第 3 章 先行事例にみる環境用水の成立要因
3.3 環境用水の導入と展開-地域間の比較から-
3.3.8 滋賀県近江八幡市新堂の樋
(1) 地域の概要
滋賀県近江八幡市は、琵琶湖の東岸に位置し、市の西部を一級河川日野川が流れている。
小田町は市域の西部に位置する。新堂の樋は、日野川に設けられた取水口であり、2009 年6月に地域用水(雑用水)という名目で許可水利権を取得した。取水量は0.191m3/s、
申請者は近江八幡市、許可権者は滋賀県である(近江八幡市,2008)。
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図 3-10 近江八幡市新堂の樋位置図
(国土地理院電子地形図1/25,000,2012年図式(2014年10月8日ダウンロード)より作成)
(2) 用水の成り立ち
慣行水利施設届出書によると、新堂の樋は、江戸時代より新堂の樋とよばれ、1959年の 伊勢湾台風の時には決壊し、県費により整備され、田用水として750反歩(75ha)、防火 用水、雑用水として使用されていた。
田用水については、1974年に国営日野川農業水利事業の事業所が開設され、事業が開始 された(日野川流域土地改良区,1999)。国営日野川農業水利事業は、近江八幡市、竜王町、
蒲生町(現東近江市)、日野町の5,101haの農地に対し、新たな用水補給を行うことにより 用水不足を解消するとともに取水施設の統合を図るものである(滋賀県東近江振興局環境 農政部田園整備第1課日野支所,2004)。
国営関連事業として日野川地区県営かんがい排水事業も実施された。これらの事業によ って、新堂の樋をはじめとする井堰から取水していた施設は「廃止」され、事業によって 統合、整備された頭首工やダム、揚水機場から用水が供給されることになった。
(3)地域用水(雑用水)水利権取得の経緯
錦澤ら(2010)は、小田町の水利権取得の経緯について以下のように整理している。
日野川
近江八幡市 琵琶湖 滋賀県
小田町
新堂の樋
0 1.5km
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土地改良に関わる国営、県営事業が進められ、あわせてほ場整備事業なども進められた。
こうした事業を進める中で井堰の存置について検討されるべき地域が明らかとなった。こ のため、1989年の河川協議において、継続して残す可能性のある井堰は「存置検討井堰」
として位置づけることとなった。それまで「廃止井堰」は188箇所あったが、これらは「存 置検討井堰」63箇所、「廃止井堰」125箇所に分類された。さらに、「存置対象井堰」のう ち29箇所を国営・県営事業のかんがい用水として利用する井堰ではない「水収支計算対 象外井堰」とし、そのうち18箇所が地域用水型と位置づけられた。「新堂の樋」はこの地 域用水型に分類される。
1990年には、日野川河川工事が開始され、1998年11月に「県・市・小田町間の協定書」
が締結され、小田町の現況用水が確保されることとなった。しかし、2004年6月に開催 された河川改修に関する説明会で「新堂の樋」の水利権は既に放棄されていることが行政 から地元に伝えられた。
水利権を放棄されていたことを知らされた小田町では、2006年10月に、小田町内の子 供を対象に地域活動を展開している「めだかの学校」が県に陳情書を提出し、2006年11 月には自治会が署名活動をして市に提出した。さらに2007年10月に大雨で堰が決壊し、
小田町内の用水路に水が流れない事態が発生したことから、住民の水利権取得に向けた要 望はさらに強くなった。
こうした動向を受けて行政側も水利権を認める方向で技術的、制度的な協議を重ね、
2008年5月に近江八幡市が県に対し水利使用申請書を提出した。2009年6月2日付で滋 賀県知事から近江八幡市に対して水利権が許可された。取水施設は、河川改修にあわせて 県が施工することになって、取水方法が数案検討された。小田町は維持管理費が少ない上 流集落付近から取水し導水する案を希望したが、水路の維持管理費の負担増、近隣集落と の調整の必要性などからこの案は採用されず、ポンプアップ案が採用された。
(4) 維持管理体制
施設の維持管理費は15年間は県が負担し、それ以降は地元が負担することとなってい る。ポンプの運転管理は地元が行っている。
(5) 地域用水の成立要因
調査を通じて、小田町新堂の樋の地域用水が成立した要因として以下の項目が考えられ る。
① 用水の歴史:江戸時代から新堂の樋はあり、古くから地域の用水として利用されてき た。伊勢湾台風などで被災したが、被災のたびに改修が行われてきた。1967年に作成され
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た慣行水利の届出書には、「雑用水」と記載されている。
② 水と人とのかかわり:地域の子供たちを対象に「めだかの学校」が環境教育などの活 動を展開している。
③ 直接的な要因:2007年7月の大雨で堰が決壊して取水できなくなり、集落内の水路 に水が流れなくなった。
④ 地域住民の声:「めだかの学校」は県知事あてに陳情書を提出している。また、住民、
自治会は、署名活動を行い、市に要望書を提出している。
⑤ 関係機関の連携:地元のNPOが県に陳情書を提出するなど、関係者が連携して用水 確保に取り組んだ。
⑥ 事業による支援:取水施設の整備は河川改修にあわせて県土木事務所によって整備さ れた。
⑦ 管理主体:自治会が管理主体としての役割を担っている。
⑧ 管理費用:県が15年間のポンプ維持管理費を負担している。
⑨ 利活用 地元のNPOである「めだかの学校」が、地元の子供たちの環境学習などの 活動を行っていた。
また、錦澤ら(2010)は、水利権取得に関係した諸条件として、集落からの距離・河川の 流況も影響していると分析している。
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