第6章において作成した方言理解支援ツール『東北地方の外国人住民のための「くらしの方言 集」』であるが、実際に手に取った外国人住民や地域日本語教師などは、使ってどのように感じた のだろうか。本章では、東北地方で実際に使用していただいた皆様からの評価について述べる。
7.1. 方言集の設置・配布
方言集を外国人住民や地元の日本語教師の皆様の手に届けるためには、常時方言集が入手でき る場所がないと難しい。そこで筆者は、まずは方言理解調査で協力していただいた(公財)秋田 県国際交流協会、金ケ崎町国際交流協会(岩手県)、そして会津若松市国際交流協会(福島県)
での設置・配布をしていただいた。また、各地で実施した方言理解調査のインフォーマント及び 方言集に収録した方言音声の録音協力者にも筆者から送付し、あるいは各国際交流協会を通じて 配付していただいた。その後、以前筆者が訪問し本研究についてお話をした(公財)山形県国際 交流協会にも設置・配布を依頼し、快諾していただいた。
後日、金ケ崎町国際交流協会で配布した方言集を入手した奥州市国際交流協会の日本語教師の 方から問い合わせがあり、その結果、同協会にも設置・配布していただけることになった。さら に、(公財)山形県国際交流協会で配布した方言集を入手した(公財)青森県国際交流協会の職 員の方からも「ぜひ欲しい」との連絡をいただき、同協会での設置・配布も可能となった。
また、筆者が方言集の設置・配布について(公財)岩手県国際交流協会、(公財)仙台観光国際 協会が運営する仙台国際センター交流コーナーの両機関に依頼したところ、快諾していただき、
設置・配布に至った。現在方言集を設置・配布している機関は以上の通り東北6県、8ヶ所であ る(表6)。
表6. 方言集配布機関一覧
青森県 ・公益財団法人 青森県国際交流協会
岩手県
・公益財団法人 岩手県国際交流協会
・奥州市国際交流協会
・金ケ崎町国際交流協会
宮城県 ・公益財団法人 仙台観光国際協会 仙台 国際センター 交流コーナー
秋田県 ・公益財団法人 秋田県国際交流協会
山形県 ・公益財団法人 山形県国際交流協会
福島県 ・会津若松市国際交流協会
7.2. 配布後の利用・反応
方言集は、各国際交流協会で配布されてから、様々な形で利用されている。外国人住民が入手 して各自利用することが主な目的ではあるが、地域日本語教師が入手し、日本語教室の中で、方 言を教える時間を設けて方言集を見ながら一緒に方言を学んでいくという利用法もあった。筆者 が偶然奥州市国際交流協会のFacebookのページを閲覧していたら、方言集を用いた授業風景の写 真が掲載されていた。協会及び被写体の人物への許可をいただいたので、ここにスクリーンショ ットを掲載する(図 40)。なお、スクリーンショット内の当該記事とは無関係の個人名等は加工 して削除した。
図40. 日本語教室での方言集の利用(奥州市国際交流協会)
また、岩手県紙である『岩手日報』2017年12月31日付の21面において、本方言集及びその 研究過程に関する記事が掲載された(図41)。
図41. 『岩手日報』に掲載された記事
7.3. 方言集の評価
方言集を実際に手に取った外国人住民や地域日本語教師などは、使ってどのように感じたのだ ろうか。ここでは、東北地方で実際に使用していただいた皆様からの評価について記す。
東北6県の各機関に寄せられた地域日本語教師や外国人住民のご意見を、担当者の方からメー ルでいただいた。方言集に対して肯定的なものから否定的なもの、そして今後の改善につなが る具体的な提案まで、実に様々なご意見をいただいたので、以下に紹介する。
7.3.1. 日本人住民の評価
以下に、日本人住民の皆様からいただいたご意見を記す。主に地域日本語教師からのご意見で あるが、各機関の職員や、地域住民のものも含まれている。
・大変好評で、日本語教師や支援者から「ぜひ欲しい!」という声がたくさんあった
・外国の方は方言のあたたかさを好む方が多い、この本を欲しい方はたくさんいるはず
・日本語を教えている外国人も喜ぶと思う
・学習中に方言について聞かれたときに利用できるので良い
・実践的な入門本として、現地でも立派に通用すると思う
・小さな自治体で、ALTや外国人の配偶者が来た場合のプレゼントとして、配布するといいので は
・県内の大学の職員が来所された際に数部差し上げたところ、事務局担当課内で回覧され、とて も評判がよかったと聞いた
・きれいによくまとまっている
・販売はしていないのかとの意見もあった
上記のような肯定的なご意見をいただいた。また、以下のような方言集に対する具体的なご意見 も多くいただいた。
○方言集のサイズ・材質について
・サイズや紙の厚さ、表紙の紙質などが使いやすい(何度も繰り返しめくることが想定されるの である程度の厚さがあるこの紙質は使いやすい)
○フォントについて
・外国語訳はもう少し小さいフォントでいいような気がする
