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2.5 臨床に関する概括評価

2.5.6 ベネフィットとリスクに関する結論

ALSは,病勢の進展により上肢の機能障害,歩行障害,構音障害,呼吸障害等が生じ,患 者の QOL が著しく低下する疾患であり,病勢の進展は比較的早く,人工呼吸器を用いなけ れば通常2~5年で死亡に至る.

ALSの原因は不明であり,現在のところ,嚥下障害に対する胃瘻設置や呼吸困難に対する 人工呼吸器装着等の対症的な治療及び療法が中心であり,ALSの病勢進展を止め治癒させる 確立された治療法はなく,有効な薬剤の開発が望まれている.

2.5.6.1 ベネフィット

(1) ALS患者に対して病勢進展の抑制が期待できる.

主たる有効性を評価したMCI186-19試験で,有効性の結果の臨床的意義を考察した.

主要評価項目の主要解析として実施したALSFRS-Rスコアの「第1クール投与開始前」と

「第6クール投与終了2週間後又は中止時(LOCF)」の差(LS Mean±S.E.)は,M群:-5.01±0.64,

P群:-7.50±0.66,投与群間差のLSMean±S.E.とその95%信頼区間は2.49±0.76(0.99~3.98)

であり,ALSFRS-Rスコアの低下は投与群間で統計学的に有意な差を認めた(p=0.0013). ALSFRS-Rスコアの投与群間差2.49については,初回来院時のALSFRS-Rスコアが1低い と,後の死亡又は気管切開のリスクが 7%高いとの報告から 25),死亡又は気管切開のリスク について抑制が期待でき,臨床的意義があると考える.

ALSFRS-Rと生存期間については,本治験では約6ヶ月間においてP群の低下が7.50に対

しM群では5.01とM群の低下はP群の66.8%に留まり,33.2%進行が遅くなったと考えた.

ALSFRS-Rスコアの低下を16.5%遅くすることは4~5ヶ月の生存期間を延長するとの報告か

26),本剤による一定の生存期間の延長が期待できると考える.また,ALSFRS-Rスコアの 低下の傾きが25%以上抑制された場合,調査に参加した全員が臨床的に意味があると回答し たとの報告からも27),本剤の投与群間差は臨床医等も臨床的意義を認めるものと考える.

ALSFRS-Rスコアの変化量と経時変化については,本治験のALSFRS-Rスコアは,ほぼ直

線的に低下しており,約6ヶ月間でALSFRS-Rスコアの低下を33.2%抑制したことは,P群 での約6ヶ月間の病勢進展を2ヶ月分抑制することが期待できると考える.実際,M群の第 6クール投与終了2週後のALSFRS-Rスコア(37.5)は,P群の第4クール投与終了2週後の スコア(37.8)と同程度であり,M群の6ヶ月後の状態にP群では4ヶ月時点で至っていた ことからも,病勢進展の2ヶ月分抑制を期待できることを支持するものと考える.

以上の主要評価項目ALSFRS-Rスコアの結果から,本剤は臨床的に意味のある病勢進展の 抑制が期待できると考える.

副次評価項目では,ALSに対する治療上の真のエンドポイントたる死亡又は一定の病勢進 展までの期間については,本治験はイベント試験として計画していないこともあり,

MCI186-19試験では投与群間に統計学的に有意な差は得られなかったものの,本剤の有効性

を示唆する結果であった.その他のいずれの副次評価項目についても,M群はP群に比し病 勢進展を抑制することを示唆する結果であったことから,ALSFRS-R スコアの結果から期待 される臨床的意義を支持するものと考える.

MCI186-19試験における被験者の同意取得時点での平均罹病期間はP群1.06年,M群1.13 年であり,前観察期の12週間を考慮すると発症から第1クール投与開始時点まではP群で 約16ヶ月,M群で約17ヶ月が経過している.更に第6クール終了時ではP群で約22ヶ月,

M群で約23ヶ月となる.ALSの生存期間に関しては,報告により差はあるが発症からの生 存期間の中央値は 20~48ヶ月の範囲であり 29),病勢進展が急速であることを示している.

本剤の投与時期は,生存期間の中央値を超えるあるいは半分を過ぎており,病勢の進展によ り残りの生活に対し非常に不安を覚える時期であると考えた.

更に,第1クール投与開始時のALSFRS-RスコアのM群の平均点は41.9であったが,こ の状態からP群の約6ヶ月の変化量である7.50低下した場合,日常生活動作と家事,買物,

交通機関の利用等の手段的日常生活動作の両方の面で機能が著しく低下し,ほぼ全面的な介 護を要する「要介護 3」程度に進行していると考えられる.この場合,介護費用も相当増加 し,家族等の付きっ切りの介護も必要となり大きな負担と考えられるが,本剤はこの状態に 至る期間を延長すると考えることから臨床的意義は大きいと考える.

