• 検索結果がありません。

測定結果と解析

ドキュメント内 ] 博士論文、修士論文 master thesis aono (ページ 76-85)

第 8 章 偏光測定実験

8.3 測定結果と解析

8.3.1 2次元エネルギープロットと方位角分布

図2.8に示したように、170 keVの偏光ガンマ線に対しては、散乱角が90˚付近のときに、 Mod-ulation factorが最大値をとる。そこで、今回はDSSDでコンプトン散乱し、CdTe Sideモジュー ルで光電吸収された2回ヒットイベント (Si – CdTe Side 2回ヒットイベント) を解析の対象と した。

図8.8に、コンプトンカメラの回転角が0˚のときの測定で得られた全てのSi – CdTe Side 2回 ヒットイベントから作成した、2次元エネルギープロットを示す。ここで、E1+E2 <255 keV の領域においては、エネルギーの低い方をE1、エネルギーの高い方をE2としてプロットしてあ る。図8.8を見ると、38 keV< E1 <50 keV、121 keV< E1 <132 keVの領域にイベントが集

8.3. 測定結果と解析 69

8.6: 偏光測定を行ったコンプトンカメラの回転角。図中に示した座標軸はグローバル座標 を表しており、ガンマ線はx軸方向に偏光している。赤い線で示したのは、コンプトンカメ ラの検出器座標でのx軸を表している。

8.7: 検出器座標系の設定。図のx軸から第一象限の方向へ回転するときを+の角度、第四 象限の方向へ回転するときをの角度で表す。DSSDのASICとコネクタの位置も同図に示 した。

70 第8章 偏光測定実験 中している。これは170 keVの光子が90˚散乱したときのエネルギーと一致するので (90˚散乱の とき、散乱光子のエネルギーは127.6 keV、反跳電子のエネルギーは42.4 keV となる)、この領 域のイベントがSi – CdTe Sideコンプトンイベントであると考えられる。そこで、イベントの集 中した領域が含まれるように課した表8.2の条件を満たすイベントのみを抽出し、その方位角分 布を作成した。

8.8: Si – CdTe Side 2回ヒットイベントの2次元エネルギープロット。コンプトンカメラ の回転角が0˚のときのデータを用いた。E1+E2<255 keVの領域においては、エネルギー の低い方をE1、エネルギーの高い方をE2としてプロットしてある。合計エネルギーと散乱 角の制限から、図中の赤線と緑線で囲まれる領域を、Si – CdTe Sideコンプトンイベントと 見なした。

8.2: 抽出するイベントの条件

合計エネルギー 163.0 keV≤E1+E2 ≤177.0 keV 散乱角 82˚≤θ≤ 102˚

図8.9に示したのが、それぞれの回転角におけるコンプトンイベントの方位角分布である。図 の横軸は検出器座標系での方位角を表している。この図から、全ての回転角において共通するい くつかの特徴が見い出される。まず第一に、どの場合でも方位角が−135˚、−45˚、45˚、135˚のと きはほとんどイベントが存在しないことが分かる。これは図8.7を見ても分かるように、これら の方向には検出器が存在しないことに起因している。

また、方位角が −180˚と0˚、−90˚と90˚付近のイベントの数を比べると、どの分布において も前者の方が後者よりも少ない。検出器構成が180˚回転に対して対称ならば、前者と後者のイ ベント数は等しくなるはずである。この原因として、図8.7に示したように、方位角が−180˚と

−90˚の方向にはASICやコネクタ等の障害物が存在するという点が挙げられる。光子がSi中の電 子と相互作用して側方に散乱された際に、これらの障害物が光子の進行を妨げ、その結果 CdTe Sideモジュールまで届く光子の数が減少してしまったのだと考えられる。

8.3. 測定結果と解析 71

(a) 回転角0˚ (b) 回転角15˚

(c) 回転角22.5˚ (d) 回転角30˚

(e) 回転角 45˚ (f) 回転角 90˚

(g) 回転角 180˚

8.9: Si – CdTe Sideコンプトンイベントの方位角分布。横軸は検出器座標系における方位角を表す。

72 第8章 偏光測定実験

8.3.2 無偏光の光子を入射させたときの方位角分布

前項で述べたように、実験から得られる Si – CdTe Sideコンプトンイベントの方位角分布は、

検出器のジオメトリや周辺物質の非対称性といったコンプトンカメラの“個性”が反映されたもの となっている。実際の方位角分布を求めるためには、何らかの手段を講じてこの個性を消してや らなければならない。今回は、無偏光の光子を照射したときの応答をシミュレートし、各方位角 ごとの検出効率の比を求めることで、方位角分布の補正を試みた。

シミュレーションはGeant4を用いて行った。図8.1に示したのが、シミュレーションで使用し た検出器のジオメトリである。今回は周辺物質の非対称性が検出器の応答に大きな影響を与える ため、DSSDとCdTe Sideモジュールの間にあるASICやコネクタといった、光子の進行を妨げ るものはできる限り忠実に再現してある。

図8.10に、シミュレーションのセットアップを示した。図に示すように、170 keVの無偏光光 子をDSSDの全面に当たるよう、平行に照射している。入射させた光子数は1.4×109 個であり、

そのうち表8.2に示した条件によってSi – CdTe Sideコンプトンイベントとして抽出されたもの は76877個であった。

!""!

