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本章の概要

製品開発が行われるマトリックス組織では,機能組織間での成果物の受け渡しにより最 終製品が開発され,この成果物の受け渡しを基に日程計画を作成することができる.しかし,

成果物の受け渡しにおいて,受け渡す側と受け取る側で認識の相違が発生しやすく,成果物 を差し戻す手戻りが発生し,日程の遅延を生じる.このような認識の相違の発生を抑制し,

実現可能性の高い日程計画を作成する手法として IScM と,成果物の受け渡しに関するデ ータを記入するフォーマットであるDDMを開発した.本章では,これらについて説明し,

実際の製品開発プロジェクトに適用し,その適用状況と評価に関して論述する.

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従来の日程計画法であるWBSからアクティビティーを導出し,アクティビティーから日 程計画を作成する手法は,契約に基づき厳密にプロジェクトを進める場合には適するが,そ の作成負荷は重く,限られた開発期間の中で製品開発を行う企業の中では,あまり実施され ているとは言えない.このため,過去の類似製品開発日程を参考にプロジェクト日程が作ら れる場合もある.しかしこの日程は,マイルストーンと主要作業の期間に対する線が引かれ たシンプルなものである場合が多い.日程内容の検討が十分に行わない場合も多く,日程の 遅延も発生しやすい.

本章で述べる日程計画作成法は IScM と呼び,成果物の受け渡しを基本として日程計画 作成する手法である[除村2016b] , [Yokemura2017a].成果物の受け渡しでは,成果物の受 け渡し部分で生じる認識の相違や曖昧さが生じ,これが成果物を差し戻す手戻りの原因と なる.この成果物の受け渡し部分で生じる認識の相違や曖昧さを明確化するために,成果物 の受け渡しに関するデータを記入するフォーマットをDDMと呼ぶ.本章では,製品開発な どで活用できるIScM及びDDMに関して論述する.

4.1 従来の日程計画法の課題と望まれる要件

従来の日程計画作成手法として DoD や NASA の手法が最も進んでおり,契約で縛られ た軍需産業や航空宇宙産業などの大企業で,厳密にプロジェクトを進めるためには有効で あると考えられる.しかし,一般の企業内で有効に,効率的に活用するには負荷の重い手法 である.従来の日程計画作成手法は「2.5.4 DoD,NASA の日程計画作成手法の課題」で 述べたような課題があり,ここでは項目だけ再掲する.

(1) アクティビティーを基本単位とした日程計画作成手法である.

(2) WPの実用性が低い.

(3) 日程圧縮方法が定められていない.

(4) 人間の行動特性が考慮されていない.

従来の日程計画作成手法は,論理的であり合理性があるが,実際の使用には課題も多く,

製品開発の現場では,開発現場で使える実用的な日程計画法が望まれる.このような日程計 画作成法は,作成負荷がそれほど重くないが,その日程計画の実現可能性は高いものであり,

作成後も進捗管理に使用できるものである.作成負荷が重くないとは,組織間調整がやり易 く,作業工程数が膨大でなく,維持管理できるサイズであり,日程変更が発生した場合でも 作成した日程計画を基に日程計画の更新ができる日程計画を意味する.また,実現可能性が 高いとは,手戻り発生の抑制やリスク対応などが考慮され,論理的な検討により日程の圧縮 も可能であり,プロジェクト関係者が担当する仕事を日程通り完了することを約束した変 更の可能性が少ない日程計画を意味する.さらに,日程計画作成において人間の行動特性を 考慮し,日程計画作成過程で,プロジェクト目標達成に向けて,チームの一体感を醸成でき ることが望まれる.なお,手戻りとは,以下のような状況である.

111 手戻りとは

成果物の受け渡し時点で,受け渡し側と受け取り側には,成果物に対する仕様に対す る理解の相違や曖昧さ,懸念事項の放置などによる様々な認識の相違が発生しやすい.

このような認識の相違が発生すると成果物を受け取った側は,受け渡し側に成果物を 差し戻し,受け渡し側は再度作業をやり直すことになり,日程の遅れが発生する.この ような状況を手戻りと呼び,日程遅れだけでなく,技術者の仕事量や開発経費の増大,

組織間の感情のもつれなど,負の影響を生む要因となる.

日程計画作成手法に求められる要件は,以下のようにまとめることができる.

(1) 企業の開発体制であるマトリクス組織に適した日程開発手法である.

(2) 作成負荷が重くない.

