Ⅰ 森林利用施設とユニバーサルデザイン
1.ユニバーサルデザインの概要(注1)
都市のデパートや公共施設では、障害者に対応した様々な施設を見ることが出来る。障 害者用の駐車場、トイレ等々である。障害者にとって障壁となりうるものを可能な限り少 なくして、生涯者が健常者と同じような生活をおくることができるような街づくりのため の設計思想をユニバーサルデザインと呼んでいる。つまり、これまでの都市デザインは、
健常者や普通の人々の生活や労働を対象としていたが、ユニバーサルデザインでは、障害 者から健常者までの幅広い人々を対象としたデザインするということである。バリアフリ ーデザインと言う場合には、具体的な設計対象をさしている場合が多い。例えば、歩道と 車道のバリアフリーと言えば段差の解消であるし、トイレのバリアフリーと言えばトイレ のドア、腰掛ける場合の補助・解除装置といった具合である。しかし、バリアーにはこの ような物理的なバリア以外にも様々なバリアがある。サインシステムのように視覚障害や 聴覚障害の人に危険情報を知らせるシステムは情報バリアーであり、障害者が交差点を通 過する時間等は時間のバリアである。障害があることで学校教育が受けられない場合など の制度的バリアもある。歩道に放置された自転車等はモラルバリアであるし、障害者が障 害があることで社会的疎外感を抱く心のバリア、障害者を差別する社会意識のバリア等も 考えられる。こういった、様々なバリアを社会から取り払い、障害者と健常者が共に生き る社会の実現を目指すことをノーマライゼーションと呼んでいる。
ユニバーサルデザインでの障害者の定義(注2)は、身体障害、知的障害、精神障害等を指 しているが、デザインの対象としてどの程度の障害であるかを厳密に定義することは難し い。一方、健常者であっても、高齢者等では運動能力が低下し、普通の健常者以下の機能 となるし、妊婦、子ども、病人等も健常者の機能以下である。さらに、重い荷物を持った り、高齢者を介添えしている等も健常者の機能以下となる。健常者であっても、常に健常 者の機能以下となる可能性があるということも認識する必要がある。
(注1) 本節は「ユニバーサルデザイン のまちづくり」(樗木武 2004 年 森北出版)を参考とした。
(注2) 障害者の程度等については、身体障害者福祉法、知的障害者福祉法、精神保健及び精神障 害者福祉に関する法律等で定義されている。
2.ユニバーサルデザインに関する法制度
1948
年の国連「世界人権宣言」から始まると言ってよいであろう。日本では1949
年に「身体障害者福祉法」が制定されている。バリアフリーが具体的な法制度として整備され るのは、1968年に米国で制定された公的補助建築物を対象とする「建築障壁除去法」であ る。国連では
1970
年代から障害者を対象とした取組が始まるが、国際的なインパクトとな ったのは、1981年の「国際障害者年」の提唱とそれを受けた1982
年の「障害者に関する 世界行動計画」の採択である。北欧を起源とするノーマライゼーションの思想が国際的に 認知されることになる。一方、わが国では、1970年に制定された「心身障害者対策基本法」、1982年の「障害者 対策に関する長期計画」、1993年の新長期計画があり、1993年には「障害者基本法」とし て改名されている。ユニバーサルデザインが本格的に取り上げられるのは、
1994
年に制定 された「高齢者・身体障害者等が円滑に利用できる特定建築物の推進に関する法律」(ハー トビル法と略称)であり、障害者基本法を受けて1995
年に策定された「障害者プラン〜ノ ーマライゼーション7箇年戦略〜」である。また、2000
年には公共交通機関のバリアフリ ー化を推進する交通バリアフリー法(高齢者・身体障害者等の公共交通機関を利用した移 動の円滑化の促進に関する法律)も制定されている。森林公園等に存する公共施設は、ハートビル法の対象でもあり、多数のものが利用する 建築物を特定建築物といい、その中で一定規模以上の床面積があり不特定多数のものが利 用する建築物を特別特定建築物と言っている。
Ⅱ トレイル設計におけるユニバーサルデザイン
1.トレイルの概要
トレイルとは、荒野や未開地の小道の意味であり、元々は踏みつけた跡、足跡等の意味 であるから、人々が歩くことによって踏みつけられてできあがった道を指している。都市 の歩道をトレイルというかと言えば言えないことはないが、一般的には、郊外地、農地、
原野、森林、海岸、河川敷等に敷設された歩行専用の道と言える。
トレイルに関する書籍は幾つか出版されているが、本節では世界のトレイルの設計・施 工事例を編集した「ウォーキング・トレイルの道しるべ」(注1)を参考にトレイルの概要を 整理することとした。この文献では、米国、ドイツ・オーストリア、英国の調査事例につ いて、トレイルの設計・施工・運営・資金等様々な側面から紹介している。中でも地域資 源のネットワーク効果としてのトレイルの機能が着目されており、山村地域資源を広域的 に連結し、総合的に山村価値を高める効果としての山村でのトレイルの導入には意義があ ると考えられる。
