• 検索結果がありません。

1.『新教育指針』

 連合国軍の教育政策の方針を受け,文部省から出されたのが『新教育 指針S(1946.5)1)である。これ}こよって,現場教師は戦後教育改革のは っきりした方向を初めて示され,大きな影響を受けた。この書は,文部 省がCIE2>との緊密な連絡のもとに作成したものであり,アメリカの 占領政策の宣伝の臭いを強く有しているが,全体を通して平和主義の内 容となっている。

 第一章,序論「一,日本は今どんな状態にあるのか」は,戦争という 直接的暴力の結果ポツダム宣言を受け入れ,連合国の要求するがままに されるという占領された状態になっていることを述べている。そして,

「二,どうしてこのような状態になったのか」は,次のように述べてい

る3)。

国民をこの戦争へと導いた指導者達に責任があるのである。(申略)

今日軍人や政治家や財界人や思想家などのうちで,戦争責任者とし て,マッカーサー司令部から指名せられ,もしくは日本国民から非 難せられている人々は,こうしたあやまちをおかし差人々である。

 しかし,指導者たちがあやまちをおかしたのは,日本の国家の制 度や社会の組織に色々の欠点があり,さらに日本人の物の考え方そ のものに多くの弱点があるからである。国民全体がこの点を深く反 省する必要がある。特に教育者としてはこれをはっきりと知ってお かなければならない。次にこれらの欠点,弱点を挙げてみよう。

一31一

(1)日本はまだ十分に新しくなりきれず,旧いものが残っている。

(2)日本国民は,人実性・人格・個性を尊重しない。

1(3)躰国民は識糊精徽乏しく繊に離し易い・

i(4)日本国民は合理的精神に乏しく科学的水準が低い。

(5)日本国民は,ひとりよがりで,おおらかな態度が少ない。

 このように,直接的暴力としての戦争の責任追及とともに,「日本の 国家制度や社会組織の欠点」という言葉で,戦前・戦中の日本社会の構 造的暴力をも指摘していると捉えることができる。

 第二章では,『軍国主義及び極端な国家主義の除去」,第三章では,

「人間性・人格・個性の尊ig 」,第五章では,「民主主義の徹底」が説 かれている。すなわち,直接的暴力としての軍国主義を排除し,非軍備

・平和国家を目指している。また,構造的暴力と『 オての封建遺制や極端 な国家主義を否定し,それに代わって人間尊重と民主主義を目指してい るのである。(表3参照)

戦争中 これからの日本 直接的暴力

¥造的暴力

 軍国主義

ノ端な国家主義

i国家中心)

反省 諜軍備・平和国家 ッ主主義的文化国家

@ (人間中心)

         (褒3)暴力論からみた『薪教育指針aの構造

 『新教育指針』は,軍国主義を直接的暴力につながるものとして捉え ているとともに構造的暴力としても捉えている。すなわち,第二章にお いて軍国主義と政治の関係,軍国主義と経済の関係,軍国主義と文化の 関係,軍国主義と国際問題の関係を構造的に捉えている。そして,軍人 の特権や軍事経済による国民生活の曲論,文化の統制,国瞭問題の軍事       一一 32 一

的解決等を批判し,反省している。しかし,アジアとの関係における侵 略や植民地支配の直接的および構造的暴力に関しては,ほとんどふれて いない。わずかに,『戦争の責任は国民全体が負うべきであり,国民は 世界に向かって深くその罪を謝するところがなければならない。」4、と いう一般的な反省の弁があるだけである。

 日本中の教師に,戦後初めて具体的に示されたこの方針は,どのよう な占領教育政策の影響を受けて出されたのだろうか。ま左,日本の款育 政策の方針は,どのような立場にあったのだろうか。

2.占領教育政策

 『新教育指針』の「はしがき」には,『国民の再教育によって,新し い日本を,民主的な,平和的な,文化国家として建てなおすごどは,日 本の教育者自身が進んではたすべきっとめである。マヅカーサ・一一 ff令部 の政策も,この線にそって行われており,とくに教育に関する四つの指 令は,日本の新教育のあり方を決める上に,きわめて大切嶽ものである。

本書の内容はこれらの指令と深い結びつきをもって記されている。jと 書かれている。そのマッカーサー司令部の教育政策とはどのようなもの であったのだろうか。

(1)教育に関する指令5)

  ①五大改革指示(マッカー一・tt・一元帥より幣鰭袖への指示, t945.ie.11)

五大改革指示のうち,教育の関係は第3番目である。

「三.より自由主義的教育を行うための諸学校の開校一t国民は政府が        一33一

  国民の主人というよりは寧ろ下僕となる如き組織を理解することに   よって事実に基づく知識及び利益を得て将来の進歩を形成するであ   ろう。」

 この指令は,自由主義と民主主義を国民に理解させる方法として学校 教育がこれを行うよう指示したものである。

  ②日本教育制度に対する管理政策

   Administretion of the Educetional Svstem of Jepen

  (1945.19.22,連合国軍一高司令部より終戦連絡中央事務局経由日本帝国政府に対する覚憲)

A。教育内容(要約)

