1.
土地政策における金融と住宅費に関連する政策1.1 住宅融資・住宅費助成・家賃統制の開始
先進国では
19
世紀後半から住宅政策が開始された。それらは小規模なもので、全国民の 住環境に一定の保障を与えるものからは、ほど遠い状態にあった。20
世紀に入って、第一 次大戦を迎え、深刻な都市部の住宅不足に直面したヨーロッパ先進諸国は国家の直接的関 与を伴う本格的な住宅政策を行なうようになっていった。アメリカでは1929
年の大恐慌を 住宅政策の契機とする。こうして、欧米諸国は大戦間期に住宅取得への融資や助成金、家 賃統制等の制度を整えていった。日本では戦前の都市部における賃貸住宅の割合は非常に 高いものであったが、住宅費助成は行われず、第二次大戦期に至って、家賃統制が導入さ れた。252戦後、1946
年に地代家賃統制令が発せられ、1950
年には「住宅金融公庫法」が、1951
年には「公営住宅法」がそれぞれ成立した。1.2 住宅取得に対する公的融資
1.2.1
先進諸国の公的住宅融資制度の概要日本の住宅金融は住宅金融公庫や年金福祉事業団、雇用促進事業団、地方公共団体等の 公的機関によるものと、銀行や信用金庫、生命保険会社、住宅金融専門会社等の民間金融 機関によるものに大別できる。政策融資として、融資の他、債務保証、利子補給、出資等 が行なわれている。253かつて、日本では住宅金融において、公的融資が大きな割合を占め ていたが、徐々にシェアが低下し、現在では民間金融機関の直接融資が中心的な役割を担っ ている。フランスとドイツではそれぞれ公的住宅である
HLM
組織連盟の住宅建設と社会 住宅建設への財政援助を行なっている。一方、アメリカやイギリスでは住宅ローン支払利 子の控除を通じた減税が主流である。254イギリスの住宅金融市場は直接融資が中心である が、アメリカでは貸付金に設定された不動産の抵当権(モーゲージ)が証券化され、転売 できる不動産担保証券市場が中心となっている。1.2.2 先進国における公的住宅融資制度の成立と変遷
(
1
)公的住宅融資制度の開始イギリスでは
18
世紀末に相互扶助的な住宅金融組合(Building society)が法的枠組みを 与えられ、発達した。住宅金融組合は組合員の貯蓄による資金を中古住宅向け中心に貸付 けるものである。イギリスでは現代でも住宅金融組合と商業銀行が住宅融資の大部分を占 めている。255ドイツでも1862
年に最初の住宅協同組合(Baugenossenschaft)が設立された。1889
年に州保険機関の融資により、住宅協同組合は発展の途に就いた。同時期には住宅供 給を行なう公益住宅企業(Gemeinnützigen Wohnungsbaugesellschaft)も発展した。1880 年252塩崎、前掲、45頁。1941年の調査によると、借家の割合は東京市で73.3%、大阪市で89.2%、名古屋市で80.3%であっ た。
253住宅金融公庫住宅金融研究グループ編、前掲、280-281,302,330-334頁。
254住宅金融公庫住宅金融研究グループ編、前掲、294-295,319-322頁。
255海外住宅金融研究会編著、前掲、213-218頁。
住宅金融公庫住宅金融研究グループ編、前掲、69-73頁。
代には現在の建築貯蓄金庫(Bausparkassen)の原型である金融組合が設立された。20世紀 に入ると、自治体の中間融資の債務引き受けや建設用地の提供もあり、それらの住宅金融 組織による住宅建設数も増加した。第一次大戦後には住宅難への対策として、住宅協同組 合と公益住宅企業への公的助成制度が始まった。ナチス支配期には住宅共同組合が解散さ せられ、公益住宅企業も再編されたものの、公的助成制度は第二次大戦後の社会住宅制度 に継承されていった。256また、フランスでは歴史的に国が住宅金融に積極的に介入してき た。
1928
年には5
年間に20
万戸の住宅供給を計画し、超低利の公的融資を制度化した。フランスの住宅金融においては、日本の財政投融資制度に類似した郵便貯金等を原資とす る金融システムによる公的金融の役割が大きい。257
(2)第二次大戦後の公的住宅融資制度の確立
第二次大戦後、欧米諸国では公的な住宅金融制度の整備が本格化した。大戦中に多くの 住宅が破壊されたフランスでは、戦後、公的住宅の直接供給を行なうとともに、民間の住 宅建設を促進するために公的援助により、住宅金融制度を拡充させた。1950 年には
HLM
組織連盟とフランス不動産銀行(CFF)を通じた住宅融資が制度化された。政府は適正家 賃住宅であるHLM
住宅を供給する公社や協同組合、企業等に融資と補助金亣付等を行な い、主に賃貸住宅が建設された。また、CFFは徐々に半官半民の銀行となり、主に持ち家 建設の促進のため、特別融資が始められた。こうして、HLM 組織連盟とCFF
はフランス の戦後の住宅政策の中心となっていった。258イギリスでも
1964
