特許権のような無体物は、有体物のようにその占有で侵害が排除できず、また使用面で も同時の重複しての使用が可能である。したがって、無体財産権の保護には、予め法律を 持ってその権限(効力)の範囲、即ち他人が行ってはならない領域、を定める必要がある。
このため特許権等のいわゆる知的財産権については、基本的には有体物の「所有権」類似 の権利体系を定めるが、その詳細は、保護の必要性、及び、逆に特許権等が持つ排他性か ら来る弊害を防止するため、その権利行使にはいくつかの修正が加えられる。またその範 囲、内容も、時代の流れと共に変動する。
では平成に入ってから(90 年代後半以降)どのような面で効力面での強化的措置、あ るいは逆に制限的措置が採られたかを概観する。なお、ここでは法律改正のみならず、裁 判上での取扱いも含める。
1.制度の変遷
*1<「実施」の定義(第2条第3項)>※
特許権は、「業として特許発明を実施する権利を専有する」(第68条)が、何がその
「実施」に当たるかについては、法は第3条第2項で別途定義している。この定義におい て昭和34年法制定当時は、生産、使用、譲渡、貸渡し、展示、輸入を定めていたが、そ の後、時代の流れ等から変遷している。
(TRIPs対応)
平成6(1994)年改正は、TRIPs協定や日米合意を受けてのものであるが、このTRIPs協 定第28条で特許権の排他的権利として「譲渡の申し出」が追加された。これに伴い、「実 施」の内容に、「譲渡又は貸渡しの申し出(譲渡等のための展示を含む)」が追加された。
(なおこの申し出には、実際の譲渡や貸渡しのための展示等に加え、単にカタログやパン フレットでの勧誘をも含む行為であり、従来の展示を含む概念とされている)
(プログラム等関連)
次いで、いわゆるソフトウエア発明(プログラム)が盛んになり、フロッピー等の媒体 での流通のみならずインターネットの普及等もあって電気通信回路を介して流通・販売さ れる場合も増えたことから、平成14(2002)年改正で、まず特許法でいう「物」に「プロ グラム等(注;これは第2条第4項で更に定義)」を含むとし、更に「譲渡、貸渡し」を「譲 渡等(譲渡及び貸渡しをいい、その物がプログラム等である場合には、電気通信回線を通 じた提供を含む。)」とし、これら行為も特許の実施概念に含めることとした。
注;プログラムは、平成12(2000)年12月の現行審査基準制定時に「物の発明」として請求項に記
*1 これとの関係で属地主義の議論もある。即ち、特許権は当該国において個々に定まるもので、外国 での行為に及ぶものではない。よって輸出は外国への行為故、属地主義には合致しないと言えよう。た だこの属地主義には、BBS最高裁判決(並行輸入で後述する)で、「当該国の法で自立的にその効果を定 められる」との解釈がされており、この立場からは外国向けの故をもって一義的に属地主義に反すると はならないかもしれない(即ち、敢えてわが国では「輸出を律する」と決めれば済む)。
載することができるとされ、翌年1月10日以降の出願された特許出願については、「記録媒体」
に記録されるか否かとは無関係に「プログラム」自身を直接「物の発明」に記載することが可能 となった。しかしながら一方で、民法上の「物」は「有体物」とされており(民85条)、また特 許法には刑罰規定もあることから罪刑法定主義からも問題となった。このため「プログラム等」
が特許法上の「物」に含まれることを法律上明確化することが求められ、この改正に至った。な おプログラムの送信は手元にも元のプログラムが残る等有体物のそれとは違うところがある。こ のため従来、譲渡、貸渡しというのは合わないとして「譲渡等」として別途定めなおした。、
(輸出等)
平成17(2005)年12月の産構審知財部会特許小委員会報告及びそれを受けての平成1 8年特許法改正法案※で、輸出及び譲渡等を目的とした所持をこの実施行為に追加しよう との動きがあった(意匠権・商標権とも)。思うにこれは、いわゆる海賊製品の取り締ま り強化を目的としてのものであろう。
まず「輸出」については、侵害品が海外へ出ることを水際で防止する趣旨で、欧州にお いて輸出を実施行為に含めるのを根拠とするようである。ただ、輸出行為については過去 の判例で海外即ち日本国外はわが国特許法の保護の及ぶ範囲ではない*1 として輸出に係る 権利行使の請求を棄却したものが散見されるところ(製パン事件H12.10.24.大阪地裁、他)、
これとの関係をどうするのかと言う問題がある(因みに同報告では、「譲渡に該当するか 裁判所の明確な判断は示されていない」とあたかも輸出について何らの判断が示されてい ないかような書振りであるが意図不明。また欧州については、EUでは知財制度とは別に
(むしろ優先して)「財等の域内自由流通」原則があり、域内他国へ輸出したものが自国 に自由に還流する(国境措置は原則ない)ことと関連するのではないかと思われる。(即 ち域内他国向け輸出だけを規制するわけに行かず域外を含めた全輸出が規制対象とならざ るを得ない)。その他損害賠償規定(第102条)の適用はどうするのであろうか、例え ば第1項の侵害数量ベースでの賠償算定するのか、はたしてそれが妥当か、といったこと もある。
次に「譲渡等を目的とした所持」は、既に商標法では「侵害と見なす行為(同法第37 条)」として規制するところ、これを規制することにはあまり問題無いと思われる。ただ し商標法ではこのみなし侵害において「業として」の限定がないが、特許法等の場合、み..... . なし侵害は今のところ「業として」となっている。この点、特許法等においても、海賊品....