この様な患者の状況において,約6ヶ月間でM群はP群と比較して日常生活機能の評価ス ケールであるALSFRS-Rスコアにおいて病勢進展を66.8%に抑制し,約2ヶ月分の病勢進展 の抑制が期待できることは臨床的意義が大きいと考える.

(2) ALS患者の日常生活機能の低下抑制が期待できる.

日常生活機能を評価するALSFRS-Rは会話,嚥下等の球症状,書字,摂食動作,着衣・身 の回りの動作,寝床での動作,歩行,階段登りに関する四肢症状,呼吸機能の3つのドメイ ンを評価するスケールであり,このうち球症状,四肢症状に関するドメインの解析でM群は P群に比し統計的に有意なスコアの低下抑制を認めた(球症状:p=0.0448,四肢症状:p=0.0087). このことは被験者の日常生活において具体的な上記機能の病態進展を抑制することが期待で きると考える.

呼吸機能に関する ALSFRS-R のドメイン解析においても呼吸に関するスコア 12 の内,P 群の低下は-0.45,M群の低下は-0.16であり,統計的には有意ではなかったが(p=0.0593),P 群に比しM群での低下は緩徐であった.%FVCにおいてもP群の低下は-20.40%,M群の低 下は-15.61%であり,統計的には有意ではなかったが(p=0.0942),P群に比しM群での低下 は緩徐であった.

(3) ALSの重症化を抑制することが期待できる.

ALSFRS-R スコアについて,副次解析としてALSFRS-R スコアが12 以上低下した場合を

イベントとして解析した結果,投与群間で統計学的に有意な差を認めた(層別Log-rank検定

p=0.0261,層別一般化Wilcoxon検定p=0.0208).

ALSFRS-Rスコア低下の12については,MCI186-19試験の被験者のALSFRS-R スコアが 12以上低下した場合,日常生活への支障が非常に大きくこのような状態にならないことは臨 床的に大きな意味を持つと考えたことから,他人の手助けを要しない状態の維持という観点 でイベントに定義した.ALSFRS-R スコアで12以上低下した被験者の割合がP群に比しM 群で統計学的に有意に少なかったことにより,本剤の投与により日常生活機能の重症化を抑 制することが期待できることは臨床的意義をもつと考える.

(4) ALS患者のQOLの低下抑制が期待できる.

ALSAQ40において主要評価項目の主要解析と同様な解析を実施したところ,P群は26.04

の悪化に対し,M群は17.25の悪化に留まり統計学的に有意な差を認めた(p=0.0309).

ALSAQ40は,ALSに対する疾患特異的QOLスケールとして標準的に用いられており,本

剤に対する被験者の満足度をアンケート形式で評価するために設定した項目である.

ALSAQ40 は,歩いているときの問題,上肢の動きに関する問題,飲み込み・食事・会話に

関する問題,さみしい・希望がもてない・ゆううつ感・将来への不安に関する問題について 各10項目ずつ計40項目が設定されている.ALSは原因不明の疾患であり,症状の改善や進 行を阻止する治療は見出されておらず,人工呼吸装置の進歩等により患者の余命は延長して いる一方で,不自由な体になっても知能と感覚は全く正常であり,患者と家族の苦悩は深刻 である.ALSは社会的支援を必要とする疾患であり,身体機能だけでなく心理面を含めての QOLの評価は重要と考える.ALSAQ40において投与群間で統計学的に有意な差を認めたこ とは,被験者が実際に感じている又は今後直面し得る身体的・精神的な問題の進行抑制を示 唆するものであり,被験者にとってQOLの低下抑制の意義は非常に大きいと考える.

(5) ALSの患者に対して,新たな治療の選択肢となりうる.

現在,本邦でALS に対して唯一承認されているリルゾールは,添付文書中に「国内第 III 相二重盲検試験において,プライマリ・エンドポイントである『一定の病勢進展』又は『死 亡』までの期間についてプラセボに対する有効性は検証されなかった.また,観察期間 18 ヶ月の使用成績調査における生存率は国内第III相二重盲検試験と同程度であった」と記載さ れており12),「年齢やALS病勢進展の程度にかかわりなく投与が推奨されるが,生存期間を 平均2~3ヵ月延長する延命効果があること,運動機能や筋力に対する改善効果は期待し難い ことを十分患者・家族に説明し,同意を得たうえで継続投与することが推奨される」とされ ている 17).しかし,本剤は国内の臨床試験の成績より ALS における機能障害の進行抑制が 期待できることから,新たなALS治療の選択肢となることが期待できる.

本剤の臨床試験からは,リルゾールとの相互作用を示唆する有害事象は認めず,また,in

vitroの薬物相互作用試験の結果から相互作用を生じる可能性が低いことから,既にリルゾー

ルを使用している患者に対しても,治療の選択肢が広がることが期待できる.

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