第 6 章 結言
6.2 本研究の課題と今後の展望
本研究を通じて水産物流通における固有の課題への一定の回答が示された.提示した手 法はいずれも現実の水産物流通構造への適用を前提としているし,いくつかの事例では実 際に物流と商流を伴う実践的な試験を行っているため,最小のコストにより実運用に供す ることが可能である.そのため,できるだけ多くの事例において本研究の成果を適用し,
知見の深化と精度の向上を目指すべきであると考えている.
極めて多様で複雑な水産物流通においては,いかなる意味においても,一意・汎用的な 流通支援の枠組みを構築することは難しい.個別の地域・商品・流通過程ごとに「価値」
は微妙に異なり,それは本研究の成果の適用についても影響する.多様性を切り捨てて抽 象化することは簡単であり,コストにおいても有利であるが,そのようにして進めてきた これまでの取組みがいずれも有効に機能しなかったことは本稿で指摘した通りである.
このように,本研究における課題は「より多くの事例への適用,特に商用を前提とした 実運用」であるということができる.そうであれば,今後の展望はそうした課題に基づい て捉えられるべきであろう.つまり,どのような分野や範囲においてそうした新しい適用 対象を見出せるかということである.
本研究は北海道函館市に軸足を置いて進められてきたが,同地では本稿執筆時現在,北 海道新幹線の開業に向けて準備が進められつつある.北海道新幹線は青森県青森市から北 海道札幌市までを結ぶものであり,本州と北海道地域を結ぶ新たな高速インフラとして期 待されている.また,航空路線でも近時,貨物専用路線が開業するなどの動きがあり,こ うしたインフラにより北海道産の魚介類を大消費地である東京や大阪に高鮮度の状態で届 けることが可能になるといわれている.そうなると,需要地主導型のオンデマンドな取引 形態が可能になってくると考えられる.つまり,消費地の要望に従って生産物を採取した り,消費地と産地が映像等を媒介にしてリアルタイムで商品を選別・発注したりするよう
図
6.1:
高速輸送インフラを前提としたEC
環境な仕組みである.こうした分野へ本研究の成果を適用することにより,より消費者の需要 に適合した効率的・効果的な
EC
の構築が可能となるだろう.また,本稿執筆時現在,農水産物の履歴開示に関する法制化が進められつつある.畜産 類においてはすでに法制化されているところだが,社会的な要請に応えて対象が拡大され る趣旨である.本稿で指摘した通り,水産物流通においてはその複雑性により履歴開示の 枠組みの構築が困難であり,法制化においても必要最小限の枠組みの提示に留まると予想 される.そうした場合に,具体的な事例に基づいて実用的な手法を提示した本研究の成果 は有効に活用され得るのではないかと考えられる.
このように,水産物を中心とした生産物の流通およびその支援手法は,社会的要請や情 報技術の発展に伴って,今後ますますそのあり方を変えていくことになると思われる.そ してそうした変化は,市場に関わるすべての要素が群として関わることにより生じる必然 性に起因している.情報技術の立場からの提案も,こうした変化に伴ってその内容を柔軟 に対応させる必要があるだろう.しかし,その時にもっとも留意すべきであるのは最新の 技術の適用でも広範な妥当性でもなく,まさに水産物を中心とした生産物の「価値」 をど うやって構成し,どのように向上させ,そのことをどう伝えていくのかという点であるこ とを指摘して,本稿のまとめとする.
謝辞
本研究は,公立はこだて未来大学教授 長野 章 博士のご指導の下に取りまとめられた.
本稿の著者は情報技術を専門としており,水産物に関してはこれまでまったく知見を有し なかったが,長野博士のご指導によりその学問分野としての奥深さと興味深さに開眼する ことができた.このことは著者の研究・実務生活における大きな事件であり,転機であっ た.また,そのような状態であるがゆえに,水産物の流通についてはいちから勉強させて いただく必要があったが,長野博士はその各分野にわたる長期かつ膨大なご経験を背景に,
常に適切かつ重要なご教示とご助言を示し続けられた.本研究は平成
18
年から3
年間に わたって行われたものだが,その間,長野博士はいつでも新鮮で鋭い視点からの問題意識 と前向きな姿勢を持続されてきた.著者が受けたご指導は,単に研究内容に関するものの みならず,研究・実務にわたるそうしたあり方すべてに及んでいた.本研究にご指導のす べてを適切に反映できたとは思えないが,長野博士のお考えのエッセンスでも表現できて いれば幸いである.公立はこだて未来大学教授 三上 貞芳 博士には,情報技術に関わるすべての事項につい てのご指導を賜った.また,三上博士は
NPO
法人水産物トレーサビリティ研究会の理事 長を兼務されており,実際の流通の現場における情報技術の適用といった視点での貴重な ご助言とご教示を頂いた.三上博士は常に論理的かつ明快な思考と行動を旨とされており,そのことは本研究の成果と著者自身に強く影響を及ぼした.本稿の構成と論理展開は三上 博士のご指導に基づく部分が非常に大きい.
公立はこだて未来大学教授 川嶋 稔夫 博士,公立はこだて未来大学教授 高橋 修 博士,
北海道大学大学院水産科学研究院 木村 暢夫 博士には本稿の取りまとめにあたって非常に 多くの有用なご助言を頂き,また,論文審査を頂いた.川嶋・高橋両博士にはご専門のお 立場から,木村博士には水産物流通に関する側面についてご教示を得ることができ,本稿 の取りまとめにあたって視野を広く保つことができた.
また,北海道大学大学院水産総合基盤システム科学分野特任准教授 古屋 温美 博士には 漁港・漁村における経済的状況等に関する貴重なご示唆を頂くとともに,論文の取りまと めについてご助言を頂いた.
本研究において実施された実証実験や実運用を通じて多数の方々の甚大なご協力を頂い た.
JF
南かやべ漁業協同組合の皆様,特に大船支所青年部の皆様には特に3
年間に渡り 継続的かつ積極的なご協力を頂いた.JF
新松浦漁業協同組合の皆様,札幌市・東京都・大 阪市・福岡市の各流通関係事業者様には,全国規模の実証実験において快くご協力を頂い た.ご商売に差し障ったであろうことについてもお詫び申し上げる.建設・水産コンサルタント企業の皆様にも実証実験を通じてご協力頂くと共に,専門的 なご助言を多数頂いた.特に,北日本港湾コンサルタント株式会社 桑原 伸司 博士および 清野 克徳 技術士,株式会社アルファ水工コンサルタンツ 若林 隆司 博士,日本データー
サービス株式会社 鳴海 日出人 博士(平成
20
年7
月より技術士事務所海洋環境デザイン)には,研究期間を通じてさまざまな形でご助言・ご指導及びご支援を頂いた.それぞれの多 様で個性的なご専門からのインプットが,本稿における多様性重視の傾向に繋がっている.
この他,本研究の遂行にあたりご協力を頂いた各地域・団体・行政機関の皆様にお礼を 申し上げる.
最後に,著者の気紛れかつ神経質な性癖をよく堪え,
3
年間にわたる研究を支えてくれ た妻 理恵 と,その愛らしさにより執筆期間の息抜きとなってくれた小さな家族たち,「魚 が好き」なことにかけては著者は足元にも及ばない みや・ねね・まき・にあ・ある に感 謝を捧げたい.参考文献
第
1
章から第2
章に関して[1]
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第