米国では、1968 年のナショナルトレイル(最低 160km 以上)整備法の制定以後、1990 年までに 17 箇所、48,000km のナショナル景勝、歴史トレイルが認定されている。さらに、
1987 年からは地方自治体により、身近な住宅地から歩くことが出来るトレイルの整備とし てグリーンウエイ整備が開始されている。サンフランシスコ湾岸自治体による
ABAG
(湾 岸自治体協会)がコーディネータとなって整備を進めているベイトレイルが有名である。ドイツでは、森林内の道を歩く人による「ヴァンデルング協会」(野外徒歩運動協会)や、
ドイツ・オーストリア両国で設立された「アルペン協会」によって、農道、林道等も含め て整備されている。
英国では、歴史的に「Rights of Way」(道の権利)として、歩くことができれば許可な く通行しても良いという考え方があるが、1990 年には法制化している。歩くことを楽しむ 人達で組織されたボランティア団体として「ランブラーズ協会」がある。農村部を中心に 総延長 20 万 km を超えると言われている。国が認定しているナショナルトレイルも 17 箇所 となっている。
日本のトレイルは、環境省、国土交通省、農林水産省等の省庁で認定るあるいは計画策 定したトレイル、都道府県や市町村が単独でおこなっているもの等多岐に亘っている。環 境省が計画推進している長距離自然歩道は、「複数の都府県間を有機的に結ぶ長距離にわた る自然歩道で、環境省が計画し、各都府県が事業主体となって整備を進め、昭和 45(1970)
(注1) 「ウォーキング・トレイル のみちしるべ」(ウォーキングトレイル 研究会編 平成 10 年 (株)ぎょうせい)
年の東海自然歩道の整備に始まり、九州・中国・四国・首都圏・東北・中部北陸・近畿と 8つの自然歩道が整備され、総延長は約2万1千km、年間 4,000 万人を超える利用者」
となっている。
図6−1は、長距離自然歩道の全国の位置図を示したものである。
図6−1 長距離自然歩道の位置図
(インターネットウエブサイトより 引用)
林野庁では、遊歩道の整備を進めており、平成8年 12 月 20 日に公表された「森林の多 面的機能調査、森林・施設状況調査結果」(平成8年6月1日現在)によれば、遊歩道の総 延長距離は 7,439km で、1箇所当たり平均 7.8km となっており、関東・東山地域が最も長 く 1,723km である。また、林道については、総延長 12 万3千 km であり、そのうち一定要 件林道(市町村が管理している全幅員4m以上の林道のうち、林道の両端(起点、終点)
が道路法に基づく道路(都道府県道等の公道)等に接続したものをいう)は、1万6千 km となっている。
国以外の都道府県、市町村が推進している自然歩道等についての詳細は不明であるが、
インターネットのウェブサイトでは、自然歩道・自然遊歩道等で検索すると数千件を超え る情報となっている。ちなみに、福島県のウェブサイトによれば、ハイキングコース、サ イクリングコースが県下全域で 147 箇所となっている。
2.トレイルのユニバーサルデザイン
わが国の山間地域における遊歩道は、地形的条件から傾斜地が大部分となっており、車 椅子、高齢者等の足が不自由な人には利用が難しいケースも考えられる。移動の権利は基 本的人権でもあり、障害者が使えない道をつくることは人権上の差別になるという考え方
(米国
ADA
法(障害を持つアメリカ人法))もあり、一定の条件化で障害者の利用可能性 を模索する必要があろう。例えば、英国のフットパスではサーキュラー・ウォークという サブルートがメインのトレイルの周辺に配置されている。高齢者や障害者でも利用可能な コースを設けている事例である。また、段差等の物理的バリアを排除し、舗装の工夫、道 案内における音声・マーク・標識等のデザインも必要となろう。車椅子の利用可能条件についても、英国の一部のフットパスでは下記のような5段階に 分けて表示している。
A:一人で行動できる。コンクリートなどで舗装
B:アシスタントがついて行動できる。付き固めた地面、砂利道 C:電動車椅子で利用できる。草丈の短い草地
D:高機能自動車椅子で利用できる。丈の長い草地、一部泥地
E:高機能自動車椅子でアシスタントがついて利用できる。大きな石や粒の大きな砂利 道
高齢者、障害者にとって、道の傾斜、路面状態、一般道との交差点等は極めて大きなバ リアであり、トレイル設計にあたって、トレイルの目的別にバリアーフリートレイルを配 置する等が重要となろう。