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2.5 臨床に関する概括評価

2.5.4 有効性の概括評価

2.5.4.5 有効性の結論・まとめ

主たる有効性を評価したMCI186-19試験の結果から,本剤の臨床的意義を考察した.

公表文献を用いた考察では,Scopus,PubMed,Embase.com の 3つの文献データベースを 用いて,Keywordを“als or amyotrophic lateral sclerosis”と“alsfrs-r or alsfrsr”,対象期間を1994 年以降のArticleで検索した116件の文献を用いた.

(1) 主要評価項目ALSFRS-Rスコアの結果の臨床的意義

1) ALSFRS-Rスコアの主要解析の結果の臨床的意義

主要評価項目の主要解析として実施したALSFRS-Rスコアの「第1クール投与開始前」と

「第6クール投与終了2週間後又は中止時(LOCF)」の差(LSMean±S.E.)は,M群:-5.01±0.64, P群:-7.50±0.66,投与群間差のLSMean±S.E.とその95%信頼区間は2.49±0.76(0.99~3.98)

であり,ALSFRS-Rスコアの低下は投与群間で統計学的に有意な差を認めた(p=0.0013).

ALSFRS-Rスコアの投与群間差2.49の臨床的意義について,公表文献を用いて考察した.

他剤の ALS を対象としたプラセボ対照 Controlled study の治験において,プラセボ群の ALSFRS-Rスコアは1ヶ月に約0.9~1.2低下するとの報告があった11)23)24).MCI186-19試

験のP群のALSFRS-Rスコアの低下は1ヶ月間で1.25であり,若干進行が早かったものの,

おおむね他剤の治験結果と同様であり,他の公表文献で示された数値との比較が可能である

と考えた.

初回来院時のALSFRS-Rスコアが1低いと,後の死亡又は気管切開のリスクが7%高いと の報告 25)から,本剤によるALSFRS-R スコアの投与群間差2.49についても,死亡又は気管 切開のリスクについて抑制が期待できると考えた.

ALSFRS-R スコアそのものの投与群間差に加え,スコアの低下の割合についても,併せて

臨床的意義を考察した.

6クール投与でのALSFRS-Rスコアの低下は,P群の7.50に対しM群は5.01であり,M 群の低下はP群の66.8%に留まり,33.2%進行が遅くなったと考えた.

公表文献では,ALSFRS-Rと生存期間に関してALSFRS-Rスコアの低下を16.5%遅くする ことは4~5ヶ月の生存期間を延長するとの報告があり26),本剤によるALSFRS-Rスコアの 低下抑制の投与群間差は 16.5%以上であることから一定の生存期間の延長が期待できると考 えた.

また,臨床医等の調査結果で,ALSFRS-Rスコアの低下の傾きが25%以上抑制された場合,

調査に参加した全員が臨床的に意味があると回答したとの報告があり27),本剤のALSFRS-R スコアの低下抑制の投与群間差33.2%は25%を上回ることから臨床医等も臨床的に意味があ ると回答する抑制効果があると考えた.

更に,ALSFRS-Rスコアの変化量と経時変化からも,投与群間差の臨床的意義を検討した.

本治験の ALSFRS-R スコアの推移より本治験におけるALS の病態は,ほぼ直線的に悪化し

ており,6クールの投与でALSFRS-Rスコアの低下を66.8%に抑制したことは,P群での約6 ヶ月間の病勢進展の66.8%分,つまり2ヶ月分の病勢進展を抑制することが期待できると考 えた.実際,M群の第6クール投与終了2週後のALSFRS-Rスコア(37.5)は,P群の第4 クール投与終了2週後のスコア(37.8)と同程度であり,M群の6ヶ月後の状態にP群では 4ヶ月時点で到達しており,6クールの投与で2ヶ月分の病勢進展を抑制することが期待でき ると考えた.

以上のことから,主要評価項目ALSFRS-Rスコアの主要解析の結果は,本剤は死亡又は気 管切開のリスクの軽減及び病勢進展の抑制が期待できることから臨床的に意義があると考え た.

2) ALSFRS-Rスコアの副次解析結果の臨床的意義

ALSFRS-Rスコアについて,副次解析としてALSFRS-Rスコアが第1クール投与開始前か

ら12以上低下した場合をイベントとした生存時間解析では,イベント数は投与群間で統計学 的に有意な差を認めた(層別Log-rank検定 p=0.0261,層別一般化Wilcoxon検定p=0.0208).

