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日本における土地政策の各手法の比較と総括

ドキュメント内 ―歴史的・制度的な比較分析を通して― (ページ 112-121)

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部では

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章にわたって、日本と海外の土地制度と土地政策を比較分析し、各土地政 策の有効性を検証してきたが、法的・直接的・経済的手法による政策の分類は土地政策に 限らず、他の政策の多くにとって、適切なものである。実際にはこれらに加えて、文化的・

社会的な手法による政策もある。それは教育等においては中心となるものであるが、土地 政策では、都市計画における景観やまち並み等を除けば、重要性は低い。また、直接的手 法とは、法的手法と経済的手法と同様の政策の質的な分類ではないが、官と民という政策 主体の違いが政策の質的な違いに匹敵する大きなものであることから、分類に加えたもの である。

土地政策における法的手法による政策の中心は都市計画である。都市計画は整備事業で ある以上に、土地利用に対する法的規制と計画による誘導を主とするものである。他の先 進各国の都市計画の特徴は日本に比べ、強い規制と計画性の高さにある。同時に土地計画 の策定における自治と民主制の原則が確立していることが、そのような規制と計画性を可 能としている。一方、先進各国に出遅れ、実質的に戦後から始まった日本の土地利用計画 は規制が緩く、計画性自体も低いものとなっている。それは、資本主義下で、中央集権的 に施策する政策企図から、必然的に形成されてきたものである。同時に自治体には計画対 象としての受動的役割しか与えられなかった。このような自治の原則から大きく逸脱した 制度に端的に現れているように、個々の事業は欧米の先例に倣ったものであっても、都市 計画の導入時点から、制度設計者の政策思想や行政行為への認識には、欧米におけるもの とは大きな隔たりがあったと言える。また、都市部の人口集中への対策として、都市計画 等の土地利用計画が用いられることは先進国全般に共通するが、日本の集中状況は三大都 市圏という極めて限定された地域に短期間に生じたものであり、土地利用計画を圧倒し、

混乱したものとした。特に都市計画法の都市計画区域制度と農地法・農振法の齟齬は国を 中心とする統制的な計画の限界を示している。このような大規模な制度的失敗を避けるた めにも、土地利用計画における自治と民主制を確立しなければならない。

そして、直接的手法による土地政策の中心は国土計画や住宅供給事業であるが、大規模 な国土計画と公共事業は日本特有のものである。それらも欧米先進国に比較すると、自治 と民主制の原則から離れ、国が中心となり、大きな権限を持って行なってきた。日本の国 土計画は地方の活性化と産業の発展を二大目標としてきた。その為に地方の公害や自然破 壊を起したのみならず、拠点開発方式による地方の産業活性化も成果が低く、却って、農 村部の衰退が進行した。それは成果の低い計画と事業が制度的に拡大継続する国の直接的 手法による土地政策が起した弊害の典型的な事例であった。実際、高度成長期以降、公共 事業は大きな見直しを迫られつつも、土木事業を中心として、依然、大きな予算規模を維 持している。それに比して、公的な住宅供給事業は大幅な縮小が行なわれてきた。住宅公 団は行政法人化し、地方の公営住宅の新規建設も減尐し続けている。そのような公的住宅 供給政策の縮小は先進国共通の流れであるが、ヨーロッパの先進国は戦後、大規模な公的 住宅供給を行ない、住宅不足を解消した後の段階として、公的住宅の縮小期にある。一方、

日本では特に低所得者の住宅問題は自助の問題として等閑視され、公営住宅の新規建築も 実質的に停止しつつある。そして、膨大な公共事業費や社会保障費に比べて、社会的セー

フティーネットとして、最も重要な住宅政策はあまりに規模が小さい。国土形成計画とし て、公共事業も量から質へと転換しつつあるが、経済的・社会的格差が拡大する日本にお いては、公的な住宅供給は社会資本整備のための公共事業としても、高い優先度を持つ政 策課題である。

経済的手法による土地政策は現代日本の土地政策の中心となってきた。特にその土地税 制は農地政策を含む土地政策に不可分なものとして、一体的に構築されている。国際的に も土地税制の中で最も重要なのが、固定資産税と相続税・贈与税である。これらの税は土 地の再分配機能と経済格差是正機能を持つが、資産格差と居住状況の格差が拡大する日本 においても、大規模な土地の所有層に対して、これらの税の強化が求められる。また、公 的な住宅供給策が縮小しつつある日本では住宅費助成の拡大が望まれる。欧米では賃貸住 宅の家賃補助や家賃統制は社会政策として、戦前から住宅政策の柱として行なわれてきた。

現在でも家賃補助を含む広範な住宅費助成が、社会政策の一環として行なわれている。日 本では高度成長期より、持ち家取得の為の住宅融資が官民で拡大してきたが、居住環境に おける弱者である賃貸住宅居住者への経済的政策は無きに等しいものであった。国民の給 与水準が低下し続ける状況にあって、宅地政策や住宅取得政策以上に、家賃補助等の賃貸 住宅に関する政策は優先度が高いものである。

