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力学的対称性

ドキュメント内 II (ページ 101-105)

第 7 章 中心対称場での運動 93

7.4 力学的対称性

レンツベクトルが保存することは、RiHと交換することを意味してい る。これは次の交換関係を用いて示せる。

[Li, xj] =iϵijkxk  (7.66) [Li, pj] =iϵijkpk (7.67) [

Li,1 r ]

= 0 (7.68)

[1 r, pi

]

=ixi

r3 (7.69)

これらを用いると [1

r, Ri

]

= 1

2mϵijk [1

r, Ljpk−pjLk ]

= 1

2mϵijk (

Lj [1

r, pk ]

[1

r, pj ]

Lk )

= iℏ 2mϵijk

( Ljxk

r3 −xj

r3Lk )

= iℏ 2mϵijk

(

ϵjlmxlpm

xk

r3 −xj

r3ϵklmxlpm

)

= iℏ 2m

[(

pi

1 r +1

rpi

)

1

r3(pkxkxi+xixkpk) ]

(7.70) [p2l, Ri]

=−ik [(

pi1 r +1

rpi )

1

r3(pkxkxi+xixkpk) ]

(7.71) が示せる。これらから

[H, Ri] = 0 (7.72)

であることが分かる。こうして、ラプラスールンゲーレンツベクトルR が保存されることが示された。古典力学においてRの保存は、重力ポテ ンシャル1/r中を運動するケプラー問題に現れ、近日点が動かないという 物理的効果を生む。

次に、Riによって生成される群の性質を調べよう。生成子の交換関係は [Ri, Rj] =2iℏ

m ϵijkLkH (7.73)

[Li, Rj] =iϵijkRk (7.74) で与えられる。ハミルトニアンと交換する2つの演算子が互いに交換し ない場合は、系のエネルギーが縮退することを思い出そう((4.6節参照)。

7.4. 力学的対称性 103 今の例では、角運動量の大きさの自乗L2とラプラスールンゲーレンツベ クトル(Rx, Ry, Rz)はともにハミルトニアンと交換する保存量である。し かし、どのRiL2とは交換しない。こうして、異なったを持った状態 が縮退する。これが「偶然縮退」の起源である。

後の議論のためにR2を計算しておこう。まず、

p×L+L×p= 2iℏp (7.75)

を用いると

R = e2 4πϵ0

[r

r −c(p×L−iℏp)]

= e2 4πϵ0

[r

r +c(L×p−ip) ]

(7.76) ここで、c= 4πϵ0/(me2)である。これから

R2(mc)2 = [r

r +c(L×p−ip) ] [r

r −c(p×L−ip) ]

= 1−c [r

r(p×L−ip)(L×p−ip)r r ] +c2[

(L×p)(p×L) +iℏ(L×p)p+ip(p×L) +2p2]

= 12c1

r(L2+ℏ2) +c2p2(L2+ℏ2)

= 1 +c2 (

p22 c 1 r

)

(L2+ℏ2)

= 1 + 2mc2H(L2+ℏ2) (7.77)

よって

R2= ( e2

4πϵ0 )2

+ 2

mH(L2+ℏ2) (7.78)

「偶然縮退」の起源は、エネルギーが一定の4次元球面の中の回転対 称性(これをSO(4)対称性という)の帰結とみなすこともできる(V. A.

Fock, 1935)。このことを理解するために、HLiおよびRiと可換なの で同時対角化可能であることに注意して、以下の議論ではエネルギー固有 値Eを固定して考える。さらに、E <0の場合、すなわち、束縛状態の 場合を考える。このとき、

Ai:=

−m

2ERi (7.79)

を定義すると、(7.73)、(7.74)より

[Ai, Aj] =iϵijkLk, [Li, Aj] =iϵijkAk (7.80)

が得られる。これらと角運動量演算子の交換関係

[Li, Lj] =iϵijkLk (7.81) を合わせると、角運動量演算子Liと(7.79)で規格化されたラプラスール ンゲーレンツベクトルの演算子Aiが閉じた交換関係(リー代数)を構成 していることがわかる。ここで、Lx, Ly, Lzはそれぞれyz, zx, xy平面内 の回転の生成子である。一方、w4次元ユークリッド空間の第4の軸と すると、Ax, Ay, Azはそれぞれwx, wy, wz平面内の回転の生成子である ことがわかる。実際、Ax, Ayがそれぞれxw, yw面内の回転であるとする と、これらは

Ax = xpw−wpx =−iℏ (

x

∂w −w

∂x )

(7.82) Ay = ypw−wpy =−i

( y

∂w −w

∂y )

(7.83) と書ける。これからAx, Ayの交換関係を計算すると

[Ax, Ay] = −ℏ2 ([

x

∂w,−w

∂y ]

[

w

∂x, y

∂w ])

= ℏ2 (

x

∂y −y

∂x )

= iLz (7.84)

となり、(7.80)が再現されることがわかる。こうして、Li, Ajは4次元ユー クリッド空間内の回転の生成子を構成していることがわかる。このように クーロン場や重力場のようなポテンシャルが1/r型の問題では系の持つ対 称性が通常の3次元回転対称性から4次元回転対称性へと増加する。

4次元空間の回転の生成子の交換関係(7.80)を用いると、水素原子のエ ネルギースペクトルを微分方程式を解くことなく代数的に解くことができ る(W. Pauli, 1926)

Mi := Li+Ai

2 , Ni:= Li−Ai

2 (7.85)

を導入すると(7.80)は次のように書き換えられる。

[Mi, Mj] =iℏϵijkMk, [Ni, Nj] =iℏϵijkNk, [Mi, Nj] = 0 (7.86) これは、{M1, M2, M3}{N1, N2, N3}はそれぞれ独立した角運動量演算 子の代数を構成していることを示している。これからM2,N2の固有値 はそれぞれM(M+ 1), N(N+ 1) (M, N = 0,1/2,1,3/2,· · ·)であること がわかる。

7.5. 進んだ話:隠れた対称性とリー代数 105

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