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外国人の方言理解調査

5.1. はじめに

前章の方言使用調査で日本人に「使う」「聞く」と回答された項目を、現在東北地方に暮らして いる外国人住民がどの程度理解できているのか。それを明らかにするのが本章の方言理解調査で ある。

先の方言使用調査で日本人が「使う」「聞く」とした項目に着目し、それらを含んだ短い会話を 東北地方の外国人住民に聞いてもらい、内容を理解できるかを問う、という方法をとった。なお、

これは前章のABとMKに協力して頂いた調査とは全く異なるものである。

5.2. 調査概要 5.2.1. 方言の録音

調査のため、まずは方言を含む短い会話の録音を実施した。方言使用実態調査での協力者から、

秋田県秋田市の協力者1名(以下「AJ」)、岩手県奥州市の協力者1名(以下「IJ」)、福島県喜多 方市の協力者1名(以下「FJ」)に方言による発話の録音を依頼した。いずれもその地域の出身者 で、現在居住している。但し、IJに関しては宮城県仙台市への移住経験がある。

方言リストでそれぞれ本人が「使っている」とした方言事項を含めた短い文を作成し、筆者と 会話している形式をとった。例えば、AJは「すっぱね」(泥はね)という語を使っていると回答 したので、それを含めた以下の会話を作成・録音した。Rは筆者の発話である。

R: ズボンどうしたんですか?

AJ: あーすっぱねかがった。

方言を用いるのは協力者のみで、筆者は常に標準語のみを用いた。これは、外国人住民が普段 の生活で方言に遭遇する場面を想定したため、筆者の部分を外国人住民と置き換えられるように したからである。外国人住民が何かを地元住民に話しかける際、自らの発話は当然ながら理解し ており、そこに付随する文脈も理解できる。そのような状況下で地元住民の方言による返答をど こまで理解できるかを見ることがこの調査の目的である。そのため会話の作成に関しては、外国 人住民に置き換えうる筆者の部分は方言知識に左右されない標準語にし、かつ極力難しい表現や 複雑な場面設定は避け、文脈を分かりやすく、方言以外の部分で悩むことのないように最大限配 慮した。また、外国人住民が話しかけるような形式を想定したため、一部の例外を除いて標準語 の発話(Rの発話)が最初になるようにした。

2016年10月にAJの89、IJの75、同11月にFJの82の方言を含む会話を作成・録音した。録 音は、それぞれAJの自宅、IJの自宅、FJの自宅でICレコーダーを用いて実施した(図34)。

図34.方言の録音の様子

なお、各地域で録音した方言の全スクリプト及び標準語訳については、章末の「資料 1 秋田 県秋田方言(録音スクリプト)」、「資料2 秋田県秋田方言(標準語訳)」、「資料3 岩手県伊達方 言(録音スクリプト)」、「資料4 岩手県伊達方言(標準語訳)」、「資料5 福島県会津方言(録音 スクリプト)」、「資料6 福島県会津方言(標準語訳)」を参照のこと。

5.2.2. インフォーマント探し

上記の手法で録音した方言を含む会話を、秋田県秋田市、岩手県金ケ崎町、福島県会津若松市 の外国人住民に聞いてもらう方言理解調査を後日行った。秋田市と金ケ崎町については、それぞ れの地域で(公財)秋田県国際交流協会及び金ケ崎町国際交流協会が主催した外国人住民が集ま るイベントに参加し、両協会の協力のもと調査に協力可能な外国人住民を募り、調査実施日を決 めて後日実施した。会津若松市に関しては会津若松市国際交流協会に協力可能な外国人住民を紹 介して頂き、後日調査を実施した。

なお、奥州市と金ケ崎町は隣接しており、かつ岩手県方言のうちともに「南部方言地域」(本研 究の「伊達方言」に等しい)に属する(本堂1967、1982)ため、奥州市のIJの方言は金ケ崎町の 外国人住民が普段耳にすると思われる方言と変わらないと判断し、方言理解調査に使用した。同 様に、喜多方市と会津若松市も隣接しており同一の「会津平方言」(本研究の「会津方言」に含ま れる)に属する(菅野1982)ため、FJの方言を会津若松市の外国人住民に対する調査に用いた。

5.2.3. インフォーマントの概要

秋田市ではインドネシア人女性1名(以下「AID」)、フィリピン人女性1名(以下「APH」)、 金ケ崎町ではアメリカ人男性1名(以下「IUS」)、中国人女性1名(以下「ICN」)、福島県ではア メリカ人男性1名(以下「FUS」)、オーストラリア人男性1名(以下「FAU」)、フィリピン人女 性1名(以下「FPH」)が調査に協力してくれた(表4)。

なお、日本語学習歴としては、以下の通り。なお、いずれも地域のボランティア日本語教室へ の参加はある。AIDは来日するまで学習歴はなく、来日してからは自然習得によって日本語を覚 えた。APHに関しても来日前の学習歴はなく、やはり来日後に自然習得をしている。IUSは英語 教師として来日した当時に1ヶ月間会社で日本語のトレーニングを受けたが、それ以降は基本的 には自然習得である。ICNについては最初は東京などで暮らしていたようだが、特に日本語を学 習していたわけではなさそうで、自然習得が基本である。FUSに関しては、大学生時代に一度大

