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第二章 やさしい日本語ニュースと一般ニュースの語彙特徴

1. 品詞別の特徴

1.2. 動詞

ここでは、名詞に次いで語数の多かった動詞について述べる。まず、表21にやさしい日本 語ニュースと一般ニュースで使われた動詞の延べ語数と異なり語数を示す。

表 21 動詞使用数(語)

延べ語数 異なり語数

一般ニュース 10,043 1,353 やさしい日本語ニュース 5,824 441

表21に示したとおり、延べ語数はやさしい日本語ニュースで6,000語弱、一般ニュースで

10,000語強使われていたため、やさしい日本語ニュースへの書き換えで動詞の延べ語数はお

よそ40% 減ったこととなる。全品詞でみた場合、延べ語数は本章冒頭で図7「調査対象とす

る自立語(延べ語数・異なり語数)」に示したように半数以下となっていた。このように、

動詞の延べ語数はほかの品詞と比べ、減少率が小さい。その要因として、(22) に示すように、

やさしい日本語ニュースでは元の一般ニュースで使われていた難易度の高い名詞を説明する 目的で動詞が使用される例が少なくなかったことが挙げられる。

(22) a. 進化の過程で恐竜にいつ羽毛が備わったのか(後略)。(般: 88)

b. 恐竜がいろいろな種類に分かれたあと、鳥に近い種類の恐竜の羽毛がいつ生えたか(後 略)。(や: 88)

また、(23) に示すような、やさしい日本語ニュースと一般ニュースでのタイトルのつけ方 の違いも存在する。(23) aに示すように、一般ニュースではタイトルが体言止め、あるいは助 詞で終わっている例が非常に多く、(24) aのような発言の引用を除けば、一般ニュースでは動 詞で終わっているタイトルは16例、全体のおよそ8% しかない。一方、やさしい日本語ニュ ースでは動詞で終わっているタイトルは動詞の原形のものだけでも128例、およそ60% に上 る。このように、ニュースタイトルが動詞を使って書き換えられることが多かったことも、

動詞の延べ語数の減少率がさほど大きくならなかった一因だと考えられる。

(23) a. 所在不明の小・中学生 全国で397人(般: 136)

b. どこにいるかわからない小学生と中学生が397人もいる(や: 136) (24) a. 「脱法ハーブ 気持ちいいのでやった」(般: 29)

b. 「ハーブ」を吸ったあと運転した事故が何度も起きる(や: 29)

しかし、やさしい日本語ニュースの動詞の延べ語数が比較的に多いとはいえ、使用された 割合は一般ニュースの6割程度である。また、動詞の延べ語数をやさしい日本語ニュース・

一般ニュースのニュース文1文あたりでみた場合、大きな違いがあった。それぞれの211本の ニュースで使用された文の数は第一章「4.1. 資料」の表8「資料の概要」に記したとおりそれ

ぞれ1,695文、1,896文であり、文の数はやさしい日本語ニュース・一般ニュースの違いはさ

ほどない。1文あたりに使われた動詞の延べ語数は以下の表22で示すとおりである。

表 22 ニュース 1 文あたりの動詞の平均使用語数(語)

一般ニュース やさしい日本語ニュース 延べ語数/文の数 約5.3語 約3.5語

表22に示したとおり、やさしい日本語ニュース・一般ニュースともに平均的にみればニュ ース1文につき複数の動詞が含まれていた。ただしその数は異なり、1文あたりにはやさしい 日本語ニュースで使用された動詞は一般ニュースの約3分の2である。やさしい日本語ニュー スでは「やさしい日本語にするために、長文を分割」(田中他2013a: 23)する必要が掲げら れていることから、長文が分割され複文が減らされた結果、1文あたりの動詞の数が抑えられ たと考えられる。(25) に動詞の数が減らされた例を示す。

(25) a. シュトラウスは、アルプスの山々に登り作曲のアイデアを得ていたと言われること

から、今回の会場は、そのうち高さ1800メートル以上の山の山頂が選ばれ、会場には ヘリコプターを使ってピアノが運ばれました。(般: 174)

b. シュトラウスはアルプスの山に登りながら、曲のアイデアを考えました。このため、会

場は1800m以上の山の頂上にして、ヘリコプターでピアノを運びました。(や: 174)

やさしい日本語ニュース文 (25) bでは、一般ニュース文 (25) aで7語使われていた動詞が4 語に減らされ、さらに2文に書き換えられていた。こうした (25) ような書き換えにより、や さしい日本語ニュースの1文あたりの動詞の延べ語数の平均が一般ニュースのおよそ3分の1 程度になっていた。次に、やさしい日本語ニュース・一般ニュースそれぞれの延べ語数と異 なり語数の使用語数の違いについて延べる。

図 13 動詞の延べ語数・異なり語数の比較(語)

