4. 自動車関連部品に係る CFRP の加工技術及び加工装置の技術開発動向
4.3 CFRP の 2 次加工に関する技術開発動向
4.3.2 接合技術(接着、溶着)
複雑な形状をした自動車部品に CFRP を適用するためには、CFRP 同士の接着や金属材料な どの部品との接合技術の開発が必要である。現在、航空機等で使用されている AC 法で製造し た CFRTS は、ボルトやリベット等の機械的接合や接着剤を用いた接着接合により接合されて いる。CFRTP では、成形体の再加熱による熱溶着による接合が検討されている。ここでは、
CFRTS と金属を強固に接着する技術「Nano Adhesion Technology(NAT)」と CFRTP の熱溶着 について紹介する。
(1) CFRTS 接着技術
① 金属と CFRTS の高度接着技術「Nano Adhesion Technology(NAT)」(大成プラス㈱)
大成プラスにて開発された金属と CFRTS を高度に接着する技術35について紹介する。まずは、
2000 年に「Nano Molding Technology(NMT)」という射出接合技術が開発された。これは、
射出成形金型に特定の表面処理を施したアルミ合金をインサートし、PBT や PPS などの熱可 塑性樹脂により一体成形するものである。この技術はインサートする金属合金の表面形状と 物性及び樹脂の物理化学的性状を最適化することにより高強度接着を可能にしている。樹脂 成形と金属との接合を一挙に成す「射出接合」という新製造技術として注目を浴び、2002 年 度 NEDO 助成を受けて量産試作用プラントを設置し 2006 年商業化に成功している。この技術 を接着に応用したものを「Nano Adhesion Technology(NAT)」と呼び、表面処理された金属 面を接着剤により強固に接着する技術である。2008 年度東レとの間で、金属と CFRTS の「NAT」
による接着の共同研究が行われた。
ⅰ) 金属表面処理
「NAT」は、使用される被着材の金属の表面形状及び表面性状を制御することにより、接 着強度を高める技術である。接着強度を上げるために理想的な表面構造の模式図を図表 4.3.2-1 に示す。表面構造としては以下の要件を満たす構造が好ましいとされている。
a.インサート物は 1~10μm(好ましくは 2~3μm)の凹凸面を有し、凹部深さは周期の 半分程度まで(0.5~5μm)
b.上記の粗面上に、10~300nm の超微細凹凸周期があること(好ましくは 50~100nm)
c.それら表面は厚さ数 nm 以上の環境的に安定なセラミック質の薄層でできている。
図表 4.3.2-1 「NAT」処理した金属合金の表面構造模式図
35 安藤:自動車技術, Vol.63, No.11, p.106(2009)
10~300nm
(50~100nm)
1~10μm
(2~ 3μm)
樹脂層
金属層
セラミック質層
表面処理方法としては、金属種、切削部位等によって異なるが、一般的には酸や塩基な どの特殊薬品を薄く溶かした水溶液ヘの浸漬、及び水洗、乾燥により行われている。
ⅱ) 接着剤の塗布と含浸処理
接着の前処理として、接着剤を塗布後に含浸処理を行う。具体的には、接着剤として、
1 液性エポキシ樹脂を用い、NAT 処理した金属表面に接着剤を塗布し、60~70℃に暖めてお いた真空装置内に入れ減圧、常圧を繰り返すことにより、接着剤を金属の微細構造表面に 含浸する。含浸処理後に被着体の接着面同士を接触させて熱風乾燥機に入れて硬化するこ とにより接着を行う。
ⅲ) 耐熱性エポキシ接着剤の開発
CFRTS と「NAT」処理された金属の接着に当たって耐熱性接着剤の開発が行われた。CFRTS プリプレグに関する国内特許からエポキシ樹脂 4 種を選び、硬化剤としてジシアンジアミ ドを用いて、アルミ合金同士の接着で高温においても接着強度が維持できる接着剤を開発 した。アルミ合金同士の接着で、通常の接着剤では 150℃で 15MPa しか出ない接着強度を 35~40MPa に高めることに成功した。
ⅳ) NAT 処理による金属と CFRTS の接着
CFRTS と金属の接着方法には、以下の二つの方法がある。
a.CFRTS をオートクレーブで成形する際に金属に接着剤を塗布して、炭素繊維プリプレ グの積層体に固定する方法(コキュア接着)
b.硬化後の CFRTS と NAT 処理した金属片を接着剤で接合する方法(コボンド)
コキュア接着による CFRTS/A7075 アルミ合金の接着により、せん断破壊力は、常温で 40~50MPa、150℃で 20MPa であった。破断面を観測したところ接着面での破断ではなく CFRTS 内の炭素繊維と樹脂の界面での破断であった。これは NAT 接合による接着界面強 度が CFRTS と樹脂の接着強度よりも高くなっていることを示している。接着強度向上の ため、東レにて炭素繊維とマトリックス樹脂の接着強度の向上が検討されている。
コボンドによる接着法は、NAT 処理した金属片と表面を粗面化処理した CFRTS とを耐 熱性接着剤を用いて接着することにより高強度の接着が可能であった。CFRTS の粗面化 方法は、サンドペーパー等で粗面化し、超音波付脱脂槽に 5 分浸漬し、水洗、乾燥後に 接着剤塗布、含浸処理により行われた。