年に公的融資機関として設立された住宅公庫(Housing Corporation)が、低所得者向けの賃貸住宅の建設と管理を行なう住宅組合(housing association)を通し て、財政支援を行なった。また、アメリカでは第二次大戦後、連邦住宅庁と退役軍人庁に よる抵当融資の保険と保証によって、戦時国債購入から自由となった資金が住宅建設に流 入し、住宅市場の拡大が続いた。「1949年住宅法」(Housing Act of 1949)では、公営住宅 の供給や都市再開発における低所得者向け住宅への連邦補助が定められたが、申請は低調 なものであった。その後、「
1961
年住宅法」(Housing Act of 1961
)によって、低中所得者 向けの賃貸住宅建設に利子補給と融資保険が導入された。1965 年には住宅都市開発省(HUD)が設立され、低中所得者向けの賃貸住宅の建設に融資を行なうようになった。259 戦後、旧西ドイツでは
1950
年の「第一次住宅建築法」により、持ち家と借家の区別無く、社会住宅に対する公的助成が制度化された。公的助成は無利子または低利の建設資金融資 を基本とし、中低所得者向けの賃貸住宅等を対象とした。1950 年代から
1960
年代にかけ て、住宅建設・取得に対して、優遇税制が整備されたが、逆進性があり、批判を受けた。256大場、前掲、91-111頁。
住宅金融普及協会編『住宅金融の現状と問題−欧米諸国及び発展途上国に見る−』住宅金融普及協会、1976、46頁。
257海外住宅金融研究会編著、前掲、380頁。
住宅金融公庫住宅金融研究グループ編、前掲、73-75頁。
258海外住宅金融研究会編著、前掲、380-382頁。
住宅金融公庫住宅金融研究グループ編、前掲、73頁。
原田・東川、前掲、82-83頁。
檜谷美恵子「第3章フランスの住宅政策」大場他、前掲、201-202頁。
259海外住宅金融研究会編著、前掲、41-45,195-198頁。
平山、1999、271-287頁。
社会住宅の住宅建設に占めるシェアは
1950
年前後には7
割に達し、その後、徐々に低下し ていった。1967 年には第二次住宅建設法により、持ち家建設が促進された。また、1988 年には持ち家と賃貸住宅を対象とするより柔軟な公的助成を行う第三助成方式が設けられ た。260(
3
)持ち家政策と民間金融機関中心の住宅融資への移行欧米では戦後、ほぼ住宅不足を解消した後、
1960
年代から、持ち家取得への融資に重点 が移った。それとともに公的住宅融資の幅も広がるとともに、住宅融資も民間金融機関を 中心とするニーズの多様化に対応したものに変化していった。イギリスでは1970
年代まで は住宅金融組合がほぼ独占的に住宅金融を担ってきたが、1980
年代には、商業銀行の本格 的参入が始まり、1986年の「住宅金融組合法」改正により、ほとんどの大手住宅金融組合 が銀行に転換した。また、公営住宅政策が縮小される一方、持ち家政策が促進され、住宅 ローン利子補給や公営住宅の払い下げ、住宅公庫や地方公共団体による低所得者への特別 融資等が行なわれた。261旧西ドイツでは第
2
次大戦後、急速な発展を遂げた建築貯蓄組合は、1972
年には住宅建 設に投資された資金の30
%以上を供給するまでになり、連邦銀行の監督下に置かれた。現 代のドイツでは多様な住宅金融機関がある。その中でも、貯蓄銀行や建築貯蓄金庫、債権 により資金を調達する抵当銀行等が主要な金融機関となっている。連邦政府では金融機関 の貯蓄促進のための住宅建設割増金制度や財産形成付加金制度があり、また、税制優遇処 置として、特別支出控除制度等の施策を行なっている。262フランスでは
1977
年に住宅融資がHLM
組織連盟等による賃貸住宅助成融資(PLA)と 私的建築者の主に持ち家向けの協定融資(PC)という2
つの制度へ統合された。現代のフ ランスの住宅金融機関は、CFF
等の政府系機関と公的金融機関である組合金融機関、そし て、民間金融機関からなる。CFFは政府保証債等により資金を集め、低利の住宅融資を行 なっている。一方、民間金融機関では1980
年代に金融制度の規制緩和が行なわれて、住宅 ローンが急増していった。1995
年にはCFF
がほぼ独占していた持ち家取得助成融資(PAP
) に代わる制度として、政府の利子補給による金利0%融資制度(PTZ)が創設された。現
代のフランスの住宅融資制度は国の助成制度であるPTZ
と賃貸住宅助成融資(PLA)、制 度的規制がある協定融資(PC
)、住宅貯蓄融資(PEL
)、自由融資等からなっている。263260大場、前掲、111-133頁。
住宅金融公庫住宅金融研究グループ編、前掲、76-79頁。
261海外住宅金融研究会編著、前掲、171-179,195-197,215-218頁。住宅ローンの利子補給は財政への圧迫等から2000年に 廃止された。
住宅金融公庫住宅金融研究グループ編、前掲、69-73,294-295頁。
262海外住宅金融研究会編著、前掲、332-336頁。
住宅金融公庫住宅金融研究グループ編、前掲、76-79頁。
住宅金融普及協会編、前掲、46頁。
263海外住宅金融研究会編著、前掲、384,407-408,420-444頁。
住宅金融公庫住宅金融研究グループ編、前掲、73-75頁。
原田・東川、前掲、83-85頁。
檜谷、前掲、211-219頁。