本章の概要
4つの研究テーマに共通するトピックや本研究を取り巻く先行研究の状況を概観する.さ らに,先行研究の課題を述べ,本研究の位置づけの明確化を図る.
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本章では,本研究に関連する先行研究について説明し,先行研究に対する本研究の位置づ けを明確にする.まず,研究テーマ全体にかかわる先行研究について述べ,次に個別研究テ ーマに関係する先行研究について述べる.
研究テーマ全体にかかわる先行研究
本研究全体は,プロジェクトマネジメントに関係するため,まず,プロジェクトマネジメ ントの歴史概要について述べる.次に,序章でも述べたように,本研究はマトリックス組織 の組織特性から生じる問題に対する対応に関係しており,マトリックス組織に関係した先 行研究について述べる.さらに,本研究は製品開発プロジェクトを円滑に進めるための手法 に関する研究であるが,個別製品開発プロジェクトが円滑に進むために製品開発企業全体 の基盤となり,企業が付加価値を生み出す組織能力の基盤でもある開発マネジメントシス テムについて述べる.ここでシステムとは,IT システムのことではなく体系という意味で ある.
研究テーマ名:「組織横断的問題解決手法の開発」に関係する先行研究
本研究テーマの扱う問題は,専門家チーム体制の確立によるCFPで生じる日程遅れの未 然防止,及び,確立したチーム体制や関係機能組織を統制するためのプロジェクト組織体制 構築手法,ということができる.
本研究テーマの先行研究として,本研究の基礎となった責任の明確化手法として,責任分 担表(Responsibility Assignment Matrix: RAM)について述べる.次に,本研究は,CFPの 事前抑止を扱うが,これはリスクへの対応と考えることもできるため,リスク関連の先行研 究について述べる.製品開発の現場では,リスクと課題の境界は曖昧に使わる場合が多い.
そのため,リスクと課題についての考え方を整理する.さらに,本研究は,開発下流での問 題発生を開発上流で事前抑止する手法と考えることもできる.この開発上流で実施される 開発下流での問題発生抑止は,フロントローディングとも言われ,様々な先行研究が行われ ており,代表的な先行研究について述べる.また,本手法は,組織横断チームを構成する手 法でもあり,組織横断チームに関する先行研究についても述べる.最後に,これらの先行研 究を踏まえて研究課題について述べる.
研究テーマ名:「実現可能性の高い日程計画作成手法の開発」に関係する先行研究
日程計画作成の基礎は,Work Breakdown Structure (WBS)である.このWBSは一見単 純であるが,実際の作成は意外に難しい.まず,WBSの作成方法に関して概説を行う.次 に,書籍や PMBOK®など一般に普及している日程計画作成手法について述べ,さらに,
Department of Defense (DoD),NASAなどで定められている大規模プロジェクトにおける 標準的な手法について述べる.また,1990年代に提案された日程計画作成の考え方である,
Critical Chain Project Management (CCPM)について述べる.さらに,日程計画作成は人 間の意識や行動特性に大きな影響を受けるため,人間の意識や行動特性が日程計画に与え る影響についてまとめる.
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研究テーマ名:「日程計画作成手法のPBLへの応用」,及び,「PBLの学修成果向上の試み」
に関係する先行研究
本研究では,実現可能性の高い日程計画作成手法の開発で提案した日程計画作成手法を PBLに適用し,PBLの基本的な課題解決可能性の評価と,試行により得られた知見をPBL に適用し,PBLの学修成果向上の評価を行った.本研究の先行研究として,PBL関連の先 行研究や,PBLの円滑な進行に効果を生む可能性のある思考スタイルなどについて述べる.
2.1 プロジェクトマネジメントの歴史概要
本研究は,プロジェクトマネジメント手法の研究である.特に,製品開発やシステム開発 などのプロジェクトは,技術開発の高度化や複雑化で大規模化しており,これらプロジェク トを確実に達成するための手法であるプロジェクトマネジメントはますます重要となって いる.まず,プロジェクトマネジメントの歴史的概観を述べる.
大昔はプロジェクトやプロジェクトマネジメントという考え方は存在しなかったが,人 間の英知が生み出した歴史的遺跡は現代から見ても驚嘆すべきものが多くある.20 世紀初 頭にFrederick Winslow Taylorが科学的管理手法を提唱し,作業の生産性とマネジメント の概念が生まれてきた.1910年代には,タスク(作業)の作業期間とタスクの依存関係で 日程計画を表現するガントチャートが Henry Gantt により開発され,使用されていた.
Henry GanttはFrederick Winslow Taylorの弟子と言われる.また,仕事の仕方としては,
「Over the fence」,すなわち,次の組織に仕事を手渡ししていく機能別組織の仕事の方法 が一般的であり,プロジェクトマネジメントという概念はなかった.このような仕事の仕方 のため,全体を統制する責任者は不在であった.
