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エネルギー(フォック)基底での解

ドキュメント内 東京大学理学系研究科 上田研究室 (ページ 77-80)

第 5 章 角運動量 55

5.5 時間反転とクラマース縮退

6.1.1 エネルギー(フォック)基底での解

ハミルトニアン (6.1) のエネルギー固有値を代数的に求めるために、

(6.3)、(6.4)で割って無次元化された次のような一組の演算子 ˆaとˆa を 導入する。

ˆ

a= 1

2mℏω(mωˆx+iˆp), ˆa= 1

2mℏω(mωxˆ−iˆp) (6.5)

交換関係(6.2) は、

a,ˆa] = 1 (6.6)

が成立すれば満たされる。(6.5)を逆に解いた式 ˆ

x=

√ ℏ

2mω(ˆa+ ˆa), pˆ=i

mω

2 (ˆaˆa) (6.7)

を(6.1)に代入し、交換関係(6.6)を使って式変形すると次の結果が得ら

れる。

Hˆ =ℏω (

ˆ aˆa+1

2 )

(6.8)

ˆ

a は生成演算子 (creation operator)、ˆa は消滅演算子 (annihilation

operator) と呼ばれる。その理由は次のとおりである。Hˆ の固有エネル

ギー En に対する固有状態を|n⟩と書くと定義により

Hˆ|n⟩=En|n⟩ (6.9) 両辺の左からˆaをかけ、交換関係(6.6)を使って変形すると

左辺 = ˆaHˆ|n⟩=ℏωˆa (ˆz}|{a1

ˆ aˆa +1

2 )

|n⟩

= ℏω (

ˆ

aˆaˆa−aˆ+1 2ˆa

)

|n⟩= ˆHaˆ|n⟩ −ℏωˆa|n⟩

右辺 = Enˆa|n⟩ となるので

ˆa|n⟩= (En+ℏω)ˆa|n⟩ (6.10) であることがわかる。従って、ˆa|n⟩ はエネルギー固有値がEn+ℏω 与えられる Hˆ の固有状態であることがわかる。このように ˆa はエネル ギー ℏω をもった量子を1個生成する役割をしている。 同様の計算をaˆ について行うと

Hˆaˆ|n⟩= (Enω)ˆa|n⟩

が得られる。従って、ˆaはエネルギー量子ℏω 1個消滅させる役割を果 たしていることがわかる。

6.1. 1次元調和振動子 79 系の最低エネルギー状態は真空状態 と呼ばれる。それを、|0 と書く と、定義によりこれよりエネルギーが低い状態はないから

ˆa|0⟩= 0 (6.11)

でなければならない。従って、

Hˆ|0=ℏω (

ˆ aaˆ+1

2 )

|0= 1

2ℏω|0 (6.12) これから、最低エネルギー状態のエネルギーが E0 = 12ω であることが わかる。これを零点エネルギーという。

系の取りうる最低エネルギーが0にならない起源は交換関係(6.6) [ˆa, aˆ] = 1 にあることに注意しよう。実際、系のエネルギーE はハミルトニアン の量子力学的期待値で与えられることに注意すると、

E ≡ ⟨Hˆ= ⟨pˆ2

2m +2⟨xˆ2

2 (6.13)

⟨xˆ= 0,⟨pˆ= 0なので⟨xˆ2=x−⟨xˆ)2⟩ ≡(∆x)2⟨pˆ2=p−⟨pˆ)2⟩ ≡ (∆p)2 とおくと(6.13)は

E= (∆p)2

2m +2(∆x)2

2 (6.14)

と書かれる。右辺で相加平均は相乗平均以上であることを使うと不等式 E≥2

√(∆p)2 2m

2(∆x)2

2 =ω∆p∆x (6.15)

が成立することがわかる。これに不確定性関係∆p∆x /2を適用する とエネルギーの最小値がℏω/2で与えられることがわかる。ここで使った 不確定性関係は、交換関係(6.2)から導かれたが、それは(6.6)と等価な 関係式である。

(6.10)より状態にˆaを作用させるごとに系のエネルギーはℏωだけ増加 するので、|0⟩ aˆ n 回作用させてできる状態|n⟩ のエネルギー En

H|n⟩ˆ =En|n⟩, En=ℏω (

n+1 2

)

(n= 0,1,2,· · ·) (6.16) で与えられる。このように量子化された調和振動子のエネルギーは、ℏω (エネルギー量子)を基本単位として等間隔に並ぶ。演算子

ˆ

n≡ˆaˆa (6.17)

を数演算子(number operator)|n⟩nフォック状態(Fock state) と呼

ばれる。(6.16)から、数演算子は次の固有値方程式を満足していることが

わかる。

n|n⟩ˆ = ˆaˆa|n⟩=n|n⟩. (6.18) 消滅演算子ˆaは量子を1つ消滅させる演算子だからˆa|n⟩ |n−1 比例する。

ˆ

a|n⟩=c|n−1⟩, (6.19) ここで、c は比例定数である。⟨n|aˆ =c⟨n−1|に注意して (6.19) のノ ルムを取ると

⟨n|ˆaˆa|n⟩

| {z }

nn|n=n

= |c|2⟨n−1|n−1=|c|2 c=

ne= n

ここで、フォック状態が1に規格化されている(⟨n|n⟩= 1)ことを使った。

また、位相因子φは任意にとってよいので0とおいた。一方、生成演算子 ˆ

aは量子数を1個増加させる演算子だからˆa|n⟩|n+ 1に比例する。

ˆ

a|n⟩ = α|n+ 1 (6.20) 両辺のノルムを取ると

⟨n|ˆaˆa|n⟩

| {z }

= |α|2⟨n+ 1|n+ 1⟩=|α|2 −→ α= n+ 1

⟨n|ˆaˆa+ 1|n⟩ = n+ 1 よって、次の結果が得られる。

ˆ

a|n⟩ =

n|n−1 (6.21)

ˆ

a|n⟩ =

n+ 1|n+ 1 (6.22)

(6.22)を繰り返し適用することにより次の等式が成立する事がわかる。

|n⟩ = 1

√n!a)n|0 (6.23)

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