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本調査で明らかになった課題、及び、他国による支援状況を踏まえ、日本のアフリカ経済政策を取りまとめた。

日本の経済政策は、地域共同体が抱える課題に対して、それらの政策が課題解決に貢献することを意図して検 討した。これにより、地域共同体の統合が促進され、共同体を 1 つの大きな市場として捉えることができるようになる ことで、日本企業がアフリカをより魅力的な進出先と認識し、参入を検討していくことを、間接的に支援することがで きる。これは、本調査の目標にも合致している。一方、「2.6 優先市場への企業参入シナリオ」で述べたとおり、日 本企業のアフリカ参入シナリオとしては、参入国を絞って段階的に市場参入することが考えられるため、現実的に日 本企業の投資促進を図るためには、これらの主要国が抱える課題に対しても、何らかの政策的対応を施すことが、

有効であると考える。日本企業にとってリスクと認識されている事項及び主要国が抱える課題が解決されることで、

参入のハードルが下がるため、日本企業にとってはこれらの国をよりオポチュニティの高い市場として見ることができるよ うになると期待される。さらに、「2.8 アフリカへの輸入関税の比較」で述べたとおり、日本企業にとって競合となり得る EU・米国の関税政策の比較から、日本企業が欧米企業と比較した場合に、直面することが予想される課題に対 しても、何らかの政策的対応を施すことが有効であると考えられる。

課題は(I)地域共同体の抱える課題(「2.4 地域共同体の課題と施策」参照)、(II)主要国別課題

(「2.5 (1) 主要国における市場機会とリスク)参照)、(III)その他課題に分けられる。こうした課題への対 策としては、a.政策対話、b.協定、c.技術支援・資金援助、d.フォーラム・セミナー開催、に分けられる。

(I)地域共同体の抱える課題に対しては、政策対話を通じて、条約/議定書の国内法化・履行や汚職撲滅、

国内平和維持を促進するとともに、様々な支援がドナー側からの押し付けや無駄にならないよう、相手国・共同体 のニーズを適切に把握し、ドナー間での協調を進める必要がある。また、合意事項の実行を促進するために、情報 インフラ・システム整備、規格化支援、職員・関係者のキャパビル、コンサルタントの派遣等の技術支援や、こうした 活動を実施するための資金援助も求められている。さらに、各地域共同体での決定事項を各国が実施に落とし込 むためのインセンティブとして、各国への資金援助の際に、統合に向けた指標を設定し、その指標の達成度合いに応 じて資金援助を行う成果型支払スキームの導入なども検討に値する。

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図表 2.9-1: 地域共同体の抱える課題と対応策

出典: PwC あらた監査法人作成

I

)地域共同体の抱える課題 対応策(案)

条約/議定 書の国内法 化・履行

域内格差 c.技術支援 ・経済・産業状況が遅れている国に対する技

術支援

c.資金援助 ・各国への資金援助の際に、統合に向けた指 標を設定し、成果型支払導入

例外品目の設定/自国産業の保護 a.政策対話 ・政策対話による適切な政策設定の促進 主権/法的拘束力の欠如 a.政策対話 ・政策対話による合意事項実施促進

c.技術支援 ・合意事項促進に向けたコンサルタントの派遣 c.資金援助 ・各国への資金援助の際に、統合に向けた指

標を設定し、成果型支払導入

遵守状況の管理不足 政策対話 ・政策対話による遵守管理体制強化促進

c.技術支援 ・履行促進に向けたコンサルタントの派遣

・履行状況のモニタリングシステム導入 c.資金援助 ・各国への資金援助の際に、統合に向けた指

標を設定し、成果型支払導入

非関税 障壁

行政/書類手続き c.技術支援 ・職員のキャパビル支援

・ワンストップボーダーポスト導入支援 加盟国や企業の認識の低さ c.技術支援 ・関係者のキャパビル支援

・マニュアル/ポータル作成支援

検問の重複 c.技術支援 ・情報共有システム導入支援

基準の相違 c.技術支援 ・規格化支援

インフラ未整備 c.技術支援 ・インフラ支援

c.資金援助 ・円借款・無償支援等によるインフラ支援

問題共有 c.技術支援 ・国家間情報共有システム構築支援

汚職 a.政策対話 ・汚職撲滅に向けた政治対話

c.技術支援 ・汚職防止トレーニング支援

事務局の 運営

限定的な役割

予算不足 c.資金援助 ・事務局向け財政支援

人材 人材不足 c.技術支援 ・コンサルタント派遣

c.資金援助 ・事務局向け財政支援 スキル不足 c.技術支援 ・職員のキャパビル支援

・受け入れ研修支援

治安情勢

a.政策対話 ・政治対話による平和維持

c.資金援助 ・平和維持活動向け財政支援

その他

加盟国の重複

ドナー間の調整 a.政策対話 ・援助協調の強化

援助方針とニーズの不一致 a.政策対話 ・政治対話による援助方針の適正化

異なる言語圏

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図表 2.9-2: 主要国別課題と対応策

出典: PwC あらた監査法人作成、赤枠はステップ 1 の国

国名 参入ステッ

(II)主要国が抱える課題 対応策(案)

