• 検索結果がありません。

産学官連携の形態分析と効率的事例分析

ドキュメント内 電気通信大学 (ページ 41-51)

5-1 連携の形成と形態分析

5-1-1 連携による新しい価値の生成

Y.シュンペーターの「経済発展の理論」[21]によれば,新しい価値の創造(イノベーショ ン)は「新結合」により生まれるとしているが,本研究の分野においては,新しい価値は シーズとニーズの「融合」により生まれると言い換えることができる。

産学官連携による技術移転・事業化において,シーズ側を研究者,ニーズ側を企業,両者 を融合させるコーディネータの3者関係で考えると,新しい価値は共通部分として表現す ることが出来る。(図 9)

図中において,A : 研究者(シーズ),B:企業(ニーズ),C:コーディネータ(コーディ ネート機能),V:新しい価値(共通部分)をそれぞれ示す。なお,産学官における官(官 公庁等)の機能は,コーディネータの機能に最も近いのでここではコーディネータに含める。

①の場合 ②の場合 ③の場合

A V B

C

V=A∩B∩C

A V1 C

V2 B

V=A∩C+B∩C

(V1+V2) V=A∩B

A V B

図 9 連携による新しい価値の生成

①: 3者直列関係

新しい価値 V=A∩C(V1)+B∩C(V2)

②: 3者並列関係 新しい価値 V=A∩B∩C

③: 2者関係(A,B 双方あるいはどちらか一方が C の機能を果たしている)

新しい価値 V=A∩B

上記①,②及び③いずれの連携の場合でも,コーディネート機能の強化,例えば共同研 究による情報共有等により,新しい価値が生まれる可能性は高まる。

5-1-2 連携の形成条件とゲーム理論

新しい価値を生む産学官連携の形成にはどのような基本的条件が必要かを考えた場合,

各参加セクター全員が「得られる効果>負担・費用」となっていなければ成立しないため,

次のような4つの条件を上げることができる。

① 産学官連携への参加のインセンティブ(誘因)

② 情報の非対称性の解消(情報共有)

③ 均等な負担(情報提供,役割分担,費用負担,人的資源の分担等)

④ 公共の利益(社会貢献)

このうち参加のインセンティブが連携のための出発点となるため,インセンティブの内 容についてゲーム理論による考察を試みた。[22][23]

(1)連携の形成

ゲーム理論を産学官連携に適用した場合,当事者間の話し合いにより全員が共同行動を 行う協力ゲームの特性関数形(提携形)となり,それぞれ独自で行動したときの利得以上 になることにより連携は形成されることから,全体合理性,及び個人合理性が成り立つ。

(2)提携形ゲーム表現

連携の参加者(プレーヤー)を研究者(A),企業(B),コーディネータ(C)とすると,

プレーヤーの集合(N):N={A,B,C}

連携によって獲得できる「利得」の最大値を与える関数(特性関数)は,それぞれ単独 では利得を得ることは出来ず提携してはじめて利得を得ることができ,しかも提携には尐 なくとも A,B が含まれることが必要である。従って特性関数は,

特性関数(V) : V(A)=0 V(B)=0 V(C)=0 V(A,C)=0 V(B,C)=0 0<V(A,B)≦1 あるいは 0<V(A,B,C)≦1

そこで,単独での特性関数の値よりも提携するときの特性関数の値が大きくなるので,

優加法性が成立する。

V(A∪B∪C)≧V(A)+V(B)+ V(C)

従って,参加当事者全員が納得し満足して役割を果し利得を得る環境づくり(均衡)を 行えば,参加者は努力する方を選ぶので,技術移転・事業化のための提携は促進されるた め,利得が連携のための大きなインセンティブとなる。

(3)提携の利得

利得には,金銭的利得と非金銭的利得(社会的利得)がある。

産学官連携問題においては社会的利得が大きな比重を占める。金銭的利得も提携時には その可能性を示すのみであり,技術移転・事業化が成功し収益が得られた段階ではじめて 実現するものであり,しかも売上金額の多寡により利得の大きさが異なる。