これらの法的・直接的・経済的手法による土地政策を総合的な土地政策として構築し、

運用する要点を総括すると以下のようになる。まず、法的手法(規制的手法)による土地 政策を用いる土地利用計画の中心は官庁の許認可や線引き、用途指定等の恣意的な策定で はなく、民主的プロセスと自治体の決定を経た調整によって、自律的に最適な内容と規模 が決定されうる。また、土地に関する法規定の変更は日本では忌避されてきたが、経済性 や人権、社会厚生の最大化等によって、適正な法規定の基準が定められるべきである。し たがって、土地に関する法規定の変更は総合的土地政策の中心となると共に、最も導入が 困難なものであり、行政と政治、社会全体の努力が必要となる。

日本における直接的手法(国公営事業・公共事業型)による土地政策は他の先進国に比 べて、低い行政能力の下に施策されてきたが、それも土地利用計画と同様に民主的プロセ スと地方自治の確立を通して、適正な事業計画と規模において施策することが可能である。

資本主義経済の発展とともに、国公営事業の規模と範囲は縮小しているが、予算規模と採 算性を条件として、上記の策定プロセスによって、住宅供給政策等、社会的に優先度の高 い事業を施行することが、総合的な土地政策において、適切な国公営事業である。

そして、他の土地政策の手法が有効に実施されない現代日本において、経済的手法によ る土地政策は本来、補完的なものであるにもかかわらず、土地政策の中心となっている。

そのような状況に対し、他の手法による土地政策を適正化し、土地税制等の経済的手法に よる土地政策を総合的土地政策の下で再構築する必要がある。その経済的手法による土地 政策を有効たらしめる原則は、経済的政策が土地支配層の利益ではなく、小土地所有者や 不動産を持たない経済的・社会的弱者の経済的向上のために、柔軟かつ、長期的な運用を 行なう事である。これらの原則によって、各土地政策が総合された時に、有効な土地利用 と社会厚生の最大化において、土地政策が実効性のあるものとなる。

終わりに

当研究が土地問題に対して、歴史的・制度的な研究アプローチを採ったのは、それが、

土地制度史と土地制度に関し、個別的分析のためではなく、法と経済、行政・政治的な要 素を包含した事例を全体的、総合的に検証できるからである。一方、日本ではこれまで土 地に関連する各分野において、多くの優れた研究が集積し、あらゆる答えが出揃っている にもかかわらず、土地問題解決に学術研究が有効性を発揮できないのは、土地政策の対象 が生活と経済活動に不可欠な基盤である土地とその当事者である人間という最も複雑で多 様な要素を総合したものだからである。そのような対象にこそ、分析というよりも、時間 的・空間的に出来るだけ俯瞰した上で、多くの事例を複眼的に凝視して、総合することが 問題の解に近づく有効な方法である。

土地制度史は、法規定や国家制度は国民の厚生あるいは繁栄のために設計されるべきも のであることを示している。それに反した歴史的事例は枚挙に暇がない。古代ローマや中 世イギリスの大土地支配による農民搾取は土地支配層の利益に沿って、土地に関する権利 規定を歪曲したことによる。中国の歴史における千年以上にわたる土地制度と国家制度の 混乱と農民の隷従化は、土地利用の実態から乖離した中央集権的な土地制度の興廃によっ た。また、インドの土地制度史における経済的な農民搾取は適正な経済行為と国家経済の 衰退に至る非生産的な収奪行為との違いを明示している。それらの歴史的事例に共通する のは、独占的な大土地所有によって、小土地所有者や小作等の土地利用の実態を担う農民 の土地利用が脆弱な状況に置かれてきた事であった。

セポイの反乱後、イギリスは農民保護政策を行なったが、それは近代的な農地改革の嚆 矢となったアイルランドにおける自作農創設策が始まった時期でもあった。自作農創設に 成功した戦後日本の農地改革も、その後の日本の高度成長の社会的基盤を作ったものと なった。しかし、バブル期以降の「失われた

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年」が

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年となり、経済的・社会的な停 滞が続いている。それは戦後の農地改革を中心とした制度改革の効果が失効の時期を迎え、

土地制度を含む抜本的な制度改革が必要な時期にさしかかったことを示している。農地改 革では法的手法による土地所有の再分配が中心となる。それを逸脱し、行なわれた莫大な 予算を伴う国公営事業は大きな弊害をもたらす事が多かった。また、法的改革を忌避し、

経済的処置に終始した農地改革の大半は成果無く終わった。それらは制度改革とは大規模 な事業計画や経済政策ではなく、法的な改変を伴う構造改革であることを示している。

このように歴史的・制度的観点に立って、当研究は土地制度史と農地改革に対する法的・

行政制度的・経済的な観点から歴史的・制度的分析を行なってきたが、それらから、現代 の日本の土地政策への提言として、以下の原則を導きだした。すなわち、現代の土地政策 でも、その基盤にあるのは土地の諸権利の法規定であって、それが土地利用の実態と大き く乖離する場合は是正が必要だという事である。その際、農民や市民等の小土地利用者の 土地利用を法的に保護する必要性は言うまでもない。また、公的機関の直接的事業は中央 集権的な弊害を自治と民主制の確立の下に抑制し、実施分野を十分に限定する事が必要と なる。それは予算等の経済性の観点からも、資本主義下の土地制度におけるものであるこ とからも要件となる。一方、土地政策における経済的手法は不動産と現代の経済社会に適 合した柔軟性の高いものであるが、政策としては補完的である。なぜならば、政策の多く

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