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第2章 積立金

2 模式図による説明

収入と支出、収支差を累積した積立金の三者の動きを模式図でみて、積立金の果たす役割を 確認してみよう。今、各時点(四半期)の収入は 100 で一定、支出は 100 を中心にプラスマイ ナス 50、50~150 の範囲で、4 年周期(16 四半期)で変動するものとする。また、1 年目の第 1 四半期から支出が収入を上回り始めるものとする。図のA~Cの間が、支出が収入を上回る赤 字の期間で、次のC~Eの間は支出が収入を下回る黒字の期間となる。

【図 2-2】

積立金は最初の時点(1 年目の第 1 四半期の期首時点)300 あるとすると、各四半期末時点の 額は図 2-2 のように変動する。300 あった積立金はCの時点(2 年目の第 3 四半期末)には 50 を下回る水準にまで減少する。差額は、その間の支出が収入を上回る分、つまり赤字分の補て んに充てられる。図のABCで囲まれる部分の額に相当する。Cを過ぎると、支出が収入を下 回る黒字の局面に入り、積み立てが始まる。Eの時点(4 年目の第 3 四半期))では 300 の水準 まで戻る。その後は、A~Eの繰り返しである。

(積立金が少ないと)

もし、当初の積立金が 300 よりも少ない水準、例えば 240 で あれば、次の図 3 のとおり、積立金は 2 年目の第 2 四半期末に かろうじて残っている状態となり、第 3 四半期には当該期の収 入と併せても支出を賄えない状態となる(積立金が枯渇する)。

0 50 100 150 200

0 50 100 150 200 250 300

1 2 3 4 1 2 3 4 1 2 3 4 1 2 3 4 1 2 3 4 1 2 3 4 1 2 3 4 1 2 3 4 1 2 3 4 1 2 3 4 1 2 3 4 1 2 3 4 積立金

支出 目盛右 収入 目盛右

積立 収入・支

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12

50 100 150 200

50 100 150 200 250 300

積立金 支出 目盛右 収入 目盛右

積立 収支

【図 2-3】

第2章

(黒字幅が小さいと)

このような積立金が不十分な事態は、たとえば下図 2-4 のように、D時点の黒字幅が小さい か、図 2-5 のように黒字の期間が短いと生じる。

【図 2-4】

【図 2-5】

図 2-4 ではD時点の黒字幅がB時点の赤字幅の 0.5 倍程度である。この場合、Eの時点で 170 程度までしか積み上がらず、次の景気後退期の赤字がA~Cと同じであると、積立金が枯渇し てしまう。図 2-5 は黒字の期間が2年続かず、1年で再び赤字になった場合である。やはり、

次の景気後退期の赤字がA~Cと同じであると、積立金が枯渇してしまう。

(赤字が長期化すると)

また、Eの時点で 300 まで積み上がったとしても、下図 2-6 のように次の景気後退の赤字局 面E~Gが長期化すると、やはり途中で積立金が枯渇する事態となる。

【図 2-6】

以上は単純な模式図である。保険料収入は一定としたが、実際は賃金や雇用者数の動きに連 動するし、料率改定もあるから一定でない。現実は、図 2-1 のとおりで複雑である。

0 50 100 150 200

0 50 100 150 200 250 300

1 2 3 4 1 2 3 4 1 2 3 4 1 2 3 4 1 2 3 4 1 2 3 4 1 積立金

支出 目盛右 収入 目盛右

積立 収入

1 2 3 4 5 6

0 50 100 150 200

0 50 100 150 200 250 300

1 2 3 4 1 2 3 4 1 2 3 4 1 2 3 4 1 2 3 4 1 2 3 4 1 2 3 4 1 積立金

支出 目盛右 収入 目盛右

積立金 収入

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12

0 50 100 150 200

0 50 100 150 200 250 300

1 2 3 4 1 2 3 4 1 2 3 4 1 2 3 4 1

積立金 目盛右

支出 収入

積立 収入

1 2 3 4

20 40 60 80 100 120 140 160 180 200

200 220 240 260 280 300 320 340 360 380

2007 2008 2009 2010 2011 2012

完全失業者数

受給者数 目盛右 同じ水準

万人 万人

目盛は各年1、4、7、10月 季節調整値

季節調整値

注 受給者数の季節調整は執筆者が行った

(模式図からわかること)

それでも、この単純な模式図から、改めて次のことがわかる。

一つは、積立金は赤字補てんの財源であるということである。将来、経済変動に伴い支出が

収入を上回る間、その赤字の補てんに充てられる。収支残の累積である積立金は余剰金のイメ ージを持たれるかもしれないが、雇用保険の場合は、経済変動に伴う収支差の赤字を埋めると いう重要な機能を担うものである。