利得の内容を以下に示す。

<金銭的利得>

A(研究者):実施料,技術指導料,研究費

B(企業):売上利益,公的資金導入による研究開発費の軽減 C(コーディネータ):業務に基づく報酬,将来的には成功報酬

<社会的利得>

A(研究者):社会貢献,異業種交流による知的触発,自己実現

B(企業):技術レベルの向上, 経営資源の補完,社会的信用度の向上 C(コーディネータ):個人能力の向上, ネットワークの拡大, 自己実現 (4)利得の配分

各プレーヤー(A,B,C)の利得獲得分を xA,xB,xC とすると,利得ベクトルは(xA,xB,xC)

で表すことができる。

図 10において,研究者(A),企業(B),コーディネータ(C)それぞれ単独では利得を 得ることはできないが,A と B の提携,A と B と C の提携により利得の配分を受けることが できることを示している。しかし,最適配分を示す解を求める難しさが残る。

A,B,Cの取り分をxA xB xCとすると、利得ベクトルは(xA,xB,xC)

xA+xB=v({ A,B})=1 または xA+xB+xC=v({A,B,C})=1

C

A B

xB

xC xA

xA > v{A}=0 xB > v{B}=0 xC ≧ v{C}=0

図 10 利得の配分

5-1-3 連携形態モデル

効果的なマネジメントを追及する一環として,連携の形態と成功度,成功要因との関係 を検討する。

連携の形態には,図 9及び図 11のように研究者(A),企業(B),コーディネータ(C)

の 3 者による「分散型」と,「集中型」が存在する。

そこで,分散型と集中型それぞれの特質を検討するため,3者の貢献度と成功度について のモデル化を試みた。

37

3 センターモデル

1.分散型<技術の供給と受給、SCM的(直列) >

「意思決定主体はA,B,(C)別々」

(BまたはAが複数の場合(1:n)もある)

2.集中型<協働による価値の創造、ERP的(並列) >

共同研究 あるいは コンソーシアム

A (C)

C機能

C

A B

研究開発マネジメント 事業化マネジメント

A2 B2 B3

B

A C

B

各矢印は、技術・情報の流れ、ものの流れ、金の流れ、人の流れを示す

D1 D2

(D)

図11 連携の構造(分散型と集中型)

モデル化にあたっては,直列関係と並列関係における稼働率の概念を連携の構造である 分散型と集中型に当てはめる類推法により行った。(図 12)

3センターの貢献度算出にあたって

• 直列システム全体の稼働率

• 並列システム全体の故障率

システムA

(稼働率PA

システムB

(稼働率PB)

システムC

(稼働率PC)

λPAPBPC

システムA

(故障率1-PA) システムB

(故障率1-PB システムC

(故障率1-PC)

λ(1-PA)(1-PB)(1-PC)

BA BB BC

並列システム全体の稼働率 λ (1-BABBBC)

図12 直列システムと並列システムの稼働率

分散型=直列システムの稼働率:

直列システムの稼働率は,システムPAの稼働率をPA ,システムPBの稼働率をPB , システムPCの稼働率をPC とすれば,全体の稼働率は

r

=λPA PB Pc となる。

集中型=並列システムの稼働率:

システム全体の稼働率を算出するため,まずそれぞれのシステムの故障率を考える と,それぞれ(1-PA ) ,(1-PB) ,(1-PC)となり,それぞれをBA BB BC に置 き換えれば,全体の故障率はBABBBC と表すことが出来る。従って,全体の稼働率 は

r

=λ(1-BABBBC)となる。

そこで,分散型の成功度をr,研究者のシーズと企業ニーズのマッチング率(到着率)

をλ,3者の貢献度(処理率)をPA,PB,Pとすれば,分散型の成功度は r=λPABC ・・・ 式(3)

