第二章 やさしい日本語ニュースと一般ニュースの語彙特徴
2. 語種別の特徴
2.3. 外来語
本項では和語、漢語に引き続き外来語について述べる。外来語は本節冒頭で表29「語種別 使用数(語)」、図17「語彙の構成(語種)」にも示したように和語・漢語と比較するとそ の使用数は少なく、使用率は10% 前後である。外来語は「借用語の中でも特に語形や意味が 日本語化した西欧語系のもの」(秋元2010: 63)を指すとされる。そのため、外来語も漢語と 同様に外来語以外の要素が活用語尾として含まれる動詞やイ形容詞は存在しない。さらに、
連体詞や副詞・接続詞にもなりえず、「外来語はその大多数が名詞」(同: 65)というように、
今回のニュースから収集された外来語も表34に示すとおりその大半が名詞であり、やさしい 日本語ニュースで使用された外来語はすべて名詞であった。
表 34 外来語の品詞別使用数(語)
名詞 形容詞
延べ語数 一般ニュース 1,720 7 やさしい日本語ニュース 947 0 異なり語数 一般ニュース 409 6 やさしい日本語ニュース 230 0
なお、一般ニュースで使用されていた6語の形容詞は「スムーズ」「コンパクト」「エネ ルギッシュ」「スリリング」「ネガティブ」「モダン」である。こうした外来語形容詞を含
む文脈はその大半が省略されていたが、(63) aの文については唯一、やさしい日本語 (63) bに 書き換えがなされていた。このように、(64) (65) aに示すような外来語の形容詞はやさしい日 本語へ書き換える過程で削除される場合が多いことから、それ自体がニュースの根幹を成す ような情報を持っているわけではなく、あくまで修飾語であり、外来語の形容詞はニュース を補足する補助的な役割を担っている場合が多いと考えられる。
(63) a. スリリングな体験をしたいという大勢の人たちがすでに長蛇の列を作っているということ で、(後略)。(般: 42)
b. 怖さを楽しみたいという大勢の人たちがウオータースライダーに並びました。(や: 42) (64) a. 前半の静かな曲調をじっくりと聞かせたあと後半は体全体を使ってエネルギッシュに指揮
し、力強い演奏に仕上げました。(般: 7) b. (対応箇所なし)(や: 7)
(65) a. 選手全員がコンパクトな陣形の中で、前線から激しくボールを奪う堅い守りを軸とし、
(後略)。(般: 84) b. (対応箇所なし)(や: 84)
次に、やさしい日本語ニュース・一般ニュースで使用された固有名詞を除く自立語に外来 語が占める比率を図22に示す。
図 22 外来語の使用率
図22に示したように、やさしい日本語ニュース・一般ニュースともに異なり語数よりも延 べ語数のほうが使用率が低かったが、やさしい日本語ニュースと一般ニュースを比べた場合、
延べ語数・異なり語数ともにやさしい日本語ニュースの使用率のほうが延べ語数で1% 、異な
り語数で4% 程度高かった。この1-4% という使用率はごくわずかにも感じられるが、これを
やさしい日本語ニュースの総語数で換算した場合、延べ語数で約160-650語、異なり語数で約
20-80語であり、少ない語数だとは言い切れない。
外来語の使用に関し、国立国語研究所「外来語」委員会編(2006: 14)が日本人に対して
「外来語・略語の意味が分からなくて困った経験の有無」を4,500人に対して尋ねる調査を実 施したところ、協力者の77% が「しばしばある」「時々ある」と回答したという。国立国語
80% 85% 90% 95% 100%
やさしい日本語ニュース 一般ニュース やさしい日本語ニュース 一般ニュース
異なり 語数延べ 語数
和語・漢語・混種語 外来語
研究所「外来語」委員会編(2006)の調査は日本人に対して行ったものだが、中山(2001)
は外来語について「多くの学習者が外来語に対して抱いている苦手意識」(同: 98)のように 述べ、日本語学習者にとっても外来語は「難しい」語種であると指摘している。しかしなが ら、今回対象とした一般ニュースからやさしい日本語ニュースへの書き換えをみると、中に は外来語は必ずしも難しくはないという判断がなされたものがあるように見受けられた。(66) aは一般ニュース、(66) bはやさしい日本語ニュースのタイトルである。
(66) a. 東京五輪環境負荷軽減へ新たな指針(般: 123)
b. 東京オリンピックのためにCO2などを少なくしたい(や: 123)
4年に 1度のスポーツの祭典を表すのに、一般ニュースでは、ニュースタイトルは「五輪」、
本文中は「オリンピック」というように2か月間のニュースを通じ、明確に語の使い分けが なされていた。しかし、やさしい日本語ニュースにでは「五輪」は1度も使用されず、ニュ ースタイトルも含めすべて「オリンピック」の語が使用されていた。実際には「五輪」「オ リンピック」はどちらも級外語彙である。しかし、書き換えの際に「五輪」が使用されず、