(a) 作業工程数が膨大ではない.

(b) 組織間調整がやり易い.

(c) 維持管理できるサイズである.

(d) 日程変更が発生した場合でも作成した日程計画を基に日程計画の更新ができる.

(3) 実現可能性が高い.

(a) 作成過程において,有効な議論が引き出され,活発な議論が行われる手法である.

(b) 手戻り発生の抑制やリスク対応などが考慮されている.

(c) 気合いではなく,論理的に日程の圧縮も可能である.

(d) プロジェクト関係者は担当する仕事を日程通り完了することを約束している.

(e) 結果として,日程計画に変更の可能性が少ない.

(4) 人間の心理を考慮している.

(a) 作業期間に余裕日程を入れる傾向にあるなど,人間の行動特性を考慮している.

(b) 日程計画作成過程でプロジェクト目標達成に向けて,責任感やチームの一体感 を醸成できる.

4.2 日程計画作成の基本的な考え方 4.2.1 企業における開発環境の特徴

製品開発環境に適した日程計画作成手法を考えるにあたり,多くの製品開発企業におけ る開発環境の特徴を考慮することが必要であり,その特徴は以下のようにまとめられる.

(1) 製品開発はマトリックス組織で電気・電子回路設計,機構設計,ソフトウェア設計など の機能組織が連携して行われる.

(2) 最終製品は機能組織が生み出す成果物(有形物,ソフトウェア,データなど)を組織間 で受け渡すプロセスを通して開発される.

(3) 機能組織は,各専門分野の技術能力と豊富な開発経験を有している.このため,製品仕 様書を確認することで自組織の生み出す成果物や,それらを生み出すために必要な成

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果物を理解できる.また,設計者のスキルや経験を基にした人材配置計画や試験装置が 利用可能な日程などを参照し,実現可能性の高い作業期間の見積もりや,その作業を実 行する能力を持っている.さらに,技術的見地や過去の経験から,計画通りの実行を阻 害するリスクを洗い出す能力を持っている.

このような状況を考えると,製品開発における日程計画は機能組織間の成果物の受け渡 しを基に作成できると考えられる.本研究は,これら 3 つの開発環境の特徴を生かした日 程計画作成法について論じるが,これら 3 つの開発環境の特徴は,本研究で述べる日程計 画作成手法成立の前提条件と考えることもできる.

なお,開発の状況により,実際に試験をしてみないと状況が分からず,その結果に基づい て設計を行ったり,組織間が連携してパラメータ調整などを行う場合も発生する.このよう な場合,関係する作業に日程的な余裕をもたせたり,関係組織が連携して作業を進める日程 を作成する.また,試験期間に複数回の試験実施ができる試験期間を設定するなど,試験結 果に基づく対応を考慮した作業期間を設定する.

4.2.2 日程遅れの原因

日程計画を実現可能性の高い計画とするためには,どうすればよいであろうか.実現可 能性の高い日程計画は,手戻りやリスクの発生などの日程遅れの原因に対する考慮が日程 計画に含まれることで作成することができると考えられる.開発の遅れにはリソースの不 足もあるが,それ以外に開発の実作業における開発日程の遅れは,主に以下のような原因が あると考えられる.

(1) 試験工程で問題が検出され,その解決に手間取り日程が遅れる.

(a) 問題発生が予測できたが日程が遅れた場合(Knownリスクの発生),発生リスク の見積もりが甘く,作業期間を短く見積もっていた可能性がある.

(b) 問題発生が予測できず問題が発生した場合(Unknown リスクの発生),問題を 迅速に解決できればよいが,その問題の難易度が高く解決に時間がかかり日程が 遅れた場合,基本的に技術力や組織力の不足が考えられる.

この分類の遅れの原因は,未経験の技術問題のため予測が難しい場合もあるが,発生 した問題解決の迅速さは技術力や組織力を示すと考えられる.また,問題の発生は,

製品を市場に出荷後,年月が経過してから発生する場合もある.このため,製品試験 では,このような経時変化によって発生するかもしれない問題を予測して,試験を実 施し対策することが重要である.

(2) 成果物の受け渡しで手戻りが発生し日程が遅れる.

成果物の受け渡しで手戻りが発生するが,成果物の受け渡し部分のマネジメントをし っかり行うことで発生を抑制することが可能である.

(1)(b)の日程遅れの原因である技術力不足の問題は,予測できない事象のため,本研究の

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