NAT の高強度接着技術により、金属と CFRTS の接着強度は大幅に向上できる。更なる課題 としては、炭素繊維と樹脂の界面接着強度を上げる検討が必要である。炭素繊維とマトリッ クス樹脂の接着強度の向上のために、炭素繊維の表面を NAT 処理することにより更なる界面 接着強度の向上も期待できる。
(2) CFRTP の熱溶着技術
熱可塑性樹脂は、樹脂を融点付近まで加熱することにより熱溶着が可能である。熱溶着は、
部材自身の強度と同等の接着強度を得ることができる。また、接合部での応力集中を減らす ことができ、短時間に低コストで接合強度を得られるため、機械的接合や接着接合と比べて 量産に適した接合方法である。熱可塑性樹脂の熱溶着は、実際に自動車部品、電機・電子部 品などの多くの製造に使用されている。
CFRTP も、マトリックス樹脂として熱可塑性樹脂を使用しているので、熱溶着による接合 が可能である。CFRTP を用いて自動車部品を製造することにより、部品点数や組立て工数の 低減及び車両の軽量化が期待できる。ここでは、熱溶着技術の概要と最近開発された CFRTP の電気抵抗溶着技術について紹介する。
① 熱溶着技術
熱溶着のプロセスは以下の五つから成る。
・ 溶着面の前処理:機械加工により溶着面の形状寸法精度を確保、溶着面を脱脂処理。
・ 加熱(被着面の溶融加熱):全体加熱すると部材の変形やボイド発生の原因となるので 溶着面近傍のみを加熱する。
・ 加圧:被着面が加熱された被着体を加圧プレスにより圧着する。加圧により、端面より 気泡が押し出され気孔のない接着面が得られる。
・ 分子間拡散:良好な溶着には、被着面で分子拡散による分子鎖の絡み合いが必要。
・ 冷却:冷却により溶融された樹脂が再凝固する。結晶性樹脂では再結晶化によりミクロ 構造が保持される。冷却速度は結晶化速度に影響を与えるので注意が必要である。非晶 性樹脂では加圧時に形成された分子配向がそのまま残る。
熱溶着技術は加熱方法の違いにより、溶着面に直接熱を与える外部加熱、外力により溶着 面で発熱させる内部加熱(機械加熱)、電磁放射による内部加熱(電磁加熱)がある。溶着方 法の選択は、材料特性、溶着面サイズ、接合形状、コストなどにより決定される。
図表 4.3.2-2 に熱溶着の種類と特徴を示す。
図表 4.3.2-2 熱溶着の種類と特徴36
加熱方法 種類 溶着時間 特徴
熱板溶着 10~50 秒 大きな溶着部、複雑形状に適する
ガス・押出溶着 0.5~1cm/秒 大きな溶着部、溶着品質は実施者の技量に依存 電磁誘導溶着 5~10 秒 非接触、加熱・冷却のコントロールが可能 外部加熱
抵抗溶着 10~30 秒 大きな溶着部、埋め込んだワイヤーが内部に残る 超音波溶着 1~5 秒 微細部材、加熱・冷却のコントロール可能 振動溶着 3~15 秒 薄い部材には適さない
内部加熱
(機械加熱)
スピン溶着 2~5 秒 気密シーリングが可能
誘導溶着 5~10 秒 薄い部材や平滑な部材に適する、厚さ、形状に制限有 レーザー・IR 溶着 1~10 秒 非接触、設備導入コストが高い
内部加熱
(電磁加熱)
マイクロ波溶着 5~20 秒 非接触、エネルギー効率が高い
36武田:「CFRP/CFRTP の加工技術と性能評価」サイエンス&テクノロジー(2012)
② 熱可塑性炭素繊維複合材料(CFRTP)の電気抵抗溶着技術
電気抵抗溶着は金属の電気抵抗熱を利用して溶着する技術である。電気抵抗溶着は、ガラ ス繊維複合材の溶着として現行航空機で実用化されている。この技術を CFRTP に適用すると、
発熱体から炭素繊維に漏電して溶着できないため、複合材料と発熱体の間を絶縁する必要が ある。従来の絶縁方法は発熱体と CFRTP の間に耐熱性のある絶縁体であるガラスクロスを挟 む方法が行われていたが、この方法では接合部の厚みが増加し接合強度が不十分であった。
そこで、発熱体として表面を陽極酸化処理したアルミメッシュを使用することにより、十分 な絶縁ができ良好な溶着品質が得られる。ここでは CFRTP の電気抵抗溶着37の開発状況につい て紹介する。
ⅰ) 電気抵抗溶着の方法
電気抵抗溶着は、CFRTP の間に発熱体(金属メッシュ)を設置し、圧力をかけた状態で 通電により発熱体を発熱させ熱溶着を行う。図表 4.3.2-3 に電気抵抗溶着の模式図及び図 表 4.3.2-4 に接合部の構成を示す。
図表 4.3.2-3 CFRTP の電気抵抗溶着 図表 4.3.2-4 接合部の構成
ⅱ) 溶着試験条件
下記条件にて溶着試験が実施された。
サンプル:PPS をマトリックス樹脂とする CFRTP 積層板(Tencate 製、CF0286)
発熱体:陽極酸化したアルミメッシュ
ガラスクロスで挟まれたステンレスメッシュ 溶着条件:圧力:0.3、0.5、0.7、0.9Mpa
300℃保持時間:15、30、60 秒
ⅲ) 評価結果
アルミメッシュの陽極酸化により十分な絶縁性が得られ、接着強度も従来のガラスクロ ス法と比較して 51%増加し、発熱体重量は 1/5 以下に軽量化ができ、30%のコストダウンが 可能となった。今後は、溶着品質の向上、3 次元構造物の溶着試験、疲労強度の検討が進 められる予定である。
ツール 圧力
ツール 熱可塑性複合材料
発熱体
(金属メッシュ)
熱可塑性複合材料ラミネート(CF/PPS)
熱可塑性複合材料ラミネート(CF/PPS)
発熱体
(陽極酸化処理したアルミメッシュ)
CF: 炭素繊維
PPS:ポリフェニレンサルファイド