第 4 章 非接触型抵抗板の滑動抵抗力の検証とその評価
4.3 滑動抵抗力の評価および考察
壁体の 滑動 抵抗力 の評 価は 壁体が 滑り 出す 時 の主働 土圧 の大き さと 壁体 の変位 とで 評価する方法がベストであるが,本実験では,抵抗板を設置した壁体が滑り出すまで 載荷することがが設備上できない.そこで,壁体の背面が主働土圧に達する前の背面 土圧合力と壁体の水平変位差の関係から 壁体の滑動抵抗力を評価する.ここでの背面 土圧合力,水平変位差は,ストッパーの解除 で壁体が変位し,それまで作用していた背 面土圧がリセットされて増加に転じる時(基点と呼ぶ)から最終載荷の 5 分後までの間に 変化した値である.
図-4.13 無次元化された背面土圧合力と水平変位差の関係(下段)と θ の定義 (●は基点,△は最終載荷の 5 分後の値を示す)
Case1,2 および 3 の基点から最終載荷の 5 分後までの背面土圧合力ΣPAをγH2B/2(γ:
単位体積重量,H:試験体の高さ,B:ブロックの幅)で,水平変位差δh’をブロックの奥 行き D でそれぞれ無次元化し,基点から最終載荷の 5 分後までの無次元水平変位差δh’に 対する無次元背面土圧合力δPAの関係(図-4.13)から,無次元水平変位差に対する無次元 背面土圧合力の増加率を示す勾配θ(δPA /δh)を算出した.本実験ではこのθを 無次元 滑動抵抗力と呼ぶことにする.
図-4.14 に算出した無次元滑動抵抗力θを示す.Case1 と Case2 については 2 回分の実
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験結果である.図-4.15 は Case1(なし)と Case2(後壁側)の 2 回分のθを平均し,棒グ ラフに上に示した数値は,Case1(なし)における各段位のθの値で他の2ケースのθの値 を除した値である.これらの値を用いて Case1(なし)に対する Case2(後壁側)および Case3(中央)の各段位の滑動抵抗力を評価する 4.7).
0 100 200 300 400 500 600
下段 中段 上段
Case2(後壁側)1回目 Case2(後壁側)2回目 Case3(中央)
Case1(なし)1回目 Case1(なし)2回目
無次元滑動抵抗力θ
図-4.14 壁体(Case1,2,3)の無次元滑動抵抗力θ
0 100 200 300 400 500 600
下段 中段 上段
Case2(後壁側)
Case3(中央)
Case1(なし)
1 1
1 3.9
2.3 2.4
3.4
2.2 1.8
無次元滑動抵抗力θ
図-4.15 壁体(Case1,2,3)の無次元滑動抵抗力θとその評価値
- 52 - その評価は以下の通りである.
1)Case1(なし)の各段位における滑動抵抗力の評価を1とすると,Case 2(後壁側)の滑 動抵抗力の評価値は下段では 3.9 倍,中段は 3.4 倍,上段は 2.2 倍であった.Case3(中央) では下段は 2.3 倍,中段は 2.4 倍,上段では 1.8 倍であった.
2)Case 2(後壁側)の中段と上段の評価値は中段 が 3.4 倍,上段は 2.4 倍で,下段の 3.9 倍よりも小さい.今回の実験では 水平変位計が各ブロックの中央にセットされていること から,下段ブロック中央の水平変位量δhが下段ブロック水平変位差となる.これに対し,
中段および上段ブロックの水平変位差は ,「中段ブロック中央のδh-下段ブロック中央のδ
h」,「上段ブロック中央のδh-中段ブロック中央のδh」となる(図-4.16 a)).
