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まとめと今後の展望

ドキュメント内 電気通信大学 (ページ 64-84)

7-1 研究のまとめ

本研究は,産学官連携による技術移転・事業化の効果的なマネジメントを追求すること を目的として,まず,技術移転・事業化に成功した100事例を基に,成功要因の実証分析 を行った。次に,その成功要因がコーディネート機能の面から整理されていることから,

技術移転・事業化の成功に対するコーディネート機能の貢献度と重要性,及びコーディネ ート機能を担っている者の現状について数値的に実証することを試みた。

その結果,研究者と企業の橋渡し,連絡調整を行うコーディネートの基本機能に加え,

技術の育成,知財価値の強化などシーズの魅力を増すための「付加価値向上機能」がより 重要であることを数値的に把握するとともに,コーディネート機能を担った者の割合を数 値的に把握した。また,産学官連携問題について研究者,企業,コーディネータで構成さ れる三角モデルで示し,コーディネート機能,研究者のシーズ創出機能,企業のニーズ実 現機能を表示することでコーディネート機能の働きを視覚的に示すことが出来た。

次に,多変量解析に基づき,コーディネータの現状と問題点について明らかにするとと もに,シーズ属性,例えば開発の難易度やプロジェクトの規模と成功要因との関係につい てその関連性の一部を明らかにした。

さらに,ゲーム理論を基に,産学官連携促進のためのインセンティブの内容を確認し,

連携のためにはインセンティブが重要であること,また,技術移転・事業化における効果 的な連携のためには分散型形態よりも共同研究やコンソーシアムのような集中型形態の方 が望ましいことを数式モデルにより示した。また,成功100事例を用いた包絡分析により,

シーズ属性と成功要因の関係,効率的な開発推進形態について実証的な面においても確認 することが出来た。

次に,本研究の大きな目的である技術移転・事業化の最適マネジメントを検討するため,

T-プラン,バランススコアカード及び楕円形理論をもとに,マネジメントのための測定指 標の作成とその数値化・可視化を行い,指標を活用した効果的なマネジメントのステップ 化を試みた。この手法は,新たなシーズ,あるいは企業ニーズや社会ニーズを実現する要 素としてのシーズをシステム的に捉え,技術移転・事業化の成功率を向上させるための手 段になりうると考えている。ただ,今後その効果についての検証が必要であり,多くの事 例を検討していく中で普遍化を図っていく必要がある。

また,作成した測定指標と定量化の評価シートは,新しいシーズへの目標管理対応だけ でなく,シーズに対するコーディネータ間,関係者間の客観性を確保し,ネットワークづ くりにも役立てることができる。

7-2 今後の課題と展望

本研究では成功事例を分析対象としたため,シーズの評価方法及び企業の開発力の把握 方法についての分析内容が含まれていないが,新しいシーズを対象とする場合には重要な 検討事項の一つである。このうち,シーズの評価方法については,既に実績のある手法が いくつも存在しているが,企業の開発力の把握方法については,今後とも技術移転・事業 化の観点から検討していく必要がある。今後は,技術移転・事業化のためのマネジメント 手法をさらに発展させていくために,新しいシーズや具体的ニーズへの適用など実際の場 面で使用しながらCAPDのマネジメントサイクルを回し,普遍性を高めていく。

一方,失敗事例の定量化を考慮していくことも重要である。失敗事例については,現在 様式が統一されて公表されたものがないため,まず,様式の統一を図り,データの収集を 図っていく必要がある。データがある程度収集できれば,失敗要因,要因の類型化,失敗 に至ったプロセス上の問題点等の分析が可能になると考えられるが,今後の課題である。

なお,失敗事例の定量化において参考になるのがJSTの失敗知識データベースである。

このデータベースは,機械,材料,化学物質・プラント,建設の4分野を中心とした失敗 知識の体系化を図っており,内容的は異なるが整理の仕方においては参考になる。

また,コーディネータのマネジメント力養成にあたり,研修の「質」を向上させるプロ グラムの充実,マネジメント力の標準化と汎用性の確保,新たな技術移転支援制度の設計,

例えばコーディネータの社会的地位の向上につながる新しい資格制度や認定制度の導入に 役立つ知見を提供していくことを目指していくが,参考として以下若干の試案を述べる。