ALSFRS-Rスコア低下の12については,他人の手助けを要しない状態の維持という観点か

らイベントに定義した.ALSFRS-R の1項目は4が正常,0が全く出来ない状態であり,正 常の4又は他人の手助けを要しない3と比較して,2は道具の使用又は他人の手助けを要す る状態,1は介助を要する状態,0は介助が不可欠な状態であることから,2以下にならない 状態が他人の手助けを要しない状態を意味するものと考えた.MCI186-19試験では,第1ク

ール投与開始時のALSFRS-Rスコアの最大は47であり,この被験者でも12スコアが低下す ると,少なくとも1項目で2以下がある状態となること,第1クール投与開始時のALSFRS-R スコアの平均点は41.9であり,平均点のALSFRS-Rスコアの被験者が12低下すると,トー タルスコアが30を下回り,少なくとも12項目中5項目で2以下が生じることから,ALSFRS-R スコアが12以上低下した場合は日常生活への支障が非常に大きいと考えた.更に,ALSFRS-R は1の低下の意味が大きいスケールであり,イベントに定義した12の低下は,計算上全12 項目が平均して1低下した状態,つまり他人の手助けを要する状態にならないことは臨床的 に大きな意味を持つと考えた.

以上のことから, ALSFRS-Rスコアで12以上低下した被験者の割合がP群と比較してM 群で統計学的に有意に少なかったことは,本剤の投与により他人の手助けを要しない状態の 維持が期待できることから臨床的に意義があると考えた.

3) ALSFRS-Rスコアのその他の結果の臨床的意義

(i) ALSFRS-Rのドメイン解析

ALSFRS-Rの球症状,四肢症状,呼吸機能の3つのドメインのうち,ALSFRS-Rスコア(球

症状)の「第1クール投与開始前」と「第6クール投与終了2週間後又は中止時(LOCF)」

の差(LSMean±S.E.)は,M群(68名):-1.35±0.24,P群(66名):-1.93±0.25,投与群間差 のLSMean±S.E.とその 95%信頼区間は0.58±0.29(0.01~1.15)であり,ALSFRS-Rスコアの 低下は投与群間で統計学的に有意な差を認めた(p=0.0448)[2.7.6 表 2.7.6.1-21].また,

ALSFRS-Rスコア(四肢機能)の「第1クール投与開始前」と「第6クール投与終了2週間

後又は中止時(LOCF)」の差(LSMean±S.E.)は,M群(68名):-3.50±0.51,P群(66名):

-5.12±0.53,投与群間差のLSMean±S.E.とその95%信頼区間は1.61±0.61(0.42~2.81)であり,

ALSFRS-R スコアの低下は投与群間で統計学的に有意な差を認めた(p=0.0087)[2.7.6 表

2.7.6.1-22].ALSFRS-Rスコア(呼吸機能)の「第1クール投与開始前」と「第6クール投

与終了2週間後又は中止時(LOCF)」の差(LSMean±S.E.)は,M群(68名):-0.16±0.13, P群(66名):-0.45±0.13,投与群間差のLSMean±S.E.とその95%信頼区間は0.29±0.15(-0.01

~0.60)であり,ALSFRS-R スコアの低下は投与群間で統計学的に有意な差を認めなかった が(p=0.0593)[2.7.6 表2.7.6.1-23],P群と比較してM群での低下は緩徐であった.

ALSFRS-R は,球症状は会話,嚥下等,四肢症状は書字,摂食動作,着衣・身の回りの動

作,寝床での動作,歩行,階段登り等に関する症状を評価するスケールであり,これらの症 状に関するドメインでM群がP群と比較して統計学的に有意なスコアの低下抑制を認めたこ とは,被験者の日常生活において上記機能の病態進展を抑制することが期待できることから 臨床的に意義があると考えた.

(ii) 治験期間中にALSFRS-Rスコアの低下を認めなかった被験者数

投与群別の被験者ごとの「第1クール投与開始前」と「第6クール投与終了2週間後又は 中止時」のALSFRS-Rスコアの変化量を図 2.5.4.5-1に示した.

MCI186-19試験の被験者137名のうちALSFRS-Rスコアに低下を認めなかった被験者はP 群で4/68名(5.9%),M群で9/69名(13.0%)であった.前観察期(12週間)のALSFRS-R スコアの変化量の選択基準で-1~-4と規定しており,これらの被検者での平均はM群で-1.6, P群で-1.5であった.ALSは有効性の確立された治療法のない進行性の疾患である現状を考 慮すると,治験期間中にALSFRS-R スコアが低下しなかったことは,ALSに対する治療上,

著効に近い状態であると考えた.該当する被験者数は少ないが,P群と比較してM群で該当 被験者が多かったことは臨床的に意義があると考えた.

