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日米の計算的装置の比較

ドキュメント内 金融理論の実践を通じた市場の形成 (ページ 94-98)

第5章 金融理論とその政策の事例

5.3 日米の計算的装置の比較

融資商品「ポートフォリオ」の新規申込受付を終了した。

計算的装置の変化2は、アルゴリズムの布置にクレジットスコアリングが組み込まれた 計算的装置の拡大である。計算的装置の変化2の特徴は、クレジットスコアリングの評点 であるFICOスコアが商品となり、貸出金利と関係付けられることによって、政府の住宅 政策、自動車ローンなどに幅広く計算的装置の範囲を拡大するとともに、評点が国民に浸 透したことである。FICOスコアは、商品として枠組み化....

された。

計算的装置の変化3は、基本的に計算的装置の変化1および2とは別の中小企業向け銀 行貸出という計算的装置である。計算的装置の変化3の特徴は、個人の与信に使われてい たクレジットスコアリングが、リレーション型の中小企業の銀行貸出の実践を解きほぐす.....

要素となり、同時に、トランザクション型の中小企業向けの銀行貸出という新たな商品と して枠組み化....

された。

計算的装置の変化4は、個人と中小企業の銀行貸出という異なる計算的装置の結合であ る。計算的装置の変化4の特徴は、クレジットスコアリングが、トランザクション型の中 小企業向けの銀行貸出のアルゴリズムの布置と個人の与信のアルゴリズムの布置を結び付 け、新たな解きほぐし.....

をしたことである。したがって、新たな実践の理論化と見ることが できる。

5.3.2 日本の計算的装置の時系列的変化

日本の計算的装置のアルゴリズムの布置の変化を時系列的にまとめると表5-2のように なる。計算的装置の創出計画は、計画のみの状態であり、計算的装置は生成していない。

計算的装置の創出計画の特徴は、米国の計算的装置の変化3の状態と同じ計算的装置を日 本において創出しようとしたものである。米国の計算的装置と異なるのはトランザクショ ン型の銀行貸出である。日本ではリレーション型の銀行貸出が主流であることから、計算 的装置の創出計画の目指すことは、トランザクション型の銀行貸出の計算的装置の創出を 目指したといえる。

計算的装置の変化1は、理論通りに実行しようとする過程と、米国の計算的装置のアル ゴリズムの布置の相違によって発生する予測との違いに対する対処の過程である。計算的 装置の変化1の特徴は、米国と同様のアルゴリズムの布置を想定して、クレジットスコア リングを使った実践を行うが、米国とは違った計算的装置であることが判明する。それに 対処するため、新銀行東京は、計量モデルの変更など、新たな解きほぐし.....

を行った。なお、

米国と異なる計算的装置であるとはいえ、クレジットスコアリングの計算的能力は発揮さ

れ、機能していた。

計算的装置の変化2は、計画変更後にクレジットスコアリングを排除した計算的装置で ある。計算的装置の変化2の特徴は、トランザクション型の銀行貸出の計算的装置の創出 に失敗し、クレジットスコアリングを溢れ出し....

である外部性の中に排除したことである。

すなわち、リレーション型の銀行貸出という既存の日本の計算的装置に戻った。

表5-2 日本の計算的装置の時系列的変化

計算的装置の創出計画

(米国の計算的装置の変化 3を目指す計画)

トランザクション型貸出 +

クレジットスコアリング +

中小企業 計算的装置の変化1;

計画の実行

計画(トランザクション型貸出)

(開発)↓↑(計画変更)

クレジットスコアリング

(データ予測)↓↑(モデル変更)

評点+金利

↓↑(予想との相違)

中小企業

計算的装置の変化2;

