演習においては、さまざまな課題や反省点が見つ かりました。ロールプレイ形式で実際に調理や配食 を行ってみることで、初めて課題に気づくといった こともありました。
頭で考えていただけではわからなかったことに気づ
いたり、演習のプレイヤーが課題を自身で認識できたりといった成果もありました。参 加していただいた地区住民の方にも、災害時の避難所を擬似体験してもらうことができ、
他地区の住民から「自分の地区でも同様の演習をやりたい」といった声も寄せられました。
演習の設定や人員配置を変更しながら、繰り返し演習を行っていくことで、被災経験 の少ない地域でもいざという時に適切な食生活支援が実施できることを実感しました。
以下に、演習時やその後の意見交換会で出された課題について、ワーキンググループ やネットワーク会議で対応策を検討したものの一部を紹介します。
(1) 食事数の確認、連絡
課題:栄養相談や健康相談で得た情報を誰に伝えればよいのかわからなかった。
食事数の確認において、特別食、特に食物アレルギーのある人の確認が十分 できなかった。
対策 ・避難場所と調理場との連絡役を配置したり、ホワイトボードを使うなどして関係 者が情報をタイムリーに確認できるようにする。
・食事に配慮が必要な者は、被災状況調査票に補足して記載する。
(2)献立・調理
課題:三色丼は見た目はいいが盛りつけに時間がかかった。
一般食と数種類の特別食を同時につくるのが難しかった。
対策 ・災害時には盛りつけしやすい献立がよい。
・献立はホワイトボードを利用して、作り方の 違い、量などを大きく、色を区別して標記し た方がよい。
・あらかじめ減塩食の献立を作成しておけば、
調理担当者がそれを見て調理できる。
ワーキンググループの様子
食事数の確認の様子 健康相談、栄養相談
調理の様子
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(3)配食方法
課題:特別食を必要な人に正確に配食できなかった。
「高血圧食」等の付箋を貼っていたが、配食の際落ちてしまった。他に用紙が 無かったので、紙に書くこともできなかった。
対策 ・容器に直接名前を書くのが一番分りやすい。(個人情報の配慮が必要)
・一般食と特別食で、容器の形状、大きさ、色を変える。
・一般食と特別食を同時に配食せず、タイミングを分ける。
・特別食は専任の配食役を配置する。
・同じ病態ごとに固まって座っていただく。
・特別食を食べる人にメニューを知らせておけ ば、自分がどの食事をもらったらよいのかが わかりスムーズに配食が出来る。
・食物アレルギー等特に配慮が必要な方は、配 食された食事にアレルゲンとなるものが入っ ているかどうかを自分でも確認する。
(4)関係者の連携
課題:避難所の本部機能がないと、調理場と避難場所との連携が取りにくかった。
対策 ・避難所の統括責任者が、集まった情報を取りまとめて、判断して各担当に必要な 情報を伝え指示する。
(5)衛生管理
課題:水が出ない等調理担当者は衛生管理に不安が大きい。
ポリタンクから水を注ぐ際、重いポリタンクを傾けなければいけないため、床 に接していた部分を手袋のまま触ることになり、食品が汚染される原因になる。
対策 ・調理については、可能な限り加熱処理する。
・加熱した食材については、その後の工程で手を加えない方が望ましい。
・蛇口付きのポリタンクを準備する。
・手袋やアルコールスプレー、ペーパータオルなど平常時から避難所に備えておく。
(6)人員配置
課題:実際の災害発生時、特にフェイズ1の時期には避難所の調理に栄養士や給食ス タッフなど多くの人的支援は望めない。
対策 ・調理担当班のリーダーが中心になって指示を出し動ける体制づくりのために地域 で演習する。
配食の様子
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演習
(7)日頃の準備
課題:今回は行政も入って用意周到に準備された演習であった。災害発生時に地域住 民だけで冷静に対応できるかどうか不安がある。
対策 ・定期的に演習を行うことで実際の災害の際に冷静さを保つことができるようになる。
・ボランティアの養成は、リーダーを養成するのではなく、すべての人がリーダー になれるようにする。
・食事の配慮の必要な方は、その情報を緊急カードに記入し非常用持ち出し袋に入 れておいたり、家族や親しい近隣などへ伝えておく。
・災害時の取組みには、心の準備が大切であることを啓発する。
(8)自主防災組織などが演習を行うときに配慮するとよいこと
今回のモデル地区での演習の反省から、今後自主防災組織などが地域で演習を行うと きに主催者が配慮したらよいことをまとめた。
・演習までに各役割の責任者レベルは役割の内容を確認し、演習の始めに責任者間で打 ち合わせをし、情報伝達のながれを確認することが必要。