図13に示したのはやさしい日本語ニュース・一般ニュースの延べ語数・異なり語数の量的 な違いで、やさしい日本語では約13倍、一般ニュースでは延べ語数は異なり語数の約7倍と の結果が出た。これは、やさしい日本語ニュースでは平均約13回、一般ニュースでは動詞1 語が平均約7回使われているという計算になる。つまり、どちらのニュースでも一つ一つの 動詞が繰り返しいろいろな文脈で使われているということだが、やさしい日本語ニュースへ の書き換えにより1語の動詞の使用回数が一般ニュースの2倍程度に増えており、やさしい日 本語ニュースで使用される動詞は、名詞や一般ニュースで使用される動詞よりも高頻度で使 用される語彙を特定することが容易だと考えられる。

実際、(9) に例示した「作る」では、一般ニュースでは多様な語や表現が用いられている文 脈が「作る」という和語動詞にすべて置き換えられていた。このように、難易度の低い動詞 で代用できる語がある場合には、そういった難易度が低い語が多用され、難易度の高い動詞 等の使用が抑えられ、結果的に異なり語数が減らされることとなった。

(9) a. 東京都は、各地で準備を進める参考にしてもらおうと、自治体などですでに始まってい

る多言語対応の取り組みを紹介するサイトを 開設しました。このなかでは、静岡県などが 富士山の登山で安全を呼びかけるため、英語や韓国語など3か国語のパンフレットを作成 したことや、東京・三鷹市のNPOが観光地図に特殊なペンで触れると英語や中国語など4 か国語の音声で案内情報を知らせてくれる仕組みを導入していることなど、およそ70件 の取り組みが紹介されています。(般: 165)

b. 東京都は、いろいろな県や市などが’ 作った外国語の看板などを紹介するウェブサイトを’ 作りました。これから’ 作ろうとしている区や市などに参考にしてもらおうと考えました。

静岡県は、富士山に安全に登ってもらうために、英語や韓国語など3つの外国語で書いたパ ンフレットを’ 作りました。また、東京の三鷹市のNPOは、特別なペンで触ると英語や 中国語など4つの外国語で説明する地図を’ 作りました。(や: 165)

続いて、動詞の下位分類をみる。はじめに、やさしい日本語ニュースと元の一般ニュース に含まれていた本動詞と補助動詞の内訳を表23に示す。

0 2,000 4,000 6,000 8,000 10,000 12,000

異なり語数 延べ語数 異なり語数 延べ語数

日本語 ュー一般 ュー

表 23 動詞の内訳(本動詞・補助動詞(語))

本動詞 補助動詞 全体

延べ語数 一般ニュース 8,422 1,621 10,043 やさしい日本語ニュース 4,830 994 5,824 異なり語数 一般ニュース 1,337 16 1,353 やさしい日本語ニュース 428 13 441

表23に示したように、やさしい日本語ニュース・一般ニュースのいずれも、補助動詞は異 なり語数ではごく少数であるものの、延べ語数では非常に多く使用されていた。(26) に示す のは、ニュース文における本動詞と補助動詞の使用例である。

(26) a. 戦争の悲惨さや平和の尊さについて考えてもらおうと、広島に投下された原爆で犠牲にな

った人たちの遺品などを集めた展示会が東京・調布市で始まりました。この展示会は、広 島と長崎の原爆の日や終戦の日を迎える8月に調布市が毎年開いています。会場の調布市 文化会館には、広島に投下された原爆で犠牲になった人たちの遺品などおよそ70点が展 示されています。(般: 162)

b. 東京の調布市は、戦争の悲惨さや平和の大切さについて考えてもらおうと、毎年8月に展 示会を開いています。調布市文化会館には、広島に落とされた原爆で亡くなった人たちが 着ていた物など約70の展示があります。(や: 162)

(下線部:本動詞、斜体字:補助動詞)

やさしい日本語ニュース文 (26) bでは延べ語数で動詞9語中3語が補助動詞、一般ニュース 文 (26) aでは動詞13語中3語が補助動詞であり、(26) の中で補助動詞はそれぞれ延べ語数で

動詞の約33%、約23% を占める。表23に示したように、補助動詞はやさしい日本語ニュー

ス・一般ニュースにおける延べ語数の約16-17% を占めているため、(26) は平均値よりも補助 動詞がやや多い箇所ではあるが、こうした文においては補助動詞「いる」や「もらう」がな ければ文が成り立たない。このように、補助動詞「いる」や「もらう」が不可欠とされる文 も少なからずあり、延べ語数が非常に多くなっていた。

なお、やさしい日本語ニュースで使用された補助動詞13語は使用頻度が高い順に「いる」

「くる」「いく」「もらう」「くださる」「なる」「しまう」「おく」「くれる」「あげる」

「みる」「やる」「ござる」で、一般ニュースで使用された異なり語数16語の補助動詞は使 用頻度が高い順に「いる」「いく」「くる」「おる」「もらう」「しまう」「ある」「くれ る」「まいる」「いたす」「いただく」「みる」「やる」「おく」「くださる」「ござる」

である。続いて、表24に本動詞と補助動詞1語あたりの平均使用回数を示す。

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