図-4.16 壁体の回転,水平変位差,水平変位計の関係
このために,測定ポイントである下段中央と地盤までの 距離が h であるのに対し,中段中 央と下段中央,上段中央と中段中央間の 距離は 2h となり,下段中央と地盤までの距離の 2 倍になる.従って,壁体が回転した場合に おいては,中段および上段ブロックの水平変位 差は下段ブロックの水平変位差より相対的に過大に見積られることになり,その結果,評 価値が低下することになる.もし,図-4.13 b)で示すように,水平変位量を各ブロック体
a) 水平変位計-ブロック中央1点 b) 水平変位計-ブロック上下端部2点 β
上段中央δh
中段中央δh
δ'h下
=下段中央δ h
GL GL
β 上段 下端部
中段 下端部
下段 下端部 中段 上端部
下段 上端部
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の上端と下端の 2 箇所で測定するならば,中段,上段ブロックの水平変位差は減少するた め,中段,上段ブロックの評価値は今回の評価値よりも高くなると考えられる.
また,Case3 の上段の評価値も中段より小さい.このことは,背面土圧合力と水平変位 差の関係を示した図-4.6 からも確認することができる.抵抗板が設置されていない図-4.6 a)の Case1 上段での勾配は中・下段の勾配と同程度であるのに対し,抵抗板が設置されてい る Case2, 3 の上段の勾配は中・下段に比べて小さくなっている(図-4.6 b),c) ).これに関 して,表-4.2 に Case1 と Case2 の最終載荷5分後における上・中・下段の水平変位差 と背面 土圧を示す.
表-4.2 水平変位量と背面土圧
Case1 Case2
(なし) (後壁側)
水平変位量 上 0.76 0.59
δh 中 0.91 0.58
(mm) 下 1.63 0.7 背面土圧 上 0.07 0.13
PA 中 0.07 0.15
(kN/m2) 下 0.06 0.09
表より Case1(なし)の水平変位差は ,下段 1.63mm>中段 0.91mm>上段 0.76mm と上段位 ほど小さくなっているのに対し,Case2(後壁側)では,下段 0.7mm>中段 0.58 mm<上段 0.59 mm と,上段の水平変位差が中段より 0.1 ㎜大きくなっている.この上段の水平変位 差が中段よりも大きいことが,上段の評価値を中・下段より低下させた要因である.この理 由として以下のことが挙げられる.載荷重の増加とともに垂直応力が上から下の土塊に伝 播される過程において,Case2(後壁側)では抵抗板により滑動抵抗力が発揮されるため,
Case 1(なし)よりも背面土圧が増加 する(表-4.2).これに加えて,受働土圧の大きさの 源となる抵抗板前面の土塊 による土被り圧が中・下段に設置した抵抗板前面の土塊 による 土被り圧より小さいため,抵抗板に発揮される受働土圧は相対的に小さくなり(図-5.2),
その結果,上段の水平変位差は大きくなったと考察される.
4)無次元滑動抵抗力とその評価値は抵抗板を中央に設置 した Case3(中央)よりもブロッ ク後壁側に設置した Case 2(背面側)の方が全ての段位で大きな値を示しており,抵抗板の 効果は抵抗板の前面に作用する前面土の土塊量とその土被り圧に影響されると考察される.
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4.4 まとめ
本章での実験結果より,以下の知見が得られた.
1)抵抗板を設置しない Case1(なし)よりも抵抗板を後壁側に設置した Case 2(後壁 側)の方が滑動抵抗力は下段では 3.9 倍,中段では 3.4 倍,上段では 2.2 倍であった.中 央に設置した Case3(中央)においても下段では 2.3 倍,中段では 2.4 倍,上段では 1.8 倍と,いずれの段位においても抵抗板による滑動抵抗力が確認された.
2)無次元滑動抵抗力とその評価値は抵抗板を中央に設置した Case3(中央)よりも,ブ ロック後壁側に設置した Case 2(後壁側)の方が全ての段位で大きな値を示しており,抵 抗板の効果は抵抗板の前面に作用する前面土の土塊量に影響されると考察された.
3)Case1(なし)の差分量は載荷重 に比例して増加するが,抵抗板を設置した Case2(後 壁側)と Case3(中央)の差分量は増加しないことから,抵抗板には上・下のブロック間に 生じる水平変位差を抑制してブロックを一体化する働きがあることが分った.
