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本章の概要

日程計画作成手法であるIScMとDDMは,プロジェクトを円滑に進め,プロジェクトを 成功に導くプロジェクトマネジメントの基本的な要素を含んでいると考えられる.本手法 をPBL演習に適するように修正することで,学生の弱い参画意識など,PBLの基本的な課 題を解決し,学修成果向上のための手法として活用できる可能性がある.本研究では,修正 した手法を実際のPBLの授業に適用し,その試行の詳細と得られた結果や課題解決の効果,

さらに得られた知見を基に,さらにPBLの学修成果を向上できる可能性について考察を行 う.

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第 4 章ではマトリックス組織での製品開発に適した日程計画作成手法として,IScM と DDMのアイデアとその効果を論じた.そしてこの手法は,プロジェクトを円滑に進め,プ ロジェクトを成功に導くプロジェクトマネジメントの基本的な要素を含んでいると考えら れる.このため,IScMの前段階として,プロジェクトメンバーの役割分担を決める方法を 加えることで,小人数のメンバーから構成されるプロジェクトに適用し,プロジェクトの成 功に貢献できる可能性があることを指摘した.そのようなプロジェクトの例としてPBL が ある.本手法の適用により学生の弱い参画意識など,PBL の基本的な課題を解決し,学修 成果向上のための手法として活用できる可能性がある.本研究では,本手法をPBLに適す るように修正し,実際のPBLの授業に適用した.そして,その試行の詳細と得られた結果 や課題解決の効果,さらに得られた知見を基に,さらにPBLの学修成果を向上できる可能 性について考察を行った.

5.1 日程計画作成手法のPBLへの適用の背景

PBLの有効性に関しては「2.6.1 PBLに関する先行研究」でも述べたように,その有効 性が報告さている一方で,以下のような課題も指摘され先行研究も行われている.

(1) 学生の参画意識,責任意識にバラツキがある[奥本2012]. (2) チーム体制を上手く構築できない.

(3) 学生一人ひとりの評価が難しい[岩田2014], [松浦2007]. また,実際のPBLでは以下のような状況も観察される.

(4) 最終成果物にバラツキがある.

(5) テーマ目標設定に多くの時間を費やし,実際の開発は終盤にあわてて行われる.

(6) WBSや日程計画作成などは,あわただしさの中でおざなりになり,プロジェクトとし てうまく運営されていない.

IScM及びDDMをPBLに適用することで,上記のようなPBL課題を解決し,効果を生 むことができるかを検証するため,芝浦工業大学の2016年度後期の授業,産学・地域連携 PBLで試行を行った.この試行の目的は以下の通りである.

(1) 試行実施により,先に述べた課題を解決できる可能性を検証する.

(2) 試行結果から,新たな知見や課題を見つけ出す.

本章では,試行の実施状況や実施結果,さらに,これら目的が達成できたかの検証を行っ たので報告する.

5.2 IScMとDDMのPBLへの試行 5.2.1 PBLでのIScM適用の変更点

「4.2.1 企業における開発環境の特徴」において企業における開発環境の特徴を述べ,

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それらはIScM,DDM導入の前提条件であることを述べた.それらの内,PBLはマトリッ

クス組織で実施されておらず,機能組織を前提としているわけではないため,前提条件の内,

(1)は前提条件としない.(3)に関し,学生は担当する役割や成果物も決まっていないため成 立しない.このため,IScMをPBLに適用する場合,スッテプ(0)を追加し,前提条件(3)が 成立するよう適用方法を以下のように変更した.なお,ステップ(0)を追加した IScM を修 正統合日程作成法(Modified IScM: M-IScM)と呼ぶ,

(1) WBSの作成と担当者の割り当て

PBL メンバーの担当する成果物の割り当て決めるため,チームが開発する最終成果物 の WBS を作成し,成果物分解した第 2 階層などの要素成果物を適切なメンバーに割 り当てる.これにより,メンバーが開発を担当する成果物が定められる.この時,メン バーの持つスキルや専門分野,作業負荷などを考慮し,話し合いで担当者を決定する.

メンバー間の成果物の依存関係部分には曖昧さがあるため DDM を活用して明確化す ることで,担当成果物の開発で何をしなければいけないか,アクティビティーがより明 確になる.このメンバーが割り当てられた要素成果物を開発する活動名が DDM の列

(A)に記入されることになる.成果物の受け渡しはIScMでは組織間であったがM-IScM

ではメンバー間の受け渡しとなる.図5.1に示すM-IScMのステップ(1)~(4)はIScM と同じ考え方である.

(2) チームでの共同実施

IScMにおいて,DDMへの記入は各機能組織が独立して実施することとしていた.こ れにより,統合日程計画検討会で認識の差異を明確に洗い出すことができる.PBL で は,チーム全員でDDM記入や日程計画作成,認識差異の洗い出しなどの一連の作業を 共同作業で実施することに変更した.これにより,知り合いでなかった学生が互いに親 しくなり共同作業を進めやすくなったり,学生のM-IScMやDDM に対する知識のバ ラツキに対するチームメンバー全員への教育効果や,チーム一体感の醸成を図ること が期待できる.

M-IScMのプロセスを図5.1に示す.

141 日程計画の連結

成果物依存関係表 (DDM)

実現確度向上の ための検討と日程 調整、日程圧縮

統合日程計画

作成過程を通したプロ ジェクトメンバーへの影響

担当する成果物に対す る責任意識の強化

チーム一体感醸成

日程計画達成に対 する約束を保ったまま 日程圧縮を実施

リスク抽出と対応 同じ成果物に対し

日程を連結した全 体日程は目標納期 を越える場合がある.