二つ目は、しかしながら次のとおり、その水準の評価が困難であることである。

① 収支変動(景気変動)の局面によって積立金の水準が違う。

② 特に、支出の水準が同じでも、支出が増える局面と減る局面で積立金の水準が違う。

③ 支出の変動の幅、周期の長さの特定が困難である。

④ 収入の動きも予測困難である。

① まず、収支変動(景気変動)の局面によって、積立金の水準に違いがある。図 2 でいえば、

現時点をA~C~Eの間のどこと考えるかで、積立金の水準が異なる。今がAの時点であっ て積立金が少なければ、図 2-3 のとおり枯渇し、給付できない事態となる。しかし、Bの時 点(支出額が極大となる景気底入れ時期)であれば、積立金は 100 あればよい。もし 300 も あり、図 2 のような収支の動きであれば、積立金は過大と言わざるを得ない。

② 特に、支出額の水準が同じであっても、支出が増える局面と減る局面で、積立金の水準に 違いがある。図 2-2 でいえば、減る局面である時点Cと増える局面である時点Eでは、支出

の水準は同じであるが、積立金の水準はまったく異なる。支出額は概ね受給者数に応じて定 まる。同じ受給者数でも、景気の上昇局面か下降局面かで、必要な積立金の水準が異なると いうことになる。

(補足) 受給者数を失業者数(率)に言い換え、同じ失業者数(率)で必要な積立金の水準が異なる、とも言える。

この場合、本文の理由に加え、さらに、対応する受給者数が異なるということも併せて考える必要がある。景気 の上昇局面は非自発的な離職が相対的に少なく、所定給付日数が短い者が相対的に多いのに対し、下降局面は非 自発的な離職が多く、所定給付日数の長い者が多い。その結果、失業者数(率)が同じでも、局面によって、対応 する受給者数が異なると考えられる(下左の模式図参照。右はいわゆるリーマンショック前後の実績)。

失業者数(率)、受給者数

時間の経過 失業者数(率)

下降局面 上昇局面

同じ失業者数(率)

対応する受給者数 水準が異なる

受給者数

第2章

③ さらに、支出の変動の幅、周期の長さの特定が困難である。図 2-2 は支出の振幅を 50、周

期を 4 年などとしているが、実際の変動についてそのような値の特定はできない。実際の変 動幅や期間は、経済情勢により刻々と変わっていくものである。図 2-4 や図 2-5 でみたとお り、同じ積立金の水準であっても、その後の支出変動の振幅や期間がどうなるかによって、

過不足の状況が変わる。

収入の動きも予測困難である。模式図は収入を一定と置いているが、これも被保険者数と

賃金の動向によって変化するし、さらには保険料率に左右される。保険料率は、積立金と失 業等給付額の関係で、法定基準料率(現在 1000 分の 14)のプラスマイナス 1000 分の 4 の範 囲で変更することができる。実際、何回も改定されてきており、その都度、保険料収入が増 減する。保険料率の改定が、保険料収入に影響を与える道筋は単純ではない。保険料負担の 変化は労働需要、労働供給に影響を与えると考えられ、被保険者数や賃金の水準も左右する 可能性もある。

(補足) 雇用保険の場合、支出の‘現価’と収入の‘現価’の差額を、積立金として適当な水準と考えること は適当でない。積立金は将来の収入と合わせて、将来の支出を賄う財源となる。

将来の収入+現在の積立金――>将来の支出

そこで、将来の収入の現価+減殺の積立金と、将来の支出の現価の大小、或いは、将来の収入の現価と将来の支 出の現価の差額と積立金を比べることが多い。現価とは、将来各時点の収入、支出を現時点に割り戻して合計し た額のことである。厚生年金保険でいえば、「平成 21 年財政検証・財政再計算に基づく公的年金制度の財政検証」

報告書 80 頁の図「厚生年金の財源と給付の内訳(運用利回りによる換算)」等はこの考え方に立った図である。

(http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001kr28-att/2r9852000001kwum.pdf)

しかし、雇用保険の積立金は、黒字の累積を赤字のときに費消するためのものである。赤字、黒字を繰り返さ ざるを得ない雇用保険財政において、収支差を均す、言わばバッファー機能を果たす。そのため、将来全期間に わたって、支出と収入の現価を足し上げ、その差額と積立金を比べるのは、適当とは言えない。仮に現時点で積 立金が収入現価と支出現価の差に相当したとしても、将来、常に収支差の赤字を賄えるとは限らない。