4. 自動車関連部品に係る CFRP の加工技術及び加工装置の技術開発動向
4.2 CFRP の成形加工に関する技術開発動向
4.2.1 熱硬化性炭素繊維複合材料(CFRTS)の成形技術の開発動向
CFRTS は、強度物性等が高いが、自動車部品等の大量生産を行うには、成形のサイクルタ イムが長い。こうした点を解決するために、現在検討されている CFRTS の成形サイクルタイ ムの低減に関する技術開発動向を紹介する。
(1) レジントランスファー成形技術(RTM)
① NEDO の自動車軽量化プロジェクト17
「ハイサイクル一体成形技術」/「自動車軽量化炭素繊維強化複合材料の研究開発」
・研究開発の実施期間:平成 15 年度~平成 19 年度までの 5 年間
・委託先:東レ、日産自動車、東京工業大学、日本大学、京都工芸繊維大学、東京大学、兵 庫県立大学
・目的:重量を 50%軽量化でき、かつ安全性(エネルギー吸収量:スチール比 1.5 倍)の高 い構造部材を開発、地球温暖化、二酸化炭素排出抑制に寄与する。
・内容:従来の RTM(Resin Transfer Molding)成形技術(成形サイクル時間 160 分)では 達成し得ない成形サイクル時間 10 分以内を実現するための超高速硬化型成形樹脂、立体 成形賦形技術、高速樹脂含浸成形技術を開発した。
①超高速硬化樹脂/新規エポキシ樹脂の開発
②高速樹脂含浸技術/多点注入法
③立体賦形技術/カットパターン最適化→自動裁断→自動賦形
④自動成形システム ・成果
ハイサイクル一体成形により、熱硬化性炭素繊維複合材料を 10 分サイクルで成形し、
50%の軽量化、1.5 倍以上の衝突安全性を実現している。
② 「ハイサイクル一体成形技術(ハイサイクル RTM)」(東レ)
ここでは、上記の「自動車軽量化炭素繊維強化複合材料の研究開発」にて実施された「ハ イサイクル一体成形」について具体的な検討内容を紹介する18。
本システム開発のポイントは A:超高速硬化樹脂、B:高速樹脂含浸技術、C:立体賦形 技術、D:自動成形システムの四つの新技術の開発であり、これらを克服して目標の成形時 間 10 分以内(1 成形型当たり 3,000 台/月を想定)が達成された。
具体的には、既存の RTM 成形技術を解析し、成形の高速化のための課題が抽出された。
従来の RTM 成形は炭素繊維基材(通常、炭素繊維織物を使用)を裁断、積層、賦形してプ リフォーム(樹脂を含浸する前の予備成形体)を作製、プリフォームを成形型内に配置し
て型を閉じ、樹脂を注入してプリフォームに含浸、硬化させた後、型を開いて成形品を取 り出すという方法であり、オートクレーブ法と比べて量産性の高い方法であるが、それで も成形時間は図表 4.2.1-1 に示すように 160 分掛かっていた。160 分のうち 125 分は樹脂 含浸、硬化に要する時間であり、成形時間 10 分を達成するためには、含浸時間を 3 分、硬 化時間を 5 分に短縮する必要があった。このため、含浸に必要な流動性を 3 分保持しつつ、
5 分で硬化を完了する「超高速硬化樹脂」と樹脂が流動性を保持する 3 分の間に含浸を完 了する「高速樹脂含浸技術」が開発された。さらに、プリフォーム配置工程を短縮するた め、プリフォームをあらかじめ精度良く成形品形状に賦形し、成形型内への配置を容易に する「立体賦形技術」、プリフォームの型への搬送、成形品の取り出しを自動化する「自動 成形システム」も開発された。
図表 4.2.1-1 ハイサイクル RTM 成形実現のための技術課題
従来RTM成形(成形時間160分)とハイサイクルRTM成形(目標成形時間10分)
25
樹脂含浸 35
樹脂硬化 90
脱型 10
1
3 5 合計
10分以下
合計 1 160分
プリフォーム 配置
