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ウィグナーの定理

ドキュメント内 東京大学理学系研究科 上田研究室 (ページ 52-55)

第 4 章 対称性と保存則 45

4.7 ウィグナーの定理

古典論では2つのベクトルの内積は座標系の取り方によらず保存され る。二つのベクトルを同時に平行移動、回転、反転操作を行っても内積は 不変に保たれる。実際、2つのベクトルu,vにこれらの変換を行って得ら れるベクトルをu,vとすると、u·v=u·vが成立する。これに対応す る量子版は何か、それに対する答えを与えてくれるのがここで述べるウィ グナーの定理である3。古典論との違いは、ヒルベルト空間のベクトルは 複素数であり、かつ、波動関数全体に位相因子をかけたものは同じ量子状 態を表すという点である。このことから、古典論の内積の保存に対応する 量子力学的対称性は

|⟨ϕ|ψ⟩|=|⟨ϕ⟩| (4.40) と表される。ここで、⟩, はそれぞれ|ϕ⟩, |ψ⟩を変換して得られた ヒルベルト空間のベクトルである。すなわち、

Tˆ|ϕ⟩=⟩, Tˆ|ψ⟩= (4.41) ウィグナーの定理によると、(4.40)が任意の状態|ϕ⟩, |ψ⟩に対して成立す る変換Tˆは、状態ベクトルの位相を適当に選ぶことによって次の2つの いずれかであることを示すことができる。

Tˆ(α|ϕ⟩+β|ψ⟩) =α|ϕ+β|ψかつ ⟨ϕ=⟨ϕ|ψ⟩ (4.42) または

Tˆ(α|ϕ⟩+β|ψ⟩) =α+βかつ ⟨ϕ=⟨ψ|ϕ⟩ (4.43) ここで、α, βは複素数である。前者の場合は写像Tˆは線形でかつユニタ リー、後者の場合は反線形でかつ反ユニタリーと呼ばれる。

これを証明するために、完全規格直交基底{|ei⟩} (i= 1,2,· · ·)とそれ をTˆで変換して得られる基底|ei:= ˆT|eiを考える。(規格化されていな い)状態|fj:=|e1+|ej(j= 2,3,· · ·)を考えると、(4.40)より次式が 成立する。

|⟨e1|fj⟩|=|⟨e1|fj⟩|= 1 (j= 2,3, ,· · ·)

|⟨ej|fk⟩|=|⟨ej|fk⟩|=δjk (j= 2,3,· · ·) これらからθj, δjを任意の実数として

|fj=ej|e1+ej|ej

3E. P. Wigner,Group Theory, Academic Press, New York (1959), p.233

4.7. ウィグナーの定理 53 と書けることがわかる。位相因子だけ異なる状態ベクトルは物理的には等 価なので、位相因子を状態に吸収したものを改めて|e1⟩, |ejと書くと

Tˆ(|e1+|ej⟩) =|e1+|ej (4.44) が得られる。さて、任意のベクトル

|ϕ⟩=∑

i

ai|ei の写像

:= ˆT|ϕ⟩=∑

i

ai|ei を考えよう。仮定(4.40)により

|ai|=|⟨ei⟩|=|⟨ei|ϕ⟩|=|ai| (4.45) さらに

(⟨e1|+⟨ej|)|ϕ⟩=a1+aj, (⟨e1+ej|)=a1+aj なので、仮定(4.40)より|a1+aj|2 =|a1+aj|2、よって

a1aj+a1aj =a′∗1aj+a1a′∗j 両辺を(a1a1ajaj)1/2 = (a1a′∗1aja′∗j )1/2で割ると

( a1aj a1aj

)1

2

+ c.c.=

(a′∗1aj a1a′∗j

)1

2

+ c.c.

が得られる。ここで、c.c. はそれに先立つ項の複素共役を示している。こ れから

e+e =e+e この解はθ=±θである。

θ = θの時はa′∗1aj/(a1a′∗j ) = a1aj/(a1aj)なので状態全体にかか る任意の位相をa1 =a1となるよう選ぶと、aj/a′∗j =aj/aj が得られる。

従って、(4.45)よりaj =ajが得られる。それゆえ

=∑

i

ai|ei (4.46)

同様にして他の状態ベクトル|ψ⟩=∑

ibi|eiに対しても:= ˆT|ψ⟩の位 相を適当に選ぶことによって=∑

ibi|eiが言える。こうして、(4.42) が得られた。

次にθ=−θの場合を考える。この時はa′∗1aj/(a1aj) =a1aj/(a1aj)な ので、の位相をa1 =a1になるように選ぶとaj/a′∗j =aj/ajとなる。

よって、(4.45)よりaj =aj が得られる。それゆえ、

=∑

i

ai|ei (4.47) が得られる。同様にして他の状態ベクトル|ψ⟩ = ∑

ibi|eiに対しても

= ˆT|ψ⟩の位相を適当に選ぶことによって=∑

ibi|eiが言える。

こうして、(4.43)が得られた。

空間の並進や回転のように連続変換が可能なものはユニタリー変換のク ラスに属する(波動関数の連続性より、無限小の変化に対して係数が複素 共役へとジャンプすることはできない)。離散的な変換については、空間 反転はユニタリー変換であるが時間反転は反ユニタリーである(3.8節参 照)。ウィグナーの定理は⟨ϕ|ψ⟩= 0ならば⟨ϕ= 0でなければならな

いという(4.40)よりも弱い条件下で証明することもできる4

4G. Emch and C. Piron, J. Math. Phys. 4, 469 (1963); N. Gisin, Am. J. Phys.

61, 86 (1993)

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