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第2節  材料の加工

 本復元には五種類の材、つまり紫檀、ヤチダモ、イチイ、檜、絹を使 用した。紫檀は槽、転手、鹿頸から海老尾、乗絃、渡しと柱、更に二手 の一部に使用した。ヤチダモは腹板に使用、イチイは覆手に、フレット にあたる柱を檜とした。また、五本の絃は全て二二のものを使用した。

紫檀

 材料の加工に関わっては紫檀の琵琶といわれるほど、紫檀は五絃琵 琶の槽をはじめ、鹿頸から絃藏・海老尾、転手、乗絃、という多くの部 分に使用されている。

 紫檀は豆科に属し、紅木紫檀(コウキシタン)、紫檀、手違紫檀(て ちがい)紫檀7の三種がある。印度南部の原産でタイ、中国南部、台湾 等、ほぼ黒檀と同じ地域に分布している。唐木細工の代表的な材で、色 は赤紫色、材質は緻:密で、最も堅い材として知られている。したがって 加工が困難で、釘打ちも不可能な程である。紫檀のうちでは、江戸期の 材である深い暗紫色の、古渡紫檀が最高とされており、手違紫檀と呼ぶ 中渡、新渡は古渡に次ぐものとされている。8このように紫檀という分 類の中には色々な樹種が含まれており、正倉院の紫檀製といわれている

ものの中には様々な種類がある可能性がある。今回、使用したのは紅木 紫檀、手違い紫檀ではない一般的に紫檀と呼ばれているものである。

 日本における通常の木は乾燥に一寸一年と呼ばれる程度の時間が必要 といわれており、紫檀などの唐木の場合は更にそれ以上の時間が必要で あるといわれている。今回使用の材は数年来乾燥させたものを使用した。

十分に乾燥が終わっていると考えていたが、二枚のうち一方はこれまで の乾燥の場所の状況によるのか半年ほどの乾燥で随分狂いを生じてしま

った。

 使用した材の概寸は巾300mm x長さ1200mm x厚さ70mm、重量

はこの材料で約33kgであった。また、特に重量に関わっては気乾比重

(含水率15驚時)が約1.1であるから水には沈む程の重さである。琴、

三味線を扱っている楽器製作所がインドから輸入していたものを入手し た。黒檀同様、辺材の部分との区別がはっきりしており、しらたの部分 は白く軟らかく、乾燥の時点で既にずいぶん体積が目減りしている状態 であった。実際の切削加工における状況は新しい切り口の部分は暗紫色 であり、やや濃いめの美しい年輪様の縞模様が見える。(資料図版13 参照)時間の経過とともに暗紫色は暗い茶色に、やや明るい部分は濃褐 色に変化した。材料の切削感はやや黒檀に似ているが黒檀より粘り気が 感じられ、研磨後には美しい光沢を持った。また、墾などでの切削状況 も思った以上に良好であり加工しやすい材と思える反面、意外に繊維方 向に割れやすいという印象を持った。このことは衝撃に対する強さにも 関わりを持ってくると考えられる。

 紫檀を含む南方の材は一般的に唐木(からき)といわれるが、この名 称は今回扱う紫檀及び、黒檀、鐵刀木(タガヤサン)、紅木、花梨、白檀、

沈香などを示す語であり、中国から輸入されるものの総称である。かつ てのこれらの南方材の集散地が中国の上海及び香港であったために、全 て申国人の手を経て我が国に輸入されたからこのような名称となってい るとされている。9

ヤチダモ

 次に腹板に使用したヤチダモに関わることである。五絃琵琶の腹板に 使用されているヤチダモ様環孔材は、沢栗という名称で正倉院の他の楽 器の腹板にも同様に使用されている。例えば木壷紫檀琵琶(三三三二機).

