• 検索結果がありません。

球面波

ドキュメント内 東京大学理学系研究科 上田研究室 (ページ 97-100)

第 7 章 中心対称場での運動 95

7.2 球面波

rlim0r2U(r) = 0 (7.14) を満足しているという条件で、波動関数の原点近傍での振る舞いを調べよ う。原点近傍でR(r) ∝rsと置いて(7.9)に代入すると(7.13)、(7.14)よ りs=であることがわかる。すなわち

R(r)∝r (7.15)

7.2 球面波

空間の併進対称性がある系では運動量pとエネルギーE=p2/2mが保 存し、波動関数は平面波ψ∝eip·rとなる。球対称な系ではエネルギーに 加えて角運動量と磁気量子数mが保存する。このような自由な(すな

わち、U(r) = 0)波動関数を考えよう。以下ではエネルギーEの代わりに

波数k:=

2mE/ℏを考える。前節の議論と同様に波動関数は

ψkℓm =Rkℓ(r)Ym(θ, ϕ) (7.16) と書ける。波動関数に関する規格直交条件は

0

r2dr

π

0

sinθdθ

0

dϕψkmψkℓm = 2πδ(k−kllδmm (7.17) 角度方向の積分は球面調和関数の直交性を利用して実行できるので

0

r2drRkRkl= 2πδ(k−k) (7.18) この時、動径方向の波動関数は

1 r

d2

dr2(rRkℓ) + [

k2−ℓ(ℓ+ 1) r2

]

Rkℓ = 0 (7.19)

を満足する。

= 0の場合は、境界条件(7.13)を満足する(7.19)の解は Rk0(r) = 2sinkr

r (7.20)

で与えられる。ℓ̸= 0の場合は

Rkℓ(r) =rχkℓ (7.21)

とおくと

d2χkℓ

dr2 + 2+ 1 r

kℓ

dr +k2χkℓ= 0 (7.22) 両辺をrで微分すると

d3χkℓ

dr3 + 2+ 1 r

d2χkℓ dr2 +

(

k22+ 1 r2

)kℓ

dr = 0 (7.23) これを変形すると次のように書けることがわかる。

d2 dr2

(1 r

kℓ dr

)

+ 2+ 2 r

d dr

(1 r

kℓ dr

) +k21

r kℓ

dr = 0 (7.24) これを(7.22)と比較すると

χkℓ+1= 1 r

kℓ

dr (7.25)

であることがわかる。この漸化式を繰り返し用いることにより χkℓ=

(1 r

d dr

)

χk0 (7.26)

が得られる。これに(7.20)を代入すると Rkℓ = 2(−1)r

k (1

r d dr

) sinkr

r (7.27)

が得られる。ここで、因子(1)は便宜上導入した。因子kは規格化条 件を満たすように決められた。

動径方向の微分方程式(7.19)はx=kry =Rkℓとおくと 1

x d2

dr2(xy) + [

1−ℓ(ℓ+ 1) x2

]

y= 0 (7.28)

となる。これは2階の斉次微分方程式なので2つの独立な解を持つ。その うち、原点で正則な解が球ベッセル関数j(x)、正則でない解は球ノイマ ン関数 n(x)である。

j(x) = (−x) (1

x d dx

)

sinx

x =

π 2xJℓ+1

2(x) (7.29) n(x) = (−x)

(1 x

d dx

)

cosx

x =

π 2xNℓ+1

2(x) (7.30)

(7.29)は上で議論したように原点で正則である。これと比較して(7.30)は

正弦関数が余弦関数に置き換わっていることからわかるようにjとは独

7.2. 球面波 99 立であり、原点で特異性を持つ。球ベッセル関数を用いると(7.27)は次の ように書ける。

Rkℓ= 2kj(kr) =

√2πk r Jℓ+1

2(kr) (7.31)

r→ ∞の漸近形は、1/rn (n2)の項を無視すると Rkℓ2sin(kr−ℓπ/2)

r (7.32)

と書ける。逆に原点近傍での振る舞いは(7.27)のsinkrを展開して、微 分した後でrの最低次の冪が主要項になることに注意すると、r 0で

(1 r

d dr

) sinkr

r (1) (1

r d dr

)

k2ℓ+1r2ℓ (2ℓ+ 1)!

= (−1) k2ℓ+1

(2ℓ+ 1)!! (7.33)

これから

Rkℓ= 2kℓ+1

(2ℓ+ 1)!!r (7.34)

となり、(7.15)と一致している。

散乱問題ではしばしば定常状態が問題になる。外部から粒子が次々と入 射して、それが他の粒子にあたって散乱されるような状況である。そのよ うな場合は、波動関数は原点(すなわち、他の粒子の位置)でゼロになる 必要はないので、(7.29)(7.30)の線形結合が解になる。両者を線形結合 してできた特殊関数は次に定義される球ハンケル関数である。

h(1)n (x) := jn(x) +inn(x) =−i(−x)n (1

x d dx

)n

eix x

=

π 2xHn+(1)1

2

(7.35) h(2)n (x) := jn(x)−inn(x) =i(−x)n

(1 x

d dx

)n

eix x

=

π 2xH(2)

n+12 (7.36)

これら定義式からわかるようにh(1)n は中心から外向きの波、h(2)n は内向き の波を記述している。これから= 0の波は

Rk0± = A

re±ikr (7.37)

一般のの場合は

Rkℓ± := (1)Ar k

(1 r

d dr

)

e±ikr r

= ±iA

πk 2rH(1,2)

ℓ+12 (kr) (7.38)

定在波の時と同様にr → ∞での漸近形は R±kℓ →Ae±i(kr−ℓπ/2)

r (7.39)

であり、原点近傍での振る舞いは R±kℓ →A(2ℓ1)!!

k r1 (7.40)

で与えられる。

もし単位時間当たり1個の粒子が流れ出ている状況を考えよう。流れの 密度は粒子の速度をv=ℏk/mとしてj=v|ψ|2で与えられるので、原点 を中心とする半径r球面にわたる積分をしたものが1になる。すなわち、

立体角要素をdΩとして

r2dΩj=r2v|Rk0+|2 =A2v= 1→A= 1

√v (7.41)

原点から十分に離れた場所では、原子間相互作用や1/r2に比例する遠心 力ポテンシャル((7.19)の最後の項)は無視することができる。したがっ て動径方向の波動関数は

1 r

d2(rRkℓ)

dr2 +k2Rkℓ= 0 (7.42)

に従う。この方程式に一般解は Rkℓ = 2

r sin(kr−ℓπ/2 +δ(k)) (7.43) で与えられる。ここでδ(k)波の位相シフトと呼ばれ、相互作用の漸 近波への効果を表している。

ドキュメント内 東京大学理学系研究科 上田研究室 (ページ 97-100)