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特許権が侵害された場合の救済措置としては、民事的には、差止(その予防に必要な措 置を含む)(第100条)及び損害賠償(不法行為として民法第709条及び損害額推定 規定等として第102条)が、そして刑事的に罰則(196条他)がある。

なお差止は、他の一般の不法行為等に対する場合とあまり違いはない*1。 よって以下では、損害賠償額の算定手法と刑事罰について述べる*2

1.損害賠償

①制度の変遷

特許権は、業としてその発明の実施を専有することを基本とするが(第68条)、それ が侵害された場合、差止及び損害賠償の救済措置が受けられる。他方、特許権は占有によ る他者利用の排除ができず(利用の多重性)、また往々にして企業内部で行なわれること から発見しにくく、よって特許権の効力を十分ならしめ、もって更なる発明へのインセン ティブとするためには、侵害時における上記の救済措置が十分に受けられることが必要と なる。

しかるに差止は、その影響の大きさ故か、仮執行として認められることは稀で、判決後 の場合は提訴から判決に至るまでに相当期間を要するところ、特許権自体が限られた保護 期間であることに鑑みれば(更に技術自体そのライフサイクルが短期化している)、差止 での救済には限界がある(なおこの差止請求権者につき最近の判例があるところ、1.① の末尾で紹介する)。

損害賠償についても、侵害による損害はいわゆる「市場を通じた損害」であって、その 因果関係、損害全体の見積もり(損害額算定)は困難を要する。このため、法は第102条 で損害額の推定等の規定を設ける。しかるに、かつての旧第102条は、その運用が厳格 に過ぎ、結果として多くの賠償事例において通常実施料相当額での賠償とされ、かつその 実施料率も通常の契約でのそれ(既存契約があればその料率あるいは業界標準的なもの)...

若しくは特許庁長官が国有特許等について裁定等する際の基準である特許庁長官通牒(概 ね3~5%程度)を援用し、相対的に低く抑えられてきた。ために、仮に侵害が認定され その賠償が認められても、必ずしも十分な額の救済がえられず、逆にこれを侵害者の立場 から見れば、侵害のし得(何故ならば、侵害が発見されれば、通常な契約のときとほぼ同 額の実施料を支払えばよく、それは本来は支払うべきもので、仮に見つからなければ、そ

*1たしかに刑事罰を科せられるリスクはあるが、現実問題としてほとんど刑事訴追されない。

の分、まるまる儲けとなり、即ち侵害しても見つかっても余計に払う必要はなく、要する に侵害しても何らリスクがない*1)とも成りかねない。

このような状況の下、90年代半ばにプロパテント化での転進が主張され始めたが、そ の際、最も強調されたのが損害賠償の適正化であり、この流れを受け102条をはじめと する賠償関連規定の改正が平成10(1998)年改正で行われ、これが法改正としてプロパテ ント化を体現した最初のものである。

この賠償額規定の改正は、翌平成11(1999)年に手続関係規定が更に整備され今日に至 る(第5章2.侵害訴訟を参照)。

以下、その改正内容、その後の運用状況を概観する。

ア 旧第102条(平成10年改正前)

旧102条は、現行条文と比較すると、第1項がなく、第2項が第1項で、第3項が第 2項に、ただし第3項中「実施に対し受けるべき金銭の額」とあるのは「実施に対し通常..

受けるべき金銭の額(注;傍点は筆者)」となっていた。

この解釈運用は、旧第1項(現第2項)については、これは現在も変わらないが、本条 の規定はあくまで損害額の推定であって損害発生の因果関係まで擬制するものではない。.....................

よって損害が発生しない場合、即ち権利者が侵害された特許を実施していない場合、販売.........

