1. 序論
1.3.2 炭素鋼腐食と水膜厚さ
水膜厚さの研究は,大気腐食の環境下において金属腐食速度が,金属表面に形成される液膜 の厚さに対し依存するとしてTomashovにより証明されており35),この理論を用いて,水分を 含む土壌中の金属腐食 36)や,金属表面に給水能力のある海塩が付着した場合の金属腐食 37)等 の研究が進められている.また西方ら 38)及び山本ら39)の研究では,水膜厚さとEIS 測定法に よる腐食速度の関係性に関する研究を実施しており,水溶液中の溶存酸素の供給が水膜厚さの 増加とともに遅れ始めると説明している.この水膜厚さの理論を用いて,ベントナイト内のオ ーバーパック候補材料である炭素鋼腐食メカニズムを解明する.
(1) 水膜厚さと腐食に関するTomashov モデル
オーバーパック材料の候補材料である炭素鋼の腐食は,酸素と水の化学反応であるが,この 腐食の速度を決めるのは化学反応速度ではなく,同じく処分坑道内に存在するベントナイトか ら供給される酸素の量で決定する.このベントナイトは固体の土粒子,液体の水,気体の空気 の3種類で構成されており,外部からの湧水の影響を少なくするため,低透水性となるよう 高密度に圧密される.圧密施工の品質管理としては土質力学40)の考え方を採用しており,充 填後の含水比と密度等を計測する.これら3種類の物質は図 1-19に示すように,独立して存 在していると考えられている.また,ベントナイトを構成している粒子と水は,図 1-20で示 すモデルのように,水分がベントナイト粒子を覆うように存在すると仮定すると,炭素鋼と接 触している部分では,腐食速度に関係する酸素は水分から供給される.その結果炭素鋼表面へ の酸素供給は,炭素鋼表面を周辺の水の形態により大きく異なる.これらは大気腐食41)と同
じ考えで,腐食は炭素鋼表面上の薄い電解質膜を介して進行する現象となり,大気中の水分は 炭素鋼表面に吸着・凝結後に水膜を形成して腐食を起こす.またこの現象での大気腐食の腐食 速度は,表面水膜の厚さによって変化することが知られている.炭素鋼材料の腐食速度と表面 水膜の厚さの関係について,Tomashov35)によって示された概念的説明を図 1-21に示す.
Tomashovは経験に基づき以下のように説明している.
図 1-19 土質力学におけるベントナイト粒子に存在する水と空気の関係図
図 1-20 炭素鋼表面におけるベントナイトを構成している粒子と水分のモデル
領域Ⅰ:水膜厚さ10 nm以下.水分子が吸着した状態.乾いた大気中での腐食に相当し,腐食 速度は極めて小さい.
領域Ⅱ:水膜厚さ10 nm ~ 1 μm.肉眼では見えない薄い水膜が存在する状態.湿った大気中 の腐食に相当し,水膜厚さが増すほど腐食速度が増加する.
領域Ⅲ:水膜厚さ1 μm ~ 1 mm.肉眼でも見える凝結水の膜が存在する状態.金属表面が濡れ た状態の腐食に相当し,水膜厚さが増すほど腐食速度は減少する.
領域Ⅳ:水膜厚さ1 mm以上.水溶液中に浸漬されたときと同じ状態になり,金属の腐食速度 は水膜厚さと無関係になる.腐食速度は,領域Ⅲの水膜厚さ1 mm付近の速度で同じ である.
Water
Air
Soil (e.g. Bentonite)
図 1-21 に示すように領域Ⅰでは,金属は乾燥空気によって酸化され,表面に保護被膜を形 成し,ほとんど腐食しない.領域Ⅱでは,水膜が電解質液として機能するようになり,厚さが 増すほど局部電池機構による腐食が促進される.大気からの酸素は薄い水膜を容易に拡散し,
金属表面に速やかに供給される.領域Ⅲでは,水膜厚さが酸素拡散層厚さ以上になり,大気か ら金属表面への酸素の供給が困難になる.そのため,腐食速度は水膜厚さが増すほど低下し,
やがて酸素の拡散限界速度に相当する一定値になる.領域Ⅳでは,腐食速度は水膜厚さに関係 なく溶存酸素の拡散限界速度に相当する一定値を示す42).
図 1-21 Tomashov model説明図35)
(2) 鋼線とベントナイト界面に形成される水膜の厚さ
前節で説明した水膜厚さを,炭素鋼材料とベントナイト界面の場合でモデル化する.図 1-22 にその水膜の厚さモデル図を示す.
図 1-22 炭素鋼-ベントナイト界面に形成される水膜の厚さモデル
炭素鋼とベントナイトからなる供試体の全体の体積をV,炭素鋼を除いた体積をV',ベント ナイト体積をVb,水の体積をVw,空気の体積をVaとすると,ベントナイトの全体積は式(1.14) のようになる.
𝑉′= 𝑉b+ 𝑉w+ 𝑉a (1.14)
𝑉′,𝑉b,𝑉wはそれぞれ以下の式(1.15)~(1.17)ように求めることができる.なお,ベントナイ トの比重は2.6とする.
𝑉′= 𝑉 −炭素鋼の体積 (1.15)
𝑉b=𝑉′+乾燥密度
真比重 (真比重:2.6) (1.16)
𝑉w= 𝑉b×含水比
100 (1.17)
使用したクニミネ工業のベントナイト(クニゲルV1)の1粒を球と近似し,クニゲルV1の 最小粒度の直径63 μm43)とした.ベントナイト1粒の体積𝑉gは式(1.18)のようになる.
𝑉g=4 3π (63
2)
3
(1.18)
この水膜モデルでは,水膜厚さをdwとし,この水膜はベントナイト粒子の周りを包むよう に存在すること,またそのときの体積を Vgwとして図 1-23 で示す状態を仮定した.炭素鋼を 除いた供試体体積𝑉′は式(1.19)のように示すことができる.
𝑉′− 𝑉a 𝑉b =𝑉gw
𝑉g の関係より, 𝑉′=4 3𝜋 (63
2 + 𝑑𝑤)
3
×𝑉b
𝑉g + 𝑉a (1.19)
よって含水比別の水膜厚さdwは,式(1.19)を変形し以下の式(1.20)ように求めることができ る.
𝑑𝑤 = √3 4π×𝑉g
𝑉b
× (𝑉′− 𝑉a)
3 −63
2 = 63
2 √𝑉′− 𝑉a 𝑉b
3 −63
2 (1.20)
図 1-23 ベントナイト粒子における水膜モデル