の取り締まり効果を挙げるにはそもそも一般人におけるそのような所持すら禁止するとい う考えも有ろう(例;麻薬のように所持そのものが禁制(禁止)とする。商標法はそれに 近い考えなのであろう)。ただ改正法案では、特許法等については「業として」としてお
*1 制度の基本改正は平成15年改正で、平成16年改正は、特許権者・輸入者へ国境措置を採った場合 にそれぞれに輸入者・権利者の通知を定め、若干の手続き面の改善を行った。
*2 欧米も同様の制度を設けるが、欧州では認定手続きは裁判所が行う。米国は、裁判所ではないが ITC という従来から携わってきた専門性の高いところが行う。この点、あまり専門的でない税関がとり行う のは日本ぐらいである。
り、そこまで一般人には負担をかけない方向となっている。
いずれにせよ、この改正は、平成18年6月、意匠法等を改正する法律として成立して いる。
補:水際措置の強化
本規制は特許法上のものではないが、便宜上、ここで紹介する。
いわゆる海賊製品(模倣品)については、その問題点が TRIPs においても指摘され、
第4節第51条以下で所謂国境措置について定める。ただし TRIPs 上の義務は商標権と 著作権・著作隣接権侵害商品に限られ、その余の知的財産権侵害品については加盟国の自 由とされた。そしてこの TRIPs 上の義務である上記商標権等については平成6(1994)年 の関税定率法改正で措置されている。
しかるに 2003年の「知的財産戦略大綱」で、特許等侵害輸入品についても、米 ITC を 参考に2003年末までに国境措置を検討し、2004年末までに措置を講じることが定められ、
平成15(2003)及び16(2004)年に関税定率法の改正が行われた*1。
なお特許法との関係は、税関長は輸入貨物を止めた場合、侵害品か否かの認定手続きを 行うところ、必要な場合、特許庁長官に特許法第70条の技術的範囲について照会できる こととなっている。この場合の特許庁長官の回答は、特許は有効な前提でなされるもので、
「厳正中立な第三者の意見」として参酌される。よって法的拘束力はなく、行政処分にも 当たらない(よってこれに対して不服申し立て等できない。)とされている*2。
(単純方法(同項第2号))
特許には「物の発明」、「物を生産する方法の発明」と「方法の発明」がある(第2条 相3項)が、最後の方法の発明を生産する方法と対比させるため、「単純方法の発明」と いうことがある。そして物生産する方法の発明の効果はその方法で生産した物にも及ぶが、
単純方法の場合は、効果が及ぶのはその方法の使用のみであって、その方法による成果物 にまではその効果は及ばない。
しかるに近時、いわゆるスクリーニング特許、これはバイオ製薬等において、要求する 効果がある化学物質を選択する場合等にこのスクリーニングを行う、について、その効果 がそのスクリーニングの結果得られた物質、さらには最終財たる製薬そのものにまで及ぶ のかといった議論がある(換言すれば、当該発明は、「物を生産する方法の発明」かそれとも「単純 方法の発明」かということ)。
この件に関し、「カリクレイン事件」(最高裁小二判決H11.7.16.)において、最高裁は、