A. 超高速硬化樹脂 B. 高速樹脂含浸技術 C. 立体賦形技術 D. 自動成形システム
従来RTM
ハイサイクル RTM
(目標)
目標
課題
(分)
(分)
ⅰ) 超高速硬化樹脂の開発
耐熱性、力学特性に優れ、炭素繊維との接着性が高いことから CFRTS 用樹脂としてはエ ポキシ樹脂が多く用いられている。しかし、従来のエポキシ樹脂は通常、100~180℃で 60
~120 分の条件で硬化される。また樹脂含浸には 35 分必要であった。
目標の合計 10 分で成形を終えるために、流動性を 3 分保持しつつ、5 分で硬化する新規 エポキシ樹脂の開発が行われた。
図表 4.2.1-2 超高速硬化樹脂の開発目標
0 3 5 35 90 (分) 脱型可能領域
新規エポキシ樹脂
(目標)
従来エポキシ樹脂
脱型可能領域 低い
高い
硬化度(樹脂粘度)
従来樹脂と新規樹脂(目標)の硬化プロファイル
高速硬化でありながら含浸可能な低粘度領域を確保するという課題を、連鎖移動反応を 併用することにより誘導期を設けるという新たな発想により解決した。すなわち従来技術 では硬化初期にも高分子量成分が生成するが、新樹脂システムでは、硬化初期には低分子 量成分が多く存在するため粘度の上昇が遅く含浸可能な誘導期を設けることができ、流動 可能時間 3 分、硬化時間 5 分という理想的な硬化プロファイルを有する新規エポキシ樹脂 が開発された。
ⅱ) 高速樹脂含浸技術の開発
従来法では面方向に含浸するため流動距離が長く大型品を短時間で含浸・成形すること が困難であった。これを図表 4.2.1-3 に示される多点注入法で流動距離を短くすることに より解決した。自動車のフロントフロアの実施例では注入孔を約 150 mm 間隔とし、2.5 分 で含浸を完了している。
図表 4.2.1-3 高速含浸のための多点注入法
吸引 樹脂注入 未含浸部
プリフォーム
面方向(横方向)
に樹脂を含浸
・流動距離 長い
・大型品の成形困難
・未含浸ができやすい。
樹脂流動用中間プレートを使用 流動溝により樹脂を面方向に 広げた上で厚み方向に含浸
・流動距離 短い
・成形品の大きさに関係なく短時間 で成形可能
・未含浸ができにくい。
樹脂注入
流動溝
注入孔
プリフォーム 中間板
多点注入法 従来RTM
ⅲ) 立体賦形技術の開発
従来手作業で行われていた型紙作成、裁断、賦形(プリフォーム作成)の作業を、賦形 シミュレーションの導入により、成形品形状から最適カットパターンを作成し、このパタ ーンを自動裁断機によりカットして、さらに賦形装置により自動賦形する新規「立体賦形 技術」が開発され、短時間で精度の高いプリフォーム作製が可能となった。
ⅳ) 自動成形システム
これまで示した「超高速硬化樹脂」、「高速樹脂含浸技術」、「立体賦形技術」により大幅 に時間短縮が可能となったが、更なる短時間での成形を可能にするため「自動成形システ ム」が開発された。開発された「自動成形システム」は、プリフォームを搬送装置に投入 すると、搬送装置によって自動的に成形型まで運ばれて成形される。樹脂硬化終了後、脱 型された成形品は再び搬送装置によって取り出し口まで運ばれる。本システムを用いるこ とでプリフォーム配置工程、脱型工程を短縮できることが確認され、10 分以内での成形が 可能となった。
ⅴ) 自動車部材の成形
「ハイサイクル一体成形技術」の自動車部材への適用可能性を検証するため、ドアイン
・ドアインナーパネル:自動車ドアの内側に位置する部材( 700mm×1200mm)
・フロントフロア:自動車のフロア部分に位置する部材 (1450mm×1700mm)
複雑な三次元形状を有する部材であるため、成形難度が高く、この部材が成形できれば 他の大部分の自動車部材が成形可能である。
