2.7.4 臨床的安全性の概要
2.7.4.5 特別な患者集団及び状況下における安全性
2.7.4.5.1 内因性要因
国内及び外国で実施された臨床試験において、本剤を投与した際の内因性要因の影響を検討す るため、有害事象並びに関連性が否定できなかった副作用の発現率を、性別、年齢について集 計し、表 2.7.4.5-1 に示した。なお、個々の詳細な集計については、2.7.4.2.1.1.3~5 項に示 している。
国内臨床試験では本剤が投与された 70 例での有害事象の発現率は、性別では、男性 69.8%
(30/43 例)、女性 92.6%(25/27 例)であり、年齢別では、2 歳以上、5 歳未満 90.0%(9/10 例)、5 歳以上、12 歳未満 80.0%(12/15 例)、12 歳以上、17 歳未満 100.0%(8/8 例)、17 歳 以上、65 歳未満 69.4%(25/36 例)、75 歳以上 100.0%(1/1 例)であった。
また、関連性が否定できなかった副作用の発現率は、70 例のうち、性別では、男性 51.2%(22/43 例)、女性 63.0%(17/27 例)であり、年齢別では、2 歳以上、5 歳未満 50.0%(5/10 例)、5 歳以上、12 歳未満 60.0%(9/15 例)、12 歳以上、17 歳未満 62.5%(5/8 例)、17 歳以上、65 歳未満 52.8%(19/36 例)、75 歳以上 100.0%(1/1 例)であった。
一方、外国臨床試験では本剤が投与された 988 例での有害事象の発現率は、性別では、男性 70.7%(477/675 例)、女性 78.9%(247/313 例)であり、年齢別では、29 日未満 52.4%(11/21 例)、29 日以上、2 歳未満 69.7%(23/33 例)、2 歳以上、5 歳未満 54.2%(13/24 例)、5 歳以 上、12 歳未満 62.5%(20/32 例)、12 歳以上、17 歳未満 81.0%(17/21 例)、17 歳以上、65 歳 未満 74.9%(573/765 例)、65 歳以上、75 歳未満 77.0%(47/61 例)、75 歳以上 61.3%(19/31 例)であった。
また、関連性が否定できなかった副作用の発現率は、988 例のうち、性別では、男性 46.8%
(316/675 例)、女性 48.6%(152/313 例)であり、年齢別では、29 日未満 19.0%(4/21 例)、
29 日以上、2 歳未満 42.4%(14/33 例)、2 歳以上、5 歳未満 37.5%(9/24 例)、5 歳以上、12 歳未満 43.8%(14/32 例)、12 歳以上、17 歳未満 57.1%(12/21 例)、17 歳以上、65 歳未満 50.6%
(387/765 例)、65 歳以上、75 歳未満 36.1%(22/61 例)、75 歳以上 19.4%(6/31 例)であっ た。
国内、外国とも、有害事象及び副作用の発現率は、いずれもほぼ同様であり、性別や年齢が発 現率に影響を与える可能性は少ないものと考えられた。
表 2.7.4.5-1 内因性要因別の有害事象/副作用発現率
国内臨床試験 外国臨床試験
有害事象 副作用 有害事象 副作用
男性 30/43(69.8) 22/43(51.2) 477/675(70.7) 316/675(46.8)
性別 女性 25/27(92.6) 17/27(63.0) 247/313(78.9) 152/313(48.6)
<29 日 - - 11/21(52.4) 4/21(19.0)
29 日≦、<2 歳 - - 23/33(69.7) 14/33(42.4)
2 歳≦、<5 歳 9/10(90.0) 5/10(50.0) 13/24(54.2) 9/24(37.5)
5 歳≦、<12 歳 12/15(80.0) 9/15(60.0) 20/32(62.5) 14/32(43.8)
12 歳≦、<17 歳 8/8(100.0) 5/8(62.5) 17/21(81.0) 12/21(57.1)
17 歳≦、<65 歳 25/36(69.4) 19/36(52.8) 573/765(74.9) 387/765(50.6)
65 歳≦、<75 歳 - - 47/61(77.0) 22/61(36.1)
年齢
75 歳≦ 1/1(100.0) 1/1(100.0) 19/31(61.3) 6/31(19.4)
2.7.4.5.2 外因性要因
(添付資料 5.3.3.4-1 参)
外国臨床試験(Study 982-11)において検討された、ジアゼパムを併用投与した時の安全性に ついて示す。本剤単独投与時、ジアゼパム単独投与時、本剤及びジアゼパム併用時の有害事象 の発現状況を表 2.7.4.5-2 に、注射部位の事象を表 2.7.4.5-3 に示した。
