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第二章 やさしい日本語ニュースと一般ニュースの語彙特徴

2. 語種別の特徴

2.4. 混種語

ただし、一般ニュースで比較的高頻度で用いられていた「サイト」について、一般ニュー スでは「サイト」のみの記載であったり、「インターネットのサイト」「ネット上のサイト」

等の記載であったりというように揺れがみられたが、やさしい日本語ニュースではニュース タイトルを除いては基本的に「ウェブサイト」に統一されていたことから、外来語の中でも

「サイト」よりも「ウェブサイト」のほうがやさしいといった判断がなされたものと思われ る。

以上、ニュースで使われた語彙のうち、外来語について述べた。NHKニュースから得られ た外来語を品詞別に分けた場合、そのほぼすべては名詞語彙だったが、一般ニュースでは形 容詞(ナ形容詞)もわずかながら使用されていた。また、やさしい日本語ニュースと一般ニ ュースを比べると、やさしい日本語ニュースのほうが外来語の使用率が高かった。加えて、

やさしい日本語ニュースにおいては外来語に占めるアルファベットや記号による表記の語が 比較的に多いという特徴がみられた。

図 25 混種語の使用率

また、やさしい日本語ニュースと一般ニュースを比べた場合、図25に示したようにやさし い日本語ニュースのほうが延べ語数で3% 程度 、異なり語数で5% 程度低くなっていた。こ のように混種語の使用数が書き換えで少なくなったのは、(67) のように、混種語を使わずに 表現できる文脈が少なからず存在したためである。

(67) a. 雨期を迎えているネパールとインドで大雨による洪水や地滑りが相次ぎ、(後略)。

(般: 164)

b. ネパールやインドは、今、雨がたくさん降る季節です。(中略)たくさん雨が降って、川 の水があふれたり、山が崩れたりしました。(や: 164)

次に、表36にそれぞれの品詞で使用された混種語の数、図26にそれぞれの品詞で使用され た混種語の構成を示す。

表 36 混種語の品詞別使用数(語)

名詞 動詞 形容詞 副詞 連体詞

延べ語数 一般ニュース 417 2,170 31 55 1 やさしい日本語ニュース 309 384 15 17 0 異なり語数 一般ニュース 94 613 12 16 1 やさしい日本語ニュース 46 122 4 5 0

図 26 混種語語彙の構成(品詞)

表36に示したように、混種語で際立って多かったのは一般ニュースでの動詞の使用数であ る。異なり語数では混種語の名詞の6倍強、延べ語数でも名詞の5倍強使われていた。一般ニ

75% 80% 85% 90% 95% 100%

やさしい日本語ニュース 一般ニュース やさしい日本語ニュース 一般ニュース

異な 語数延べ 語数

和語・漢語・外来語 混種語

0% 20% 40% 60% 80% 100%

やさしい日本語ニュース 一般ニュース やさしい日本語ニュース 一般ニュース

異な 語数延べ 語数 名詞

動詞

形容詞・副詞・連体詞

ュース全体の語彙量は本章「1. 品詞別の特徴」で表15「品詞別使用数(語)」に示したよう に名詞が動詞の2.6-3.5倍程度多いことからしても、混種語における動詞の多さは特徴的であ る。加えて、やさしい日本語ニュースについても一般ニュースほどではないものの、動詞の 使用数は名詞よりも多く、異なり語数では3倍弱使われていた。ただし、延べ語数は名詞と 動詞とではさほどの違いがなく、図26に示したようにやさしい日本語ニュースの延べ語数は 他の分類よりも動詞の使用率が少ない一方で名詞の使用率が高かった。このことから、やさ しい日本語ニュースで使用された混種語の名詞は動詞よりも使用頻度が高いと言える。

また上述のとおり、混種語では動詞の使用数が多いが、これはサ変動詞をつくる「~する」

の生産性の高さが反映されたものである。対象としたNHKのニュースで使用されていたサ変 動詞の中には「値上げする」「取り引きする」など和語も一部みられたが、多くは「連動す る」「ノミネートする」のように異なる語種の語と結びついて混種語を生成しているもので あった。こうしたことから、混種語の動詞に占めるサ変動詞の割合は、図27に示すように高 いものとなった。

図 27 混種語動詞の内訳(サ変動詞・その他)

図27に示したように、やさしい日本語ニュースと一般ニュースで使用された混種語動詞の

うち、約95-99%はサ変動詞である。サ変動詞以外の混種語動詞の例としては、「講じる」

「役立つ」「封じ込める」などの例が挙げられ、一般ニュースでは異なり語数27語、延べ語 数59語であったが、やさしい日本語ニュースでのサ変動詞以外の混種語動詞は「頑張る」1 語であり、延べ語数は4語であった。

続いて、混種語の名詞における湯桶読み・重箱読みの使用について考える。本調査では湯 桶読み・重箱読みを混種語に含めていることは上述したが、秋元(2010)が「重箱読みの語 や(中略)湯桶読みをする語を混種語とする考え方もある」(同: 68)というように、湯桶読 みや重箱読みの語を混種語する考えは広く受け入れられているものだとは言い難い。

図 28 混種語名詞の内訳(湯桶/重箱読みの語・その他)