#$%&'()**)+

#$%&'",$&

-./)012,3&$'41++15216 789:';&<=

8.10: シミュレーションのセットアップ。170 keVの無偏光光子をDSSDの全面に当たる よう、平行に照射した。図の網をかけた部分が、光子が直接当たる領域である。

シミュレーションによって得られた無偏光の光子を照射したときの方位角分布を図8.11に示す。

方位角が−135˚、−45˚、45˚、135˚の方向には検出器が存在しないので、イベント数が少なくなっ ている。また、0˚、90˚におけるイベント数と比べて−180˚、−90˚における値が少なくなってい ることから、検出器周辺の物質の非対称性を上手く表現できているといえる。

8.3.3 modulation factorの導出

無偏光の光子が入射したときの応答をシミュレートすることができたので、これを用いて mod-ulation factorの導出を行った。その解析の手順を、以下に示す。

1. Si – CdTe Sideコンプトンイベントの方位角分布を無偏光の光子を入射させたときの方位

角分布で割り、補正を行う。

8.3. 測定結果と解析 73

8.11: 無偏光ガンマ線入射時のSi – CdTe Sideコンプトンイベントの方位角分布。モンテ カルロシミュレーションにより求めた。横軸は検出器座標系での方位角を表す。

2. 各方位角におけるmodulation ratioを、式(2.10)より計算する。

3. 計算されたmodulation ratioの方位角分布に対し、式(2.11)を使ってフィッティングを行 う。ただし、1ビンにおけるSi – CdTe Side コンプトンイベントの数が20に満たない方位 角については、フィッティングから除外した。

以上の解析によって得られたmodulation ratioの方位角分布を図8.12に、またそのフィッティ ング結果を表8.3に示す。理論的には、250 keVのエネルギーを持つ100 % 偏光のガンマ線が 90˚散乱されたときの散乱後の偏光度が92.6 % であり、170 keVのガンマ線が90˚散乱されたと きの modulation factor は式(2.12)から計算すると 0.92 であることから、この実験で得られる modulation factorの値は 0.926×0.92 '0.85 と予測される。フィッティングによって得られた

modulation factorの値は、この予測値とほぼ等しい。また偏光方向についても、フィッティング

によって1˚の精度で正しい方向を求めることができている。以上の結果から、コンプトンカメラ がどのような偏光角を持つガンマ線に対しても、高い偏光検出能力を持つことが確認できた。

8.3: フィッティング結果

コンプトンカメラの回転角 modulation factor 偏光方向

0˚ 0.81±0.01 0.2˚±0.4˚

15˚ 0.79±0.02 15.2˚±0.7˚

22.5˚ 0.81±0.02 22.3˚±0.5˚

30˚ 0.81±0.02 30.1˚±0.5˚

45˚ 0.80±0.02 45.4˚±0.4˚

90˚ 0.84±0.01 89.0˚±0.6˚

180˚ 0.80±0.01 179.9˚±0.6˚

74 第8章 偏光測定実験

(a) 回転角 0˚ (b) 回転角 15˚

(c) 回転角 22.5˚ (d) 回転角 30˚

(e) 回転角45˚ (f) 回転角90˚

(g) 回転角 180˚

8.12: 各回転角におけるmodulation ratio。横軸は検出器座標系における方位角を表す。

75

第 9 章 まとめ

Si/CdTe 半導体コンプトンカメラ試作機を製作し、イメージングを通してその性能の実証を試

みた。以下に、本研究で得られた知見をまとめる。

• コンプトン散乱を利用した新しいエネルギー較正法を開発した。このエネルギー較正法を 用いることで波高値からエネルギーの変換を正確に行うことが可能となり、2回ヒットスペ クトルにおいてエネルギーの絶対値や分解能を向上させることができた。

• 種々の線源を用いたイメージングを行った。点源によるイメージングではシミュレーション により期待される性能と同等の性能が発揮できていることが確認された。また、複数の点 源の同時イメージングにより、個々の点源のスペクトルを高い精度で分解できることが実証 された。

• コンプトンカメラで得たイメージに対し、MLEM法による画像再構成を試み、複数の点源 が混入したイメージや広がった線源のイメージに対し、MLEM法が有用であることを確認 した。また、再構成した画像の解析から、コンプトンカメラが1˚という位置決定精度と、

5.7˚よりも良い分解能力を持つことが示された。

• SPring-8のシンクロトロンビームラインを用いた偏光測定実験を行い、コンプトンカメラ

での偏光の検出に成功した。また、理論値と同等のモジュレーションファクターが得られた ことと、偏光方向を1˚の精度で決定することができたことから、コンプトンカメラの高い 偏光検出能力が明らかになった。

77

付 録 A Si/CdTe コンプトンカメラを用いた生

体イメージング実験

ドキュメント内 ] 博士論文、修士論文 master thesis aono (ページ 76-85)

関連したドキュメント