一方,集中型における各センターの貢献度(処理率)を r,マッチング率(到着率)

をλ,3者の非貢献度(呼損率)をBA,BB,BCとすれば,集中型の成功度は r=λ(1-BABC) ・・・ 式(4)

とそれぞれ表すことが出来る。(図 13)[24]

なお,成功度,マッチング率,貢献度についてはそれぞれ以下のように定義する。

成功度:シーズの技術移転・事業化成功により,売上に寄与する度合いであり,生産シ ステムの「稼働率」に相当する。

マッチング率:シーズとニーズのマッチング率は,生産システムにおける工程に材料・

部品が到着する「到着率」に相当する。

貢献度:研究者A,企業B,コーディネータCそれぞれの技術移転・事業化に対する貢 献度は,生産システムにおける工程の「処理率」に相当する。

非貢献度:技術移転・事業化に貢献しないため,待ち行列モデルにおいて,材料・部品 が工程に入れず退去してしまう率(ロス)に相当するので「呼損率」とする。

A B

C

PA PB

PC

分散型 r=λ PAPBPC

r: 分散型の成功率(最大化へ)

λマッチング率(到着率)

A、B、 :各センターの貢献度(処理率)

集中型 r=λ (1-BABBBC r: 集中型の成功率(最大化へ)

λマッチング率(到着率)

:各センターの非貢献度

(呼損率)

BC BA BB

図13 分散型と集中型のモデル

数式によれば,分散型は個々の意思決定主体のうちの一者でも貢献度が低いと成功度が大き く低下するが,集中型では一者の貢献度が低くとも成功度が低下する度合いが尐ないため,逆に 成功する可能性は高いと言える。従って一般的に集中型の方が技術移転・事業化に適していると 言うことができる。

「証明」

式(3)において,研究者(A),企業(B)が100%貢献した場合の貢献度を1,コーディネータ

(C)が50%貢献した場合の貢献度を0.5とすれば,

r=0.5λ (PA=1 PB=1 PC=0.5)

式(4)において,同じ条件の場合には,

r=λ (BA=0 BB=0 BC=0.5)

∴ r<rが成立する

また,成功要因との関係では,分散型は直列関係にあり調整・マッチングが主となるため,

コーディネートの基本機能(X3,X5,X8)が重要となる。

一方,集中型は三者が協働して技術移転・事業化を進める関係にあることから,基本機能 に加え,付加価値を向上させる機能(X1,X2,X4,X6,X7)も重要になってく る。

実際の産学連携形態には,委託研究(受託研究),サンプルの授受,研究生の派遣(受入), 技術指導,共同研究があるが,このうちの共同研究の形態が集中型に属する。共同研究で は,参加者のインセンティブ確保,双方向での役割分担に基づく円滑な運営,新しい価値 の創出と公平な成果配分等が求められる。

従って集中型は,技術移転・事業化の成功度は高くなる半面,より高度なマネジメントが 必要になると言うことができる。

5-2 包絡分析による効率的事例分析 5-2-1 包絡分析の目的と方法

これまでの結果を実証し,新しいシーズへの効率的な対応策を見出すため,包絡分析により相 対的に最も効率的に技術移転・事業化を推進した事例を特定し,効率的とされた事例の連携形態 やシーズの特徴を検討する。

包絡分析(Data Envelopment Analysis)は,事業体の効率性を比率尺度によって相対比較 し,最も効率的な事業体をマネジメントの目標とするものである。事業体の活動は,資源を投入し便 宜を産出する変換過程と見ることが出来ため,産出/ 投入の比を用い,その変換過程の効率性を 測定,より少ない投入でより大きな産出を得ることが効率的とする考え方である。

より一般的には,多入力,多出力の場合の事業体の効率性を相対比較するため,これらの多入 力,多出力にウエイトを加えそれぞれ一つの仮想的入力,仮想的出力に換算する。

ドキュメント内 電気通信大学 (ページ 41-51)

関連したドキュメント