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<クレーム解釈>

特許権は、その効力として「業としてその発明を実施する権利を専有する」(第68条)。 そして、その侵害に対しては、差し止め(含む妨害排除)及び損害賠償を請求すること ができる(第100条、102条)。しかるに、上記効力等を行使し得るのは、当然特許 権の範囲内であって、その範囲は如何なるものかという問題が生じる。これが「特許(請 求)の範囲」、いわゆるクレームの解釈である。そして法は、「特許発明の技術的範囲」と して第70条を定め、そこには、①特許請求の範囲に基づいて定める、及び②明細書の記 載及び図面を考慮して特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈する、とある。

ところで、特許、即ち発明は、「技術的思想」である。しかるにそれを記述するクレー ム、「特許請求の範囲(の記載)」は言葉である。そして言葉は必ずしも技術的概念を表現 するに合致している訳ではなく、また往々にして多義的な場合もある。よって、たしかに 法はその解釈の手法として第70条を示すが、これはあくまで手法であって、特許請求の 範囲に記載された「言葉」が通常意味するとおりに特許権の範囲を解すれば良いものでは ない。即ち、明細書での発明の詳細な説明の記載等はもとより、出願当時の公知技術や技 術常識等をふまえて、その言葉の意味を解釈し、特許権本来の技術的思想の内容を理解し、

その権利範囲を定める必要がある。

加えて特許は法定の権利で、様式行為である。即ち公開代償として特別に付与されるこ とから、それに課せられた特許要件及び手続的要件を充足する必要がある。この要件充足 性は一義的には特許庁が特許査定したものについては、その審査を通じて満たされている はずである*1。即ち、特許の技術的専門性から、その有効・無効判断は一義的には特許庁 に委ねている*2。よって、侵害訴訟の場合、裁判所は、一義的には当該特許は有効なもの として扱う。ただ時としてその査定が不十分ないし不適切な場合がある。例えば、明細書 等で開示した範囲より広い範囲が特許請求の範囲に記載されていたり、逆に開示したより も狭い範囲しか記載されていないような場合である。このような場合、裁判所は、適宜そ の範囲を修正することとなるが、それはクレーム解釈を通じてなされる(なおこのように 特許法の趣旨を踏まえて解釈する等の場合、そもそも特許の意義ないし趣旨に係る判断が 影響していくが、この点は後述する)。いずれにせよ、特許請求の範囲に記載された言葉 をベースに、明細書等あるいは技術常識等を加味しつつ、また特許法の趣旨にしたがいつ つ、その言葉の意味するところを解釈し、適正な発明の技術的範囲を定めていく行為が解 釈である。

なおわが国特許法は平成6年改正で特許請求の範囲等の記載を大幅に自由化している。

ためにかつてなかったような表現形式の特許も出現しており、それに応じた新たな解釈態 度が求められてきている。

<均等論>

ところで上記が解釈の一般的態度であるが、これは特許の意義等にも関係するが、この ように特許の技術的範囲、あるいはその個々の構成要件が、それもある「文言(形式的な 文言そのものでなく意味的な意味で同じものを含む。以下同じ。)」によって定まってこよ う。そしてある対象物がここで定まった技術的範囲等に合致(ないし属する)場合、当該 対象物は本件発明と同一(ないしその範囲内)であって当然侵害となる。この同一である ことは、内容を定めた「ある文言と同一」とも評価でき、これを「文言侵害」という。し かし対象物が、当該定めた文言と異なる場合、それは発明の範囲を外れ侵害にはならない。

ただこのような場合において、その違いが僅かに過ぎず、技術的思想的には違いがないよ うな場合、それを非侵害とするのは、発明者にとって酷な場合がある。このように違いが 僅かの場合において、ある一定の条件は付するが、それを当該発明と「均等」のものとし て、発明の範囲に含めるとの考えもある。これが均等論である。わが国はかつてはこの均 等論を認めていなかったが、平成10年に初の最高裁判決が出て、認めるようになってい る。

<特許法第104条の3>

最後に、特許権の有効無効判断は一義的に特許庁に委ねられていると前述したが、この 原則は近時変わりつつある。即ち、平成16年の裁判所法等の一部を改正する法律によっ て特許法第104条の3が新設され、裁判所が独自に特許権の無効を認定する道が開けた。

