れる。

3.2.2 近世語(後期)の言語資料

本研究では現代語の記述が中心であるが、現代語の 用法 の相互の関連や、いずれの用法 の特徴ももたない例の位置づけを考えるために、第5 章で 通時的な変遷について扱う。 対

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