第 6 章 本論文のまとめ
6.1 本研究の総括
第6章 本論文のまとめ
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この具体的な方法としては間接競合法と置換法がある. 間接競合法は抗原に吸 着した抗体がセンサ表面と吸着しにくくなる現象を利用して抗原の濃度を測定 している.
この方法では抗原と抗体の親和性とセンサ表面と抗体の親和性の大小関係 が重要になることを理論計算で明らかにした. 抗原と抗体の親和性がセンサ表 面と抗体の親和性より高い方が望ましい. しかし抗原と抗体の親和性は変更で きないので, 相対的にセンサ表面と抗体の親和性は低い方が望ましい. 置換法 の場合でも測定方法は異なるがこれらの親和性の差を利用しているので本質的 には同じである. また測定に影響を与える現象としてセンサ表面への非特異吸 着についても述べた. 抗体はセンサ表面の抗原類似物質を認識して抗原抗体反 応の特異的な結合によってセンサ表面に吸着している. そして抗原がセンサ表 面とのその特異的な結合を阻害することを利用して抗原の検出を行っているた め, 抗原抗体反応とは関係ない吸着があると抗原の検出が難しくなる. これは SPR センサが特異的な吸着と非特異吸着を区別できない事に由来する. そのた め非特異吸着を抑制する必要がある. その様な非特異吸着は静電相互作用や疎 水性相互作用によって引き起こされるため, これらを起こさないような表面を 作製することが重要である.
第3章ではRDXの高感度検出について述べた. この研究ではまず類似物質 とタンパク質のコンジュゲートから抗 RDX ラットモノクローナル抗体を作製 した. 次にこのRDX 抗体の結合能力を RDXとその類似物質および他の爆薬成 分に対して調べ, RDX とその類似物質との選択的な結合を確認した. 次にオリ ゴエチレングリコール鎖を持つ SAM を用いて比較的弱い親和性を持つ類似物 質を固定することで非特異吸着が少ないセンサチップを作製した. このチップ を使用し間接競合法の実験パラメータを最適化することで 40ppt の検出限界を
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第4章ではポリビニルアミンを用いてポリマー表面を作製しTNTの高感度 検出を行なった. まずポリビニルアミンの作製方法について述べた. ポリビニ ルアミンはモノマーから直接重合できないので Nビニルホルムアミドからラジ カル重合でポリビニルホルムアミドを作製し, それを加水分解することでポリ ビニルアミンを得ることが出来る. このポリビニルアミンを用いてポリマーの センサ表面を作製し, TNT 抗体の結合量を評価したところ高い抗体結合量が得 られたが同時にセンサ表面への非特異吸着が起きていることが分かった. これ はTNT類似物質であるDNP-Glyはポリビニルアミンのアミノ基に固定される が, 未反応のアミノ基がプロトン化して正に帯電していることが原因と分かっ た. そこでポリビニルアミン(poly-VAm)作製時のポリビニルホルムアミド
(poly-NVF)の加水分解率を制御することで poly-VAm-co-NVF としてポリマー
鎖中のアミノ基の量を減らすことで未反応のアミノ基の量も減り非特異吸着を 抑制した. このpoly-VAm-co-NVFポリマー表面を用いて間接競合法でTNTの 検出を行ったところ検出限界は28 pptとなった.
第5章ではポリマー表面の作製方法として表面開始原子移動ラジカル重合
(SI-ATRP)を用いてセンサ表面を作製した. この方法はセンサ表面の形成され
たSAMから直鎖状ポリマーが成長するという方法で, 複数のポリマーを直列に 接続できる特徴や反応時間によってポリマー鎖の長さを制御できるという特徴 を持つ. まずポリマーの成長反応である原子移動ラジカル重合(ATRP)について 説明した. ATRPは精密ラジカル重合ないしリビングラジカル重合と呼ばれる重 合反応の一つである. その反応の大きな特徴は反応を停止した後も適切な反応 溶液を加えると反応を再開するというリビング性を持っていることである. こ れを活かして複数種のモノマーの反応液を段階的に使用することでそれらのポ
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リマーが直列に接続されたブロックポリマーも作ることができる. また ATRP では通常のラジカル重合で得られるポリマーの分子量を決定している停止反応 が起きにくいので, 反応時間に比例して分子量が増加しその分布も非常に狭い ポリマーを得ることができる. 一方で反応機構が複雑で様々なパラメータの影 響を受けやすい重合法でもある. このATRPを用いたSI-ATRPでポリマー表面 を作製した.
まずMES:DEAEMの混合モノマーを用いてpoly-MES-co-DEAEM表面を
作製した. TNT抗体の結合サイトであるTNT類似物質としてDNP-hdrzを用い たが, このアミノ基を持つDNP-hdrzはMESのカルボキシル基にアミンカップ リングで固定される. 一方でDNP-hdrzと未反応のMESも残っており, これは カルボキシル基を持つため負に帯電する. 表面が電荷を持つと非特異吸着が起 きるので正の電荷を持つ DEAEM と混合することでその電荷を中和した.
MES:DEAEM の混合比を変えることで非特異吸着が抑制され, かつ TNT 抗体
の結合可能なセンサ表面を作製できた. 次にSI-ATRP の開始剤となるSAM 試 薬DTBUに開始剤とならないSAM試薬HEg3UTを混合させて混合SAMを作 製した. その目的はSI-ATRPの開始点の密度を変化させることでポリマーの密 度を変化させセンサ表面と抗体の親和性を制御することである. その結果, DTBU の割合が小さくなるほど親和性の高いセンサ表面となり制御することが できた. これらのセンサ表面を用いて間接競合法にて TNT を検出したところ, 親和性の低い表面ほど検出限界が低かった. これは間接競合法の理論的にも一 致する. その中で最も高感度な結果として検出限界5.7 pptが得られた.
次にpoly-MES-co-HEMAポリマー表面の検討を行った. これはMESに対
して電気的に中性かつ親水性である HEMAを10 倍程度加えることで非特異吸 着を抑制した. またセンサ表面と抗体の親和性を制御するためにポリマー鎖中
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の抗体の結合サイトの存在密度を変化させた. これはMESに対してHEMAが モル比で10倍以上混合される領域で混合比を変化させてDNP-hdrzの固定され るMESの濃度を変化させた. MESに対してHEMAの量が大きくなるほど親和 性の低い表面が得られ, その混合比で親和性を制御できた. これらのセンサ表 面を使用して間接競合法にてTNTの検出を試みたが上手くいかなかった. そこ で置換法にて検出を試みたところ最も親和性の低い表面で 0.4 ppb の検出限界 が 得 ら れ た. SI-ATRP を 用 い た ポ リ マ ー 表 面 の 作 製 を 通 し て は
poly-MES-co-DEAEMを用いた時の検出限界が最も低く5.7pptであった. ポリ
マー表面を用いることで高感度検出が実現できた.