4)背面土圧合力と鉛直変位量の 実験結果より,抵抗板には水平方向だけではなく,鉛 直方向の変位も抑制する働きがあることが確認された.これは,土塊 とブロックの後壁内 面および後壁外面との間に働く下向きの摩擦力によるものと考察される 4.8).
5)Case2(後壁側)の中段と上段の評価値が下段より小さくなる理由は,壁体が回転し たために中段と上段の水平変位差が過大に見積もられたためであることが分かった.水平 変位をブロックの中央 1 箇所でなく上・下端の 2 箇所で測定すれば,水平変位差が正確に計 測され,下段の評価値に近づくと考えられる.
6) Case3(中央)の上段の評価値が中段よりも小さいのは,載荷による垂直応力が上 から下の土塊に伝播される過程で抵抗板による滑動抵抗力が発揮され, Case 1(なし)よ りも背面土圧が増加したためと考えられた.これに加えて抵抗板の受働土圧の源となる抵 抗板前面の土塊の土被り圧が,中・下段に設置した抵抗板前面の土塊の土被り圧より小さい ために発揮される受働土圧が相対的に小さくなり, その結果,水平変位差が大きくなった ためであることが分かった.また,今回の最大載荷重は 3.6kN で,これはブロックの背面 に作用するくさび土塊重量の 20 倍以上にあたる.このこの現実と乖離した載荷重が最初に 上段ブロックに伝播されたためであると考えられる.
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【参考文献】
4.1)石井優紘,国府田誠,佐藤秀人,田村昌仁,和田昇三,刑部 徹,堀田三成,熊田哲規:デ ジタルカメラによる画像計測法と擁壁模型実験への適用 2.鉛直剛体擁壁の強制変 位による崩壊挙動観測,日本建築学会大会学術講演梗概集(北海道),pp.629-630,
2004.
4.2)菊池拓志,国府田誠, 田村昌仁,和田昇三,佐藤秀人:地表面に等分布荷重を載荷し た場合の擁壁の構造性能に関する実験的研究―1:0.3 もたれ式擁壁の土圧性状につ いて,,日本建築学会大会学術講演梗概集(北海道),pp.647-648,2002.
4.3)西村友良,佐藤研一,杉井俊夫,小林康昭,規矩大義,須網功二:基礎から学ぶ 土 質工学,朝倉書店,pp.78,2007
4.4)佐藤秀人,国府田誠,田村昌仁,和田昇三,刑部 徹,堀田三成,熊田哲規,石井優紘:デ ジタルカメラによる画像計測法と擁壁模型実験への適用 3.鉛直剛体擁壁の主働土 圧の発生機構,日本建築学会大会学術講演梗概集 (北海道),pp.631-632,2004.
4.5) 橋 本 彰 博 , 安 福 規 之 , 末 松 吉 生 , 小 松 利 光 : 抵 抗 板 を 有 す る 空 積 み ブ ロ ッ ク 構 造 の 滑 動 抵 抗 と そ の 評 価 , 地 盤 と 建 設 , 第 30巻 , 2013.2.
4.6) 橋 本 彰 博 , 安 福 規 之 , 末 松 吉 生 , 小 松 利 光 : 抵 抗 板 を 有 す る 空 積 み ブ ロ ッ ク 構 造 の 滑 動 抵 抗 と そ の 評 価 , 地 盤 と 建 設 , 第 30巻 , 2013.2.
4.7) 橋 本 彰 博 , 安 福 規 之 , 末 松 吉 生 , 小 松 利 光 : 抵 抗 板 を 有 す る 空 積 み ブ ロ ッ ク 構 造 の 滑 動 抵 抗 と そ の 評 価 , 地 盤 と 建 設 , 第 30巻 , 2013.2.
4.8)松岡元:土質力学,森北出版,pp.137,1999.