目標納期を満た す実現可能性の 高い日程計画 統合日程計画原案

DDM上の認識や日程 の相違を埋め、日程原 案の調整・圧縮を行う.

統合日程計画原案の作成

日程原案の調整・圧縮による 統合日程の作成

(1) (2) (3) (4)

WBS作成に よる担当者 の割り当て

メンバー全員 が共同で作 業する.

(0)

図5.1 M-IScMのステップ

今回,PBLでM-IScMのステップを実施し,そのステップの中でDDMの作成も行っ た.PBLでこれらを適用する名称を,DDMという名で代表させ,以下,PBLへの DDMの適用や,DDMの試行,などと呼ぶことにする.

5.2.2 試行状況

芝浦工業大学におけるシステム工学教育体系は[古川2016]に詳述されているが,この 中の同大学院理工学研究科の共通演習科目である産学・地域連携PBLでDDMの適用を試 行した.この授業は,前期に行われる同大学院システム理工学専攻の必修科目であるシステ ム工学特別演習の後続で実際にシステム構築を行うことが期待される.この演習の概要は 以下の通りである.

産学・地域連携PBLの実施概要 参加者

(1) 参加者数: 29人

(大学院生 22人,学部生 5人,研究生 2人) (2) 外国人: 6人 (内 女性 1人)

(3) 男性: 24人,女性: 5人 (4) チーム数: 5

マイルストーン (DR:デザインレビュー)

(1) DR1: 企画提案

(2) DR2: 設計・開発計画提案

142 (3) DR3: 最終成果発表

5つのチームが取り組んだテーマ名

(1) チーム A: ヒューマノイドロボットを用いた婚活支援システム

(2) チーム B: Adaptive Deep Learningを用いたカラス対策を目指した情報収集装 置の開発

(3) チーム C: XX市の物作り活性化

(4) チーム D: 「食育・食文化」の街を作る (5) チーム E: XX市への観光客増加

記入を依頼した書類 (1) DDMフォーマット (2) メンバーの役割分担 (3) 議論した気づき一覧 (4) アンケート

5.3 試行結果と効果 5.3.1 試行結果

最終成果発表での5チームの状況を表5.1(1)~(3)に示す.表は,テーマ名とプロジェク トタイプ(開発型,価値創出型),評価順位(1位~5位),DDM使用に対する評価(3:大変

有効,2:有効,1:変わらない),コメントをまとめている.コメントはアンケートとリーダー

へのインタビューから得られた.

表5.1 実施状況(1)

チーム テーマ名 プロ ジェクトタイプ

DDM

る評価に対す

コメント

A ヒューマノ イドロボッ トを用い 支援シスた婚活 テム

開発型 1 3 自分の役割が明確になることで、チームの中でどう動 けばいいのかはっきりと分かり行動しやすかった.

期日が明記してあることで、期日までにやらなければ ならないという意識と、自分の成果物と他のメンバー の成果物の関係性が分かることで、自分の成果物を 仕上げなければいけないという責任感を持つように なったと思う.

アイディア出しの段階ではあまり効果を感じなかったが、

実装など作業が膨大かつ多忙になるにつれて、各メン バーの成果物と合意の取れた期日を関係づけること で、メンバー全員が自分の役割をはっきりと認識し、

責任感を持って行動できるようになった.

リーダーとして:どのメンバーにいつまでにどの作業を振 るのかドキュメントにすることで、作業の振り忘れや 振った作業のやり忘れ等がないか確認しやすくなった.

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表5.1 実施状況(2)

チーム テーマ名 プロ ジェクトタイプ

DDM る評価に対す

コメント

A ヒューマノイド ロボットを用 いた婚活支 援システム

ー続きー

開発型 1 3 リーダーとして:各メンバーがどのタスクを持っていて、

遅延しないようにどのタスクに人を投じればいいのか 一目でわかるので使いやすいと思う.

DDMが無かったらプロトタイプを開発できなかったと 思う.

DDMを参照することで、たくさんの気づきがあった。例 えば、好感度データの受け取りインターフェースを誰が 開発するかが抜けていることに気がついた.

特にDDMのINからの気づきが多かった.

B Adaptive Deep Learningを

用いたカラス 対策を目指 した情報収 集装置の開

開発型 3 2 DDMの使用でメンバーの参画意識は上がった.

リーダーとして:DDMを使用することで担当者に仕 事を振りやすくなった.

スケジュールを共有でき、全体の流れがつかめた.

確実に納期に入れる意識が強くなり、納期に入れる ことができた.

DDM作成は負荷があるが、メリットの方が多い。

アイデアを出す活動は、成果物よりアクションの方が 考えやすい.

表5.1 実施状況(3)

チーム テーマ名 プロ ジェクトタイプ

DDM る評価に対す

コメント

C XX市の 活性化物作り

価値創

出型 2 1 アイデア出しだったのでDDMを使用する必要はなかった.

アイデアが変わっていったので、日程計画は作ったが、そ れに沿った活動はできなかった.

鋳物を発注したが、その時はDDMの考え方を使えた.

研究室でチームで研究をしているが、論文のマイルス トーンに向けて仕事を分割し、計画を作るのに使えそう.

D “食育・

食文化”の街を 作る

同上 4 1 提案だけだったのでDDMを使用する必要はなかった.

E XX市へ の観光 客増加

同上 5 1 提案だけだったのでDDMを使用する必要はなかった.

以前、車椅子を作るPBLに参加したが、そのような時は DDMは使いやすいかもしれない.

ここで,開発型プロジェクトとは,機能・動作する最終成果物を開発するプロジェクトで ある.価値創出型プロジェクトとは,実際に動作はしないが,テーマの問題を解決する新た

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