93% 94% 95% 96% 97% 98% 99% 100%

やさしい日本語ニュース 一般ニュース やさしい日本語ニュース 一般ニュース

異な 語数延べ 語数

サ変動詞 その他

0% 20% 40% 60% 80% 100%

やさしい日本語ニュース 一般ニュース やさしい日本語ニュース 一般ニュース

異な 語数延べ 語数

湯桶・重箱 その他

図28に示したのは、やさしい日本語ニュース・一般ニュースで使用されていた混種語の名 詞の中での湯桶読み・重箱読みの使用率であり、混種語名詞に占める湯桶読み・重箱読みの 比率は混種語の名詞全体のおよそ半数であった。このため、湯桶読み・重箱読みを混種語と して認めないという立場では、表36に示した混種語名詞の使用数は約半数となり、混種語の うち動詞の使用数がさらに群を抜いて多いという結果が導かれることとなる。

混種語の形容詞について、イ形容詞はやさしい日本語ニュースでは「すばらしい」「しか たない」の2語あった。そのうち、「すばらしい」は使用回数10回で比較的高い頻度で用い られていた。一般ニュースでは上記2語に加え、「余儀ない」「素早い」「気持ちいい」

「興味深い」「愛くるしい」「注意深い」「いち早い」「切ない」の異なり語数10語が用い られていた。そのうち、最も頻度が高い語はやさしい日本語ニュースと同様に「すばらしい」

で8回使用されており、「余儀ない」5回、「素早い」4回のように複数回使用された語もあ った。(68) (69) に「余儀ない」「素早い」がやさしい日本語に書き換えられた例を示す。

(68) a. 東京電力福島第一原子力発電所の事故で避難を余儀なくされ、(後略)。(般: 201)

b. 2011年3月に福島県にある東京電力の原子力発電所で事故がありました。このため、

川俣町に住んでいた渡邉はま子さんは、家を出て福島市で生活をしなければならなくなり ました。(や: 201)

(69) a. このあともドイツは中盤でブラジルからボールを奪い、ゴール前に素早くパスをつないで、

5分間で3点を追加し、前半だけで5対0と大きくリードしました。(般: 32)

b. ドイツは、ゴールの前に速いパスをしたりして、前半に5点、(後略)。(や: 32)

「余儀ない」は (68) に示した例のように、1語対1語での書き換えはされておらず、該当す る部分が同じ情報を含むような別の表現に書き換えられていた。また、「素早い」について は前後の文脈が省略されている例が多かったものの、(69) に示すように、対応箇所がある場 合には類義語の「速い」が用いられていた。

一方、混種語のナ形容詞もイ形容詞と同様に使用数は少なく、やさしい日本語ニュース・

一般ニュースともに異なり語数は2語で、やさしい日本語ニュースでは「大好き」と「だ め」、一般ニュースでは「大好き」と「気軽」が使用されていた。(70) aに「だめ」が使用さ れた (70) bのやさしい日本語ニュース文の元のニュース文を示す。

(70) a. 「タイム・ワーナー側が断ったため、現在は協議していない」(般: 59)

b. 「タイム・ワーナーがだめだと言ったため、今は相談していない」(や: 59)

(70) bに示した「だめ」はやさしい日本語ニュースでのみ使用された語だが、元の一般ニュ

ースでは (70) aに示したように「断る」が使用されていた。「断る」は2級の語、「だめ」は

3級の語であり、「断る」という行為を表す動詞を「だめと言う」というように発言に置き換 えることで意味を変えずに難易度を下げていた。「だめ」は形容詞ではあるが、発言の引用 であることからも、この (70) の書き換えは (10) に示した「感謝する」という行為を表す動詞 を「ありがとう」という感動詞を含む表現に書き換えられていた例と類似したものである。

(10) a. ネイマール選手は「(中略)僕のために書いてくれたメッセージなどすべての応援と愛情

に感謝したい」と心境を話しました。(般: 24)

b. ネイマール選手は「(中略)皆さんからの応援と愛情、ありがとうございます」と話しま した。(や: 24)

なお、一般ニュースでのみ使用されていた混種語のナ形容詞「気軽」を含む前後の文はや さしい日本語ニュースへの書き換え過程で削除されていた。混種語の副詞については、混種 語の形容詞よりも使用数が多い。しかし、異なり語数でみた場合、やさしい日本語ニュー ス・一般ニュースともに出現した語のおよそ半分は1回しか使用されていない。ただし、

「特に」のように、やさしい日本語ニュースや一般ニュースで10回前後と、ほかの混種語の 副詞よりも数多く使われる語も中には存在した。

混種語の連体詞は一般ニュースでのみ使用され、やさしい日本語ニュースでは使用されて いなかった。なお、一般ニュースで使用された語は「確たる」で、やさしい日本語ニュース への書き換えでは「確たる」を含む前後の文は省略されていた。

最後に、混種語の品詞別の使用頻度について述べる。表37に混種語1語あたりの平均使用 回数を示す。

表 37 混種語 1 語あたりの品詞別平均使用回数(回)

名詞 動詞 形容詞 副詞 連体詞

全体 湯・重44 その他 全体 サ変 その他

一般ニュース 4.4 6.1 3.4 3.5 3.6 2.2 2.6 3.4 1.0 やさしい日本語ニュース 6.7 9.8 4.1 3.1 3.1 4.0 3.8 3.4

表37に示したように、混種語はいずれの品詞でも平均使用回数が10回を超える分類はなく、

ほかの語種と比較し、平均使用回数は低い。ただし、やさしい日本語ニュースの固有名詞を 除く自立語の平均使用回数7回、一般ニュースの6回と比べると、名詞についてはやさしい日 本語ニュースの語彙が比較的平均値に近い。また、湯桶読み・重箱読みの語についてはやさ しい日本語ニュース・一般ニュースともに平均使用回数を上回っていた。特にやさしい日本 語ニュースについては平均して1語が10回近く使用されていたことになる。

44 湯桶読み・重箱読みの語。

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