3. オーバーパック周辺環境変化とその腐食特性
3.3.3 考察
(1) 含水比と鋼線境界の水膜厚さ
含水比の変化させたときの腐食電流密度の変化を,分極測定によって傾向を捉えることがで きた.この含水比の変化とともに,供試体内の鋼線とベントナイト界面に形成される水膜厚さ も同時に変化する.ここでは,この水膜厚さと腐食電流密度の関係性について,Tomashov モ デル10)を用いて考察する.1.3.2 で示したように,ベントナイト環境下の炭素鋼腐食は大気腐 食であり,腐食は炭素鋼表面上の薄い電解質膜を介して進行する.この時の水膜の厚さは,
Tomashov モデルに示されるように腐食速度に密接に関連し,水膜厚さが厚くなるに従い,乾
き大気腐食,湿り大気腐食,濡れ大気腐食,浸漬腐食と分類される.各供試体内に形成される 各含水比の水膜厚さは,1.3.2 で示した算出方法で求めた.含水比および乾燥密度の供試体に おける,水膜厚さ dwおよび飽和度𝑆𝑟を表 3-6に示す.また,含水比別の腐食電流密度と算出 した水膜厚さの相関を図 3-11 に示す.ファラデーの法則により腐食速度と腐食電流密度は比 例の関係にあり,腐食電流密度が上昇すると腐食速度が上昇する.水膜厚さが3~6 μmの範囲 においては,水膜厚さの増加に伴い腐食速度は増加し,この傾向は図 3-12のTomashov モデ ルおける領域Ⅱに相当する結果となった10),11).この水膜厚さに関する最近の報告としては,西 方らの研究12),13)で実施した大気腐食環境下のEIS試験では,水膜厚さ数10 μmの場合で最大 の腐食速度になると報告されている.図 3-11 に示す実験結果は,ベントナイト環境下で行っ ているため大気腐食と比べて酸素の供給が遅れる.その結果,腐食速度が最大を示す水膜厚さ は,Tomashovの報告(1 μm)よりも厚くなる.また実施した試験は,地層処分を想定した閉 鎖型の試験であることから,酸素の供給量が制限され最近の研究成果である数10 μmまで増加 しない結果となった.これらは,本研究で実施した試験条件から判断できることである.
Current density: 3.00×10-2 A/m2 (Water content 100%)
表 3-6 各含水比における水膜厚さおよび飽和度の関係 Water
content Dry density Water film Saturation
% Mg/m3 ㎛ %
14 1.60 3.43 58.2
17 1.60 4.09 70.7
21 1.60 4.92 87.4
25 1.60 5.72 104.0
1.37 5.72 72.4
28 1.60 6.30 116.5
1.37 6.30 81.1
30 1.37 6.68 86.9
33 1.37 7.23 95.6
図 3-11 水膜厚さと腐食電流密度計測結果の相関図
図 3-12 水膜厚さと腐食電流密度の相関図(再掲)
(Tomashov modelの模式図10))
(2) 含水比別の腐食電位と算出した水膜厚さの相関性
本実験で得られた含水比別の腐食電位と算出した水膜厚さの相関を図 3-13 に示す.供試体 によって含水比および乾燥密度が異なるため,供試体内の飽和度は異なる.図 3-13によれば,
得られた腐食電位は水膜厚さに影響しておらず,供試体が飽和度 100%未満の環境下において 腐食電位は-0.3 ~-0.45 VvsSSEの間で一定であった.また飽和度100%以上の環境下では-0.5
VvsSSE 近辺で一定の腐食電位となり水膜厚さは9 μm付近となった.また,鋼線をベントナ
イトで覆った供試体を直接蒸留水に浸漬した試験では,測定された腐食電位が-0.590 VvsSSE であり低い腐食電位であること,この場合鋼線周辺の水分量はさらに高い状態であることを考 えると,水分量が上昇するに従い腐食電位が徐々に増加することになる.これにより,腐食の しやすさの指標である腐食電位結果から,最大の腐食電位は,-0.590 VvsSSEであり,鋼線周 辺の水分の割合が上昇すると腐食しやすい状況になる.
次に,腐食電流密度測定結果と合わせて評価する.ベントナイト環境下にある鋼線は,含水 比が多くなると腐食しやすい状態となるが,その水分により鋼線付近の水膜厚さが形成され厚 さが増加する.この水膜厚さが腐食電流密度計測結果に関連し,最大なる腐食電流密度は,実 施した試験の場合6 μm程度までは腐食速度は増加するが,それ以上の厚さになると減少する.
これは水膜厚さの影響で,カソード側の酸素供給が律速され,腐食電流密度つまり腐食速度が 減少することになる.この現象は他の研究でも確認されており,水膜厚さが大きくなると溶存 酸素の拡散によって律速され,その結果腐食速度が下がる領域が現れる現象となる14)~16).
以上より,水膜モデルを用いた評価手法により,含水比の違いによる腐食メカニズムを証明 することができた.
図 3-13 水膜厚さと腐食電位の相関図