クレジットスコアリングの 排除

リレーション型貸出+大企業 +

中小企業

5.3.2 日米の計算的装置の比較

第一に、米国では、個人ローンの金融市場にFICOスコアが浸透していた計算的装置の アルゴリズムの布置の中で中小企業融資にクレジットスコアリングを導入されたのに対し て、日本では、リレーション型の銀行貸出が主流である中に、米国の計算的装置から切り 離されたクレジットスコアリングを中小企業融資に適用したことである。第二に、クレジ ットスコアリング導入後の対応は、クレジットスコアリングによって生成すべき計算的装 置のアルゴリズムの布置に対して、クレジットスコアリングの前提条件を破壊する計算的 装置のアルゴリズムの布置を生成していったことである。

第一の点については、米国の個人ローンの計算的装置のアルゴリズムの布置との違いで ある。米国の計算的装置の主要な違いにFICOスコアという個人評点の存在があげられる。

FICO スコアを通じてクレジットスコアリングが機能していくことによって、金融理論が

想定するように金融市場をつくっていった。すなわち、MacKenzie(2007)のいう遂行性 を示している。米国民は、FICO スコアを通じて、クレジットスコアリングがどのように 計算されているかを知っており、金利をはじめとする融資条件がその個人評点によって決 定されることを認識している。当然、中小企業の経営者も本人の個人評点を知っている。

したがって、自身の経営する中小企業がスコアによって評価されることに慣れていると言 える。そのため、米国民が個人スコアに応じた金利を受け入れたので、米国においてミド ルリスク・ミドルリターンという金融市場が生成した。

こ れ に 対 し て 、 東 京 都 の 新 銀 行 東 京 の 設 立 計 画 は 、 ク レ ジ ッ ト ス コ ア リ ン グ が MacKenzie(2007)のいうバーンジアン遂行性を示すことを前提として計画されている。

新銀行東京の借手は、スコアがどのようにクレジットスコアリングで計算されるかを知ら ない。新銀行東京におけるクレジットスコアリングの計算的装置の参加者は、クレジット スコアリングという理論をほとんど理解しておらず、結果的に、クレジットスコアリング という理論は、その計算的装置からほとんど独立していた。日本のリレーション型の銀行 貸出では、融資限度額の評価が中心で、金利については、習慣的に大きな差は付けられな い。もし、大きな差をつければ、不平等という批判を受けるであろう。日本では、トラン ザクション型の銀行貸出は、ほとんどの借手に経験がなかった。すなわち、借手のスコア と金利の関係に対する認識が醸成されていなかったと言える。

第二の点については、計算的装置のアルゴリズムの布置を新銀行東京自らがクレジット スコアリングの適合性を破壊するアルゴリズムの布置を形成していったことである。新銀 行東京の計算的装置への参加者からほとんど理解されていなかったクレジットスコアリン グが、計算的装置の中で強力な計算的能力を発揮し、機能したのである。クレジットスコ アリングは、母集団の違いを極めて機械的に明確化し、規模拡大という目標を達成しよう とすればすれほど、クレジットスコアリングは、多数のデフォルトを生成した。新銀行東 京の経営陣は、都民、都議会等に対して目に見える成果を出すために短期間の規模拡大の 目標を掲げた。この目標に沿って行われた貸出先の中小企業の範囲の拡大、および強力な 営業行為は、クレジットスコアリングが想定していない多くの借手を生み出した。すなわ ち、基礎となるデータの母集団の特性を変えてしまったことを意味する。

新銀行東京のケースは、既存の計算的装置に、理論に基づく計画を持ち込むことによっ て新たな計算的装置を創出することを目的としたが、逆に既存の計算的装置のアルゴリズ ムの布置によって計画そのものが変えられ、計画に使った理論を排除した事例である。米

国では、理論によって計算的装置が拡大し、日本では、計算的装置のアルゴリズムの布置 からその理論を排除した。新銀行東京は、批判を受けながらも、何とか黒字化を達成した が、その後は、どのような形態の銀行貸出であろうと、東京の中小企業の活性化に寄与で きるかどうかが問われることになった。新銀行東京は、東京都にとって、挑戦的で、壮大 な社会実験となった。この経験が今後の東京都の新たな挑戦に活かされることを期待する。

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