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第 3 章 B2C モデルに関する検討

3.1 南かやべオーナー制昆布

3.1.1

地域の取り組み

本章では,前述のようにオーナー制を主題とした

B2C

プラクティカルシステムの構築 と運用について報告する.対象とする商品・地域として,北海道函館市川汲町(旧南茅部)

大船地区で取り組まれている「昆布オーナー制」を選定した.

同地域は函館市の東部に位置し,太平洋噴火湾に面しており,道内では温暖・少雪の地 域である.背後には豊かな森林を擁しており,前浜は親潮と津軽暖流が交叉する恵山魚田 で,四季折々の海産資源に恵まれ,古くから漁村として発展してきた.沿岸では昆布,イ カ,サケ,マグロなど様々な魚介類の水揚げがある.

特産は昆布であり,特にその養殖については昭和

41

年より国内でも先駆けとして取り 組んでおり,現在では年間およそ

3

千トンの生産量を誇っている.これは国内の昆布生産 量の約

15%

を占めるものである.また,その品質の高さについても極めて高い評価を得て きた.かつては松前藩が朝廷や将軍家に上納していたことから「献上昆布」の別称が与え られたという.また,江戸時代に幕府により編纂された「蝦夷嶋奇観」は同地域産昆布に 触れ「天下昆布」「昆布ノ絶品」と述べている.さらに「菓子昆布」についての記述もあ り,そのまま食しても甘みがある真昆布は宮廷や将軍家において菓子として珍重されてい たことが伺われる.

同地域産の昆布は遠く北前船の時代より「白口浜昆布」と呼ばれ,上浜ものとして他産 地昆布と区別されてきた.「白口浜」というのは,昆布の身が厚くその切り口が白く見える ことに由来する呼称である.白口浜昆布からは上品で清澄な出汁が豊富に取れ,また高級 塩昆布やおぼろ等の加工にも適していたため,生産された昆布の大半が加工メーカーの多 い関西・北陸方面へ出荷されてきた.

こうした中,

JF

南かやべ漁業協同組合(本部

:

北海道函館市臼尻町

154

番地

2

)の大船 支所青年部では単なる昆布の養殖に留まらず,オーナー制の展開を検討するようになった.

上述の通り同地産昆布は高品質という評価を得てきたが,昆布はその多くが加工品として 利用されるに留まり,依然として直接調理して食べるものという認識が薄いという現状が ある.そのため,品質のみならずその利用方法等について消費者と直接触れることで密に 伝えていきたいという動機があったということである.また,北海道は昆布の名産地を複 数擁する地域であり,それぞれで明確な特徴をかたちづくって訴求していく必要があった ことも理由のひとつであったという.

3.1:

北海道函館市南かやべ地域の位置

3.2:

南かやべ漁協大船支所青年部の方々

3.1.2

制度の概要

オーナー制とは,対象物がまだ商品・製品として成熟していない段階,すなわち種や稚 苗等の状態である段階からその所有権を希望者に販売し,当該対象物に特定の生産者を担 当者として割り当てて育成を行い,成長後に製品として引き渡す販売方法である.

昆布のオーナー制はおおむね以下のようなサイクルにより運営されている.

漁業者は毎年

11

月から

1

月の間に昆布の幼体を養殖用の綱に植え込んで育成し,その 間にオーナーを募集する.

3

月から

4

月にかけて漁業者とオーナー申込者のマッチングを 行い,担当漁業者を決定する.この時点から昆布の育成が開始され,まず

5

月に間引きし た昆布を早煮昆布として製品化し,それをオーナーに送付すると同時に代金を回収する.

昆布はその後育成期間を経て

7

月から

8

月前後に収穫され,乾燥・製品化される.その後,

9

月から

10

月にかけて整形等のプロセスを経て最終製品として加工され,

10

月末前後に オーナーのもとに配送される.

3.3:

南かやべオーナー制昆布の制度概要

3.1.3

現状と課題

これまで南かやべ地域における昆布オーナー制は,上記のようにいわば地域の手作りに より維持されてきた.その拡販はチラシ・フライヤーの頒布およびクチコミが主体であり,

毎年更新するオーナーは存在していたものの,新規オーナーの獲得に難があった.そのた め,情報技術を利用した拡販が行えないものかということが生産者等の間で検討されるよ うになり,本稿の著者らが所属する公立はこだて未来大学長野研究室への技術支援の要請 に至った.