第2次世界大戦後,1950年代に冷戦の時代に突入し,軍拡競争に拍車がかかり,プロジ ェクトの大型化,複雑化が進んだ.米政府が企業と契約する兵器産業や航空宇宙産業の大規 模プロジェクトに対し,米政府との交渉の窓口となる企業側のプロジェクトの責任者の必 要性が認識されプロダクトマネジャーの導入が進み,これが後にプロジェクトマネジャー と言われるようになっていく.また,プロジェクト全体の統制の必要性からプロジェクトマ ネジメントの導入が促進された.
この時代,1957年にはポラリスミサイル開発のために,米国海軍,ロッキード社,ブー ズ・アレン・ハミルトン社は共同でタスクの作業期間推定の方法であるProgram Evaluation and Review Technique (PERT)を開発した.また,1950年代末にはプラントのメインテナ ンスプロジェクトのために,デュポン社とレミント・ランド社は共同で日程計画のクリティ カル・パスを見つける手法であるCritical Path Method (CPM)を開発した.両者は数学的 手法であり,クリティカル・パスを見つけ日程計画を作成する手法であるが,CPMは作業 期間が固定日数であるのに対し,PERT は作業期間に確率的な幅を持たせてプロジェクト 期間を推定する点が異なっている.
WBSの概念は1950年代にもあったようであるが,公式には1962年に,DoD,NASA,
宇宙産業関連会社により導入された.WBSは,最終成果(物)を生み出すために必要なす
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べての活動(アクティビティー)を漏れなく洗い出すために,プロジェクトの構成要素を階 層的に分解した構造である.WBSは,プロジェクト・スコープ(範囲)を定め,日程計画 作成の基礎となり,また,調達における購買要素を抽出するために重要である.この重要性 から,1968年にDoDは,「Work Breakdown Structures for Defense Materiel Items」と いう調達ための標準ガイドを発行している.このガイドはその後も改訂され,最新のものは,
2011年に発行された「Work Breakdown Structures for Defense Materiel
Items」(MIL-STD-881C)である.また,DoDやNASAはスケジューリング(日程計画作成)などの標準
ガイドも発行しており,大規模なプロジェクトを支える先進的な取り組みを行っている.
一方で,プロジェクトマネジメントの企業への導入のペースは遅かった.プロジェクトマ ネジャーの必要性は認識されたが,プロジェクトマネジャーの導入は組織を機能別組織か らマトリックス組織に変更することが必要となる.しかし,「1.2.3 マトリックス組織」で 述べたように,マトリックス組織には短所も多くあり,マトリックス組織に関しては賛否が 多くあった.特に,それまでは一人のボスからの指示で部下を動かすことがマネジメントの 基本と考えられてきたが,2人のボスを認めることによるマネジメントの難しさや混乱によ る生産性の低下と,プロジェクトマネジャーや関連スタッフの増加による人件費増加が懸 念された.しかし,1980年以降,マトリックス組織の有用性やプロジェクトマネジャーの 必要性が認識され,プロジェクトマネジャーの導入が進み,さらに,技術の急速な進歩やプ ロジェクトの大規模化など,開発環境の変化もあり,それまでの属人的なプロジェクトの進 め方から,プロジェクトを確実に実施するプロジェクトマネジメントの導入が進んだ.
1960年代以降,プロジェクトマネジメントの重要性の認識が広がり,以下のようなプロ ジェクトマネジメントを体系化,標準化する組織や認定試験,国際標準が整備されている.
(1) PMI® (Project Management Institute)
1969年に米国でProject Management Institute (PMI®,プロジェクトマネジメント協会)
が設立され,会員数は2016年12月において約47万人であり世界最大のプロジェクトマ ネ ジ メ ン ト の 組 織 と な っ て い る . 実 施 し て い る 資 格 試 験 は ,Project Management Professional (PMP®)など8種類あり,PMP®資格保持者は2016年12月で約75万人い る.また,プロジェクトマネジメント体系であるProject Management Body of Knowledge
(PMBOK®:プロジェクトマネジメントの基礎知識体系)を発行し,プロジェクトマネジ メントの標準ガイドとして認識されている.PMBOK®は1996年の初版以来,約4年ごと に改訂され,現在第6版が発行されている.PMBOK®は,プロジェクトマネジメントを以 下の10の知識エリアに分類し,また,5つのプロセス・グループを規定している.知識エ リアとプロセス・グループは,マトリクスを構成し,図2.1に示すようにその交点に基本プ ロセスを規定している[PMI2017],[PMI2013].基本プロセスは,[PMI2017]では
[PMI2013]に対し 2 つ増え,1 つ削減されており,プロジェクトマネジメント知識エリ アの 2 つの名称が変更になっている.基本プロセスは全て,入力→プロセス→出力の構成 であり,必要とする入力成果物,出力成果物,さらにプロセスにおける標準的手法や利用で