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第3章 金融理論とその商品の事例

3.4 小括

金融理論の生成と、それが組み込まれた金融商品の遂行的側面を計算的装置のアルゴリ ズムの布置の変化として分析した結果、次のような金融市場のあり方を見出した。①既存 の計算的装置のアルゴリズムの布置を研究者が観察して新たな金融理論を形成した。②そ の金融理論を組み入れた金融商品を考案し、販売することによって、株式市場に金融理論 が組み込まれた計算的装置のアルゴリズムの布置ができた。③新たな金融市場が創設され たため、計算的装置のアルゴリズムの布置が変更され、金融商品の取引量が増大した。④ 新たな金融市場の取引の大部分を占めてしまったため、計算的装置のアルゴリズムの布置 が消滅し、その金融商品も消滅した。⑤金融商品は消滅したが、それを代替する新たな金 融市場が創設されて、新たな計算的装置のアルゴリズムの布置が生まれた。

ポートフォリオ・インシュアランスは、インデックス・ファンドの保険を目的として、

既存のインデックス・ファンドを取引する現物の株式市場を解きほぐし.....

、既存の現物の株 式市場において保険を意味するオプションを合成する理論を構築し、既存の現物の株式市 場を利用して、金融商品としての計算的装置のアルゴリズムの布置を確立したものである。

このアルゴリズムの布置は強い計算のパワーをもっていて、株式のインデックス先物市場 の創設によって、その計算のパワーは増した。しかし、インデックス先物市場で取引の多 くを占めるようになったことによって、ブラック・マンデーにおいて取引ができなくなっ た。これによって、金融商品としてのポートフォリオ・インシュアランスは消滅した。

ポートフォリオ・インシュアランスは、Black=Scholes=Merton モデル又は二項モデル のオプションの評価式からスタートしたもので、本来、株式市場(経済学)は情報を織り 込んでいるという前提がある。しかし、実際にはポートフォリオ・インシュアランスの運 用をしたのは、コンピュータを使った機械的な運用者であり、それが金融市場の大勢を占 めることによって起こる問題点でもある。情報の織り込みは、ファンダメンタルズ・アナ リストの仕事であるが、金融理論は、それがなされていることが前提となっている。

ポートフォリオ・インシュアランスの発展で特に興味を引くのは、ブル・マーケットす なわち強い相場が続いた時期に大きく成長したことである。Bernstein(1992)のいう「ポ ートフォリオ・インシュアランスはそれなしでは正当化できないほど株式の比率を高める ための弁明に使われたのではないか(邦訳 324 頁)」という見方である。これはかなり説 得力があり、科学が確信犯的に組織内説得に使われる典型的な手口である。

ブラック・マンデーにおけるポートフォリオ・インシュアランス主犯説では、ポートフ ォリオ・インシュアランスのマーケットメーカーが市場を潰したことになるが、当然その 他の意見もある。例えば、コンピュータからの多くの注文をさばききれなかったというこ と、あるいは、心理的に裁定屋(アービトラージャー)が出て来られなかったこと、ポー トフォリオ・インシュアランス以外にも、テクニカル・アナリストが機械的なストップ・

ロスを指示する戦略をとっていたことなどである(Bernstein, 1992, 邦訳 331頁)。

また、ブラック・マンデーにおけるポートフォリオ・インシュアランスの失敗はデルタ・

ヘッジの限界を同時に露呈したといえる。デルタは、オプション公式の株価を独立変数と した一次導関数であり、これによって売買することは直線的に追随を行うことになるため、

急激な変化に対応しきれない。これに対して、ガンマ38は二次導関数でデルタの変化量す なわちオプションの価格曲線の凹凸を示すものである。これを使ってヘッジすることをガ ンマ・ヘッジといい、ブラック・マンデーの教訓から生まれたものといえる。当然、数学

38 33参照。1次微分

S C

をデルタ、2次微分

2 2

S C

をガンマという。

的な複雑性も増したが、その分コンピュータも発展している。数学の高度化は、金融戦略 を構築するクオンツ39といわれる人たちの活躍の舞台を拡大した。

金融商品としてのポートフォリオ・インシュアランスは消滅したとはいえ、その考え方 は基本的に残っている。株式と現金だけの調整から、さらに債券との組み合わせ、金融市 場間の取引などとの組み合わせによって、さらに、オプションの形式も複雑化し、様々に、

そして複雑な金融戦略がつくられている。ブラック・マンデーを境に投資業界はポートフ ォリオを守るための戦略ではなく、契約を求めるようになっていったが、実践的な理論家 を含むアカデミズムでは、便利な仮定はそのまま温存させた。

ポートフォリオ・インシュアランスの事例では、取引される金融市場が変更されたこと が特徴である。アルゴリズムの布置としては、現物の株式市場でインデックス・ファンド が売買され、ポートフォリオ・インシュアランスがインデックス先物市場で売買されると いう二つの市場で取引されることによって成り立っていたことになる。金融商品としての ポートフォリオ・インシュアランスの消滅後は、株式インデックス指数、株式インデック ス先物、株式インデックス・オプションのそれぞれ金融市場が成立し、金融市場間の取引 が盛んになっている。株式だけではなく、さらに債券、為替の市場も同様の状態で、それ ぞれが関連している。次章で扱うVaR(value at risk)は、増大する様々な金融資産を管 理するために考えられた金融理論である。VaRは、市場の多様性が生み出したものといえ るが、VaRによって、金融市場の参加者は様々な組織戦略を生み出していった。次章で扱 う金融市場は、単独の金融市場ではなく、多くの金融市場を統合した、金融全体を意味す る金融市場である。

39 物理、数学分野の出身者が多い。

ドキュメント内 金融理論の実践を通じた市場の形成 (ページ 64-67)