図 2.5.4.5-1 被験者ごとの6クール投与時のALSFRS-Rスコアの変化量

(MCI186-19試験二重盲検期,FAS)

P群:プラセボ群,M群:MCI-186群.

被験者数:P68名,M69名.

[5 3.7-1 付録 16 2.6 1より引用(作図)]

(2) 副次評価項目ALSAQ40

「第1クール投与開始前」と「第6クール投与終了2週間後又は中止時(LOCF)」のALSAQ40 スコアの差(LSMean±S.E.)は,M群:17.25±3.39,P群:26.04±3.53であった.投与群間差 の LSMean±S.E.とその 95%信頼区間は-8.79±4.03(-16.76~-0.82)であり,ALSAQ40スコア の上昇は,投与群間で統計学的に有意な差を認めた(p=0.0309).

ALSAQ40 はALSに対する疾患特異的QOLスケールとして標準的に用いられており,本

剤に対する被験者の満足度を被験者自身の自覚症状を基に評価するために設定した.QOLは,

1 0 -1 -2 -3 -4 -5 -6 -7 -8 -9 -10 -11 -12 -13 -14 -15 -16 -17 -18 -19 -20

1 0 -1 -2 -3 -4 -5 -6 -7 -8 -9 -10 -11 -12 -13 -14 -15 -16 -17 -18 -19 -20 10

10

5

0 被験者数(名)

被験者数(名)

ALSFRS-Rスコア 変化量

ALSFRS-Rスコア 変化量 P

M 5

0

その疾患の重症度だけでなく社会生活や人生観及び疾病に対する構えなどにも影響されるも のであり,特にALSは社会的支援を必要である疾患であるために,身体機能だけでなく心理 面を含めてのQOLの評価が重要である20).ALSAQ40で,投与群間で統計学的に有意な差を 認めたことは,本剤の投与が被験者の満足及び QOL 低下の抑制に通じていることから臨床 的に意義があると考えた.

(3) その他の副次評価項目

Modified Norris Scaleに関しても,Modified Norris Scale(合計)で,「第1クール投与開始 前」と「第6クール投与終了2週間後又は中止時(LOCF)」のスコアの差(LSMean±S.E.) は,M群:-15.91±1.97,P群:-20.80±2.06であった.投与群間差のLSMean±S.E.とその95%

信頼区間は4.89±2.35(0.24~9.54)であり,投与群間で統計学的に有意な差を認めた(p=0.0393).

Modified Norris Scaleは運動障害を評価するため設定した項目であることから,投与群間で統

計学的に有意な差を認めたことは,運動障害の抑制につながることが期待できることから臨 床的に意義があると考えた.

また,ALSに対して唯一承認されているリルゾールの海外で実施された臨床試験で,主要 評価項目のうちの1つがModified Norris Scaleであったことから,リルゾールの試験結果を基 に本剤の結果を考察した.12ヶ月の評価期間でリルゾール群とプラセボ群の差の平均値±S.E.

は,Limb Norris Scaleで6.3±5.2(p=0.22),Norris Bulbar Scaleで2.5±3.0(p=0.42)であった

28).M群とP群の差のLSMean±S.E.は,6クール(約6ヶ月)の評価期間でLimb Norris Scale で3.44±1.92(p=0.0757),Norris Bulbar Scaleで1.46±0.90(p=0.1092)であり,群間差はいず れもリルゾールの試験結果の 1/2 程度であった.単純な比較はできないものの,本剤の評価 期間がリルゾールの 1/2であることを考慮すると,本剤の試験結果はリルゾールの海外で実 施された試験結果とおおむね同程度の意義を持つと考えた.

死亡又は一定の病勢進展までの期間,%FVCについては,投与群間で統計学的に有意な差 は認めなかったものの,本剤の有効性を示唆する結果であった.

MCI186-19試験では,いずれの副次評価項目においてもM群はP群と比較して病勢進展を

抑制することを示唆する結果であったことから,ALSFRS-R スコアによる結果から期待され る臨床的意義を支持するものと考えた.

以上のことから,ALSに対して本剤の客観的な有効性が示せたと考えたことから,本剤は,

以下の効能・効果,用法・用量で,「治療法の選択肢」となりうる薬剤であると考える.

【効能・効果】筋萎縮性側索硬化症(ALS)における機能障害の進行抑制

【用法・用量(ラジカット注30mgについて記載)】

通常,成人に1回2管(エダラボンとして60mg)を適当量の生理食塩液 等で用時希釈し,60分かけて1日1回点滴静注を行う.

本剤投与と休薬の組み合わせを 1クールとし,これを繰り返す.通常,

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