7-3 マネジメント力養成に向けた試案 7-3-1 マネジメント力の養成

第3章の三角モデル(図4)において,コーディネーション力は,その基盤となる研究 開発プロセス知識を含む科学技術知識と大きく関係していることが示された。

従って,科学技術知識をX軸,コーディネーション力(スキル)をY軸とすると,マネ ジメント力は 2 軸のベクトルで表現することが出来,それぞれの能力を x,y の長さで表現 するとマネジメント力は 2 つの長さのベクトルで表すことが出来る。(図 26)

従って,マネジメント力養成のためには,科学技術知識とコーディネーション力の両方 を身につける必要があり,それぞれのレベルに応じたカリキュラムを編成する必要がある。

例えば,知識,スキル共に不足している者に対しては,時間をかけて研究開発プロセス 知識を含む科学技術知識の勘所,及びコーディネートの基本機能と付加価値向上機能の役 割とその習得の方法について事例研究とOJTを実施する。

科学技術知識を十分有する人材に対しては,技術移転・事業化の基本機能と付加価値向 上機能およびプロジェクトマネジメントやリスクマネジメントに関する事例研究やOJTを 行う。

また,コーディネーションの基本機能を既に保有している人材に対しては,ライフサイ エンス,ナノテクノロジー,環境エネルギー等産業技術に関する基本知識の研修,及びプロ ジェクトマネジメントやリスクマネジメントに関する事例研修を行う。

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マネジメント力は,知識(Knowledge)とスキル(Skills)のベクトル

コーディネーション スキル(Skills)

(コーディネーション力)

知識(Knowledge)

y

x

Z=√x マネジメント力

図 26 マネジジメント力を示す 2 次元ベクトル

なお,カリキュラムの具体的な内容例として,次のような事項をあげることが出来る。

科学技術知識関連

・ライフサイエンス,情報通信,環境エネルギー,材料,ナノテクノロジー,ものづ くり等に関する基本的事項と技術的優位性の抽出方法等

・研究開発プロセスに関する一般知識(研究開発フェーズに於ける留意点の相違,リ ニアモデルとサイクルモデル等)

コーディネーションスキルの基本機能関連

・コミュニケーションとネットワークづくりの方法 ・技術マーケティングの方法等

コーディネーションスキルの付加価値向上機能関連 ・知財調査,強い特許の取得方法,特許戦略 ・商品・サービスの一般的なマーケティング手法

・技術育成の方法,製品コンセプトの想定方法,競争優位性確保の方法 ・ビジネスモデル,ビジネスプランの作成方法

・開発ロードマップの作成方法 ・公的資金の役割と獲得方法等 マネジメント関連

・プロジェクトマネジメント ・リスクマネジメント

・経営戦略,財務戦略,事業戦略 ・ベンチャー起業 ・論理思考とコンセプト思考等

7-3-2 実行性担保のために

技術移転・事業化を実現するためには,マネジメント力の養成に加え「実行」が担保さ れることが必要である。

そのためには,実行の意欲やコミットメントを喚起するためのインセンティブが重要で ある。研究者,企業,コーディネータ等参加セクターに対するそれぞれのインセンティブ の内容は,各セクターにより異なるが第 5 章第 1 項で述べた「提携の利得」がこれに相当 する。中でも,産学官連携においては研究者,コーディネータともに社会的利得が大きな 比重を占める。

インセンティブ

x

科学技術知識

|r|x+y+z2

y

コーディネーションスキル

r

実行性

マネジメント力

図 27 実行性担保の 3 次元ベクトル

そこで,産学官連携による技術移転・事業化の実効性を高めるためには,「科学技術知識」

と「コーディネーション力(スキル)」の2次元に「インセンティブ」を加えた3次元のベ クトルを意識しながら進める必要がある。(図 27)

従って,マネジメント力養成の最終目標としては,シーズや要素技術を事業プロジェク トとしてコーディネートし,収益事業にまで育て上げられる能力,事業を構想し実現して いくプロデューサー的能力の養成にあると考えており,実行性を担保するために関係者の 動機付けを促す仕組みを考え,関係者のインセンティブについて常に配慮する姿勢を養っ ていく必要があると思われる。

以上,研究開発分野である技術移転・事業化マネジメント力の養成の方向について述べ たが,今後は実際の現場における検証が必要である。

ドキュメント内 電気通信大学 (ページ 64-84)

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