BaTiO 3 -LiCoO 2 複合正極における出力特性
3.3. 電池充放電中 XAFS 測定
3.3.4. 時分割 DXAFS 測定
図3.3.5にDXAFSにてエネルギー範囲を7.710-7.735keVとしたときのCo K殻吸収端の
測定結果を示す.このときセルは 10C で充放電試験を行った.図中の黒丸黒線は低電位側
(3.3V)のスペクトルを示し,白丸赤線は高電位側(4.5V)のスペクトルを示す.スペクトルに
ノイズが多いのは,セルを10Cという高レートで急速充放電しつつ各スペクトルのX線照 射したため,X線照射時間が1秒という非常に短時間であったためである.図中の矢印の向 きは充放電時の吸収端エネルギーシフトの方向を示している.これらのスペクトルをノー マライゼーションで平滑化し,ホワイトラインのピークにおけるエネルギーE1を定容量の 関数として定義した.このとき急速充放電セル中のピークエッジから決定された吸収エネ ルギーを用いるとX線照射時間が 1秒という非常に短時間であったことから,わずかに光 子係数の統計誤差が含まれてしまうと考えた.そのため平滑化補正後のスペクトルのホワ イトラインのピークトップのエネルギーを採用した.小山ら[9]はすでに第一原理計算で 様々な結晶構造を決定したLCのXANESスペクトルを報告している.さらに彼らはLCの CoO2層および岩塩層状構造・スピネル構造・ジグザグ―層状構造などのLC 多形体につい て,ホワイトラインピークエネルギーおよびピークショルダー形状の違いも報告している.
この報告を鑑みるとE1の絶対値で Co 原子価状態を定量的に決定するには細心の注意が必 要であることがわかった.しかし LCは充放電時,4.55V辺りで O3 相から H1-3 相に変化 し,4.62V辺りでH1-3相からO1相へ変化する[10-12]が今回の実験では上限電位が4.5Vで ありこの電圧は相転移電位よりもわずかに低い.加えて、10Cという高レートにおける充放 電しながらの XAFS 測定で用いたラミネートセルの放電容量は事前に行った充放電試験で の初期容量と比べ顕著に小さい.この現象は Co の価数変化シフト,つまり Liの挿入脱離 反応量が低レート試験のときよりもはるかに小さくなければならないことを示している.
以上より図3.3.5に示した未処理LCと複合正極においてXANESスペクトルの差異が残り つつも,3 試料において充放電中に発生した E1シフトの大きさを比較できると判断した.
一方常誘電体のAl2O3-LC複合正極の値と、強誘電体BT-LC複合正極試料のXANESスペク
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トルは類似していたためこのまま比較可能であると判断した.
図3.3.6に未処理LC,Al2O3-LC複合正極,BT-LC複合正極の2サイクル分の積算容量と
E1の相関性を示す.充電によるE1値の上昇はCoイオンの酸化(Co3+→Co4+)を意味し,放電 時のE1値の低下はCoイオンの還元(Co4+→Co3+)を意味する.E1はどの試料でも直線的に変 化していることから,充放電時,特に高電位である4.5V以上で発生する相転移が起こらな いことが分かった.未処理LCと各複合正極を比較するとBT-LC複合正極において最もE1
の振幅,つまりCoの価数変化エネルギーシフトが大きいことが判明した.一方Al2O3-LC複 合正極のエネルギーシフトは,未処理LC のものよりわずかに大きいという結果となった.
E1シフトの大きさは,未処理LC (0.264eV) < Al2O3-LC複合正極 (0.497eV) < BT-LC複合正
極 (1.15eV)の順に増加した.この傾向は表3.3.1で示した高レート時の放電容量と一致する.
未処理LCと複合正極試料は初期のCo価数状態を示すホワイトラインのピークショルダー 辺りの XAFS 分析が一致していないため,エネルギー値の絶対値で比較することはできな いが,複合正極試料間では図3.3.4の初回XAFSスペクトルが一致してるためエネルギー値 の絶対値で比較することが可能である.BT-LC複合正極において充電前のE1がAl2O3-LC複 合正極よりも0.3eVほどわずかに高かったが,充電後は0.95eV増加という大きな変化が生 じた.これはE1の増加がより高い電位つまり強い電場の印加によって増強されたことを意
味し BT-LC 複合正極は Al2O3-LC 複合正極と比較して出力特性を改善する効果が高いこと
を示す.つまり低誘電率な酸化物人工 SEIに比べ,高誘電率である酸化物人工 SEIには出 力特性向上効果として充電容量の増加に寄与していると推察できる.
誘電分極の強さは電界強度に比例することから,充電サイクル中の電位に伴って誘電体 人工 SEI に生じる誘電分極が増大する.増大した分極によって活物質―電解液界面におい てより強い双極子モーメントが発生する.これにより活物質からのLiイオン拡散が著しく 低下する高レート(例えば 10C)においてもLiイオンの挿入/脱離反応を円滑化する可能性が 示唆された.常誘電体Al2O3と比較して,強誘電体BTの急速充電時に観察される大きいCo 酸化は,強誘電体BTのより大きな誘電率に起因する分極の増大に起因するのではないかと 考えられる.
75 参考論文
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図3.3.1 (a)ラミネートセルの外観 (b)赤色部分が正極,黄色部分が負極 (c)ラミネート
セルの断面図 (紫色:セパレータ)
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図3.3.2 評価試料の各初回サイクルの充放電曲線
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図3.3.3 ラミネートセルにおける電池評価結果
表3.3.1 測定サンプルごとの各放電容量,容量保持率
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図3.3.4 Co K殻吸収端近傍のXANESスペクトル
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図3.3.5 Co K殻吸収端近傍のDXAFS
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図3.3.6 積算容量とE1の相関性
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