Ⅰ 森林・自然環境と関わりの深い日本の百選
(注1)深田久弥の「日本百名山」以来、数々の日本百選が登場した。森林・自然環境と関係の あると思われるもの抽出したのが表5−1である。これらの百選の選定基準は、選定趣旨 により様々であるが、概ね選定趣旨を基に市町村、都道府県を通して選定委員会などによ り選定されている。
表5―1 森林・自然環境との関わりの深い日本の百選
区分 百選の名勝 選定機関
水資源
名水百選 水源の森百選
水と緑の文化を育む「水の郷百選」
環境省環境管理局水環境部企画課 林野庁治山課水源地治山対策室 国土交通省土地水資源局水資源部
自然環境
ふるさといきものの里百選 森林浴の森百選
日本の滝百選 日本の白砂青松百選 森の巨人たち百選
環境省自然環境局総務課 地球環境財団
緑の地球防衛基金
(社)日本の松の緑を守る会 林野庁国有林野総合利用推進室
文化・観光
農村景観百選 歴史の道百選 さくらの名所百選 日本の棚田百選 日本の水浴場 88 選
農林水産省農村整備総合調整室 文化庁文化財保護部記念物課 (財)日本さくらの会
農林水産省構造改善局開発課 環境省環境管理局水環境部企画課
1.水資源に関する百選
環境省が選定した「名水百選」は、湧水、表流水について古くから住民の生活に利用さ れ住民による保全活動がなされている名水を選定したものである。全体的には湧水が多く 選定されており、伝説、民話等で語りつがれた名水が多い。
(注1) 「日本の百選」(財務省印刷局 2001)より引用
林野庁が選定した「水源の森百選」は、「名水百選」が遊水池・水源地という点の選定 であるのに対して、水源地域としての森林地域を選定したものであり、面的な選定となっ ている。ダム上流域の森林地域の選定が多い。
国土交通省が選定した「水と緑の文化を育む「水の郷百選」」は、①水環境の保全が適 正に行われている、②水に関わる特色ある歴史や文化が地域の活性化に活かされている、
③水環境の維持等に住民の取り組みが活発である、といった特徴を持つ地域を選定したも のである。単独の市町村あるいは複数の市町村を選定地域としているが、内容は、「名水 百選」の湧水、「水源の森百選」地域の河川・渓流を含む市町村が多く見られる。
以上の3つの水資源に関する百選では、省庁の機能別に選定の特徴がよく出ており、環 境省では水そのもの、あるいは水質・水量に、林野庁では水の供給元である水源地域の森 林に、国土交通省では水の利用・需要である町や村に着目している。
図5−1は、水資源百選の関係を示したものである。水資源の供給から利用・需要まで の地域が省庁間の枠を超えて統一的に選定されているわけではない。水資源に対する国民 の関心が高く、観光資源としての水資源の価値も高いことから、必ずしも百選にこだわら ず、例えば山間水源地域数とその需要地域、水質・水量、生態系等についての情報等も付 加した「水資源数百選」等として整理することにより、情報の利用価値はさらに高まると 考えられる。
図5−1 水資源百選の関係
2.自然環境に関する百選
自然環境に関係すると考えられる百選であるが、里地里山の生き物、巨木・森林浴、海 岸林、滝等となっており、それぞれほとんど無関係に選定されている。
「ふるさといきものの里百選」は、里山等身近な自然に生息する小動物について、積極的 な保全・創出に資することを目的として環境省が選定したものである。圧倒的にホタルが 多く、トンボ、蝶等が続いている。選定地域も市町村内の 1 地区等の狭小面積に限られて いるのが特徴である。
「森林浴の森百選」は、(財)地球環境財団という団体が選定したものであり、森林浴に適 した森林で後生に遺贈すべき森林であることを選定基準としている。選定地域は、自然休 養林、森林公園、青少年の森等々が圧倒的に多く一部に里山も見られる。
「日本の滝百選」は「緑の地球防衛基金」という団体が選定したものである。日本の景勝 地、有名観光地の名所瀑布の上位 100 が網羅されていると思われる。
水の需要
「水の郷百選」
(国土交通省)
水質・水量
「名水百選」
(環境省)
水の供給
「水源の森百選」
(林野庁)
「日本の白砂青松百選」は、(社)日本の松の緑を守る会という団体が選定したものである。
白浜に林立する松林は、日本の代表的景観の一つである。この百選には有名景勝地が全て 網羅されている。海岸・海浜に関する百選では、国土交通省が選定した「日本の渚・百選」
