第 3 章 B2C モデルに関する検討
3.3 技術移転と都市漁村交流
3.3.1
情報発信における地域の自律的活動本システムは産地からの情報発信能力の向上を通じて生産物の付加価値創造およびそう した価値に関する消費者認識の向上を図り,そのことを通じて産地価格形成力の確立と地
域活力の向上を目指すものである.そのため,前項において述べたように,情報発信を生 産者である漁師が自ら,そして船の上・水揚げ場といった生産現場から臨場感をもって伝 える仕組みを実装したのである.そして著者ら水産物流通への情報技術の導入に関する支 援を行う立場の支援者らは,こうした仕組みが単なる実験に終わらず,継続的かつ有効に 利用されていくことを切望している.
以上を踏まえた場合,本システムの設計・導入に関する支援は著者ら支援機関によるも のとなることは止むを得ないもの,導入後の維持・運営および継続的な改善は生産地みず からが率先して自律的に行うことが望ましいし,そうならない限りこうした取り組みはす べて単なる一時的実験的な取り組みに終わってしまうと考えられる.著者らは,国や地方 公共団体による水産物流通に関わるさまざまな実証実験に携わり,あるいは間接的に知見 を得てきたが,そのほとんどは専門的な技術者が外部から仕組みを持ち込んで立ち上げ,
事業の終了と同時にそうした仕組みは破棄されてしまうというものであった.その要因は,
さまざまな解決困難な課題への配慮を行うあまり「正しい仕組みのあり方」にのみ注力し,
それを実際に利用するであろう生産者や流通者など現場サイドへの導入の工夫がなされな かったという点にあると考えている.
以上のようなことから,本研究では,プラクティカルシステムの検討・設計の初期の段 階から,漁師や加工センター等の生産者との協議を密に行うことを強く意識した.また,
生産者サイドにも本研究のプロジェクト担当者と呼べるような立場の方を置いていただき,
研究の進捗等は定期あるいは臨時の説明会や勉強会等を通じて常に共有するようにした.
これらにより,本研究が単に研究機関における実験的な取り組みではなく,沿岸・漁村地 域全体が関わる問題への回答を探る共同作業なのだということを認識し,地域自身の手に よる自律的・自立的活動に円滑に移行できるように配慮した.
3.3.2
生産者および沿岸域住民への技術指導本研究の成果であるプラクティカルシステムを中心とした仕組みは,最終的には地域自 身の手にゆだねられるべきであることは前述の通りである.そして,本研究の対象である 南かやべ地域における生産者等の地域住民は,少なくとも情報技術に関しては,必ずしも 高度な技術や知見を有しているとは言えない状況であった.
もちろん,本オーナー制をはじめとする当該地域の生産者には若手の方も多く,決して 情報技術アレルギーというような状態に陥っていたわけではない.たとえば一部の方は日 常生活においてインターネットを利用されていたし,漁協の支所等でも
PC
がごく一般的 に利用されていた.それでもやはり本研究で導入を目指す仕組みに関してはある程度の習 得・習熟ないしは概念の把握が必要であり,そのことに関する技術指導と講習の必要性が 認められた.また,当該地域においてはかねてより「南かやべ沿岸漁業大学」という取組みがなされ ている.これは,市の支所が中心となって運営する自主的かつ地域ぐるみの組織体であり,
外部からの招聘講師の講義を通じて沿岸域住民に漁業にまつわるさまざまな知識を提供し ようとするものである.このことにより推認されるとおり,当該地域は全体として先取の 気性に富んでおり,良いものは率先して取り入れようという気概をもっている.本研究で は,この沿岸漁業大学や地域における勉強会等を通じて,昆布養殖に直接携わる漁師等生
図
3.19:
生産者への技術指導の様子図
3.20:
平成19
年度の技術移転活動(前期)図
3.21:
平成19
年度の技術移転活動(後期)産者のみならず,当該沿岸域全体の住民の情報リテラシー向上をも目指した.
3.3.3
都市漁村交流による価値情報の発信プラクティカルシステムと直接の関連はなく,したがって本研究の目的である情報技術 の適用に関する固有の問題点の検討といった点には直接影響しない事項ではあるが,漁師 等の生産者および著者ら研究グループが行った関連活動である都市漁村交流についても触 れておきたい.確かに何らかの新しい仕組みやあり方の考案につながるものではないが,
反面,本稿の主題の一部は都市部における一般消費者の商品関与と価値評価形成という点 にあり,その意味ではこのような都市部・沿岸域の交流の現場において得られた知見は有 意義なものと考えるためである.
まず,東京都心部の小学校における食育活動への参画に関する報告である.これは,東 京都港区立青南小学校および同区立笄(こうがい)小学校との協働活動としての食育活動 であり,南かやべ産の生の状態の昆布を同小学校へ送付し,授業においてその様子を観察 させるというものである.都市部の児童にとってはそもそも生の昆布を見るのは初めてと いう場合も多かったらしく,非常に強い印象を与えたようであった.
次に,上記のような取り組みの後に,今度は実際に昆布を育てた生産者の話を児童に聞 かせたいという話が小学校側からあり,南かやべ漁協大船支所青年部の高谷大喜氏(当時,
同支所青年部長)が笄小学校を尋ね,昆布の養殖や沿岸域での生活等について説明を行っ ている.
図
3.22:
「学生と漁師の交流日記」による都市漁村交流の報告図
3.23:
港区立青南小学校2
年生らの「昆布学習」の様子図