・行政職員が多く配置されると行政主導の演習となり、避難者がお客さんになってしま う。自助、共助を高めるためには、行政担当者役は1~2名でよい。
・調理においても、市町村栄養士役が指揮を行ったが、現実の場では栄養士がいないこ とが想定されるので、地区給食・給水班、栄養委員で調理を行うようにする。
・被害の想定や避難者数、支援者数等の設定を変更しながら繰り返し演習を行う。
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<参考資料1> 演習プログラム 平成23年10月16日(日)
内 容 9:30 受付開始
10:00
開 会 あいさつ
みんなでつくる食生活支援ネットワーク 代表 山本 壽 岡山県美作保健所長 發坂 耕治
10:05 オリエンテーション
10:10
演習の実施
・災害時に、避難所や在宅の被災者等の中にいる要支援者にも配慮した食事 の提供ができるか、シミュレーションを行う。
講話「災害時の食の備え」
岡山県美作保健所勝英支所 管理栄養士 焔硝岩 政樹 セルフチェックの実施
・各世帯において、災害時の食の備えができているかどうか確認する。
13:30
意見交換会
・演習を振り返り、災害時の食支援の問題点や食の提供についての課題等を 意見交換する。
14:00
閉 会 あいさつ
美作市土居西町地区 区長 岩本 保男
<参考資料2> 演習上の統制事項等 被害状況: 台風
平成23年10月14日 最大瞬間風速30m/sを超える暴風をともなう台風第23号が岡山県 を直撃し、A市では、13日の降り始めから15日の朝にかけ275ミリの雨が降り、市内全域で 甚大な被害が発生するとともに、B地区でもC川の氾濫、低地での浸水により床上浸水50戸、
床下浸水80戸の被害が発生。
A市は、14日16:00にB地区のD町などの150世帯に避難勧告を発令し、対象住民の約 70%が指定された避難所に避難。
3地区を通る幹線道路は、河川の氾濫と崖崩れ、倒木などにより寸断され、15日夕方ま で通行不能となった。
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演習
避難所の状況 (食に関すること)
16日 10:00
電気、ガスは使えるが、上水道は断水している。市役所、保健所からの支援要員が避難 所に到着した。B地区防災会が支援活動を始めた。
14日夕方から避難所である「D町コミュニティ」へ避難している住民は、自宅から持ち 出してきた非常食と避難所周辺住民による差し入れのおにぎりなどを分け合って食べてき たが、食欲不振や体調不良を訴える避難者も出始めている。
16日 10:10(演習開始)
15日にB地区から市へ要請していた給水車と炊き出し用食材が到着。高齢者、病気のあ る方の状況に応じた食事を提供することが可能になった。
<参考資料3> 役割分担 プレーヤー
被災者・ 要支援者役
避難所避難者 63名
(うち)
幼 児 (離乳食) 2名
高 齢 者 (おかゆ) 5名
高血圧患者 (減塩食) 4名
糖尿病患者 (低エネルギー食) 5名 食物アレルギー(卵・大豆) (アレルゲン除去食) 2名
難 病 (流動食) 1名
在宅被災者 20名
支援者役
調 理 班 11名
配 食 班 (在宅者用) 15名
市 役 所 保 健 師 1名
栄 養 士 1名
保健所・支所
保 健 師 1名
栄 養 士 1名
衛生課職員 1名
栄 養 士 会 栄 養 士 2名
看 護 協 会 看 護 師 2名
愛 育 委 員 1名
民 生 委 員 1名
コントローラー (進行管理者) 3名
評 価 者 (実施状況や課題をチェック) 6名
計 129名
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<参考資料4> シナリオ
10:1010:4011:00 11:1511:3012:0012:3013:00
自主防災組織・町内会
支援物資到着 食事の必要数確認 食事の必要数確定 ・避難所 ・在宅 ・普通の食事が食べられない人 栄養委員到着 炊き出しの人材確保 ・地区の給食支援班 ・美作市栄養委員
プライバシーの保護避難者への 配食美作市災害 対策本部へ の報告
調理班 準備炊き出しメニュー・数量の決定 調理 ・一般用 ・要支援者用
配食班 在宅者の食事必要数確認在宅者への 配食
市役所 保健師 避難者の健康状況確認栄養士 調理の支援
保健所
・支所 保健師 難病患者の状況確認栄養士 衛生課職員 調理の支援 調理の衛生指導
栄養 士会
栄養相談の実施 結果を報告
看護 協会
健康相談の実施 結果を報告 オプション 11:1511:45 講話 「災害時の食の備え」 勝英支所 健康相談、栄養相談 看護協会、栄養士会
セルフチェックの実施 平常時の備えのセルフチェック を行ってもらう
報告 支援指導