要請を受け,かねてより水産物流通における諸問題とそれらに対する情報技術の立場か らの解決手法の提案について研究を行っていた著者らは,同地域のオーナー制が水産物流 通における固有の問題点のひとつである誘引力・適合性の欠如に直面しつつあるという事 実に着目し,本研究の主題として取り扱うこととしたという経緯がある.すなわち,同地 域において生産される養殖昆布の品質は最上等と断言し得るものであり,新規オーナー数 の伸び悩みがその点に起因するとは思われがたい.また,価格面においても本オーナー制 における昆布は一般市場価格と比較して概して割安であり,これまで検討してきた近時の 消費者動向の変動を考慮すると,オーナー数は漸増すると予想されるにも関わらず伸び悩 んでいるのである.

3.1.4

本研究への適合性

以上の通り,本オーナー制はオーナー数の伸び悩みという現実に直面している.この点 について本研究ではプラクティカルシステムの検討,構築と実践的運用を通じて課題を明 確にしつつその解決手法を提示していく.

もっとも,本オーナー制においてはすでに適用されている情報技術はそれほど多くは無 く,南かやべ漁協共同加工センターの公式

Web

サイト上に商品の紹介等が掲載されてい るに過ぎない.このため,本稿で問題とする水産物流通への情報技術の適用における固有 の課題,すなわち

EC

の導入が進んでいないという点に関する検討を行うためには適さな いという見方もあるかもしれない.しかし,上述の通り本オーナー制における商品である 養殖昆布は,その品質および価格面において市場における圧倒的優位の競争力を確保して いても何の不思議もない存在であると断言できる.そしてそれに関する周知は一定程度行 われているのであり,限られた需要の範囲内における一種のブームが発生していても不思 議はない状態と言えるのではないかと考える.そうであれば,オーナー数の伸び悩みとい う事実で表象される問題は,まさに本稿における主題のひとつである固有の課題と関連し て検討されるべき「産地における生産物の付加価値創造と,価値に関する消費者への情報 発信能力」の問題として検討されるべきではないかと考えられるのである.

このように考えた場合,むしろ,前章において指摘したように,オーナー制における価 値の特殊性に関する検討を通じて産地の価値創造とその伝播手法について検討することは 非常に有意義ではないかと考えられるのである.

3.4:

南かやべ漁協共同加工センター

Web

サイトにおける広報

3.1.5

オーナー制商品の価値特性

前述の通り,オーナー制とは未成熟段階から商品の所有権を希望者に販売し,当該商品 に特定の生前述の通り,オーナー制とは未成熟段階から商品の所有権を希望者に販売し,

当該商品に特定の生産者を担当者として割り当て,成長後に製品として引き渡す販売方法 である.法的には売買契約後に当該目的物の育成や管理を売り手に委託(請負)する形態 や,目的物の所有権または占有権等を買戻特約付で移転し,その間に生じた果実を買い手 のものとする形態などがある.つまり,商品がいまだ未熟であったり,そもそも商品が存 在しない段階で対価を払い,最終的にどのような性状・分量の商品を入手できるのかは契 約時には定まらない.

ここで,オーナー制商品に関する消費者価値は単に価格の割安感や品質にのみ存する のではなく,生産物の成長過程という希少なコンテンツを生産者から直接に提供を受け楽 しむことができるという点に存することを指摘しておかなくてはならない.つまり,オー ナー制商品においては,売り切り型商品と異なり,対象物に関する情報提供のあり方の良 否が商品そのものの価値に大きな影響を与えることになる.売り切り型の商品とは,買い 手がその所有権を取得した段階で生産者との関係性がいったん切断されるような商品であ り,通常の売買契約の目的物である.このような商品の取引においては,売買前の情報の 提供が最重要視される.すなわち,契約後には売り手との関係性が切断されるために,買 い手にとっては契約前の判断がもっとも重要となる.そこで,売り手は商品の品質や状態 といった属性情報,その商品の効用や同じ商品を利用している人からの感想といった背景 情報についてあらかじめ詳しく提示しようとする.

3.5:

売り切り型商品とオーナー制商品のプロセスの相違

もっとも,売り切り型の商品においても,特に生鮮食料品等の場合には履歴情報等の提 供が生じる価値がその商品の市場価値の多くの部分を占める場合もあり得る.例えば,偽 装や危害食品の発生などが具体的に予見されていたり,あるいは昨今頻繁にそのような事 例が見られたような分野における商品等である.しかし,こうした場合に求められる情報