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5. 新規事業提案制度の動態モデルの提案

5.2. 新規事業提案制度のSECIモデルの提案

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図 5-5 自分事エリア拡大モデル コクヨ推進者 山崎氏(K1)の例

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新規事業提案制度においては新規事業創造、人材育成、組織活性化、そして組織へのエ ンゲージメントを高めることが求められる。自己決定(Self-determination)―高揚

(Enhancement)―人材育成(Cultivation)―実装(Implementation)のサイクルを繰り 返すことにより、自身が成長していくモデルになる。頭文字をとって新規事業提案制度の SECIモデルと呼ぶ。スパイラル・アップしていくことで組織へのエンゲージメントを高 め、組織活性化につながる。新規事業の創造を目指すが、たとえ失敗に終わったとしても やりきったという達成感は自己実現に結び付く。

この枠内にある主人公は、必ずしも制度の推進者である必要はない。支援者であったり 運営者であったり。制度を見守っていたオーディエンスが新規事業提案制度に自分事化を 促されて、自らの思いを起点として主人公となることもある。

動態モデル①が新規事業提案制度を通して意識の変化が起こり、相互に作用しあいなが ら組織全体に変化が起こってくる様子を表したマクロのモデルであるとするならば、動態 モデル②は個々の局面で主客が相互作用して起きる意識の変化を表すミクロのモデルにな る。そして動態モデル③は新規事業提案制度を通して新規事業と組織行動変革を実現する ための指針を示すモデルである。

危機感をふまえた経営者の発信するメッセージは制度の参加者に高揚をもたらし、対話 の姿勢による信頼関係の構築は心理的安定感を確保する。同時にエンゲージメントを高 め、やるぞ!という“空気”を組織全体に醸し出す。そして運営者が演出するワークショ ップなどの“場”において、制度の参加者の熱量が周囲に伝播し、意識の変化が組織に広 がる。ここでいう“場”とは、まさに野中ら (2010)のいう自他の感性、感覚、感情が共 有される相互主観が生成されている状態である。人材育成のフェーズは学習の場であり、

実装のフェーズは実験の場である。これらの流れは、Schein(1999=2004)の主張する変 容のモデル(危機感/学習棄却/心理的安心感/経営層のメッセージ)にも則している。

推進者の持つ熱量に共感を持った支援者は、ある時は推進者を支え、ある時は自ら推進す る立場に身を置く。評価者によるプラス評価が推進者のチャレンジを促し、価値の転換か ら新規事業の創出を促す。たとえ失敗したとしても、失敗の原因を突き詰めて「ダブル・

ループ学習」(Argyris and Schön 1978)を行うことで、新たな価値観を獲得することも 可能となる。尚、ここでいう評価者は、経営層や運営者が一般的であるが、事例にも見ら れるように外部の有識者を交えることもあれば、展示会やクラウドファンディングといっ た市場の目を相手とすることもある。また人事面での考慮という意味での評価も含まれ る。

新規事業創出は「両利き」でいうところの「探索」(O’Reilly and Tushman

2016=2019)にあたるが、その実現のためにはダイナミック・ケイパビリティ(Teece et al. 1997)が欠かせない。新規事業提案制度はダイナミック・ケイパビリティを有する企 業家的経営者を育てるための仕組みでもある。推進者とそれを取り巻く経営者、運営者、

支援者、評価者というアクターがそれぞれの立ち位置で役割を演じることで一つの舞台を

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生み出すという意味では劇場型ともいえる。制度への参加者個人による新たな知識や価値 観の獲得が、開かれた形で組織内の他のメンバーに広く伝達・相互作用されることで、組 織全体の行動や知識、価値観の再構築が行われるという意味では、安藤(2004)の述べて いる組織学習の実践でもある。自己決定―高揚―人材育成―実装の循環がSECIモデル(野 中ほか 1996)と同じようにスパイラル・アップし、自己実現に到達する。主から客へ、

そして内から外へと、最後に新規事業は顧客の主観に訴えるものへと還っていく。

制度そのものは、3 章でみてきたように各社それぞれの歴史的経路を踏まえた形で設計 されている。また各アクターが役割を演じる上で、人事評価制度や教育制度など、補完的 な役割を果たす他の制度も、効果的に機能するよう臨機応変に修正が加えられていく。制 度の設計段階から外部の協力を仰ぐ企業も多く、新規事業の創出に向けて、社内だけでな く外部の企業や大学などと共創してイノベーションを起こしやすい環境「エコシステム」

を形成している。また新規事業提案制度そのものが、武石ら(2008, 2012)が述べるイノ ベーションの実現のための創造的正当化プロセスに他ならない。

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