 1。軍国主義及び極端なる国家主義的イデオロギーの普及を禁止す   ることと軍事教育の学科及び教練を鞭て廃止すること。

 2.議会政治,国際平和,基本的人権の思想に合致する諸概念の教   授及び実践の確立を奨励すること。

B.教育機関関係者(要約)

 1. 職業軍人,軍国主義・極端な国家主義鼓吹者,占領政策反対者   の罷免。

 2. 自由主義・反軍的言論や行動で追放された教育関係者の復活。

 3.人権,国籍,信教,政見,社会的地位による差劉待遇の是正。

 4.教授内容の批判的理知的評価の奨励と自由討議の許容。

 5. 占領目的及び政策,議会政治の理論と実践を知らせること。ま   た,国民を戦争に陥れ敗北と困窮と悲惨を結果せしめた軍国主義   的指導者・その積極的協力者・その消極的黙認者の演じた役割を   知らせること。

C.教育過程に於ける技術的内容(要約)

 1. 現行教科書の軍国主義的,極端な国家主義的箇所の削除。

一34一

  2。 平和的で責任感のある公民の養成を目措す新教科目,新教科書    新教師用参考書,新教授用材料の速やかな準備。

 この指令は,いわゆる四大教育指令の第1指令である。その内容は,

軍国主義・極端な国家主義の排除と平租主義・民主主義の導入という点 で基本的に新教育指針の内容と一致している(表4参照)。

軍国主義・極端な国家主義の排除 平和主義・民主主義の導入

鱗…1::鷺・…:::::轡師辮…・…1≡i・……i謹1…i・…≡・…1鏡櫨:: ・鞭:堀撚:諺

A−2,

a−2,B−3,B−5前半 b−2

(表4)第1の教育指令の内容分類と第2・第4指令との関係

   ③教員及び教育的係官の調査,除外,認可に関する件

   Investigetion,Screening,and Certlfieat ion ef Teechers and Edueetiona1 Officials   (1945.le.3ey連合国買最高司令部より即戦連絡中央事務局経由臼本帝国政府に対する覚書)

 この指令は,第2の占領教育指令であり,第1指令のB−1および,

B−5後半を具体化したものである(表4参照)。その目的は,「日本 の教:育機構申より日本民族の敗北,戦争犯罪,=苦痛,窮乏,現在の慧惨 なる状態を招来せしむるに至りたる軍国主義的,極端なる国家主義的諸 影響を払拭する為に,而してまた軍事的経験或いは軍と密接隔る関係あ る教員並びに教育関係者を雇用することによって右思想の影響継続の可 能性を防止する為」であり,方法として文部省に適格審査の行政機構の 設定を指示している。

④国家神道,神社神道に対する政府の保証,支援,保全,

 監督並びに弘布の廃止に関する件

  Abolition of 60vernmentat Sponsor$hip,Support,Perpetuet ion,Contrel   gnd Djssemjnst ion of Sta±e Shinto〈 Kokka Shinto,Jinje Shinto>

 (1945.12.i5,連合国軍最高司令官総指令部参謀副官発第3号(民間情報教育部)

     終戦連絡中央事務局経由日本政府に対する覚書)

一35一

 このいわゆる第3指令は,第1指令の具体化というものではないが,

軍国主義,極端な国家主義と巧みに結びついていた神道を国家と明確に 分離しようとしたものであった。その冒頭には,次のような内容が記さ れている。(要約,筆者)

 1.国家指定の宗教に対する信仰(告白)強制から国民を解放する。

 2.戦争犯罪,敗北,苦悩,困窮及び悲惨な状態を招来し光「イデオ   ロギpm・」に対する強制的財政負担の除去。

 3.神道の軍国主義並びに過激なる国家虫義への利用の防止。

 4.永久平和及び民主睾義の理想に基礎を置く新日本建設計画の援助。

 1および2は,国家と神道の結びつきによる構造的暴力を社会的・経 済的に捉え,それからの解放を指示していると捉えることができる。3 および4は,第1指令同様,軍国主義と極端な国家主義の排除と平和主 義・民霊主義の導入の文脈で捉えることができる。

   ⑤修身,日本歴史及び地理停止に関する件

    Suspension of cour$es i n Moret{Shusbin] Japsnese History end Geography

    (1945.12.31,連合国軍簸高司令富総指令部参謀副官発第8号民問情報教育部より終戦連絡中央

   事務局軽由日本帝国政瘤宛覚燈)

 いわゆる第4指令である。この指令は,第1指令のA−1・C−1お

よび第3指令の一部を具体化したものである(表4参照)。その冒頭の 文言は,次のように記されている。

昭和二十年十二月十五日付指令第三号国家神道及び赦義に対する政府の保証と支援の搬寵に関する民聞情報 教育部の基本的指令に基づき且つ日本政府が買国主義飼及び極鑑な国家主義的観念を或る種⑳教科馨⑳執粕 に織り込んで生徒に課しかかる観念を生徒の頭脳に植え込まんが為に教育を利用せるに鑑み・・re令を発する。

 軍国主義と極端な国家主義およびそれらと深く結びついた神道を教育 から排除することを命じた指令である。具体的には,修身・B本史・地

一36一