以下においては、上記の三つの点から、クレーム解釈実務が近時、どのように行われて いるかを概観し、それらの特許権保護との関係を考察する。

1.最近の動向

(1)クレーム解釈

①解釈の基本的立場 ア.周辺限定主義等

まずこの解釈への基本的立場として、「中心限定主義」と「周辺限定主義」がある。

前者は、クレームは技術思想としての発明の中心を記述したもので、その範囲は、当該 中心からその発明の客観的な価値として広がる。ドイツがこれに当たる。したがって必ず しもクレームの記載ぶりにその範囲は左右されない。これに対し後者は、クレームはいわ ば法令のように発明の内容を記述し、その範囲(の外縁)を記述する。米国がこれに当た る。

そしてわが国は、かつて(大正10年法)は中心限定主義的であったが、現行法では周

*1 本件訴訟は;審決取消訴訟で侵害事件ではない。 事案は、「トリギリセリドの測定特許」への特 許庁の拒絶査定(進歩性欠如)審決に関し、原審は、明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌し、測定 方法として技術的に裏付けられるのはRaリパーゼで、また実施例はRaリパーゼのみ、等から「特許請 求の範囲」に記載されたリパーゼは Ra リパーゼと認定し、特許庁の発明要旨の認定違反からその審決 を取消判決。それに対し、特許庁が上告。最高裁は、「(新規性・進歩性判断の前提として発明の要旨が 認定されなければならないところ)この要旨認定は、特段の事情のない限り、明細書の特許請求の範囲 の記載に基づいて行われるべき・・・」「特許請求の範囲に記載された技術的意義が一義的に明確に理解 することができない、または一見して誤記が明細書の発明の詳細な説明に照らして明らかであるなどの 特段の場合に限って、明細書の発明の詳細な説明を参酌することができる」旨、判じた。

辺限定主義としている。また後者の立場からは、クレームの公示機能を重視する。

なお両説の違いは、前者の場合、そもそもその範囲は柔軟で、いわゆる均等論は問題に ならない(当該発明の価値の範囲内なら、抵触し、侵害。)。これに対し後者の場合、均等 は基本的には権利範囲外であって、均等論を認めるのは別途の理論が必要となる。

解釈には別の次元からの差異もある。それは「主観説」と「客観説」で、前者は出願人 の意志を重視する。これに対し後者は、クレームの記載から客観的に把握されるところを 権利範囲とする。これは特にクレームの公示機能と結びつく。わが国は(米国同様)基本 的には客観主義を採る。ただ「認識限度論」として、出願人が特許の範囲として認識して いなかったところは、特許権の範囲から除外する方向にある。これは出願人が要求しなか ったものまで付与する必要はないという考え方である。

これと均等論の関係については、主観主義の場合は出願人の意図を参酌することから均 等論に結びつきやすいが、客観主義の場合は、難しい。特に公示機能等をより重視するい わゆる文理解釈説となるとますます、難しくなる。

以上から、かつてはわが国において均等論をその採るところには至らなかった。しかし ながらそれは平成10年に変更されている(後述)。

イ.明細書等の参酌

発明の技術的範囲は第70条に定めるのは前述したが、「特許請求の範囲の記載」の解 釈における「明細書等(図面を含むの意。以下同じ。)の記載」の参酌については、過去 に若干の混乱があったので、ここに参考までに述べることとする。

それは、リパーゼ事件*1判決(最高裁二小,H3.3.8.)に係るものである。

即ち、同判決は審決取消訴訟であって、明細書(その実施例等)を参酌して特許請求の 範囲の記載のリパーゼを Ra リパーゼと限定解釈し、そうしなかった特許庁の審決を取り 消したが、最高裁は、特許請求の範囲の記載を優先して明細書等を参酌した原審を取り消 した。しかるに本判決以前は、侵害訴訟においては、発明の技術的範囲の認定は、特許請 求の範囲の記載の文字に拘泥することなく、発明の性質、目的、明細書の記載、等を勘案 して技術的範囲を認定すべきとされていた(オール事件最高裁判決S50.5.27.)ことから、

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