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標的原子核の熱振動に関する影響

ドキュメント内 学位論文 Experimental Particle Physicsyushu University (ページ 51-55)

4.6 非対称度の導出

4.6.1 標的原子核の熱振動に関する影響

理論計算によって計算される断面積は静止した標的原子核に対する断面積である。実際に は標的原子核は熱振動しているため、入射中性子と標的原子核間の重心系エネルギーは変化 する。エネルギーE、速度vを持つ質量mn の中性子が速度uで熱振動している標的核に向 かっている時、中性子の標的核に対する相対エネルギーE は以下のようになる。

E = 1

2mn(v+u)2 =E ±u√

2mnE (4.14)

この式より、標的原子核の熱振動が激しいほど、共鳴を引き起こすエネルギーの幅が拡がるこ とを示している。このように標的原子核と入射中性子の相対速度が拡がりを持つことをドッ プラー効果といい、このドップラー効果による拡がりを考慮した断面積の計算について説明 する。

標的原子核を理想気体と仮定する [31, 32]。エネルギー E、温度T におけるドップラー効 果を考慮した断面積σ(E¯ )は静止した標的原子核に対する断面積σ(E)にエネルギー伝達関数 S(E, E)を畳み込んだ形で表される [33]

¯ σ(E) =

dES(E, E)σ(E) (4.15) 理想気体の場合、原子核の速度分布はMaxwell-Boltzman分布に従い、そのときのエネルギー 伝達関数S(E, E)は以下のように表される [34]

S(E, E) = 1

∆√ π exp

[

(E−E

)2]

(4.16)

∆ =

√4EkBT

M/mn (4.17)

ここで、∆はドップラー幅と呼ばれる量であり、kB はボルツマン定数、M は標的原子核の質 量である。特にE ≫∆のとき、断面積σ(E)¯ は以下のように近似される [35]

¯

σ(E)≈ 1

∆√ π

dEexp [

(E−E

)2] √ E

E σ(E) (4.18)

式4.18による共鳴幅の拡がりについて、117Snp波共鳴の温度による断面積の変化の計算 例を図4.20に示す。図4.20よりドップラー効果の影響で共鳴エネルギーは変化しないが、温 度が高くなるにつれて共鳴幅が拡がることが確認できる。

Neutron Energy [eV]

0.8 0.9 1 1.1 1.2 1.3 1.4 1.5 1.6 1.7 1.8

Cross Section [barn]

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 1.4 1.6

1.8 0K

300K 1000K 3000K

4.20 117Snp波共鳴の温度による断面積の変化の計算例:絶対温度が高くなるにつ れて共鳴幅が拡がっていく様子が確認できる。

4.6.2 中性子ビームの拡がりに関する影響

本実 験で は 中性 子エ ネ ルギ ーEn はTOFの値 から 計 算し て いる が、我 々 が測 定 して いる TOFの 値t(En)と 実 際 に モ デ レ ー タ 表 面 か ら 標 的 原 子 核 試 料 に 到 達 す る ま で に か か る 時 間 t(En)は以下のような関係がある。

t(En) =t(En) + ¯t(En) + ∆t (4.19) ここで¯t(En)はモデレータを通過するのに要する時間、∆tは測定装置などに起因する時間の 遅れであり、中性子エネルギーに依存しない定数である。∆tについては時間オフセットを考 慮しているので、改めて補正する必要はない。一方で、中性子がモデレータを通過する間にエ ネルギーを落として最終的にEnのエネルギーを持った状態でモデレータ表面から放出される が、その通過時間は各々の中性子で異なる。つまり、¯t(En)は各々の中性子で異なる値を持つ ことになる。そのため、あるエネルギーEn を持つ中性子がどのような時間の拡がりを持って 標的原子核試料に到達するかを知る必要がある。この時間拡がりを表す関数をパルス関数とい

4.6 非対称度の導出 53 い、パルス関数はモデレータ毎で異なる。従って、本実験ではJ-PARC/MLF/BL04におけ るパルス関数を用いて断面積に与える影響を計算する必要がある。

J-PARC/MLF/BL04におけるパルス関数については先行研究[36]が行われており、 Ikeda-Carpenter 関 数 に 従 う こ と が 分 か っ て い る 。本 研 究 で は 、こ の 先 行 研 究 の 結 果 を 使 用 す る 。 Ikeda-Carpenter関数ψ(v, t)は以下のように表される。

ψ(v, t) =

dtϕ(v, t)[(1−R)δ(t−t) +Rβθ(t−t) exp(−β(t−t))] (t >0)