減少という損害は発生しないので同項の適用はない、というもの。更に権利者が実施して いても、その侵害数量の全てが権利者の損害に結びつくか立証が極めて難しく、競合品が 無いとかで市場において侵害と損害が1対1の関係のような特別な場合しか適用を認めな かった。そして、たしかに侵害数量の全てとは言えないまでも、例えばシェア等からして 5割程度は権利者の販売を奪ったと言えそうな場合でも、そのような割合的な認定はしな かった。よって極めて限定的な発動となっていた。

旧第2項については、前述のように既契約や特許庁長官通諜の値を用いる場合が多かっ たが、その理由として条文に「通常」の言葉があったからと言われている。

イ 現行第102条第1項 1)第1項の経緯及び趣旨

第102条に第1項が新設・追加された。同項は要するに、侵害者がその侵害を組成し た物を譲渡(販売等)したときは、その譲渡した物の数量(特許権者等が実施できる能力 の範囲内を限度とする)に、特許権者等が「侵害行為無かりせば」販売できた物の単位当 たりの利益を乗じたものを「損害の額」とすることができる(ここは2項(旧1項)のよ...

うに「推定する」ではないことに留意。後述。)とし、ただし譲渡数量の全部又は一部が 特許権者等が販売することができないとする事情があるときは、当該事情に相当する数量 に応じた額を控除する。即ち、同項は侵害物の譲渡は、権利者が本来享受できた販売機会 の喪失と捉えている。よってその限度は、当然権利者の実施能力の範囲内となり、またた だし書きの「販売できない場合」は、その分控除、覆滅とも言う、されることとなる。な

おこのただし書きは侵害者側の立証となる。

ところで第1項は上記のように設けられたが、この規定を設けた趣旨は、大別して二つ の考え方がある:

一つは、本規定は民法709条の不法行為を前提としつつその損害賠償額の算定につい て定めるものであるが、民法の損害賠償はいわゆる差額説が通説であり、その考えを踏襲 しつつも旧来の規定ではその立証に困難をともない、ために実質的にワークしなかったこ とにかんがみ、権利者の販売数量をもって権利者の逸失利益を観念することで「立証負担 を軽減」したと考える。この考え方では、やはりそのベースは従来型の差額説、but for rule であり、その損害は「相当の因果関係」、何を持って「相当」とするかには差があろうが、

その「因果関係」を重視することとなる。

もうひとつは、そもそも市場を通じた損失を厳密な因果関係で明らかにすることは無理 であり、むしろ特許権の本質、すなわち発明の排他的実施権であることに着目し、かつ侵 害製品と特許製品は補完関係にあるとの擬制の下に、侵害行為はこの権利の簒奪であり、

本来享受できた「市場での販売機会の喪失」と捉える。即ちこの考えは、従来の因果関係 に縛られることなく、損害自体を規範的に捉え、むしろ侵害された権利本質からその救済...

を考えることとなろう。

なお上では二つに大別したため、ともにその極論を説明したが、どちらの立場でもその..

実際の適用には幅がある(例えば、前者で言えば「相当」をどの程度緩和するか、後者で はどこまでを規範的に損害と考えるか、というところに幅がある)。

このように考え方の差があるところ、同項の運用解釈を巡ってやはり裁判所も判断が分 かれている。以下、概観する。

2)第1項に係る判例の状況

・「販売できたもの」

まず第1項は、侵害数量をもって「特許権者が販売できたものの販売数量の喪失」と捉 えるが、その「販売できたもの」は何か、即ち侵害の対象となった特許権の実施品(特許 実施品)であることが必要か、そうでなくても良いか、という問題がある。

注;特許の実施品としても、その実施の態様は一様ではなく、よって権利者の実施品が侵害品と全 く市場を異にする場合もある。そしてこの規定適用の場合の特許実施品については、素直に考え れば、少なくとも侵害品と市場を同じくするもに限られる。もしそうでないならば、侵害数量を もって市場での販売逸失数量と観念できないからである。

この点、判例は侵害に係る特許発明の実施品であることを要するとするもの(記録紙事 件(東京地裁 H14.3.19.)、吊り下げ用フック事件(東京地裁 H14.4.16))がある一方で、

必要でないとするもの(蓄熱材事件(東京高裁H11.6.15.))もある。

前者は、「発明品でなければ自由に販売可能だし、侵害品と同一の製品と評価できない」

とするのに対し、後者は、「(権利製品は別発明の実施品で侵害品の販売と相当因果関係 ない旨の主張に対し)これらは市場で競合しており、特許発明の実施品でないとしても、

直ちに相当因果関係が否定されない」とし「実施の有無ではなく、市場での競合にあ」れ ば足りるとする。そして侵害がなかった場合にどの程度売ることが出来たかは、ただし書

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