本研究で開発された「ハイサイクル一体成形」により、いずれの部材の成形においても、
含浸時間が 2.5 分、硬化時間が 5 分で、プリフォーム配置工程、脱型工程を含めて 10 分以 内で成形できることが確認された。また、得られた成形品には未含浸部がなく、品位も良 好であった。
フロントパネルではスチール品に比べて 50%の軽量化(スチール品約 34kg に対して CFRTS は約 17kg)を達成し、部品点数は約 1/30 に削減(スチール品約 30 点に対して CFRTS1 点)
でき、軽量化効果に加え組立て加工の大幅な省力化ができることが確認された。
<今後の課題>
・リサイクル技術の開発
自動車部材に本格適用する際に必要なリサイクル技術についても検討を行っており、粉 砕した CFRTS を熱可塑性樹脂とともに射出成形して新たな部材成形する方法などを検討し ている。
・「ハイサイクル一体成形技術」の実用化
「ハイサイクル一体成形技術」により RTM 成形による CFRTS の成形時間の大幅な短縮が 可能となり、自動車部材への適用可能性が示された。本技術の適用により、自動車を大幅 に軽量化でき、燃費向上による温室効果ガス削減に貢献できるものと期待される。
(2) 熱硬化性炭素繊維複合材(CFRTS)のプレス成形加工技術
① 高速プレス成形法19(㈱チャレンヂ)
高速プレス成形法(PCM 法、プリプレグコンプレッションモールディング)は、CFRTS の製 造において、従来のオートクレーブ法(AC 法)の物性を保持したまま 4 時間の成形時間を 5 分に短縮できるプレス成形法である。
三菱レイヨンの速硬化プリプレグから、長繊維、高繊維含有率、配向制御したプリフォー ムを調整し高温・高圧・コンプレッション成形により、ハイサイクルで成形できる。
AC 法は、材料裁断から、炭素繊維複合材の積層、バギング、真空脱気、オートクレーブ成 形、脱型、トリミングの 7 工程から成り、成形時間は 4 時間掛かり手作業が多く熟練を要す る。一方 PCM 法では、材料裁断、プリフォーム、プレス成形、脱型の 4 工程で 5 分の成形が 可能である。特殊な技能を必要とせず安定した製品が製造可能である。製造コストも AC 法に 比べて大幅なコストダウンができる。
AC 法及び PCM 法で得られた CFRTS の物性比較を図表 4.2.1-4 に示す。AC 法で製造した成形 品と同等かそれ以上の物性値が得られている。
図表 4.2.1-4 AC 法と PCM 法で得られた成形体の物性の比較
580 600 620 640 660 680 700 720 740
0° 90°
引張強度(MPa)
AC成形 PCM成形
800 810 820 830 840 850 860 870 880 890 900 910
0° 90°
曲げ強度(MPa)
AC成形 PCM成形
48,000 49,000 50,000 51,000 52,000 53,000 54,000 55,000 56,000
0° 90°
引張強度(MPa)
AC成形 PCM成形
技術開発の課題としては、量産性、複雑な形状への対応、構造部材の実現等が挙げられて いる。今後の具体的な開発目標として以下が挙げられている。
ⅰ) 炭素繊維複合材料のプレス成形に適した金型及び複合成形技術 ・金型のクリアランス、シアーエッジ構造、脱型方法等の最適化
・2 次加工の省力化のためエッジ部に短繊維材料を複合化できる成形技術の開発 ・取付け部等の異種材料を 1 工程でインサート成形できる金型及び成形法の開発
・クラス A 面が達成できる金型の開発と表面外観がクラス A の塗装を実現するための、表 層部に織物炭素繊維複合材料を複合化する技術
・軽量コア材の同時成形用金型の開発と自動車部品用の同時複合成形技術の開発