3-1 本章の目的と構成
本章は、研究課題(1)「「何」と「なぜ」を見出す「プロセスとその方法」を探る」
ことのうち、残された課題となる「何」と「なぜ」を見出す方法を探り構築する こと が目的である。ただし、ここでは第二章の活動プロセスをベースにした「枠組み」の 検討も合わせて行う。また、「何」と「なぜ」を見出す方法には、その方法を実施する 活動者の視点も関連することになる。そのため、研究課題(4)「街なかの活動で方法 論を活用するための問題点や条件等を整理する」に関連する、「活動者及び方法論と活 動者の関係」についても本章からは適宜捉えていくことになる。
上記「何」と「なぜ」を見出す方法 を探るために、本章ではアクションリサーチの 方法論であるソフトシステム方法論(Soft System Methodology:SSM)に着目する。そ して、SSM の方法論が活用できるかどうか検討するために、筆者が係っている青森県 黒石市における街なかでの活動を実践事例として扱う。ここで対象とする実践事例は、
街なか通り再生プログラムと言われる、アメリカのメインストリートプログラムを参 考に開発されたものである。さらに、活動の参加者である地域住民自ら独自の事業や イベントを実施している好事例でもある。この実践事例の活動プロセスを対象に、SSM の各方法で記述し再現することで 、方法論として SSM を取り入れることが可能か 検 討・確認してく。
まず次節では、アクションリサーチとその方法論である SSM に着目した理由、及び SSM の概要を整理する。この整理によって、研究課題(1)及び(4)とSSMの関係 を示すことができる。
3節では、「何」と「なぜ」を見出す方法を検討する前に、第二章で捉えた活動のプ ロセス(枠組み)と黒石市の実践事例のプロセスを比較することで、枠組みあるいは プロセスの構造及び活動要素に問題点等がないか再検討する。この再検討によって両 者に違いがほぼないこと、そして黒石市の街なかにおける活動が2つの階層で構成さ れていることを見出す。
この階層構造(階層性)は SSMの特徴の1つでもあり、このことから第二章で捉え た活動プロセスとSSMが、黒石市の街なかの活動に内在化していることが示唆される。
そこで、続く4節からの SSMの検討・確認は、「街なか・商店街レベル(の階層)」及 び「事業レベル(の階層)」と呼ぶことになる2つの階層で行う。SSM を適用できるか どうかの検討・確認は、言い換えると黒石市の街なかの活動において SSMの内在化を 検討・確認することでもある。
まず4節では、街なかの活動における階層の1つ「街なか・商店街レベル」に SSM を適用し、黒石市の活動を記述し再現することで、「何」と「なぜ」を見出す方法とし
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て SSMが適用可能か検討・確認する。ここでの検討・確認では、街なか・商店街レベ ルで SSM の内在化を確認することはできるが、研究課題(1)の「何」と「なぜ」を 見出す方法としては適していないことが明らかとなる。 これは、研究課題(4)に関 連する活動者や方法論の活用者の視点からも示される。
5節では、もう1つの階層である「事業レベル」に SSMを適用し、黒石市の活動を 記述し再現することで、「何」と「なぜ」を見出す方法として SSM が適用可能か検討・
確認する。事業レベルでは、SSM の内在化を確認することができ、かつ研究課題(1)
の「何」と「なぜ」を見出す方法としても適していることが明らかとなる。そして、
研究課題(4)に関連する活動者や方法論の活用者の視点からも、適した方法である ことが示される。
6節では、前節までの検討を踏まえて「活動を支援する方法論」を構築する。 この 方法論は、「活動要素(「何」や「なぜ」等)とその関係」、及び「活動要素を検討・表 現・記述する方法(「何」や「なぜ」等を見出す方法)」で構成される。ただし、本章 で構築できるのは事業レベルに関する方法論であり、街なかレベルの「何」や「なぜ」
等を見出す方法は課題として残されることになる。この点については、 階層性の考え 方を用いて街なかレベルと事業レベルの活動の違い、及び残された方法論の 問題とし て整理して示す。
7節では、研究課題(4)「街なかの活動で方法論を活用するための問題点や条件等 を整理する」に関連する、「活動者及び方法論と活動者の関係」について、6節までの 検討を踏まえてまとめる。
最後の8節では、本章のまとめと課題を提示する。
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3-2 ソフトシステム方法論と研究課題の関係
本節では、研究課題(1)の「何」と「なぜ」を見出す方法を 検討する前に、アク ションリサーチと SSM に着目した理由、及び SSM の特徴と考え方について説明し、
研究課題(1)及び(4)との関係を整理する。
3-2-1 アクションリサーチとソフトシステム方法論への着目
アクションリサーチには、多様な定義や状況への係わり方があるが、中村は「共通 していえるのは、(中略)自らの実践を内省すること(中略)が必要とされる 1)」こと だと指摘している。これは、第二章で検討した活動プロセスの把握におけるフィード バックと同様の指摘として捉えることができる。 単純に活動を進めていくだけではな く、活動を振り返り学びを得ていくこと、そしてその学びを再度活動に活かす視点は、