有害事象は 11 例中 10 例に少なくとも 1 件の有害事象が報告された。最も多く認められたのは ジアゼパム単独投与で認められた傾眠(11 例中 8 例)であった。錯感覚及びそう痒症が本剤投 与時 11 例中 2 例に認められた。低血圧及び徐脈を伴う血管迷走神経性の失神が本剤単独投与時 に認められ投与を中止したが、本被験者の身体所見、臨床検査値、心電図において特筆すべき ものは認められなかった。
注射部位評価について、最も頻出した事象はジアゼパム単独投与時の灼熱感であった。
本剤及びジアゼパムに併用使用を禁止するような意味のある薬剤相互作用は認められなかった。
表 2.7.4.5-2 ホスフェニトイン注射液単独、ジアゼパム単独、ホスフェニトイン注射液及びジア ゼパム併用時の有害事象の発現状況:Study 982-11
部位と有害事象 本剤単独
(n=10) ジアゼパム単独(n=11) 本剤及びジアゼパム併
用 (n=11)
全体の発現例数(%) 6(60.0) 10(90.9) 7(63.6)
頭痛 0 0 2
注射部位炎症 0 1 1
注射部位反応 1 0 0
徐脈 1 0 0
低血圧 2 0 0
口内乾燥 0 0 1
悪心 1 0 0
浮動性めまい 1 3 0
錯感覚 1 0 2
傾眠 1 8 0
構語障害 0 1 0
そう痒症 2 0 2
視覚障害 1 0 0
表 2.7.4.5-3 ホスフェニトイン注射液単独、ジアゼパム単独、ホスフェニトイン注射液及びジア ゼパム併用時の注射部位事象の評価:Study 982-11
本剤 ジアゼパム
本剤単独
(n=9)
ジアゼパム+本剤
(n=11)
ジアゼパム単独
(n=9)
ジアゼパム+本剤
(n=11)
被験者の評価
疼痛 1 0 1 2
灼熱感 0 0 4 5
そう痒 1 1 1 0
主治医の評価
紅斑 0 3 0 1
2.7.4.5.3 薬物相互作用 (1)臨床薬理試験結果
てんかん重積状態や緊急の頻発発作の治療のため、本剤を投与する前にジアゼパムが投与され る可能性が高いことから、健康成人を対象とした本剤とジアゼパムの薬物相互作用についての 検討が Study 982-11 で行われた(2.7.4.5.2 項 外因性要因、2.7.2.2.2.2 項 薬物相互作用)。 その結果、本剤とジアゼパムを単独あるいは併用して静脈内投与した際の忍容性は良好であり、
両剤間で薬物相互作用は認められなかった。
(2)薬物相互作用情報
(添付資料 1.6.3)
本剤の企業中核データシート(以下、CCDS 2010 年 7 月改訂)に記載された薬物相互作用情報
(2.7.2.3.10.2 項)のうち、血清中フェニトイン濃度に影響を及ぼす可能性のある薬物、フェ ニトインが血中濃度又は効果に影響を及ぼす可能性のある薬物を以下に記載する。
1)血清中フェニトイン濃度を上昇させる可能性のある薬物 アルコール(急性摂取)
鎮痛薬/抗炎症薬 :アザプロパゾン※、フェニルブタゾン※、サリチル酸塩
麻酔薬 :ハロタン
抗菌薬 :クロラムフェニコール、エリスロマイシン、イソニア
ジド、スルホンアミド系
抗けいれん薬 :フェルバメート※、スクシニミド系
抗真菌薬 :アンホテリシン B、フルコナゾール、ケトコナゾール
ミコナゾール、イトラコナゾール
抗腫瘍薬 :フルオロウラシル
ベンゾジアゼピン系薬/向精神薬 :クロルジアゼポキシド、ジアゼパム、ジスルフィラム メチルフェニデート、トラゾドン、ビロキサジン※ Ca 拮抗薬/心血管系薬 :アミオダロン、ジクマロール※、ジルチアゼム、
ニフェジピン、チクロピジン
H2拮抗薬 :シメチジン
ホルモン剤 :エストロゲン系
経口血糖降下薬 :トルブタミド
プロトンポンプ阻害薬 :オメプラゾール
セロトニン再取り込み阻害薬 :フルオキセチン※、フルボキサミン、セルトラリン
※:国内未発売
様々な薬物が、肝臓 CYP2C9 及び 2C19 酵素系による代謝速度の低下(ジクマロール、ジスルフ ィラム、オメプラゾール、チクロピジンなど)、蛋白結合部位の競合(サリチル酸塩、スルフィ ソキサゾール、トルブタミドなど)、あるいはその両過程の併存(フェニルブタゾン、バルプロ 酸ナトリウム)により、血清中フェニトイン濃度を上昇させる可能性がある。
2)血清中フェニトイン濃度を低下させる可能性のある薬物 アルコール(慢性摂取)
抗菌薬 :リファンピン※、シプロフロキサシン
抗けいれん薬 :ビガバトリン※
抗潰瘍薬 :スクラルファート
気管支拡張薬 :テオフィリン
心血管系薬 :レセルピン
低血糖治療薬 :ジアゾキシド