・またJP/CNなどの表記(外国語訳の前に記す言語名)もなくてもいいのではないかと思う
・字の間隔、フォントが大きすぎる
○方言項目について
・内容は正確だ
・語彙のボリュームは、現地で特徴的かつ、普通でも使うような言葉はかなり網羅していると思 われる
・各方言が使われる地域は、もう少し精査が必要かも(例えば、63番「なんも」は、盛岡のあた りは色が抜かれているが、口癖のように言ってる人が周囲にけっこういる)
・助詞(~だべ、~でがす)なども載せたほうがいい→~だべが(~だろうか)、~でがした(~
でした)などの活用も
・現在使用していない単語は不要
・地元人でも聞いたことのない言葉がある
・方言となまりは別、方言だけ入っていて不自然
・方言は、なまりもあるし、家庭によっても使う使わないがある
○分布図について
・方言が使われている地域の色分け表示わかりやすい、見てすぐにわかる
・通用している地方も、感覚的にわかりやすい
・現地に住んでいる外国人にとっては、地理的な位置感覚がつかみやすいのではないか
・各方言についての地図の色と形状が、臓器をイメージしてしまうので別な色のほうがいいので はないか
○例文について
・よく聞く方言で、息子が初めて話した方言「〜っけ」について、「〜っけ(よ)。」で例文を載せ た方が、実用的かなと思う
・一文だけではわかりにくい、何かひとつの場面を想定して自然な会話のやり取りを記入しては どうか
○イラストについて
・イラストが多数使われているのが見やすくてよい
・語彙ごとのイラストがよく状況を表していて、視覚的にもわかりやすいのがいい
・イラストに登場する人物も、親しみやすい
・イラストを担当された方もよく言葉の持つ意味を理解した上での作業だと感心した
・イラストがないページもあるので、もっとイラストがあったほうがいい
○CDについて
・こういったものは発音が重要なのでCDが添付されているのはとてもいい
・CD、会話例がついているので、イントネーションなどがよくわかった
・音声CDは、スピーカーが東北弁ネイティブなので生々しく、いい
・音声で聞くネイティヴの発音には、東北人の私でもびっくりだった
・音声CDに男性の声だけだと何か重いので、それに女性が入るといいアクセントになる
○ウェブサイトについて
・web版でも音声を確認できたらいいと思う また、
・できたら、その地方ごとに方言を分けて記載してあると読みやすいと思う
・もっとエリアを細かくして、言葉の数を増やしたエリアごとの方言集にしないと、実際の活用 には適さないと思う
・地域ごとに分かれた冊子にしてはどうか、会津で他の地方の方言は使わない
といった、「地域ごとに分けてほしい」という意見が各地で見られた。本方言集は「東北地方の外 国人住民の必要最低限の方言理解の一助」というコンセプトと、方言項目の多くが複数の地域に 跨って使用されているという事実から、地域ごとに分けて記さずに、分布図を添えることで本方 言集の特長とした。しかし、やはり各地の住民からすれば他地域の方言項目は「使わない」「聞か ない」方言であるため、不要な箇所となりやすい。今後、PDF版にて実験的に地域ごとに分けた バージョンの方言集の製作に取りかかりたい。
さらに、
・うしろに索引があると便利だと思う
・費用や労力の問題で難しいかと思うが、アプリがあればスマホでも使いやすいのかなと思う というご意見もいただいた。やはりこちらに関しても今後検討したい事項である。
その一方で、外国人住民を対象とした本方言集について否定的なご意見もいただいた。
・まだ日本語がうまくできない学習者にとっては混乱させる内容である
・外国人の暮らしに役立つものとは思えない
・日本語教室は基本的に方言に重点は置かず、標準語で授業を進めている
・間違った言葉は教えない、というものを持ちながら授業を進めており、この冊子に関しては気 になる点がいろいろある
上記のご意見に見られるのは標準語を重要視している点であるが、このようなご意見が存在す るという事実は受け止めなければならない。筆者としてはこれまで外国人住民に対する方言理解 の有用性を示してきているが、本方言集は地域日本語教育の在り方の一つの選択肢であり、最終 的な利用は当事者の方々に委ねられている。
7.3.2. 外国人住民の評価
次に、外国人住民の皆様からいただいたご意見も紹介する。
・とてもいい、素晴らしい
・面白い
・書店で売っているなら買いたいと思う
・青森に住む外国人には役立つ
・地図がわかりやすい
・インドネシアの方は、なかなか他の多言語表記の中にインドネシア語があることはないのでう れしいとのこと
・(インドネシア人学習者より)全頁読んだわけではないが、訳に少しニュアンスが違う部分があ ると思った(例として「めんこい」の訳は英語でいうとfunnyに近い感じ、ここでは英語でcute とあるので少し違和感)
・ベトナム語の説明がほしい
・本のサイズが小さい
・どこ地方の方言かもっとはっきり表わした方が良い