街なかの活動でも重要だと考えられる。従ってアクションリサーチは、本研究におい ても適した方法や考え方になると判断している。
ただし、本研究ではアクションリサーチを提唱した心理学などの人間科学分野 2)で はなく、社会科学分野(経営学)の SSMに着目している。そこで次は、SSM に着目し た理由を人間科学と SSMの両者の違いから整理する。
SSM に着目した理由の1つ目は研究対象に関することである。人間科学では対象者 という表現に見られるように 3)、人間あるいは人間の行為が対象となっている。人間 科学の分野では、実際の活動に関与することで影響を与え、その影響によって変化さ せる対象とは「対象者」や「対象者の行為」である。一方、SSM が対象にしているの は、「明確に定義されていない問題状況 4)」である。つまり、「問題」があるとみなし てはいるが、「何」を行えばいいのか明確にできていない状況が SSM の対象となって いる 5)。そして、この「何」を見出していく探索プロセスとなっているのが SSMであ る(探索プロセスについては後述)。
これは、研究課題において述べた「想いなどの主観が反映される「何」と「なぜ」
を自ら考えて実行していくには、単に「何」と「なぜ」に関する答えを提供するので はなく、その答えを自ら導いていくプロセスとその方法が重要になる」という考えに 合致する。また本研究で対象にしているのも、人間あるいはその行為によって影響を 与える「状況」である。本研究でも人間の行為は重要であり着目してはいるが、重視 するのは行為や行為者自体ではなく、あくまでも行為が働きかける状況である。
2つ目は、本研究で重視している枠組みあるいはフレームワークに関連する 。実際 の活動によって積極的に状況に関与する場合、予め「何(活動要素)」を明確にしてい ることは、「単なる経験」と「学びを含んだ経験」との大きな違いであり、非常に重要 なことだと考えている。SSMでは、「残念なことに、全般的にいって、知的枠組みを明 示する重要性にあまり触れられていない 6)」と述べて、フレームワークや枠組みが重 視されていないことを指摘している。人間科学分野では、この指摘のようにフレーム ワークや枠組みに関しては何も触れていない 7)。
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最後は、第一章の研究の背景で述べた、大館市の実践事例における「何をな ぜ行っ ているのか自覚できていない状況」に関連する。 色々な議論は行われているのだが、
どの議論が「何」に該当し、どの議論が「なぜ」に該当するのか明確になっていない。
その要因の1つに、議論し検討した内容を明確に記述することができていないことに あると考えている。これは単に議事録をとることとは違い、図2-18の枠組みで言 えば、どの内容が「何(ビジョン)」や「なぜ(想い・意図)」 に該当するのか、明確 にして記述できていないことを意味する。
従って、先の「枠組み」や「フレームワーク」と、そこに含まれる活動要素を明確 に「表現・記述」できることは、2つで1つとも言える。SSM では、プロセスを記述 できることによる良かった点の1つに、「自分たちが何について語っているのか自覚で きるようになった」ことを挙げている 8)。さらに、記述できることの良かった点とし て、「自省から学べるようになったこと」も挙げている 9)。この学びの視点は本研究で も重要になるが、人間科学分野でも上述したように重要なことのはずだが、明確に記 述することについて何ら指摘されていない 10)。
以上の違いが人間科学分野と社会科学分野の SSMにはあり、上記3つの内容を満た しているのが、アクションリサーチの方法論である SSMであったことが、本研究で着 目した理由となる。
3-2-2 ソフトシステム方法論が誕生した背景とシステムの捉え方
次は、SSMが生まれた背景とシステムの考え方を整理する。SSM は、システム論を ベースにしたアクションリサーチの方法論である。システムと言えば、交通システム や物流システムなどハードシステムが一般的だと思われる。このシステム論が発展し ていく過程で、現実世界をシステム的だとする上述のハードシステム思考学派と、探 索プロセスをシステムとして捉え作成するソフトシステム思考学派の2つが生まれて くる 11)。
SSM の創始者であるチェックランドは、問題がはっきりしない曖昧な状況にハード システム思考のアプローチを適用し、その度に失敗を繰り返していた。この失敗の経 験から、ソフトシステム思考である SSMが誕生する。ハードシステムをベースにした 取り組みが失敗を続けた理由は次のことにある。
オペレーションズリサーチ(OR)などのハードシステム思考に共通するのが、「問 題や目標が明確な状況」あるいは「問題や目標を構造的に明確にできる」ことである。
つまり、ハードシステムでは目標や問題等の「何(what)」を所与とする、あるいは所 与とできるため、問題解決へ向けた最適解あるいは手段としての「いかに(how)」が 重視されることになる 12)。しかし、問題や目標などの「何」自体を明確にすることが 難しく、そのこと自体が問題になっている場合も多い。そのため、ハードシステムの アプローチは失敗を繰り返すことになった。
第二章の「ツールの構築と活用」で扱った既往研究は、景観や建物デザインなど目 的が明確な状況で手段を検討・支援するためのツールだと述べた。また 、手段を重視