「オリンピック」の語が選ばれた背景には、漢語の「五輪」よりも外来語の「オリンピック」
のほうが難易度が低いという意識が働いていたのではないだろうか。
しかし、こうした「オリンピック」の例にみるような和語・漢語が外来語に書き換えられ た例は多くはない。そのため、やさしい日本語ニュースへの書き換えで外来語の使用率が高 くなったということは外来語については語彙の難易度を下げられていないということになる。
しかし、外来語に関しては音声を伴わない場合、その表記によって難易度が大幅に変化する 場合がある。本調査においても、「パーセント」「%」のように同じ音声で発音される語でも 表記が異なるものがあった。これにより難易度は変化すると考えられるため、図23に外来語 のカタカナ表記、アルファベットと記号による表記の使用率を示す。
図 23 外来語の内訳(表記別)
やさしい日本語ニュースでは図23に示したように、一般ニュースと比べ、延べ語数・異な り語数ともに外来語のアルファベットや記号による表記の比率が高い。そのため、外来語に 関してもやさしい日本語ニュースに書き換える際に一定の配慮がされていると言える。しか
0% 20% 40% 60% 80% 100%
やさしい日本語ニュース 一般ニュース やさしい日本語ニュース 一般ニュース
異なり 語数延べ 語数 アルファベット・記号
カタカナ
i
し、そうしたアルファベットや記号による表記の比率を考慮しても、図24に示すように依然 としてやさしい日本語ニュースに占める外来語の使用率は異なり語数において、一般ニュー スよりも高い。
図 24 外来語の使用率(表記別)
したがって、外来語を他の語種と比べて難しい語種だと仮定した場合、外来語については NHKのやさしい日本語ニュースはやさしい日本語に書き換えられていないことになる。続い て、表35に外来語1語あたりの平均使用回数を示す。
表 35 外来語 1 語あたりの品詞・表記別平均使用回数(回)
名詞 形容詞
全体 カタカナ42 記号43
一般ニュース 4.2 4.1 7.1 1.2 やさしい日本語ニュース 4.1 3.5 9.1
表35に示したとおり、外来語の名詞はやさしい日本語ニュース・一般ニュースともに4回 強だが、表記別にみた場合アルファベット・記号表記ではやさしい日本語ニュースのほうが、
カタカナ表記では一般ニュースのほうが、平均使用回数が多かった。なお、外来語の形容詞 については上述した6語で、1語を除いては1度ずつしか使用されていなかった。
一般ニュースのカタカナ表記の外来語名詞で使用頻度が極めて高い語としては、「メート ル」「キロ」「センチ」等の単位を表す語が挙げられるが、そのほかにも「グループ」「イ ンターネット」「バス」「サイト」等のニュースを通して20回以上使用された語も少なくは ない。やさしい日本語ニュースでは単位は基本的にカタカナ表記ではなく「m」「km」等 が用いられていたため、カタカナ表記の使用頻度が高い語に単位は含まれないが、そのほか の語については使用回数は異なっても含まれる語の種類に大きな違いはなかった。こうした ことから、外来語はたとえ難易度の高い語であっても、高い頻度で使用される単位以外の語 を難易度の低い別の語に置き換えるということが困難であったと考えられる。
42 カタカナ表記による語。
43 記号やアルファベット表記による語。
80% 85% 90% 95% 100%
やさしい日本語ニュース 一般ニュース やさしい日本語ニュース 一般ニュース
異なり 語数延べ 語数 和語・漢語・混種語
外来語(アルファベット・記号)
外来語(カタカナ)
ただし、一般ニュースで比較的高頻度で用いられていた「サイト」について、一般ニュー スでは「サイト」のみの記載であったり、「インターネットのサイト」「ネット上のサイト」
等の記載であったりというように揺れがみられたが、やさしい日本語ニュースではニュース タイトルを除いては基本的に「ウェブサイト」に統一されていたことから、外来語の中でも
「サイト」よりも「ウェブサイト」のほうがやさしいといった判断がなされたものと思われ る。
以上、ニュースで使われた語彙のうち、外来語について述べた。NHKニュースから得られ た外来語を品詞別に分けた場合、そのほぼすべては名詞語彙だったが、一般ニュースでは形 容詞(ナ形容詞)もわずかながら使用されていた。また、やさしい日本語ニュースと一般ニ ュースを比べると、やさしい日本語ニュースのほうが外来語の使用率が高かった。加えて、
やさしい日本語ニュースにおいては外来語に占めるアルファベットや記号による表記の語が 比較的に多いという特徴がみられた。