※:国内未発売
ネルフィナビルとフェニトイン(ともに経口投与)間の薬物動態的相互作用試験の結果、ネル フィナビルは全フェニトイン及び遊離フェニトインの AUC 値をそれぞれ 29%及び 28%低下させ ることが示された。ネルフィナビルは血漿中フェニトイン濃度を低下させる可能性があること から、フェニトインをネルフィナビルと併用投与している間は、フェニトイン濃度をモニタリ ングすべきである。
3)血清中フェニトイン濃度を上昇又は低下させる可能性のある薬物
抗菌薬 :シプロフロキサシン
抗けいれん薬 :カルバマゼピン、フェノバルビタール、
バルプロ酸ナトリウム、バルプロ酸 抗腫瘍薬
向精神薬 :クロルジアゼポキシド、ジアゼパム
同様に、カルバマゼピン、フェノバルビタール、バルプロ酸、及びバルプロ酸ナトリウムの血 清中濃度に及ぼすフェニトインの影響は予測不能である。
4)フェニトインにより血中濃度又は効果が影響を受ける可能性のある薬物
抗菌薬 :ドキシサイクリン、プラジカンテル、リファンピン※
テトラサイクリン
抗けいれん薬 :ラモトリギン
抗真菌薬 :アゾール系
抗腫瘍薬 :テニポシド※
気管支拡張薬 :テオフィリン
Ca 拮抗薬/心血管系薬 :ジギトキシン、ニカルジピン、ニモジピン※、 キニジン、ベラパミル
コルチコステロイド薬 クマリン系抗凝固薬 シクロスポリン
利尿薬 :フロセミド
ホルモン剤 :エストロゲン系経口避妊薬
低血糖治療薬 :ジアゾキサイド
神経筋遮断薬 :アルクロニウム※、パンクロニウム、ベクロニウム
麻薬性鎮痛薬 :メタドン※
経口血糖降下薬 :クロルプロパミド、グリブリド※、トルブタミド 向精神薬/抗うつ薬 :クロザピン、パロキセチン、セルトラリン ビタミン D
※:国内未発売
真の薬物相互作用ではないが、三環系抗うつ薬は感受性の高い患者の発作を誘発する可能性が あるため、必要に応じてフェニトインの投与量を調節する。
2.7.4.5.4 妊娠及び授乳時の使用
(添付資料 1.6.3)
(1)妊娠時
妊娠中に本剤を投与したラットの仔において、奇形(脳、心血管、指、骨格の異常)、死亡、発 育遅延、機能障害(多動、旋回)の頻度の上昇が認められた(2.6.6 項 毒性試験の概要文)。 胚・胎児発生への有害な作用の大部分は、50 mg/kg 以上の投与量で起こり、この投与量では母 体の最高血漿中フェニトイン濃度が約 20 μg/mL 以上となった。母体毒性のない投与量 25 mg/kg で脳の奇形が1例に生じ、薬剤性と考えられた。本剤で見られたラットでの奇形は、フェニト イン投与においても報告されている。
本剤 50 mg/kg までを投与したウサギにおける胚・胎児発生への影響は認められなかった。フェ ニトイン 75 mg /kg 以上をウサギに投与した場合では、吸収胚数及び奇形率の上昇が報告され ている。
2)ヒト母体への危険性
妊娠中にはフェニトインの薬物動態の変化により発作の頻度が上昇する可能性がある。妊婦中 の発作の管理には、血中フェニトイン濃度を定期的に測定し、本剤の投与量を適切に調整する ことが有用である。分娩後は、元の投与量に戻すことが必要であると考えられる。
3)ヒト胎児への危険性
妊娠中にフェニトイン及びその他の抗けいれん薬の投与を受けた母親から生まれた子に口唇口 蓋裂、心奇形のような先天奇形の発現率が増加するという報告に加えて、胎児ヒダントイン症 候群(fetal hydantoin syndrome)の報告がある。これには、フェニトイン、バルビツール酸 系、アルコール、又はトリメタジオンの投与を受けた母親から生まれた子での出生前成長不全
(prenatal growth deficiency)、小頭症、及び精神遅滞が含まれる。しかし、これらの特徴は すべて相互に関連のあるものであり、他の原因による子宮内胎児発育遅延に関連することが多 い。母親が妊娠中にフェニトインの投与を受けた子に、神経芽腫を含む悪性腫瘍の症例も数例 報告されている。
4)ヒト分娩後の期間
子宮内でフェニトインに曝露されていた新生児において、ビタミン K 依存性凝固因子低下に関 連した致死的出血性障害が起こる可能性がある。
(2)授乳時
本剤の投与においてホスフェニトインがヒトの乳汁中に分泌されるか否かは不明である。
経口フェニトイン薬を服用している女性てんかん患者 9 例の母体血清内フェニトイン濃度と母 乳中フェニトイン濃度が測定された結果、血清内濃度の平均±SD が 4.5±1.4 μg/mL に対して 母乳中では 0.8±0.3 μg/mL と、血清内濃度の 18.1%の母乳内濃度が認められている7)。従っ て、本剤の投与を受けている女性に対し、授乳は勧められない。