カテゴ

リー 詳細

エチオピア 東アフリカ ステップ2

政府

社会主義時代の延長で、民間企業への締め 付けが厳しい。経済が開放的でない。

OMESA FTAにも不参加。 a.政策対話 ・政策対話による適切な経済政策の 促進

労働力 安価だが、スキルが低いため、求めるレベルで

働いてもらうために余分なコストがかかる。 c.技術支援 ・カイゼンプロジェクト等による技術支 援

インフラ 電気料金は安いが停電がある。内陸国のため、

輸入時には港からの輸送にコストがかかる。 c.資金援助 ・円借款、無償支援などによるインフラ 整備

経済 輸入が多く慢性的に外貨が不足。現地銀行 での外貨取得が困難。

c.技術支援 ・政策対話による適切な金融政策の 促進

c.資金援助 ・JBICのブリッジローンの活用

ケニア 東アフリカ ステップ1

政府 行政手続きが不透明。 また、腐敗度が高い。

Transparency International 2015では 136位/168位。

a.政策対話 ・汚職撲滅に向けた政治対話 c.技術支援 ・行政手続きシステム化支援 治安 総選挙後の暴動にみられるような政治混乱に

警戒が必要。 a.政策対話 ・政策対話による国内治安改善促進

タンザニア 東アフリカ ステップ1

政府 行政手続きが不透明。 規則通りに手続きが 行われない。許認可取得のハードルが高い。

a.政策対話 ・政策対話による許認可の適切化促 進

c.技術支援 ・行政手続きシステム化支援 労働力 識字率は上がっているが、英語が必ずしも通じ

ない。スワヒリ語の方が浸透している。 c.技術支援 ・労働者のキャパビル支援

南アフリカ 南アフリカ ステップ1

治安 ストライキや政治混乱、社会不安が懸念材料。a.政策対話 ・政策対話による国内治安改善促進 インフラ 慢性的な電力不足が続く。 c.資金援助 ・円借款、無償支援などによるインフラ

整備

労働力 人件費が高騰している。 ー ー

アンゴラ 南アフリカ ステップ2

政府 行政手続きが不透明。紛争終結から間もなく、

政府による投資へのコントロールが強め。

a.政策対話 ・政策対話による適切な経済政策の 促進

a.技術支援 ・行政手続きシステム化支援 治安 紛争から復興しつつあるものの、治安は懸念点。

社会保障も整っていない。 a.政策対話 ・政策対話による国内治安改善促進 経済 首都ルアンダは物価が高騰している。 a.政策対話 ・政策対話による適切な金融政策の

促進 その他 世界銀行のDoing Business2016で181

位/189位というビジネス環境の悪さ。 a.政策対話 ・政策対話による適切なビジネス環境 整備促進

ナイジェリア 西アフリカ ステップ1

治安 ボコ・ハラムなどの過激派組織、テロへの警戒 が必要。

a.政策対話 ・政策対話による適切な経済政策の 促進

c.資金援助 ・平和維持活動向け財政支援 その他 エボラ出血熱は、終息宣言が出されたものの、

企業にとっての懸念事項。 ー ー

政府 腐敗度が高い。Transparency

International 2015では136位/168位。 a.政策対話 ・汚職撲滅に向けた政治対話 インフラ 停電が多く、ジェネレーターのコストがかかる。

工場では、生産ラインで廃棄する商品が増える。 c.資金援助 ・円借款、無償支援などによるインフラ 整備

労働力 公的教育が行き届いておらず、教育水準が低

い。 c.技術支援 ・教育プロジェクト実施

ガーナ 西アフリカ

ステップ1 政府 行政執行能力がやや課題。 c.技術支援 ・政府関係者のキャパビル支援

・受け入れ研修支援 コートジボ

ワール

西アフリカ

ステップ1 治安 内戦が終結して日が浅く、政情不安がある。 a.政策対話 ・政策対話による国内治安改善促進

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(II)主要国別課題に対しては、政策対話を通じて、適切な金融・経済政策の促進、ビジネス環境整備、汚職 撲滅、国内平和維持を促進することが求められる。また、行政手続きの透明化、適正化のためのシステム化支援 や、日本企業のサプライチェーンに関わる現地企業向けに改善プロジェクトや労働者向けキャパビル支援、本邦受け 入れ研修等の技術支援も有効である。また、インフラ整備のための円借款・無償資金協力や、外貨保有率の低い 国向けには JBIC のブリッジローンの活用なども必要である。特に、「2.6 優先市場への企業参入シナリオ」において ステップ 1 にあげている、ケニア、タンザニア、南アフリカ、ナイジェリア、ガーナ、コートジボワールは、課題解決により日 本企業の関心度を上げることが重要と考えられる。

(III)その他の課題としては、①日本からの投資額が圧倒的に少ない、②EU が EPA 等の貿易締結を進める中、

日本からの輸入に対する関税率が、EU に比べて不利になる可能性がある(「2.8 アフリカへの輸入関税の比較」

参照)、という 2 点があげられる。

図表 2.9-3: 対アフリカの対アフリカ直接投資残高

出典:ジェトロ「アフリカビジネス・投資セミナー」2016 年 3 月 3 日発表資料

①に関しては、上記(I)、(II)の対策を通じて、日本企業の現地進出障壁を取り除く努力を行うとともに、

TICAD VI やその他のフォーラム・セミナー等を開催し、アフリカ市場の魅力を日本企業に継続的に伝えることが重 要であるまた、②に関しては、米国も各地域共同体との貿易協定締結準備を進める中、日本も EPA、FTA を視 野に入れた貿易協定締結に向けた対話を開始することが望まれる。

0 10,000 20,000 30,000 40,000 50,000 60,000 70,000

フランス 米国 英国 中国 日本 ドイツ 韓国

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