学のプログラムで岩手県へ来日したことをきっかけに、帰国語は大学院で日本語を専攻した。な お、方言ではなくあくまでも標準語の日本語である。その後JETプログラムを通じて再来日する が、普段は英語教師である関係上、同僚の日本人教師とは英語で話すことが多いという。FAUは、

学習歴は特になく、また在日歴も浅いため標準語でもコミュニケーションをとることがまだ難し い。FPHは、来日前の学習歴はなく、最初は群馬県で暮らし、3年後に会津地方出身者と結婚し たため会津若松市に移住したが、その間自然習得が基本である。

表4.方言理解調査のインフォーマント一覧

インフォーマント 調査地 出身国(性別) 在日歴/現居住地での居住歴 AID 秋田県秋田市 インドネシア(女性) 16年/2年

APH フィリピン(女性) 17年/17年 IUS 岩手県金ケ崎町 アメリカ(男性) 17年/4年

ICH 中国(女性) 20年以上/17~18年 FUS

福島県会津若松市

アメリカ(男性) 15年/6年 FAU オーストラリア(男性) 3年/3年 FPH フィリピン(女性) 16年/13年

なお、AIDは秋田市居住以前の14年間は秋田県由利本荘市に居住していた。由利本荘市は、秋 田市と隣接してはいるものの、異なる方言圏に属しているため(佐藤1982、2000)、「現居住地で の居住歴」には含めないこととした。

5.2.4. 方言理解調査

方言理解調査は、2016年10月に秋田県国際交流協会の一室、金ケ崎町中央生涯教育センター のロビー、12月に会津若松市国際交流協会の一室において実施した(図35)。

図35.方言理解調査の様子

録音した方言を聞いてもらい、意味を説明してもらう形をとった。ほとんどの場合、インフォ ーマントは標準語で訳して説明をしたが、標準語で説明できない場合は英語による説明、あるい はジェスチャーによる説明も行われた。

調査では、録音を何度でも聞くことができるが、何度か聞いても分からない場合(録音が聞き 取れない場合も含む)は筆者がその場で会話をゆっくりはっきりと言い直す、それでも分からな

い場合は文節や語レベルまで分けて発音し、文では理解できなくても語なら理解できるかなどを 調べた。また、語レベルまで分けても知らないということが分かっても、意味を推測できるかに ついても調べた。

5.3. 結果

まず、各インフォーマントの正答数を表5に示す。なお、調査に使用した会話は秋田は89、岩

手は75、福島は82であるが、注目した項目を2つ含む会話がいくつかあったため、表中の問題

数としては秋田は95、岩手は76、福島は84になっている。なお、福島のFAUに関しては、調査 時間の都合上、問題数を減らして69問について質問したため、他の福島のインフォーマントとは 質問数が異なる。

表5.各インフォーマントの正答数及び推測による正答数

インフォーマント 正答数 第1段階正答数 第1段階正答数のうち推測で当てた数

AID 52/95 41/52 1/41

APH 65/95 49/65 22/49

IUS 20/76 19/20 7/19

ICN 42/76 37/42 12/37

FUS 38/84 28/38 21/28

FAU 20/69 15/20 7/15

FPH 44/84 38/44 5/38

正答数は、全質問のうち「録音を聞いて分かる」(第1段階)、「筆者がゆっくり言って分かる」

(第2段階)、「語レベルに分けて分かる」(第3段階)のいずれの段階かで正答した数を示してい る。「第1段階正答数」は、第1段階、つまり録音を聞く段階(聞いた回数は考慮しない)で正答 した数を示している。「第1段階正答数のうち推測で当てた数」については名前の通りであるが、

先の「第1段階正答数」のうち推測で正答した数を示している。

その結果、外国人住民が共通してよく理解している方言、あるいは理解できていない方言が明 らかとなった。

5.4. 知っていた方言

5.4.1. よく知られていたもの

例えば、「おばんです」(こんばんは)、「なげる」(捨てる)、「めんけ、めんこい、めごい」(か わいい)、「んだ」(はい)、「んだから」(そうでしょう(同意))、「んめ」(おいしい)のようなも のは、全調査地域において、正答数の少なかった者を含めた多くのインフォーマントが理解して いた。これらの共通点としては、前章の方言使用調査で「東北地方全域で広く用いられていたも の」に相当する項目であるということである。

また、秋田県のAIDとAPHはどちらも秋田のみで用いられている「がっこ」(つけもの)を知 っており、福島県のFUSやFAUに関しては、福島県と山形県で用いられている「さすけね」(大 丈夫だ)について「(日本語教室の授業などで)教えてもらっていたので知っていた」と答えてお り、やはり各地の代表的な方言についても習得したり教わったりすることもあるようだ。

上記の全調査地域で知られていたもの以外に、各調査地域で2名以上知っていた方言について 以下に記す。但し、以下に記すものは必ずしも各調査地域独特の方言というわけではなく、東北

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