もあるが「白砂青松百選」と概ね重複している。
「森の巨人たち百選」は、林野庁国有林が次世代への財産として残すべき代表的な巨樹・
巨木を「国民の森林」として選定したものである。北海道の寒冷気候、沖縄の亜熱帯まで の気候条件と樹木の成長の関係を表した自然博物館の代表的なものである。
この百選では、生き物、海岸林、巨樹・巨木、滝等どちらかと広い面的な空間全体とい うイメージではなく、狭小区域の保護・保全を目的した選定が特徴的である。保護・保全 の具体的な実行可能性を重視すれば、広域な面的空間は困難であり、自ずから管理可能な 範囲とならざるを得ないものと考えられる。
3.文化・観光に関する百選
これまでの百選が、文化・観光に関係しないわけではなく、ここでは特に文化・観光に 関係が深いと思われる百選を抽出したものである。
「農村景観百選」は、農林水産省が快適で誇りを持って居住できる活力ある美しい農村風 景を基準として選定したものである。我が国を代表する農村風景であり、単に耕作地風景 だけではなく、居住環境としての機能が歴史的に保全されていることが特徴である。
「歴史の道百選」は、文化庁が歴史的な街道等について文化財としての整備・活用のため に選定したものであり、現在は 78 選となっている。歴史的な街道について現存する部分を 選定したものである。道については国土交通省が選定した「日本の道百選」もあり、一部 は重複する部分もあるが歴史的な価値で選定しているものではない。
「さくら名所百選」は、(財)日本さくらの会という団体が選定したものである。さくらの 名所は全国に数多く存在し、花見は古来からの一大余暇行動でもある。全国自治体から 279 カ所の推薦の中から 100 カ所が選定されている。大部分が都市公園でもある。
「日本の棚田百選」は、農林水産省が棚田の保全・整備活動を推進し、農業農村に対する 理解を深めるため認定したものである。中山間地域の傾斜農地は、生産効率が悪いことか ら耕作放棄地が全国的に増加している。山間地域の農業・農村風景の代表的なものであり、
農業技術の歴史的遺産としての文化的価値は高い。また、千枚田等は見る者を圧倒する迫 力があり景観的価値も高いものである。
「日本の水浴場 88 選」は、環境省が公衆衛生上優良な海水浴場を選定したものである。
一部に前述の「白砂青松百選」「日本の渚・百選」等と重複する砂浜もある。海水浴客が 海水浴場を選定する上で必要な情報の一つである。
観光・レクリエーションの目的地選択基準の一つとしての農村風景、さくら名所、水浴 場等の情報は貴重な情報である。
4.森林レクリエーションにおける百選の活用
前述のように日本の百選はここで取り上げたのは一部であり、多くの百選が発表されて いる。概観したように個々の百選で目的地を選択するとなると、重複する地域もあってか なり複雑な選択作業をしなくてはならなくなる。
それぞれの地域が、百選を活用して情報を発信することになるが、レクリエーション行 動の主体からみると、地域から始めに選択するのではなく行動目的から選択して地域へと 狭められると考えるのが妥当なところである。こういった観点からこれらの百選をみると、
レクリエーションのための情報としてはやや不親切であろう。
山村における森林レクリエーションに視座を置いて百選の活用を考えると、単に山村地 域だけでレクリーションとしてのテーマ性のある情報を発信することにも無理がある。例 えば、さくらの名所の多くは都市公園であり、農村景観では農業地域が主体となり、歴史 の道は必ずしも山村とは限らないし、渚や白砂青松の景勝地は意外と都市の近郊に位置し ている。一方、水源や滝、巨樹・巨木地域は、山村というよりは山村の里山から更に奥の 不便な奥山にある。山村集落を挟んで、一方は下流域の都市に、一方は上流域の奥山とい うように山村集落の多くは中継地点、あるいは通過地点に位置しているとも言えよう。
山村と都市との交流を考えるとき、1山村の情報発信に留まらず、山村が歴史的に様々 に交通してきた周辺地域との関係性を森林・自然環境、生き物、水資源とその利用、農業 農村景観、沿岸域、地域の名勝・歴史的遺産等々としてより広域に資源情報を整理し、テ ーマ別に情報発信する新たなサービスを必要としていると考えられる。