第■節 取り組みの;背景
1 「荒れ」の状況
筆者の勤務していた中学校は生徒数500名門の学校であるが、教育的困難さ
を極めていた。学校内外で喫煙をする生徒が目立ち始めるとともに、授業からの 逃避、校内俳徊、器物破損が増えていった。最初は3年生の生徒にみられた行動 が2年生、1年生へと広がりかなりの人数のグループができあがった。授業中に 上級生が下級生を呼びだし、校内を闊歩しながら非常ベルを鳴らしたりガラスを 割って歩いたりした。また、朝登校してくると、教室のガラス、照明器具は全部 割られ、天井、壁、床、机に至るまでスプレーによって落書きをされいてるとい う状態もあった。そこで、この状況を解決していかなければならないとあせる教 師と生徒の問でぶつかり合いが毎日のように起こり始め、授業妨害や対教師暴力 が頻発するに至った。授業をしている教室の教師と生徒に向かって消化器を噴射 したり、教師の自家用車が原型をとどめないほどに破壊されていたりした。生徒 に殴られ入院する教師まで出た。この「荒れた」状況ににおいて、上述のような 行動をとっていなかった生徒たちは、 「こんな状態は学校ではない」 「先生、もっとしっかり指導してよ」などの気持ちになっていたようだった。そしてこうい う「荒れた」状況に至るまでには、3ヶ月とかからなかった。
2 教師の姿勢
日々の問題の対応と処理に多大な時間を費やし、生徒とじっくり時間をかけて 話をすることができなかった。そういう教師の対応に問題があったのはいうまで
もないが、それ以前に生徒をどう理解し、生徒をどう活かしていけばよいかがな おざりにされていたことは否めない。問題が発生したと教師が判断し、そのこと で教師は悩むが、そこに至るまでの生徒の悩みについてはあまりにも無頓着であ った。学級経営にしても、生徒理解にしても教師間の共通理解もなく、方針もな かったこと、生徒一人一人を大切にし尊重することができていなかったこと、生
徒同士の協力による仕事も企画できなかったこと、さらに、教師相互が親和的で はなかったことも認められる。また、頻発する問題の解決のために幾度となく会 議がもたれたが、具体的な方策は全く見えない状況であった。
魅力ある学級集団形成のための教師の構えとして、佐々木は14項目を挙げてい るが、その中で
・子どもとともにいることを楽しむこと(基本的態度)。
・子どもへの愛情。
・悩みや喜びをともにしてやること。
・明るさとユーモア(深刻にならない)。(、)
の四点に着目してみても、教師の姿勢としてはまったく不備であったといえる。
第2:節 取り組みの具体策とその視点
1 取り組みの具体策
立て直しを図ろうにも日々の問題の対応と処理に追われ、全教師疲れ切った状 態で光が見えないほどであった。最終的には学校長が警察介入を決断し、学校内 において、激しく 「荒れ」を示していた中心生徒の逮捕という事態にまで及んだ。
周囲の生徒たちはざわめきたったが、表面的には幾分か問題行動は減少したよう に見えた。しかしながら当然のごとく学校、教師に対する敵対心は増幅していっ た。そういう生徒たちから信頼を回復し、育て直すにはどうすればよいのかを探 るために幾度となく会議がもたれたが、具体的な方策は見つからず、教師間での 共通理解を図ることができたのが「教師は生徒のそばにいようではないか」とい うことであった。力による抑えつけに端を発したことではあったが、教師集団の 様々な取り組みを生徒と一緒に実践することによって、次第に教師に対する敵対 心が消え、生徒たちの自主的、自発的な活動が増していった。
以下、その具体的な取り組みの概略を示す。
(1)学級通信(教師による)
全学年,全クラスというわけにはいかなかったが,第3学年の各担任が相談の 上,歩調を合わせて週に1回のペースで発行することを決め実践した。内容につ いては各担任の個性を大切にしながら,教師の願いを子どもに伝える形をとった。
(2)学級新聞(子どもによる)
壁新聞の形態を採用したクラスもあったが,各クラスに新聞班を設け,定期的 に学級新聞を印刷し発行した。最初はとりとめもない内容であったが,徐々に視 点がクラス内の事:柄へと進歩していった。
(3)グラウンドキャンプ