= α 2

{

(1−R)(αt)2e−αt+ 2R α2β (α−β)3

[

e−βt−e−αt (

1 + (α−β)t+ 1

2(α−β)2t2 )]}

(4.20) ここでvは中性子速度、δ(t−t)はデルタ関数、θ(t−t)はヘヴィサイドの階段関数である。

またϕ(v, t)は、無限大の大きさの陽子媒質中での中性子減速過程における中性子流量であり、

以下の式で表される。

ϕ(v, t) =

sv 2

(

s

vt )2

exp (

−∑

s

vt )

(t >0) (4.21)

ここで

sv/2は規格化のための因子であり、

s は中性子散乱のマクロ断面積である。

s

は式(4.21)を導出するにあたって定数と仮定している。また、式(4.20)tについて、中性

子エネルギーに応じて中性子の放出時間分布の開始時刻が異なるため、t =t−t0 とする。t0

を含め、式(4.20)における各変数は以下の通りである。

t0 = 10{(1.24×10−1)−(4.75×10−1)y+(2.42×10−3)y2+(1.59×10−3)y3}

α=

{10{(−7.19×10−2)+(4.78×10−1)y+(1.59×10−3)y2−(2.65×10−3)y3} (y < 8.0, y ≥ −1.5)

10{6.51+8.98y+3.45y2+4.66y3} (y < −1.5)

β =

{10{−1.05+(5.81×10−1)y−(4.06×10−2)y2+(3.57×10−3)y3} (y <8.0, y≥ −1.5) 10{1.81+4.17y+2.27y2+3.24y3} (y <−1.5)

R=

{10{−1.05−(9.11×10−2)y+(9.59×10−2)y2−(1.08×10−2)y3} (y <8.0, y ≥ −0.8) 10{−4.39−8.25y−6.61y2−2.38y3−(3.11×10−1)y4} (y <−0.8)

y= log10En

式(4.20)を用いて、エネルギーEnの中性子がどのような時刻で標的原子核試料に到達する

か、測定で得られる中性子エネルギーEnに対応するTOFの値には実際にはどのようなエネ ルギーの中性子がどれくらい存在するかを計算することが出来る。図4.211.327 eVの中性 子が標的原子核試料に到達する時間分布を示す。また、図4.221.327 eVに相当するTOF

の値(1352.64µs)として測定されてしまう中性子エネルギー分布を示す。

µs]

TOF [

1350 1360 1370 1380 1390 1400

Flux [A.U.]

0 0.05 0.1 0.15 0.2 0.25

4.21 1.327 eVの中性子が標的原子核試料に到着する時間分布:理想的な時間(縦線) より遅れて標的原子核に到達することが確認できる。

Neutron Energy [eV]

1.3 1.32 1.34 1.36 1.38 1.4 1.42 1.44 1.46 1.48 1.5

Flux [A.U.]

0 0.05 0.1 0.15 0.2 0.25

4.22 1352.64 µsの 時 間 に 標 的 原 子 核 試 料 に 到 達 す る 中 性 子 が も つ エ ネ ル ギ ー 分 布:

1.327 eV(縦線)よりも高いエネルギーをもつ中性子しか存在しないことが確認できる。

このパルス関数の影響で断面積がどのように変化するかを考える。図4.21より中性子は理 想的なTOFの値よりも遅れて標的原子核試料に到達することが分かる。つまり、中性子エネ ルギーで考えると本来のエネルギーよりも低いエネルギーとして測定されてしまうことにな る。従って、パルス関数を畳み込んで断面積を計算すると、共鳴エネルギーは低エネルギー側 へ移動する。

4.6 非対称度の導出 55 パルス関数を畳み込んだ断面積σ(E˜ n)は以下のように表される。

˜

σ(En) =

dvψ(v, t)σ(v) =

dEnψ(En, t)σ(En)

=

dEψ(E˜ n+ ˜E, t)σ(En+ ˜E) ( ˜E >0) (4.22) ここで、En は速度vの中性子が持つエネルギーである。中性子が本来持つエネルギーEn 測定で得られるエネルギーEnよりも高いため、En =En+ ˜E と書くことが出来る。式(4.22) の正誤を確かめるため、断面積がデルタ関数に従うモデルを考える。

σ(En) =

{10000 [barn] (En= 1.327eV)

0 [barn] (En̸= 1.327eV) (4.23)

式(4.23)の断面積を式(4.22)に従って計算した結果を図4.23に示す。

Neutron Energy [eV]

1.2 1.22 1.24 1.26 1.28 1.3 1.32 1.34

Flux [A.U.]

0 1 2 3 4 5 6 7 8 9

4.23 パルス関数の畳み込み計算結果:断面積が本来のエネルギーよりも低エネルギー 方向にのみ分布しているのが確認できる。

図4.23より、断面積が本来のエネルギーよりも低エネルギー方向にのみ分布しているのが 確認できる。

ドキュメント内 学位論文 Experimental Particle Physicsyushu University (ページ 51-55)

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