螺錨紫檀二三、二二楓琵琶(三三鼓楽二三擬)、木画紫檀螺釦琵琶(山 水古人二二機琵琶)等の腹板はすべてこの沢栗が使用されているし、檜 和琴の裏板、甘竹鯖の帯にも用いられている。

 しかし、植物の分類学上、正式に二二という名称の植物は存在しない のである。正倉院事務所の調査の結果、トネリコ属のヤチダモの老木に 酷似していることがわかり1。、桐とかシオジの良材ではないかといわれ た時期もあったが現在ではやチダモとされている。

 ヤチダモの気乾比重は0.62〜0.71、硬く粘性があり、鉋で薄く削っ

たものを見ると環孔材といわれるように道管が目立つ。(資料図版14 参照)このことは、楽器として琴や申国のピパ等の腹板に利用される桐

と同様に多孔質であり結果として音をよく伝える特徴を持っていると考

えられる。

 この正倉院の調査結果と音をよく伝えるというヤチダモの性質から北

海道産のヤチダモを腹板に使用することとした。入手した材は巾 150rnm×長さ4000mm×厚さ50mmのものであった。また、北海道

産としたのは、このヤチダモのような広葉樹に関わっては、暖かい南の 地方のものは育ちすぎる関係から年輪が太く堅くなるので材にした時に どうしても暴れやすくなり、薄い板にするとするめを焼いたように歪ん でしまうことがある。これに対して北の地方の広葉樹、特にタモとか桜

といった道材にはそれが少ない11と言われているからである。

 ところで、このモクセイ科のヤチダモは日本特産の木であり、中国で は日本三曲柳といわれている。1桐じ環孔材のシオジも同様に日本特産 のものである。五絃琵琶の形式や使われている多くの材料を見ると大陸 で作られたことにほぼ間違いはないと思えるがこのヤチダモ様の材が中 国に存在するか否か、つまり日本の材の中ではやチダモが酷似している ことはわかったが中国大陸にその検:索の範囲を広げてみる必要があるよ うに思える。場合によっては日本で制作された、あるいは日本の材が大 陸に伝わった可能性が出てくることがあるかも知れないがこれは今後の 課題としたい。尚、劉二軍は五絃の琵琶を復元する時に音響効率の良さ から腹板材として桐を選んだことと、楽器として演奏を前提に復元する のであれば桐が最も適していると桐の使用を示唆してくれた。

 檜は針葉樹の中、松や杉、栂などと共に我が国の建築材としてごく一 般的なものである。その材質は緻密かつ強靱であり、また極めて加工性 が良く、耐久性もあり独特の芳香がある。表面仕上げが極めて良好であ り、特に心材は淡黄褐色もしくは淡紅色で優れた二二性を持っている。

しかし、この檜の柱も先行研究者である松浦経義の話では繰り返し弾く

ことで摩耗していき交換の必要が轡てくるということであり、柱の接着 には接着剤として膠を使用し、取り替えを前提としているとのことであ

った。

イチイ

 イチイは「一位」と表されたり、別名として「アララギ」という呼称 がある。また、以前は水松とも表されていたこともある。均一な肌目を 持ち、極めて加工性が良い上に仕上げ面は良好で光沢のある材料である。

材の色は薄いオレンジ色であるが加工後はだんだんと褐色に変化してい く。この材が本来この琵琶に使用されていたかどうかは不明であるが、

今回の復元では明治の修理と同様に覆手の材として使用する。乾燥比重

は0.41〜0.48であり、今回は巾100mm×長さ250mm×厚さ60mm

のものを使用した。

 以上の材料の中には今日ではなかなか手に入りにくいものもあった。

これらの材料を使用して部材の加工に入ったが五絃琵琶の構成部晶数は、

槽、腹板、鹿頸から海老尾、覆手、渡し、柱(魂柱)、乗絃各々各1、

また、柱(フレット)、転手、および絹の絃はそれぞれ5であり、計10 種類22である。

 このうち材料加工:は、五本の絃を除く9種類17の部品について行っ

た。(図エ0)

特に以下の三つの構成部品の加工については製作加工の手順の図を参照。

・槽の加工

・鹿頸から海老尾の加工

・腹板の加工

(図11)

(図12)

(図14)

9種類17の部晶の加工工程は資料に記載。(加工工程図版1〜8)

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