夏季休業中に全員が1泊2日で学校のグラウンドに宿泊した。実施に当たって は学年ごとに行なわれた。グラウンドにテントを張り,その周囲にブロックやレ ンガを積み上げて各グループごとでかまどを作って炊事を行なった。特別にルー ルは定めず,企画から運営に至るまで子どもの手に委ねた。キャンプファイヤー,
肝だめし,夜を徹しての歓談等いずれも教師も子どもと共に行動した。さらに1 年目の反省の上にたって,夜中じゅう騒ぐ声が周辺の民家に響くため,翌年から 実行委員があらかじめ行事:のお知らせとお願いの文書を作成し,一軒一軒子ども たちが民家をまわって理解を得る活動も行っている。また,趣旨に賛同してくれ た保護者が,差し入れなども持ってきてくれ,子どもたちと共に行事に参加する 光景も見られるようになった。
(4)生活ノート
全学年,全クラスで実施した。見開き6目分が記入できる生活ノートを採用し,
全員が朝の会の時に提出する形をとった。教師はそのノートを帰りの会までにす べて読み,コメントを添えて返却することを毎日の活動として行なった。日常の 学校生活の中で,子どもと教師が交わす会話の時間は非常に少なく,少しでも子
どものことを知ろうという目的で行なった。
(5) リレーノート
クラス内の班単位で記入する班ノート。6〜7人の班員で順番にそのノートを 回していく。そしてそれと並行して,クラス全員によるリレーノートも行なった。
自由記述をさせ,班員あるいはクラスの友達が何を考えどう思っているのかをお 互いに知り合うことを目的として行なった。どちらのノートも自宅で記入して翌 日には教師に提出。教師はそのノートにコメントを書き,帰りの会の時に返却す るという形をとった。これは,生活ノートは個々の子どもと教師とのパイプには なるが,子どもと子どものパイプにはならない点を考えリレーノートも合わせ℃
実施した。
(6)教え合い学習・徹夜学習
第3学年になると進路の選択について具体的な話が出てくる。行事の中で,と もに学んでいくことができないかという思いから,深夜にまで及ぶ勉強会や休業
中に行なう徹夜学習を実施した。勉強会では,お互いに教え合うことも目的のひ とつにした。また,徹夜学習ではとことん頑張ってみるという経験を味わわせる ことを目的として取り組んだ。
(7)合唱コンクール
文化祭のメインプログラムの中にこの合唱コンクールがある。全クラスが独自 の歌を披露し優劣を争うものであったが,各クラスとも自分たちの合唱に誇りを 持っていて,歌い終った瞬間に,満足感から泣き出す光景も多く見られた。さら に文化祭が終わった放課後,優勝したクラスを称えようと教室からオルガンを運 動場に持ち出して,学年全員でもう一度それぞれのクラスの歌を全員合唱し,お 互いの素晴らしさを称え合うことも自然に行なわれるようになった。
(8)卒業式
中学校生活最後の行事である卒業式をもっと感動的なものにという思いから,
卒業生は,合唱コンクールの時の自分たちの歌声を聞きながら入場し,全員が着 席をした直後,3年間の思い出を綴ったスライドが映し出され,子どものナレー
ションによって3年間を振り返らせた後,式を開催するという形式をとった。さ らに式の中において3年団職員が卒業生の前にたって送る言葉を述べたり独唱し たりする場面も設定した。これはその場だけの行事ではなく,3年間の生活が基 盤となっての卒業式体験といえる。
2 視点と考察
1で述べたそれぞれの取り組みを分類してみると次のようになる。
①生徒理解の視点
生活ノートやリレーノートは生徒指導の生徒理解の方法の一つである。生 徒一人一人を「一個の大切な人間としての存在」として認め、理解していこ うとしたものである。生徒理解について、文部省の『生徒指導の手引き』に よると、 「生徒一人一人の人格を、最も望ましい方向に完成させるための援 助」・2)とある。これはっきつめていえば、生徒理解の目的は生徒の自己実 現の過程を促すことにある。そして、生徒の問題を生徒と共に考え、共に歩 んでいこうとするのが教師の仕事である。この点から考えても、生徒理解は 特別活動の教育的意義にかかわっていることがわかる。また、生徒自身にと ってみても、 「書く」という作業を通して自己理解を図ることができる。生 徒の自己実現のために自己理解は欠かすことのできない前提である。